“畳(たたみ)” の例文
旧字:疊
白樺(しらかば)の皮を壁(かべ)にした殖民地式の小屋だが、内は可なり濶(ひろ)くて、畳(たたみ)を敷き、奥に箪笥(たんす)柳行李(やなぎごうり)など列(なら)べてある。妻君(かみさん)も善(よ)い顔をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
卜斎(ぼくさい)の鉄拳(てっけん)をくったせつなに、仮面(めん)は二つに割(わ)られてしまった。そして二つに割られた仮面が、畳(たたみ)の上に片目をあけて嘲笑(あざわら)っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は膝(ひざ)を抱(かか)へながら、洋画家のO君と話してゐた。赤シヤツを着たO君は畳(たたみ)の上に腹這(はらば)ひになり、のべつにバツトをふかしてゐた。
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
間借の人の義務は滞(とどこお)りなく間代を払い畳(たたみ)に焼焦(やけこが)しをしなければよいのである。間代を払っても古家の雨漏りは速急に直るものではない。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
姉(ねえ)さんが、カルメ焼(や)きを造(つく)るといって、火(ひ)を落(お)として、新(あたら)しい畳(たたみ)の上(うえ)に、大(おお)きな焼(や)け穴(あな)をあけた。そして、お母(かあ)さんにしかられた。
ある少年の正月の日記 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼女はもう泣く事にも飽(あ)いたのか、五月の冷々(ひえびえ)とした畳(たたみ)の上にうつぶせになって、小さい赤蟻(あかあり)を一匹(ぴき)一匹指で追っては殺していた。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
すげの畳(たたみ)を八枚(まい)、皮畳(かわだたみ)を六枚に、絹畳(きぬだたみ)を八枚重(かさ)ねて、波の上に投げおろさせるやいなや、身をひるがえして、その上へ飛びおりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
で、椅子(いす)にかけたまま右後ろを向いて見ると、床板の上に三畳畳(たたみ)を敷いた部屋(へや)の一隅(ぐう)に愛子がたわいもなくすやすやと眠っていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すると、此の乱心ものは、慌(あわただ)しさうに、懐中を開(あ)け、袂(たもと)を探した。それでも鞘(さや)へは納めないで、大刀(だんびら)を、ズバツと畳(たたみ)に突刺(つっさ)したのである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かかる席に列(つら)なりては、口利(くちき)くだに慚(は)ずかしきものを、いざさらば帰るべしとて、思うままに言い罵(ののし)り、やおら畳(たたみ)を蹶立(けた)てて帰り去りぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
朗々(ろうろう)たる詩吟(しぎん)の声が流れた。ところが、詩吟はそれっきりで、そのあと先生は、ひょいと畳(たたみ)に両手をついて四つんばいになった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
学校といえば体裁(ていさい)がいいが、実は貧民窟(ひんみんくつ)の棟割長屋(むねわりながや)の六畳間だった。煤(すす)けた薄暗い部屋には、破れた腸(はらわた)を出した薄汚ない畳(たたみ)が敷かれていた。
それは丸太(まるた)を切(き)り組(く)んで出来(でき)た、やっと雨露(うろ)を凌(しの)ぐだけの、極(きわ)めてざっとした破屋(あばらや)で、広(ひろ)さは畳(たたみ)ならば二十畳(じょう)は敷(し)ける位(くらい)でございましょう。
畳(たたみ)二枚ほどもある大きな扇で、まん中に大きく金の日の丸を書いたものでした。それで雷(らい)の神を招き落とそうというのです。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
毛布やモスリンの新しい塵が加わっても、やはり昔通りに畳(たたみ)を敷きつめて、その上で綿や襤褸(ぼろ)ぎれをばたばたとさせている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ときは春、空は青々とはれて、畳(たたみ)のように静かな海を、ハヤブサ丸はすべるようにすすんでいます。たのしい航海でした。
海底の魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「同(おな)じかくれるにしても、二階(かい)の方(ほう)が用心(ようじん)がいい。」と思(おも)って、馬吉(うまきち)は二階(かい)に上(あ)がって、そっとすすだらけな畳(たたみ)の上にごろりと横(よこ)になりました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そこも雨は漏(も)り、畳(たたみ)は腐(くさ)り、天井(てんじょう)には穴(あな)があき、そこら中がかびくさかった。勘太郎は土間の上(あ)がり框(かまち)のところにある囲炉裏(いろり)の所へ行ってみた。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
足も立てられないような汚い畳(たたみ)を二三枚歩いて、狭い急な階子段(はしごだん)を登り、通された座敷は六畳敷、煤(すす)けた天井(てんじょう)低く頭を圧し、畳も黒く壁も黒い。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
苦しそうだけれども、やむをえないから、気がつくと表へ追い出す。でなければ畳(たたみ)の上でも、布団(ふとん)の上でも容赦(ようしゃ)なく汚す。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また朝夕に部屋の掃除(そうじ)を励行(れいこう)せしむること厳密を極め、坐(ざ)するごとに一々指頭をもって座布団(ざぶとん)畳(たたみ)等の表面を撫(な)で試み毫釐(ごうり)の塵埃(じんあい)をも厭(いと)いたりき。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
口(くち)でそういわれても、勝手(かって)を知(し)らない暗(やみ)の中(なか)では、手探(てさぐ)りも容易(ようい)でなく、松(まつ)五郎(ろう)は破(やぶ)れ畳(たたみ)の上(うえ)を、小気味悪(こきみわる)く這(は)い廻(まわ)った。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
アメリカのことで畳(たたみ)がないから、寝台(しんだい)に使うわらぶとんのようなものを室いっぱいに敷(し)いて、毎日柔道を教えていた。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
或(あ)るとき、よその村でランプの宣伝をしておって、「ランプの下なら畳(たたみ)の上に新聞をおいて読むことが出来るのイ」
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
中へ招じいれ、せまい畳(たたみ)の縁台(えんだい)に小さな座ぶとんを出してすすめたりした。しかし話をするのはおかみさんばかりで、松江はだまってつっ立っていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
片っぽの土蔵のほんの差(さし)かけが、露路口にあって、縄を収(しま)う納屋にでもなっていると、その、たった畳(たたみ)一畳もない場所を借りうけようと猛烈な運動をする。
そう聞いては猶々(なおなお)聞逃(ききのが)す訳には往(ゆ)かぬ、私は猶(なお)も畳(たたみ)かけて、「それじゃア其(そ)の窓が祟るのだね」相手は笑って
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
苫一枚というのは凡(およ)そ畳(たたみ)一枚より少し大きいもの、贅沢(ぜいたく)にしますと尺長(しゃくなが)の苫は畳一枚のよりよほど長いのです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そういって彼は、長い竹をとりあげて、天井に釣(つ)ってあったユンカースの重爆機(じゅうばくき)の模型を畳(たたみ)の上におろした。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「はっ」と言って源太夫はしばらく畳(たたみ)に顔を押(お)し当てていた。ややあって涙(なみだ)ぐんだ目をあげて家康を見て、「甚五郎めにいたさせまする御奉公は」と問うた。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
函館時報社の飛行機に先鞭(せんべん)を付けられて、地団太(じだんだ)を踏んでいた小樽タイムス社と、その後援者ともいうべき谷山家の援助を受けまして、畳(たたみ)ボートと、食糧と
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わしは生徒共の肩身を広くさしてやりたい、金ずくではかなわない、かれらの学校は洋風の堂々たるものだ、わしの塾(じゅく)は壁が落ち屋根がもり畳(たたみ)がぼろぼろだ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
荘主(あるじ)頭(かうべ)を畳(たたみ)に摺(す)りて、御僧この事をなし給はば、此の国の人は浄土にうまれ出でたるがごとしと、涙を流してよろこびけり。山里のやどり八四貝鐘(かひがね)も聞えず。
畳(たたみ)八畳敷はあるだらうといふ。北西の風が相模(さがみ)灘の方から吹いて来て、波の頭が白く立騒ぐと、この大亀は、海上に大きな背を出して悠々と泳ぎ廻るのである。
東京湾怪物譚 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
畳(たたみ)を焼いて煖(だん)をとったり、みごとな双幅(そうふく)や、金蒔絵(きんまきえ)の脇息(きょうそく)をたたッこわしたり、破いたり、それを燃料に野天風呂をわかすやら、ありとあらゆる乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)をはたらき
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いささかおどけた顔(かお)になつて、畳(たたみ)に手(て)をついて謝(あやま)つたが、一方(ぽう)、犯人逮捕(はんにんたいほ)で第(だい)一の殊勲者(しゅくんしゃ)平松刑事(ひらまつけいじ)は、ある日(ひ)のこと、金魚屋(きんぎょや)さん笹山大作(ささやまだいさく)の、思(おも)いがけぬ訪問(ほうもん)をうけた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
本性(ほんしょう)露見して畳(たたみ)の上でくたばりそこなったわい、と評判を立てて、もし当時アテネに新聞があったものなら、いかに当時の記者が論説やら雑報(ざっぽう)に忙しく彼(かれ)の罪状を書き立て
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
辰男は「シッシッ」と言いながら畳(たたみ)をパタパタと叩いたが、やがてランプを点(つ)けて音のする方へ行ってみると、猫はもはや障子の破れ目から縁側へ飛下りて啼声を立てていた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
紅(べに)も白粉(おしろい)も掃き落した、筋書のような筆法乍ら、それが却(かえ)って力強く、自警団時代を舞台に執り、小刻みに畳(たたみ)込んだ無数の謎を、極わめて合理的に解剖した、メス使いの鮮さは
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伯父「お代ちゃんは後からでも呼べる」伯母「イイエ直ぐでなくってはいけません」と二人が頻に言い争う彼方(かなた)にヒーッと泣声の聞えて大きな身体(からだ)がドタリと畳(たたみ)に倒れたる様子。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ご自分も畳(たたみ)の上にいるかわり、正三君には沙汰(さた)がない。君臣の分(ぶん)のかたい人だ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼はいつも和服——特に浴衣(ゆかた)を好んだ——を着、畳(たたみ)の上に正坐(せいざ)し、日本の煙管(きせる)で刻煙草(きざみたばこ)を詰(つ)めて吸ってた。食事も米の飯に味噌汁(みそしる)、野菜の漬物(つけもの)や煮魚(にざかな)を食い、夜は二三合の日本酒を晩酌(ばんしゃく)にたしなんだ。
私は財布の中の金を全部、畳(たたみ)の上にぶちまけて黙って立った。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
電灯にむれとべる羽蟻(はあり)おのづから羽(はね)をおとして畳(たたみ)をありく
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ひとところ、畳(たたみ)を見つめてありし間(ま)の
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「お金(かね)のないはずがない。きっと天井張(てんじょうば)りの上(うえ)だろう……。それでなければ、畳(たたみ)の下(した)にちがいない。」と、あるものはいいました。
おばあさんと黒ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
もんどり打って呂宋兵衛のからだが畳(たたみ)の上へおちたかと思うと、木(こ)の葉(は)をめくるように一枚の畳がヒラリと起きて槍へかぶった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年に一度ずつは障子(しょうじ)を張かえなければならないし、三年目には畳(たたみ)も取かえなければならないし、縁側などは毎日拭きこまなければならない。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
床(とこ)にも座敷(ざしき)にも飾(かざ)りといっては無いが、柱立(はしらだち)の見事な、畳(たたみ)の堅(かた)い、炉(ろ)の大いなる、自在鍵(じざいかぎ)の鯉(こい)は鱗(うろこ)が黄金造(こがねづくり)であるかと思わるる艶(つや)を持った
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叔父を送り出すと、父はもうたまりかねたとばかりに、叔父を送ってまだ玄関の畳(たたみ)の上に座ったまま、立ち上りもしない私を