どき)” の例文
平山はきのふあけ七つどきに、小者こもの多助たすけ雇人やとひにん弥助やすけを連れて大阪を立つた。そしてのち十二日目の二月二十九日に、江戸の矢部がやしきに着いた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
やがて、一時、二時、むかしのことばでいえば、丑三うしみどきです。もう電車の音も聞こえません。自動車の地ひびきもまれになりました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やがて時分どきだといふので、念の入つた精進料理が出た。酒も出た。住職は一杯も飮まなかつたが、二人は鱈腹に飮んで食つた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「何しろ、わけを聞いてみりゃ、重々、すみません。何時いつなんどきでも、自首をして、その亀田さんとかを貰い下げにいたします」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時には、三ちょう早駕籠はやかごが京都方面から急いで来た。そのあとには江戸行きの長持が暮れ合いから夜の五つどき過ぎまでも続いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
連て訴へしが番頭は進み出私しは油町伊勢屋三郎兵衞名代喜兵衞と申もの御座ござ主人しゆじん店先みせさきへ一昨夜九ツどきすぎ此法師このほふし來り戸を叩きて一夜の宿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつどき、宙にられて、少年が木曾山中さんちゅうで鷲の爪を離れたのは同じ日のゆうべ。七つ時、あいだ五時いつとき十時間である。里数はほぼ四百里であると言ふ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
滿ののゝしる声がしたかはたれどきに、鏡子は茶の間へ出てくと、お照は四畳半で榮子をじつとじつといだいて居た。(終り)
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
先刻さきた、俺ア来るどき、巡査ア彼家あすこへ行つたけどら。今日検査の時ア裏の小屋さ隠れたつけア、誰か知らせたべえな。昨日きのなから顔色つらいろア悪くてらけもの。』
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
豐「昨年十一月三日八ツ半どきと申す事じゃが、番人喜助方へ参って小さい徳利とくりを持ち銘酒だと云って喜助に毒を飲ませたに相違あるまい、真直まっすぐに白状致せ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、また座敷中の灯りは一どきにスヰツチを切られて、丸窓だけが大提灯の様に向方の闇の中に浮んでゐた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
お役人と云うと、胸がどきどきして、ちょうど昼食どきだったけれども、御飯が咽喉のどへ通らなかった。
生活 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
年々ねんねんあきのみのりどきになりますと、このかみさまのがりものに、きている人間にんげん一人ひとりずつそなえないと、お天気てんきわるくなって、あめってもらいたいときにはらないし
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もう退どきに近かったので、隆夫はしばらく待ってから、博士とって、わが家へ向った。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今が思案のどきだ。ここで覚悟をきめてしまわねば、またどんな事になろうも知れない。省さんの心も大抵知れてる、深田にいないところで省さんの心も大抵知れてる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
普通の人ならどうかと思われる位の量でしたが、あの方なら二回分一どきに呑んでも大丈夫です。
「二階にお通ししてお茶でも上げてお置き、なんだって今ごろ……御飯どきも構わないで……」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
柳亭種彦先生は昨夜の晩おそく突然北御町奉行所よりお調しらべの筋があるにより今朝五ツどきまでに通油町とおりあぶらちょう地本問屋じほんどんや鶴屋喜右衛門つるやきうえもん同道にて常磐橋ときわばし御白洲おしらす罷出まかりでよとの御達おったしを受けた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
丁度五ツどきでございましたが、お光の方様へお仕え申して居ります、表使おもてつかいのお方とやらで、三十くらいのそで様と申すお女中衆と、鴎硯おうせきと申されるお坊主衆とが一しょでございました
たう/\わらべ、まつどきなたん、果報かほ時のなたん、いそのぼれ、御祭おまつりよすらに
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
門を静かに開けて、敷石を踏んで玄関にかかると、左は勝手へ行く道、右の荒い四つ目垣の中は花畑ですが、すがれどきで目に附く花はありません。格子戸こうしどの中では女中が掃除をしていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それで、師匠は、その一分銀の使用法を考えて、坊様が帰ってから、ちょうど時刻もお八ツどきとなったこと故(二時から三時の間)思い附きて蕎麦そば大盤振舞おおばんぶるまいをすることにしたのでありました。
どきといって、私のようなからだには、入梅頃から新緑へかけての気候が一番いけないのですが、どうやらその時季も無事に通り越して、待ち切っていた夏休暇も迎えることができました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
いつなんどきでも意志の起り次第あざやかに思い浮べる事ができる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひとみな天壽てんじゆつる手入ていどきくさみだにせぬうちの養生やうじやう
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
ありなしどきや、せつなさの
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
朔日ついたち顔見世かおみせは明けの七つどきでございますよ。太夫たゆう三番叟さんばそうでも御覧になるんでしたら、暗いうちからお起きにならないと、間に合いません。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
東町奉行所で小泉を殺し、瀬田を取り逃がした所へ、堀が部下の与力よりき同心どうしんを随へて来た。跡部あとべは堀と相談して、あけ六つどきにやう/\三箇条の手配てくばりをした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
金澤かなざはばかりかとおもひしに、久須美佐渡守くすみさどのかみあらはす、(浪華なにはかぜ)とふものをめば、むかし大阪おほさかのことあり——二日ふつかあけなゝどきまえより市中しちうほらなどいて
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
せんと思ふ折から幸ひ此所にて行逢ゆきあふのみか今も今とて御助けくだされたる御慈悲深き御奉行樣御取上あるは必定也ひつぢやうなり是ぞをつとうんひらどき直樣すぐさまこゝにて願はんと心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何程なんぼでも可えだ。明日アけえだで、行ぐどきア空馬車つぱつて行ぐのだもの。』
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それとって、おせんを途中とちゅうりかこんだ多勢おおぜいは、飴屋あめや土平どへいがあっられていることなんぞ、うのむかしわすれたように、さきにと、ゆうぐれどきのあたりのくらさをさいわいにして
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いま東京まるうちのオアシス、日比谷ひびや公園の中にも、黄昏たそがれの色がだんだんと濃くなってきた。秋の黄昏れどきは、なぜこのように淋しいのであろう。イヤ時には、ふッと恐ろしくなることさえある。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丁度夕食どきだったので、気のせいか彼女はいそいそとして、洋酒などを出して、私をもてなして呉れた。私は私で、意見書を彼女が認めてくれたのが嬉しく、勧められるままに、思わず酒をすごした。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
捨吉は文政元年三月十九日暁六あけむどきに生れた。父竹渓が五十七歳の時の出生で、他に兄弟のなかった事は竹渓が比事歌に「吾年六十唯一男。」〔吾年六十ダ一男ノミ〕の一句あるに見て明かである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おや。常とはお早いお退どきのようでございますが」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どきに呑まれましたよ
それから林の中の道を回って、下り坂の平蔵さんの家の前へ出ました。たぬきにでも化かされたように、ぼんやり妻籠へ帰ったのが八つどきごろでしたさ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
以て八山やつやまなる旅館へ申遣しけるおもぶきは此度天一坊樣御下向ごげかうついては重役の者一とう相伺あひうかゞひ申たきこそ有ば明日五ツどき伊豆守御役宅へ御出あらせられたしとの口上こうじやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
どこに往つて見ても、防備はまだ目も鼻も開いてゐない。土井はくれ六つどきに改めて巡見することにした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いつどきの事で、侍町さむらいまちの人通りのない坂道をのぼる時、大鷲おおわしが一羽、虚空こくうからいわ落下おちさがるが如く落して来て、少年を引掴ひっつかむと、たちまち雲を飛んで行く。少年は夢現ゆめうつつともわきまへぬ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
廿五にちよるの八つどきだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼は先代半六のあとを追って、妻子や孫たちにとりまかれながら七十一歳の生涯しょうがいをその病床に終わった。それは八月四日、暮れ六つどきのことであった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
氷店こおりみせ休茶屋やすみぢゃや、赤福売る店、一膳めし、就中なかんずくひよどりの鳴くように、けたたましく往来ゆききを呼ぶ、貝細工、寄木細工の小女どもも、昼から夜へ日脚ひあしの淀みに商売あきない逢魔おうまどき一時ひとしきりなりを鎮めると
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
場処は蓬莱屋ほうらいや。時刻は七つどき。食い手は吉左衛門と金兵衛の二人。食わせる方のものは組頭くみがしら笹屋ささや庄兵衛しょうべえ小笹屋こざさやの勝七。それには勝負を見届けるものもなくてはならぬ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
逢魔おうまどきくらまぎれに、ひよいとつかんで、くうへ抜けた。お互に此処等ここらは手軽い。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
武器を渡すことはいかにも残念であると言って、その翌日のあけ八つどきを期し囲みをいて切り抜ける決心をせよと全軍に言い渡し、降蔵らまで九つ時ごろから起きて兵糧をいたが
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ながいのだの、一番いちばん橋手前はしてまへのをかしらにして、さかりどき毎日まいにち五六十ぽん出来できるので、また彼処此処あつちこつちに五六人づゝも一団ひとかたまりになつてるのは、千本せんぼんしめぢツて、くさ/\にへてる、それはちひさいのだ。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あけの六つどきには浪士は残らず下諏訪を出立した。平出宿ひらでしゅく小休み、岡谷おかや昼飯の予定で。あわただしく道を急ごうとする多数のものの中には、陣羽織のままで大八車だいはちぐるまを押して行くのもある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)