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日脚
初秋の
日脚は、うそ寒く、遠い国の方へ
傾いて、
淋しい山里の空気が、心細い夕暮れを
促がすなかに、かあんかあんと鉄を打つ音がする。
春の
日脚の西に
傾きて、遠くは日光、
足尾、
越後境の山々、近くは、
小野子、
子持、
赤城の峰々、入り日を浴びて花やかに夕ばえすれば
木振賤からぬ
二鉢の梅の影を帯びて南縁の障子に
上り尽せる
日脚は、
袋棚に据ゑたる
福寿草の五六輪
咲揃へる
葩に輝きつつ、更に唯継の身よりは光も出づらんやうに
お峯は
苦笑しつ。
明なる障子の
日脚はその
面の
小皺の読まれぬは無きまでに照しぬ。髪は薄けれど、
櫛の歯通りて、
一髪を乱さず
円髷に結ひて顔の色は赤き
方なれど、いと好く
磨きて
清に
滑なり。