)” の例文
旧字:
早く俗縁をつて、過去の繁華を夢に見つゝ心地よく衰頽の平和に眠つて行く此の長崎に来い………とさとしてくれるやうにも思はれた。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
やはり、男はこんな場合、ふつりと思いきりがいい、捨次郎もしばらくは、がたい愛着を断ちかねていた様子だったが、やがて
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠く廊下にあやつる布の、すらすら乱れて、さまよえるは、ここに絶えんず玉の緒の幻の糸に似たらずや。つなげよ、玉の緒。ちそ細布。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梅子は固よりはじめからえずくちうごかしてゐた。其努力のおもなるものは、無論自分の前にゐる令嬢の遠慮と沈黙を打ち崩すにあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
滋幹は、父がどう云う動機から酒をつに至ったのか、そのかんの事情をつまびらかにしないのであるが、彼がそれに気が付いたのは
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それを誰より先に気づいたのは、あの白い広間のまん中に、食さえってよこたわっている、今は老い果てた母蜘蛛であった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが、専売局から発見されて、罰金を申しつけられると、父善助は、それきり、ふっつりと、煙草をってしまった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
是も少しの土功を加えて外側をち切り、降雨を待って水を入れ替えて、小規模なる浦田うらた湊田みなとだを設けることは、こちらでも例の多いことである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
城中から、清正きよまさの使者がとんできたときには、日本軍はまったくうしろをたれ、君臣くんしんたがいに散り散りになって、生死も知らぬありさまだった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
現世的げんせてき執着しゅうじゃくなかで、わたくしにとりて、なによりもるのにほねれましたのは、まえもうすとおり矢張やはり、けた両親りょうしんたいする恩愛おんあいでございました。
「聞く人のかがみにせむを、あたらしき清きその名ぞ、おほろかに心思ひて、虚言むなことおやの名つな、大伴のうぢと名にへる、健男ますらをとも
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
が、それでいて、その失敗の過去が、私に取っては何処か床しい処がある、後悔慚愧はらわたおもいが有りながら、それでいて何となく心を惹付ひきつけられる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私はX大使が普通のテロ行為者こういしゃとはちがって私の生命をとうとしているのではない様子にほっと胸をなでおろした。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
下男の幹助の懐中ふところも匂いました。嫌がるのを無理に押えて取出させると、あの野郎、親の遺言で女をったような事を
と唱ったが、その声は実に前の声にも増して清いんだ声で、えず鳴る笛吹川の川瀬かわせの音をもしばしは人の耳からい払ってしまったほどであった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ちげえねえ。一人の女があればこそだ。子がえ孫がえてしまったら、死んだあとで一碗の御飯を供える者がない。……一人の女があればこそだ」
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
と畳みかけておほする時我がはらわたゆるばかりに成りて、何の涙ぞまぶたに堪へがたく、袖につゝみてに泣きしや幾時いくとき
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
機械と労働とはえず競争しており、そして前者はしばしば、労働が騰貴するまでは使用され得ないのである。
「これは、わたしののせいであろう。」とおもって、あねひめは、いってみるなどという妄想もうそうたれました。
黒い塔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
美しく刺繍をした袍はわしを全くの別人にしてしまつたのである。わしは或型通りにつてある五六尺の布がわしの上に加へた変化の力を、驚嘆して見戍みまもつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
喬之助の虚心流は、ジワジワと徐々じょじょに動き、右近の観化流は、静中観物化せいちゅうかんぶっか、しずかなること林のごとき中から、やにわに激発げきはつして鉄をち、岩をくだくのである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
陳さんはビール(健康上の理由で老酒はっているとの由)のコップを傾けながら、自慢しました。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
遠くさかのぼれば、昔慧可大師えかだいし半臂はんぴってのりを求め、雲門和尚うんもんおしょうはまた半脚を折ってに入った。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
それで一旦はその通い路をったのであるが、お早の執着は容易に断ち切れなかった。かれは男恋しさに物狂おしくなって、あるときは庭の池へ身を沈めようとした。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
世とつのはもとより楽しかろうが、人の人たるゆえんは楽しみをまっとうする所にあるのではない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
……おかしい、こんなおかしいことはない。だがこれはってのお願いですが、僕のきたことは誰にも言わないで下さいね。でないと上役にどやしつけられますからね。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その悪者の老人は志米須しめすというところに住んでおりました。天皇はなおその上の刑罰けいばつとして、その老人の一族の者たちのひざのすじち切らせておしまいになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
軌道より左に折れてもとの街道をゆくに、これもえたる処あれば、山をたにを渡りなどす。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ことに郷里の中学を退き、道江みちえへの愛情をちきって、友愛塾の生活に専念するようになってからは、心ひそかに自分を朝倉先生の後継者こうけいしゃにさえなぞらえていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
乏しい小遣銭こづかいせんをはたいて、医者にもみて貰った。色々の医学の書物を買込んで、自己療法もやって見た。あるいは神仏を念じて、大好物のもちって病気平癒へいゆの祈願をさえした。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わがはいは決して道徳問題は、みなみな無造作むぞうさに解するものと言うのではない。一生の間には一回二回もしくは数回はらわたち、胸をこがすようなあらそいが心の中に起こることもある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
(急に自分の地位をはっきりと意識したるごとく)あゝわしはどうして死にきれないのだ。すでに三七日も飲食おんじきっているのに! わしは干死ひじにすることもできないのか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
まだその日の疲れのにじまない朝の鳥が、二つ三つ眼界を横切った。つばさをきりりと立てた新鮮な飛鳥ひちょうの姿に、今までのかの女の思念しねんたれた。かの女は飛び去る鳥に眼を移した。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「これは不断草ともいうそうで、わたしのなによりの好物ですよ、不断草とはよい名ではないか。つときなし、いつでもあるというのですね、不断草……ずいぶん久方ぶりでした」
日本婦道記:不断草 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
東亜の山脈は波濤はとうのごとく日本海よりビスケイ湾に連亘れんこうし、あるいは起き、あるいは伏し、あるいは続き、あるいはえ、逶迤いいとして不規則なる折線をもって二大陸を南北に横截おうせつせり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その連絡をち、前進部隊を自滅せしめるということ、更に海軍を以て、兵庫方面より二重に聯合軍の連絡を断つこと、等々であって、よしその実力には、旗本八万騎がすでに死し
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さあ、つて遣れんと云ふ次第ではないが、お前の意はどうだ。私の頼は聴ずとも、又自分の修業の邪魔にならうとも、そんな貪着とんちやくは無しに、何でもかでも宮が欲しいと云ふのかな」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
時は涼秋りょうしゅうげつ、処は北海山中の無人境、篝火かがりびを焚く霜夜の天幕、まくそとには立聴くアイヌ、幕の内には隼人はやと薩摩さつま壮士おのこ神来しんらいきょうまさにおうして、歌ゆる時四絃続き、絃黙げんもくす時こえうた
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかしわれはひときずつそこなやからとはちがふ。幼児をさなごき、あしち、しばつて、これを曝物さらしものに、憐愍あはれみ悪人あくにんどもが世間せけんにある。さればこそいまこの幼児等えうじらて、心配しんぱいいたすのだ。
否な之を軽侮し之を棄却する程の無神的ゴツトロース苛刻かこくは胆大にして且つ冷淡の偽人物にあらざれば之をすことあたはざる為なり。今本篇の主人公太田なるものは可憐かれんの舞姫と恩愛の情緒をてり。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
そして人間の子を生むは前記のとおり草木くさきと同様、わが種属を後代こうだいへ伝えてやさせぬためであって、別に特別な意味はない。子を生まなければ種属はついにえてしまうにきまっている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その犯人のそうした執念深い慾望をキレイにち切ってしまうかどうかしなければ、どうしても気が済まない、生一本きいっぽんの娘の心理とが、タマラナイ程深刻にえがきあらわしてあった……と云うのです。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
風の日も雨の日もいとうことなく、住居をる十町ばかりの築土八幡宮つくどはちまんぐう参詣さんけいして、愛児の病気を救わせ給えといのり、平生へいぜいたしなめる食物娯楽をさえにちたるに、それがためとにはあらざるべけれど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
三とせをわたりてもなほ果つべくもあらぬを、菟道うぢきみ深くうれひ給ひて、あに久しくきて天がしたわづらはしめんやとて、七四みづから宝算よはひたせ給ふものから、罷事やんごとなくて兄の皇子みこ御位みくらゐかせ給ふ。
「全速力だ、みんな。奴らとボートの間をたなきゃならん。」
「聞かぬうちは——ならぬ、ってとあらば、対手するぞ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
兵営へいえい高塀たかべい歩哨ほせう銃剣じゅうけんとはおたがひ連絡れんらくってしまった
「ひとつうまく背後をってやりたい」
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
刺して鴛鴦えんおうに到ってたましいたんと欲す
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
えず不思議なる何事なにごとかを弾きぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)