気味きみ)” の例文
旧字:氣味
なんでも夜中よなかすぎになると、天子てんしさまのおやすみになる紫宸殿ししいでんのお屋根やねの上になんともれない気味きみわるこえくものがあります。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おばさんのはなしは、奇怪きかいであります。みんなは、いているうちに、気味きみわるくなりました。野原のはらうえには、たっていたけれど。
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だんながいくらこわがらなくてもいいとおっしゃっても、あっしはうす気味きみわるくて死にてえくらいでさあ。いってえ、どんなことを
しぼるやうな冷汗ひやあせになる気味きみわるさ、あしすくんだといふてつてられるすうではないから、びく/\しながらみちいそぐとまたしてもたよ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雪吹にあひたる時は雪をほり身を其内にうづむれば雪暫時ざんじにつもり、雪中はかへつてあたゝかなる気味きみありてかつ気息いきもらし死をまぬがるゝ事あり。
アンドレイ、エヒミチはいかにも情無なさけないとうようなこえをして。『どうしてきみ、そんなにいい気味きみだとうような笑様わらいようをされるのです。 ...
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「おお、あのなかへ松明たいまつを、ほうりこんできたんだ。ああいい気味きみ、その火を見ながら死ぬのは竹童ちくどう本望ほんもうだ、おいらは本望だ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人がそういっているうちに、そのあやしい物体は気味きみのわるい音をたてて近づいてきたが、そのうちに、急にすうーッと空から落ちてきた。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
兼吉かねきち五郎ごろうは、かわりがわり技師と花前とのぶりをやって人を笑わせた。細君が花前を気味きみわるがるのも、まったくそのころからえた。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こと気味きみわるかったのはわたくしのすぐそばる、一人ひとりわかおとこで、ふと荒縄あらなわで、裸身はだかみをグルグルとかれ、ちっとも身動みうごきができなくされてります。
いかにもえらい学者のようでしたが、しかし、その鼻眼鏡のおくに光ってる目が、なんだか気味きみわるく思われました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その後カションはいかなる病気びょうきかかりけん、盲目もうもくとなりたりしを見てこれ等の内情を知れる人々は、因果いんが覿面てきめん気味きみなりとひそかかたり合いしという。
灰色ネズミたちにとっては、外でたたかうときよりも、こうして黒ネズミたちがどこにかくれているかわからない今のほうが、ずっと気味きみわるく思われました。
しかしわたしはの明け次第、甚内の代りに殺されるのです。何と云う気味きみ面当つらあてでしょう。わたしは首をさらされたまま、あの男の来るのを待ってやります。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
森の中はまっくらで気味きみが悪いようでした。それでも王子は、ずんずんはいって行きました。
皇子はいよいよ気味きみが悪くおなりになって、あわてて船をひきあげさせて、それをひっぱらせて山の間をおえになり、またその船をおろして海をおわたりになったりなすって
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
国芳においては時として西洋画家の制作に接する如き写生の気味きみ人に迫るものあるを見る。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
冗談じょうだんじゃねえ。おせんのつめが、んでほどれるもんか、おめえもひと好過よすぎるぜ。春重はるしげだまされて、気味きみわるいのおそろしいのと、あたまかかえてかえってくるなんざ、おわらぐさだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
人間が新しい食物にれるまでには蝸牛に対するのと同じ気味きみ悪さを経験したに違いないと主張する。云われて見ればそうかもれないが、日本人にとっては無気味ぶきみ此上このうえもないものである。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ときどきすれちがう人もなんだか気味きみが悪く、うしろからだしぬけに自転車が走りぬけたりすると林太郎はぎょっとしました。そこで林太郎は、こんどはやさしい声でしろ公へ話しかけました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
やがてきゅうに、さびしい気味きみのわるい気がしてきて、心ぼそくなったが、そのとたんに、ああ、これはまた、どうしたことだろう。黒山のように人だかりがして、みんな目をまるくして見物けんぶつしている。
なにもかも、気味きみのわるいほど、しいんとしずまりかえっていました。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
おそれあたりて、わがにくあらたなるべし。」みんなあとから、かみあかい、血色けつしよく一人ひとりとほる。こいつにけていたのだから、きふ飛付とびついてやつた。この気味きみわるで、そのくちおさへた。
あれ、笑うところなんか、まあいやだ。何だか気味きみが悪いよ
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そう言うて、発明家はあわて気味きみで出て行った。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
ノロちゃんが、気味きみわるそうにいいました。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うす気味きみわるいは ぎらぎら青い
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
つてますよ。いい気味きみでさ」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
気味きみわるき思ひに似たる
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「まあ、なんて、気味きみのわるいいぬでしょう。」と、女中じょちゅうがいって、みずをかけようとしたのをとしちゃんは、やめさせました。そして
母犬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おもいながら、半分はんぶん気味きみわるいので、いきなりくわり上げて、ころそうとしますと、かみなりがついて、あわててお百姓ひゃくしょうめました。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
すこし力を入れたかと、思うと、ふわりとちゅうへおよがせて冠桜かんむりざくら根瘤ねこぶのあたりへ、エエッ、ずでーんと気味きみよくたたきつけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これだけの、べつに目をうばうほどの品物も見あたらない部屋だったが、気味きみのわるいのは、この部屋の赤や黄をく照明と防音装置だった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まあ、おはやくいらつしやい、草履ざうりうござんすけれど、とげがさゝりますと不可いけません、それにじく/\湿れててお気味きみわるうございませうから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれはねんいりに機械きかいをしらべた。男がじっとながめているので、かれはなんとなく気味きみがわるくて、仕事しごとをしている手が思うように動かなかった。
何故なぜだと。』と、イワン、デミトリチはおどすような気味きみで、院長いんちょうほう近寄ちかより、ふる病院服びょういんふくまえあわせながら。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
とかくにこうひがんだ考えばかり思いだされ、顔はほてり、手足はふるえ、お政はややとりのぼせの気味きみで、使いのものに始終しじゅうのことをいつめるのである。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
たった一人ひとりで、そんな山奥やまおく瀑壺たきつぼへりくらすことになって、さびしくはなかったかとっしゃるか……。ちっともさびしいだの、気味きみがわるいだのということはございませぬ。
ふふふ、気味きみわるいか。なさけねえ料簡りょうけんだの、つめにおいがいやだというから、そいつをがせてやるんだが、これだって、かもじなんぞたわけがちがって、滅多矢鱈めったやたらあつまる代物しろものじゃァねえんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
さあ大変たいへんと思ってタネリがいそいでをはなしましたがもうそのときはいけませんでした。そらがすっかり赤味あかみびたなまりいろにかわってい海の水はまるでかがみのように気味きみわるくしずまりました。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あゝ、薄命はくめいなあの恋人達はこんな気味きみのわるい湿地しつちまちに住んでゐたのか。見れば物語の挿絵さしゑに似た竹垣たけがきの家もある。垣根かきねの竹はれきつて根元ねもとは虫にはれて押せばたふれさうに思はれる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかもその部屋の広さが限りない上に、燈火ともしびの光もなく、何の飾りもなく、足下あしもとにはじゅうたんのかわりに、名も知れぬ気味きみ悪いかずらいばらが、積もり積もった朽葉くちば枯枝かれえだの上にはいまわっています。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わたしはまた、小さくてすばしっこい、黒いぶちのある赤黄あかきいろいとかげまできでしたが、へびは気味きみがわるかった。もっともへびは、とかげのようにちょいちょい出っくわしはしませんでした。
ひとりかへらんも気味きみわろし今夜こよひはこゝに宿らん。
それをましたとき、太郎たろうは、いつかゆきに、あかいろうそくのともっていた、不思議ふしぎな、気味きみのわるい景色けしきおもしたのであります。
大きなかに (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして魚にしては、気味きみのわるいほど、じろじろとこっちを見るのです。ですから、あの怪魚は、地球の魚よりも頭脳が発達していると思うんです。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先刻さツき小屋こやはいつて世話せわをしましたので、ぬら/\したうま鼻息はないき体中からだぢゆうへかゝつて気味きみわるうござんす。丁度ちやうどうございますからわたしからだきませう
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
からだを養生ようじょうするうちに菊村宮内のやさしさにれ、すっかり増長ぞうちょうしている気味きみだから、とても竹童と手をにぎって、心から打ちとけるべくもない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうか、では、まんざらうそでもなさそうだし、おまえがぼけていたわけでもないんだね。とすると、ずいぶんふしぎな気味きみのわるい話じゃないか」
細君はどういうものか、いまだに花前を気味きみわるくばかり思って、かわいそうという心持こころもちになれぬらしい。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)