はじめ)” の例文
わたくしやうやくほつとしたこころもちになつて、卷煙草まきたばこをつけながら、はじめものうまぶたをあげて、まへせきこしおろしてゐた小娘こむすめかほを一べつした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一ツの羽子をならびたちてつくゆゑに、あやまちて取落とりおとしたるものははじめに定ありて、あるひは雪をうちかけ、又はかしらより雪をあぶする。
格之助はじめ、人々もこれに従つて刀を投げて、皆脇差わきざしばかりになつた。それから平八郎の黙つて歩くあとに附いて、一同下寺町したでらまちまで出た。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それで螢の光で其處そこらが薄月夜のやうに明いのであツた。餘り其處らが明いので、自分ははじめ、夢を見てゐるのでは無いかと思ツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
御覽ごらんなさい、世界せかいはじめから、今日こんにちいたるまで、益〻ます/\進歩しんぽしてくものは生存競爭せいぞんきやうさう疼痛とうつう感覺かんかく刺戟しげきたいする反應はんおうちからなどでせう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
重吉は種子の語ったことを冷静に考えて見た時、はじめて自分は淫蕩いんとう妾上めかけあがりの女に金で買われている男妾も同様なものである事に心づいた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
馬酔木あしびをベリベリ柴と呼び、松毬まつかさをチチリという類は、はじめは幼い者を喜ばせるためとしても、今は既に親々の方言になっている。
さるはひとり夫のみならず、本家の両親をはじめ親属知辺しるべに至るまで一般に彼の病身をあはれみて、おとなしき嫁よとそやさぬはあらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この書、はじめをその地勢に起し、神のはじめ、里の神、家の神等より、天狗てんぐ、山男、山女、塚と森、魂の行方、まぼろし、雪女。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かるが故にはじめに過重なる希望を以て入りたる婚姻は、後に比較的の失望を招かしめ、惨として夫婦相対するが如き事起るなり。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
漢語は延宝えんぽう天和てんなの間其角きかく一派が濫用してついにその調和を得ず、其角すらこれより後、また用ゐざりしもの、蕪村に至りてはじめて成功を得たり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「俺は今、貴様の見た山本の息子、はじめというものだ。貴様の一家を根絶やしにする事を、一生の事業として生きている山本始というものだ」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それもはじめから宿やどたねがなかつたのなら、まだしもだが、そだつべきものを中途ちゆうとおとしたのだから、さら不幸ふかうかんふかかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はじめは一山を上下して更に一山を登る方法を取っていたが、それでは一夏に登り得る山は多くも二、三に過ぎないうらみがあるので、之に満足せず
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
はじめからしまひまで間違まちがつてる』と斷乎きつぱり芋蟲いもむしひました。それから双方さうはうともくちつぐんでしまつたので、しばらくのあひだまたしんとしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
こうなるってことは、はじめっからわかってたんです、何かしら、僕にはね。なんだかそれを待ってたような気もするんです。
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
ある人はヨブ記のはじめおわりのみを読みて物的恩恵は必ず悔改に伴うべきものとなし、前者において足らざるは後者において足らざるによると考う。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
日本に於ても既に素盞嗚尊すさのをのみことの時に酒があり、少彦名神すくなひこのみことは造酒の神なりと言はれ、支那に於ても酒をもつて薬物のはじめとした。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
怖いまぎれにお累は新吉にすがり付く、その手を取って新枕にいまくら、悪縁とは云いながら、たった一晩でお累が身重になります。これが怪談のはじめでございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たとえば明治になって新に士籍とはいわれまいが、広い意味に於ける士の族に昇格したものが沢山ある。学士をはじめとして代議士もあれば弁護士もある。
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これを御本家はじめ御親類の御女中に言わせると折角花車きゃしゃな当世の流行をすてて、娘にまで手織縞で得心させている中へ、奥様という他所者が舞込で来たのは
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ご退位後の諸社への御幸はじめは、八幡、賀茂、春日などであるから、先例を破られてのご決意だったわけである。
はじめて私は幾十尺上って来たかと驚いた。右を見るとまたしても、太い、高い、黒い二本の烟突が目につく。私は飽迄あくまでこの烟突に圧迫せられているかんじがする。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
多くの人が原始社会を唯団体的と考えるのに反し、私はマリノースキイなどの如くはじめから個人というものを含んでいるという考に同意したいと思うのである。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
卑賤ひせんにそだちたる我身わがみなれば、はじめよりこの以上うへを見も知らで、世間は裏屋に限れる物とさだめ、我家わがやのほかに天地のなしと思はゞ、はかなき思ひに胸も燃えじを
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この『俳諧須菩提経』というのは明治の末か大正のはじめに書いたもののように思う。今でも同じ考えである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
すなはこれ實行じつかうせんとすれば現在げんざい國民こくみん消費せうひ相當さうたう程度ていど節約せつやくせしむるよりほかにないのである。くしてはじめ冗費じようひせつ無駄むだはぶかしむることが出來できるのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
私はたまたま家主の子であり藩地へ来てはじめての友達であったので唯一の友としていた。しかしなるほど他の藩士の子弟と交るようになってからは、疎遠になってしまった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
およそ銅鉄の腐るはじめは虫が生ずるためで、「さびるくさるはじめさびの中かならず虫あり、肉眼に及ばざるゆゑ」人が知らないのであるが、これは蘭人らんじんの説であるという説明があって
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あらたしきとしはじめおもふどちいれてればうれしくもあるか 〔巻十九・四二八四〕 道祖王
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
何でも朋友に相談をして見ようとう思うたが、この事も中々やすくないとうのは、その時の蘭学者全体のかんがえは、私をはじめとして皆、数年すねんあいだ刻苦こっく勉強した蘭学が役に立たないから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
王こゝにおいて杖を投じてって曰く、我何ぞ病まん、奸臣かんしんに迫らるゝのみ、とて遂に昺貴等をる。昺貴等の将士、二人が時を移してかえらざるを見、はじめは疑い、のちさとりて、おのおの散じ去る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
天智てんじ天皇のみ代だけについて見ても「このとしみずうすを造りかねわかす」とか「はじめ漏剋ろうこくを用う」とか貯水池を築いて「水城みずき」と名づけたとか、「指南車」「水臬みずばかり」のような器械の献上を受けたり
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
正月は明けましてで始まり、演説は満堂の紳士淑女諸君で始まり、手紙は拝啓陳者のぶればで始まる。しかし日記は何で始まるものか、はじめからして分らないのだから、全然てんで見当がつかない。弱っちまう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
はじめには越後の諸勝しよしようつくさんと思ひしが、越地ゑつちに入しのちとしやゝしんして穀価こくか貴踊きようし人心おだやかならず、ゆゑに越地をふむことわづかに十が一なり。しかれども旅中りよちゆうに於て耳目じもくあらたにせし事をあげて此書に増修そうしうす。
はじめからろうやへはいらない様にしてやれませう。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
犢鼻褌ふんどしあごにはさむやはじめ 汶村ぶんそん
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
早くおはじめなさい。殿様がお待兼だ。
はじめある物はをはりあり。
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
はじめなり、をはりなり。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
一ツの羽子をならびたちてつくゆゑに、あやまちて取落とりおとしたるものははじめに定ありて、あるひは雪をうちかけ、又はかしらより雪をあぶする。
わたくしは洞雲寺の移転地を尋ねて得ず、これを大槻文彦おおつきふみひこさんに問うてはじめて知った。この寺には枳園六世の祖からの墓が並んでいる。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
御覧ごらんなさい、世界せかいはじめから、今日こんにちいたるまで、ますます進歩しんぽしてくものは生存競争せいぞんきょうそう疼痛とうつう感覚かんかく刺戟しげきたいする反応はんのうちからなどでしょう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ハハワルシ、スグカエレ」——彼ははじめこう書いたが、すぐにまた紙をいて、「ハハビョウキ、スグカエレ」と書き直した。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はじめ余ノ昌平黌ニアルヤ寺門静軒てらかどせいけんマサニ駒籠こまごめヲ去ラントシ、余ニ講帷こういガンコトヲ勧ム。時ニ余一貧洗フガ如シ。コレヲ大沼竹渓翁ニはかル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
次に第二句のはじめに「底」といふ字ありて結句に「加茂の河水」と順序を顛倒したるは前の雪の歌と全く同一の覆轍ふくてつに落ちたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
はじめから何故なぜ自然に抵抗したのかと思つた。彼はあめなかに、百合ゆりなかに、再現さいげんむかしのなかに、純一無雑に平和な生命を見出した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
同じ相性でも、はじめわるし、中程宜しからず、末覚束おぼつかなしと云う縁なら、いくらか破談の方に頼みはあるが……衣食満ち満ち富貴……は弱った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめは木立のまばらな笹の深い山ひらを急に登って、中房川と北中川とを分つ尾根の上に出ると、其処そこは濁ノ頭の三角点に至る距離のぼ中央あたりで
彼はアルバであり又オメガである、はじめであり又おわりである、今あり昔あり後ある全能者である(黙示録一章八節)