もも)” の例文
松はつらいとな、人ごとに、みないは根の松よ。おおまだ歳若な、ああひめ小松こまつ。なんぼ花ある、うめもも、桜。一木ざかりの八重一重……。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そしてももいろの封筒ふうとうへ入れて、岩手ぐん西根山にしねやま、山男殿どのと上書きをして、三せんの切手をはって、スポンと郵便函ゆうびんばこみました。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こうおじいさんはいながら、もも両手りょうてにのせて、ためつ、すがめつ、ながめていますと、だしぬけに、ももはぽんと中から二つにれて
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その結果見付け出したのが、枝からもぎ取ったばかりの、桃の実のようなナイーヴな娘、その名もおももの方というのでした。
かん高に叫んでいたももわれの娘。桟橋さんばし前「しまや」という看板かんばんをおぼえてかえり、手紙を出してみたが、返事はこなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
むかし、むかし、大むかし、ある深い山の奥に大きいももの木が一本あった。大きいとだけではいい足りないかも知れない。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「どこで、もものつぼみを、のんだのだろう。」といって、むすめは、つまみげてから、「まあ!」と、をみはったまま、ふるえしたのでした。
海のまぼろし (新字新仮名) / 小川未明(著)
室は、まるでうなぎ寝床ねどこのように、いやに細長かった。庭には、ももの木が植えられ、桃の実が、枝もたわわになっている。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
性急せっかちなことをよく覚えている訳は、ももを上げるから一所においで。ねえさんが、そう云った、ぼうを連れて行けというからと、私を誘ってくれたんだ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるに竜池は秦星池はたせいちを師として手習をした。狂歌は初代弥生庵雛麿やよいあんひなまろの門人で雛亀ひなかめと称し、晩年にはもも本鶴廬もとかくろまた源仙げんせんと云った。また俳諧をもして仙塢せんうと号した。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
きみこれきてこれけんとしていはく、「かうなるかな、ははめのゆゑ刖罪げつざいをかせり」と。きみ果園くわゑんあそぶ。彌子びしももくらうてあまし。((彌子))つくさずしてきみたてまつる。
私情から申してもうらみがござる。公情から申せば主義の敵でござる。貴殿にたたかいを宣するしだい、ご用心あってしかるべくそうろう。——もも久馬きゅうまそく兵馬ひょうまより山県紋也やまがたもんや殿へ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
掃守かもりかたはらはべりて、ももの大なるをひつつ三一えき手段しゆだんを見る。漁父が大魚まなたづさへ来るをよろこびて、三二高杯たかつきりたる桃をあたへ、又さかづきを給うて三三こん飲ましめ給ふ。
また昔時せきじシナのきさきが庭園を散歩し、ももじゅくしたのを食い、味の余りになりしに感じ、独りこれをくろうに忍びず、い残しの半分を皇帝にささげ、その愛情の深きを賞せられ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
はるそのくれなゐにほふももはなしたみち𡢳嬬をとめ 〔巻十九・四一三九〕 大伴家持
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
五月節句の菖蒲しょうぶ湯、土用のうちのもも湯、冬至のゆず湯——そのなかで桃湯は早くすたれた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もものグラスカスター 冬付録 病人の食物調理法の「第五十二 桃のグラスカスター」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
梅雨つゆがあけて、ももが葉っぱの間に、ぞくぞくとまるい頭をのぞかせるころになると、要吉の家の人びとはいっしょになって、そのひとつひとつへ小さな紙袋かみぶくろをかぶせるのでした。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
いろももに見ると四の句と五の句を分けたところに言うに言われぬ匂いがあるようにも思われた。かれは一首ごとに一ページごとに本を伏せて、わいて来る思いを味わうべく余儀なくされた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
果実にもももなし楊梅やまもも覆盆子いちご等、やわらかくて甘いものがいろいろあるが、なまで食べられる日は幾日いくにちもないから、年中いつでも出るのはほしてたくわえて置かれるものだけであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ここに御佩みはかし十拳とつかの劒を拔きて、後手しりへできつつ逃げ來ませるを、なほ追ひて黄泉比良坂よもつひらさか一八の坂本に到る時に、その坂本なるもも三つをとりて持ち撃ちたまひしかば、悉に逃げ返りき。
すると、みんなは、われもわれもと、猫柳ねこやなぎをはじめ、ももや、まつや、たんぽぽや、れんげそうや、なかにはペンペンぐさまでとってかねにささげた。かねはそれらのはなでうずまってしまった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その男の説によると、ももは果物のうちでいちばん仙人せんにんめいている。なんだか馬鹿ばかみたような味がする。第一核子たね恰好かっこうが無器用だ。かつ穴だらけでたいへんおもしろくできあがっていると言う。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玄関げんかんの食卓には、墓場から盗って来たのであろうもも色の芍薬しゃくやくが一輪コップに差してあった。二人は夢中むちゅうで食べた。実に美しくつつましい食慾しょくよくである。彼女は犬のように満ちたりた眼をしている。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
つぐみのように葡萄ぶどうの実を盗み食いし、果樹がきからももをひそかにもぎ取り、梅の木によじ登り、あるいは通りがかりにそっと梅の幹をたたいて、口に入れるとかおりある蜜のようにける金色の小梅を
窓外の風景をただぼんやり眺めているだけで、私には別になんのいい智慧ちえも思い浮びません。或る小さい駅から、ももとトマトの一ぱいはいっているかごをさげて乗り込んで来たおかみさんがありました。
たずねびと (新字新仮名) / 太宰治(著)
「イヤハヤ! おどろきももの木山椒さんしょうの木で、さあ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、ももいろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
『注文の多い料理店』序 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
って、ももをひろいげて、洗濯物せんたくものといっしょにたらいの中にれて、えっちら、おっちら、かかえておうちへかえりました。
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かげろうののぼる、かがやかしい田畑たはたや、若草わかくさぐむ往来おうらいや、隣家りんか垣根かきねももはなや、いろいろの景色けしきかんで、なつかしいおもにふけると
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「よくあることですが、許嫁のおももさんというのがあるのに、おつやとかいう恐ろしい女に引っ掛りましてね」
翌日彼は眼をさますと、洞穴ほらあなの奥にしつらえた、絹や毛皮の寝床の中に、たった一人横になっていた。寝床には菅畳すがだたみを延べる代りに、うずたかももの花が敷いてあった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もも 八四・九九 一・五八 〇・六一 〇・四六 六・三一 〇・四二 五・六二
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
散りこぼれたらくれないの夕陽の中に、ひらひらとはいってきそうな——あたたかももの花を、燃え立つばかりゆすぶってしきりさえずっている鳥のこそ、何か話をするように聞こうけれども、人の声を耳にして
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ももりたまはく、「いまし、吾を助けしがごと、葦原の中つ國にあらゆるうつしき青人草一九の、き瀬に落ちて、患惚たしなまむ時に助けてよ」とのりたまひて、意富加牟豆美おほかむづみの命といふ名を賜ひき。
思わずのぞくと、かみももわれにゆったひとりの少女が、ビラビラかんざしといっしょに造花のもみじを頭にかざり、赤い前かけに両手をくるむようにして、無心な顔で往来おうらいのほうを向いて立っていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
椿それも梅もさなりき白かりきわが罪問はぬいろももに見る
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
三千年に一度を結ぶももという話もある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おばあさんは、そういながら、こしをかがめてももろうとしましたが、とおくって手がとどきません。おばあさんはそこで
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
土神は今度はまるでべらべらしたももいろの火でからだ中燃されているようにおもいました。息がせかせかしてほんとうにたまらなくなりました。
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
まだ、さくらはなも、ももはなくにははようございましたけれど、うめだけが垣根かきねのきわにいていました。
金の輪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ももの花の代りにはすの花を咲かせ、古風なさむらひの女房の代りに王女か何か舞はせたとすれば、毒舌に富んだ批評家といへども、今日こんにちのやうに敢然とはかなへの軽重を問はなかつたであらう。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もものゼリー 冬付録 病人の食物調理法の「第六十六 桃のゼリー」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そしてぼくがももいろをした熱病ねつびょうにかかっていてそこへいま水が来たのでぼくは足から水をいあげているのだった。どきっとしてをさました。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二人ふたりはおにわ井戸いどのそばのももの木に、なたでがたをつけて、あしがかりにして木の上までのぼりました。そしてそっといきころしてかくれていました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「おじいさん、お薬屋くすりやさんをつれてきた。」と、いうこえがきこえたのでした。そのいえ周囲しゅういは、ももはやしになっていました。鶏小舎とりごやがあって、にわとりがのどかなこえでないていました。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もも煮方にかた 秋 第二百二十四 西洋の葛餅くずもち
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ポーセがせっかくえて、水をかけた小さなももの木になめくじをたけておいたり、ポーセのくつ甲虫かぶとむしって、二月ふたつきもそれをかくしておいたりしました。
手紙 四 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
といって、山姥やまうばはびんつけあぶらりに行きました。きょうだいが上でびくびくしていると、山姥やまうばはびんつけをってて、ももの木にこてこてなすりはじめました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
なんでも、あまりにぎやかでない、はじめてとおるようなまちあるいてゆきました。すると、あちらにしろももはなだか、すもものはなだか、しろくこんもりとたようにいていました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)