なお)” の例文
すなわち人のためにする仕事の分量はりもなおさず己のためにする仕事の分量という方程式がちゃんと数字の上に現われて参ります。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また、ひとかごのたちばなの実をひざにかかえ、しょんぼりと、市場の日陰にひさいでいる小娘もある。下駄げた売り、くつなおしの父子おやこも見える。
あざみは、なまずのくるしみつづけた最後さいご見守みまもりました。その晩方ばんがた、なまずは、しろはらしたきり、もうなおりませんでした。
なまずとあざみの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おお、そのことだ。……いや、心配をかけたが、わしの目も今はすっかりなおって、よく見えるようになった。安心してください」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのすぐ近所に甲州屋という生薬屋きぐすりやがあって、そこのおなおという娘がお粂のところへ稽古に通っているのを、半七も知っていた。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
トしきり重吉のひざにもたれて笑っていたお千代は坐りなおって、「それさえ大丈夫なら安心だわ。楽しみ半分にいいじゃありませんか。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして読みながら上着うわぎのぼたんやなんかしきりになおしたりしていましたし燈台看守とうだいかんしゅも下からそれを熱心ねっしんにのぞいていましたから
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
孔子曰く、吾が党のなおきは是に異なり、父は子のために隠し、子は父のために隠して、直きことその中にあり。(子路、一八)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
『さァ人間界にんげんかい年数ねんすうなおしたら何年位なんねんぐらいになろうかな……。』と老竜神ろうりゅうじんはにこにこしながら『すくな見積みつもっても三万年位まんねんぐらいにはなるであろうかな。』
酒は固く禁じてありましたけれども、それとても小使に頼めば薬を買うというなだいで、焼酎しょうちゅうなおしを買って来てくれます。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
中番頭ちゅうばんとうから小僧達こぞうたちまで、一どうかおが一せいまつろうほうなおった。が、徳太郎とくたろう暖簾口のれんぐちから見世みせほうにらみつけたまま、返事へんじもしなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
中隊長は、近づき来る約一個中隊ばかりの黒影こくえい見遣みやりながら、決心したらしく、「伏射ふせうちの構え」を命じて、自分も指揮刀を握りなおして伏した。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
たとえば式子内親王などは、女流作家の中ばかりでなく、すなおな詠歎調の上では当時第一等のお方であるが、そのお歌にはつぎのようなのがある。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
それほどにきで、き、かかえ、で、あるき、毎日まいにちのように着物きものなおしなどして、あの人形にんぎょうのためにはちいさな蒲団ふとんちいさなまくらまでもつくった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
次の「荒野あらのに呼ばわる者の声す、『主の道を備えその道筋をなおくせよ』」というのがイザヤ書四十章三節の言葉です。
が、またただち自分じぶんうことをものい、そのうことがわかるものはいとでもかんがなおしたかのように燥立いらだって、あたまりながらまたあるす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
兼吉けんきち五郎ごろうも主人に、おれがあやまるからといわれては口はあけない。酒代さかだいまいでかれらはむぞうさにきげんをなおした。水車の回転かいてんめずにすんだ。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
雷にうたれてぬ運命の人間が、地の此部分にあるなら、其は取りもなおさず彼でなくてはならぬ。彼は是非なく死を覚期した。彼は生命が惜しくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あの白衣びゃくえの浪人が暴れこんで、道場の跡目になおろうとしていたまぎわの、峰丹波にじゃまを入れ、多くの門弟を斬ったのみか、萩乃をつれて消えうせた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
てき大将たいしょう高丸たかまるはくやしがって、味方みかたをしかりつけては、どこまでもとどまろうとしましたけれど、一くずれかかったいきおいはどうしてもなおりません。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
わたしもいつかたのまれてそんなのをかえしたことがあるけど、子達こたちはみんな、どんなにんでなおそうとしても、どうしてもみずこわがって仕方しかたがなかった。
鶴見はそれが夏時分であったということを先ずおもおこす。自家用の風呂桶ふろおけが損じたので、なおしに出しているあいだ、汗を流しにちょくちょく町の銭湯せんとうに行った。
いずれも程好ほどよちゅうを得ざるゆえ、これをなおさんとして、ひたすらその低きものを助け、いかようにもしてこれを高くせんとて、ただ一方に苦心するのみにして
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
美佐子はきたてるようにして言った。そして、彼女は大急ぎで顔の白粉おしろいなおしにかかった。
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
明る日——というと今日です、何時いつも十時頃に起きる糸子が十一時過ぎても顔を見せなかったので、廊下を隔てた女中部屋に居る、女中のおなおず心配し出しました。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
小花様へ兼吉よりとはさてさて珍しき一通、何処どこが嬉しくてか小花身に添へて離さず、中屋の家督に松太郎まつたろうなおりし時、得意先多き清二郎は本所辺に別宅べったくを設けてのかよづとめ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
米「おなおやお目にかゝったよ、ソラいつぞやわしを助けて下すった旦那様にお目にかゝったよ」
人々、さまざまに計らいて精系せいけいを糸にて結びたるときは、命の限りとばかりにて、腹の中の物を差入れらるる心地ぞせられける。ほどなく切捨てたるにや、その心地もなおりぬ。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この二神は、あの穢い國においでになつた時の汚垢けがれによつてあらわれた神です。次にそのわざわいなおそうとしてあらわれた神は、カムナホビの神とオホナホビの神とイヅノメです。
織次は飛んで獅子の座へなおったいきおい。上から新撰に飛付とびつく、とつんのめったようになって見た。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
厨口くりやぐちから燈火とうかの光がちらちらと見え、人の声が聞こえたから……家には母親のげんと妻のおなおしかいないはずだ、しかしいまそこから聞こえてくるのはどちらの声でもなかった。
蜆谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「曲る」は禍津日まがつひ曲事まがことなどのマガで、なおきに反し、普通には避けらるべき行為である。
八坂瓊之曲玉考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「人形が壊れた、人形が壊れた。なおしてお母ちゃま。直してよ、お母ちゃま!」
子を奪う (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
清盛が厳島いつくしま参詣さんけいする道をなおくするために切り開かした音戸おんど瀬戸せとで、傾く日をも呼び返したと人は申しまする。法皇は清盛のむすめはらから生まれた皇子おうじに位をゆずられる、と聞いております。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
レミイは、声を張り上げて、もう一度いいなおす。ルピック夫人は、わかった。口を動かしているのが見える。こっちの二人には、なんにも聞こえない。で、顔を見合わせて、もじもじする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
この感覚鋭敏のときにあたり染習せんしゅうせし者は、長ずるに及んでこれをあらためんとほっするもべからざる、なお樹木の稚嫩ちどんなるとき、これを撓屈とうくつすれば、長ずるにおよんでついにこれをなおくすべからざるがごとし。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
下女が三人前の膳を持出もちだし、二人分をやや上座かみくらえ、残りの膳をその男の前へなおした、男も不思議に思い、一人の客に三人前の膳を出すのは如何どういう訳だと聞くと、下女はいぶかしげに三人のお客様ゆえ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
常になおとか神の世とかいう語を対句ついくにして歌われている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
其の仁蔵にはなおと云う近隣で評番ひょうばんの美しい女房があった。
狸と同棲する人妻 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「私が持とう。もう肩がなおったえ。」
(新字新仮名) / 横光利一(著)
なおさんは?」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お貞さんは生れつきからしてなおとはまるで違ってるんだから、こっちでもそのつもりで注意して取り扱ってやらないといけません……
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、時計屋とけいやなおしにやると、あとでほかに時計とけいがないので不自由ふじゆうなものですから、一にち、一にちびてしまうのでありました。
時計とよっちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
哀公問いて曰く、何為いかんせば則ちたみ服せん。孔子こたえて曰く、なおきを挙げて、これをまがれる(人の上)にけば、則ち民服せん。(為政いせい、一九)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
つまり病気びょうきには病気びょうきなおしの神様かみさま武芸ぶげいには武芸専門ぶげいせんもん神様かみさま、そのほか世界中せかいじゅうのありとあらゆる仕事しごとは、それぞれみな受持うけもち神様かみさまがあるのでございます。
エエ、やりなおしの魔独楽まごま天津風あまつかぜ吹上ふきあげまわし、村雨下むらさめさがりとなって虹渡にじわたりの曲独楽きょくごま首尾しゅびよくまわりましたらご喝采かっさい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シグナルは、やっと元気を取りなおしました。そしてどうせ風のために何をっても同じことなのをいいことにして
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
『きっともなくおなおりでしょう。』と、ニキタはまたうてアンドレイ、エヒミチの脱捨ぬぎすてふく一纏ひとまとめにして、小腋こわきかかえたまま、ててく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「大分降りやした——気違え雨——四つ半から八つ時まで——どっと落ちて——思いなおしたように止みやがった。へん、お蔭で泥路しるこだ——勘弁ならねえ。」
お浜の家では四年ほど前に主人をうしなって、今では後家のおなおと娘との二人暮らしである。そこへ転がり込んだ紋作は年も若い、芸人だけに垢抜けもしている。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)