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だ視界の開けた高い所に登って、濃緑の青葉の海に珊瑚礁の如く断続した黒い針葉樹林を連ねて、試に想像の一帯を描いて見ると
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そしたら彼所あそこを塞ぐことにして今はだ何にも言わんで知らん顔を仕てる、お徳も決してお源さんに炭の話など仕ちゃなりませんぞ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
長吉は仕方なしにだ左へ左へと、いいかげんに折れて行くと蔵造くらづくりの問屋らしい商家のつづいた同じような堀割の岸に二度も出た。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
時には大きい体の割りに非常に素早しっこい孔雀くじゃくが、った一本しか無い細い小路に遊び出て、行人の足を止めさせることもある。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのお転婆の若い盛りに、あとにも先にもつた一度、わたくしは不思議なことに出逢であひました。そればかりは今でもわかりません。
けれども「善くつ高貴に行動する人間はだその事実だけにっても不幸に耐え得るものだということを私は証拠立てたいと願う。」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
だ、今の時に当て政治を改良し、法律を前進するにあらざれば、天下の子弟を導てその歩を理学の域に進ましむるに便ならず。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
偶像はらないと言う人に、そんなら、恋人はだ慕う、愛する、こがるるだけで、一緒にならんでもいのか、姿を見んでもいのか。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帽子屋ばうしやッた一人ひとり場所ばしよへたために一ばんいことをしました、あいちやんは以前まへよりもぽどわりわるくなりました、だつて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
この篇は世の宗教的経験深き人に示さん為めにはあらずして心洵まことに神を求めて宗教的生活に入らんとする世の多くの友にすゝめんとてなり
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
停車場ステイシヨンに居た老人のボオイが親切に案内してれたので、ぐ横町にだ一軒起きて居た喫茶店カツフエはひつて顔を洗ふ事が出来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼れ其実は全く嗅煙草を嫌えるもからの箱をたずさり、喜びにも悲みにも其心の動くたびわが顔色を悟られまじとて煙草をぐにまぎらせるなり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
私は博士に対して何等の恩怨おんえんを有するものでない、だ、その著書を通して博士の頭脳を尊敬している一人に過ぎない。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
れも未開の国で野法図のはふづに育つたおかげに歴史に功蹟を遺すだけに進歩しなかつたが其性質のすぐれて怜悧で勇気のあるのは学者に認められておる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
宗教家の云ふやうな救世主とか、大慈大悲の仏菩薩とかには出逢はないでも、自分はだ一人で寂しく泣くことをすると心がなごみ、慰めが得られる。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
れはきみ幸福しやわせなれかし、すこやかなれかしといのりて此長このながをばつくさんには隨分ずいぶんとも親孝行おやこう/\にてあられよ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
時ありて出窓でまどの下を過ぐるときは、隧道すゐだうの中を行くが如し。だ黒烟の戸窓とまどより溢れて、壁に沿ひて上るを見るのみ。
新「仕様がねえな、うも己が殺したという訳じゃアねえが、それは、困って仕舞ったなア、一寸ちょいと手伝ったのだ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これけつして責任せきにんらぬわけではい、物事ぶつじ無頓着むとんちやくわけでありません。習慣上しふくわんじやう缺點けつてんであらうとおもひます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
ここおいて、孫子そんし使つかひをしてわうはうぜしめていはく、『へいすで整齊せいせいす、わうこころみにくだりてこれし。わうこれもちひんとほつするところ水火すゐくわおもむくといへど可也かなり
是にいて、使者還り来て曰く、墓所に到りて視れば、かためうづめるところ動かず。すなはち開きて屍骨かばねを見れば、既にむなしくなりたり。衣物きもの畳みてひつぎの上に置けり。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
あの有名な『起信論』に「唯証相応ゆいしょうそうおう」(だ証とのみ相応する)という文字がありますが、すべてさとりの世界は、たださとり得た人によってのみ知られるのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
しゅうにつれて、その方まで逆上しそうなのが、心配じゃ。よいか。きっと申しつけたぞ。」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いえ、だ今はどなた様も。九月の声をおききになると、すぐ、お引揚げでございました」
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
だその命名につきて一場いちぢやうの奇談あり、迷信のそしまぬかれずとも、事実なればしるしおくべし。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
お国には阿母さんがッた一人、兄さんを楽しみにして待ってらッしゃるでしょう。仙台は仙台で、三歳になる子まである嫂さんがあるでしょう。それだのに、兄さんが万一
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
給料きふれうむさぼつてゐるにぎん……さうしてれば不正直ふしやうぢきつみは、あへ自分計じぶんばかりぢやい、時勢じせいるのだ、もう二百ねんおそ自分じぶんうまれたなら、全然まるでべつ人間にんげんつたかもれぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼れの汗で濡れた広い額は丁度雨上りの庭土のように、暗い光りで輝き、濃い眉毛に密接した奥深い眼は、物体の形よりも、むしだその影だけを見つめているように、ものう気であった。
ラ氏の笛 (新字新仮名) / 松永延造(著)
ず一番先に出かけたのは一番目の娘であったが、だ一人小さい角燈を下げて家を出ると、朧月夜に風寒く、家を離れれば離れる程四辺あたりは淋しくなって、やがて森林のそばまで来て見れば
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
親方の意気地いくじなしは今始まつたではなけれど、私の気にもなつて見て下され、未練ではござりませぬ、ごうえてなりませぬ、親方の帰つたあとではいつもの柳連やなぎれんの二人が来てゐたこととて
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
午後になってから益々ますます雲が多くなった、岳に近づいた所為せいもあろうがどうも空模様が面白くない。だ割合に雲が高いので心丈夫だ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あんまひどすぎる」と一語ひとことわずかにもらし得たばかり。妻は涙の泉もかれたかだ自分の顔を見て血の気のないくちびるをわなわなとふるわしている。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
長吉ちやうきち仕方しかたなしにだ左へ左へと、いゝかげんにれてくと蔵造くらづくりの問屋らしい商家しやうかのつゞいた同じやうな堀割ほりわりの岸に二度も出た。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「多い時はその位ございますが、きょうなぞはった十二三人でございました。そのなかで半分ぐらいは日参のかたばかりでございます」
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昨夜老人のもとへ来たのはだ藻西一人さ、帳番の証言だからこれも確かだ、藻西は宵の九時頃に来て十二時頃まで居たそう
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
子供の服装は近頃ル・マタン紙の婦人欄の記者が批難した通り「何等なんららの熟慮を経ない、華美はでに過ぎた複雑な装飾」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
銀座の雪の上へ家の入口の灯の明りが末広がりに扇の形をしてして居ると云ふのであるが、だの家とは内容の異つたカフエエの灯であることで
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
この時われが周囲にはせきとして何の声も聞えず、ゞ忽ち断へ忽ち続く、物寂しき岩間のしづくの音を聞くのみなりき。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だ無茶苦茶に三尺の開戸ひらきど打毀うちこわして駈出したが、階子段はしごだんを下りたのか転がりおちたのかちっとも分りません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また作文さくぶんにしても間違まちがつたところがあればしるしけてだけで、滅多めつた間違まちがひてん説明せつめいしてかさない。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
三歳四歳ではだ表紙の美しい絵を土用干のやうにならべて、この武士は立派だの、此娘は可愛いなんて……お待ちなさい、少し可笑をかしくなるけれど、悪く取りつこなし。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我が大王の告げたまふところに、世間は虚仮こけだ仏のみれ真なりと。の法を玩味ぐわんみするに、我が大王はまさに天寿国に生れまさむ。しかも彼の国の形は眼に看叵みがたき所なり。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それ、国民の元気を養い、その精神を独立せしむるの術、すこぶる少なからず。然れどもその永遠の基を開き、久耐のいしずえを建つるものに至ては、だ学問を独立せしむるに在るのみ(大喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
目は此の如し、鼻は此の如しと云はんも、到底これにりて其眞相を想像するに由なからん。だ君の識る所の某に似たりと云ふに至りて、僅にこれを彷彿すべきのみ。山水を談ずるも亦復かくの如し。
此處こゝ一策いつさくがあるよ。』とわたくし一同いちどうむかつたのである。
「私は恥かしい。だ、向うの方を見てゐたのです。」
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
だ我一人のみ、救護くごをなす
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
一条ひとすぢにたどりしのみ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いよいよ御神燈ごしんとうのつづいた葭町の路地口ろじぐちへ来た時、長吉はもうこれ以上果敢はかないとか悲しいとか思う元気さえなくなって、だぼんやり
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし將來このさきこれをさいはひであつたとときいへども、たしかに不幸ふかうであるとかんずるにちがいない。ぼくらないでい、かんじたくないものだ。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)