夜露よつゆ)” の例文
其處そこで、でこぼこと足場あしばわるい、蒼苔あをごけ夜露よつゆでつる/\とすべる、きし石壇いしだんんでりて、かさいで、きしくさへ、荷物にもつうへ
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「いゝえ! 駄目よ。それにあなたも、もう家に入る時間ですよ。夜露よつゆりる時に外にゐると、チブスにかゝりますよ。」
ベンヺ こりゃなんでも、かくれて、夜露よつゆれのまくという洒落しゃれであらう。こひめくらといふから、やみちょうどおあつらへぢゃ。
それをどこまでもいくと、ひろはらっぱへでました。そこはかすみうらのふちで、一面いちめん夏草なつくさがはえしげっています。夏草には夜露よつゆがしっとりとおりています。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
それは、もうふゆちかい、あさのことでした。一ぴきのとんぼは、つめたいつちうえちて、じっとしていました。両方りょうほうはね夜露よつゆにぬれてしっとりとしている。
寒い日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
このはなしは一どういちじるしき感動かんどうあたへました。なかには遁出にげだしたとりさへあり、年老としとつた一かさゝぎ用心深ようじんぶかくも身仕舞みじまひして、『うちかへらう、夜露よつゆ咽喉のどどくだ!』としました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
夜露よつゆてたはうからうとふので、崖下がけした雨戸あまどけて、庭先にわさきにそれをふたならべていた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……こんな地面へ寝転がっていると夜露よつゆにあたるぜ、と言いますと、ああ、加賀屋の旦那ですか、手放しでお聞きにくいでしょうけど、あちきは毎晩ここで寝ているんです。
伝吉はまず雨落あまおちの石へそっと菅笠すげがさ仰向あおむけに載せた。それから静かに旅合羽たびがっぱを脱ぎ、二つにたたんだのを笠の中に入れた。笠も合羽もいつのにかしっとりと夜露よつゆにしめっていた。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むしなかでもばつたはかしこむしでした。このごろは、がな一にちつきのよいばんなどは、そのつきほしのひかりをたよりに夜露よつゆのとつぷりをりる夜闌よふけまで、母娘おやこでせつせとはたつてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
かごの垂れをねて、そこへ出て来た人影を見ると、父楽翁とおもいのほか、黒い夜露よつゆ頭巾を被り、黒つむぎのあわせに、袴もきちんと着け、年ごろ四十五、六の堅々しい感じの中に
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜露よつゆにぬれた枯草かれくさが気味わるく足にまとい、ともすれば水溜みずたまりに踏み込みそうで、歩くのも難儀であったが、神谷は、折角せっかくここまで尾行した怪物を、このまま見捨てて帰るのも残りしく
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
見る/\うち満月が木立こだちを離れるに従ひ河岸かはぎし夜露よつゆをあびた瓦屋根かはらやねや、水に湿れた棒杭ぼうぐひ満潮まんてうに流れ寄る石垣下いしがきした藻草もぐさのちぎれ、船の横腹よこはら竹竿たけざをなぞが、逸早いちはやく月の光を受けてあをく輝き出した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
水にも土手にも、しっとりとやみがおりて、かすかな夜露よつゆが足をなでた。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
夜露よつゆれたくさが、地上ちじやうあふれさうないきほひで、うづめてゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
わしは、一と通りの探険注意を与えると、一行の先頭に立ち、静かに、構内こうないを、第九工場に向って、行進を始めたのだった。地上をうレールの上には、既に、冷い夜露よつゆが、しっとりと、下りていた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
風入かぜいれのまども、正西まにしけて、夕日ゆふひのほとぼりははげしくとも、なみにもこほりにもれとてさはると、爪下つました廂屋根ひさしやねは、さすがに夜露よつゆつめたいのであつた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すると、くろいしが、夜露よつゆにしっとりと湿れて、広場ひろばなかで、つきひかりらされてかがやいているゆめました。
山へ帰りゆく父 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれどもながあしを大きく動かした代助は、二三町もあるかないうちに額際ひたひぎはあせを覚えた。彼はあたまから鳥打をつた。黒いかみ夜露よつゆに打たして、時々とき/″\帽子をわざとつてあるいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こんどの大地震には、御所の築地ついじも大破して、内裏だいりの方々さえ幾夜か夜露よつゆの外に明かされたと聞えているほどなので、地震御見舞として上洛した家康のそうしたつつしみは、当然でもあった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もの干棹ほしざをにさしかけの茣蓙ござの、しのぎをもれて、そとにあふれたひとたちには、かさをさしかけて夜露よつゆふせいだ。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あら、しつとりしてるわ、夜露よつゆひどいんだよ。ぢかにそんなものにこしけて、あなたつめたいでせう。ほんとに養生深やうじやうぶかかたが、それ御病氣ごびやうき擧句あげくだといふし、わるいわねえ。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あら、しっとりしてるわ、夜露よつゆひどいんだよ。じかにそんなものに腰を掛けて、あなたつめたいでしょう。ほんとに養生深ようじょうぶかかたが、それに御病気挙句あげくだというし、悪いわねえ。」
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草場くさつぱ夜露よつゆひどうございますで、旦那だんな、おはかますそれませう。つていらつしやいまし。ええ、んでござります、彼是かれこれうしてちますほどのこともござりますまい。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渇くのはつらくつて、雨のない日の続く時は帆布ほぬのを拡げて、夜露よつゆを受けて、みんなが口をつけて吸つたんだつて——大概唇は破れて血が出て、——助かつた此の話の孫一まごいちは、あんまり激しく吸つたため
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かわくのはつらくつて、あめのないつゞとき帆布ほぬのひろげて、夜露よつゆけて、みんなくちをつけてつたんだつて——大概たいがいくちびるやぶれてて、——たすかつたはなし孫一まごいちは、あんまはげしくつたため
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かまち納涼台すずみだいのやうにして、端近はしぢかに、小造こづくりで二十二三のおんなが、しつとりと夜露よつゆに重さうな縞縮緬しまちりめんつまを投げつゝ、軒下のきしたふ霧を軽く踏んで、すらりと、くの字に腰を掛け、戸外おもてながめて居たのを
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なにか、自分は世の中の一切すべてのものに、現在いまく、悄然しょんぼり夜露よつゆおもッくるしい、白地しろじ浴衣ゆかたの、しおたれた、細い姿で、こうべを垂れて、唯一人、由井ヶ浜へ通ずる砂道を辿たどることを、られてはならぬ
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにか、自分じぶんなか一切すべてのものに、現在いまく、悄然しよんぼり夜露よつゆおもツくるしい、白地しろぢ浴衣ゆかたの、しほたれた、ほそ姿すがたで、かうべれて、唯一人たゞひとり由井ゆゐはまつうずる砂道すなみち辿たどることを、られてはならぬ
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)