各自てんで)” の例文
そうして各自てんでに刀をもって果合はたしあいをやるのです。それには立会人があって、どっちの遣り方が善いとか悪いとかいう判断を下します。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
女同士をんなどうしはわあとたゞわらごゑはつして各自てんで對手あひていたりたゝいたりしてみだれつゝさわいだ。突然とつぜん一人ひとりがおつぎのかみへひよつとけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
涙は各自てんでに分て泣かうぞと因果を含めてこれも目を拭ふに、阿關はわつと泣いて夫れでは離縁をといふたも我まゝで御座りました
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お早うございますが各自てんでに交換され、昨日のこと天気のよいことなど喃々なんなんと交換されて、気の引き立つほどにぎやかになった。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
当時の学生はだそういう政治運動をする考がなく、硬骨連が各自てんでに思い思いに退校届を学校へたたきつけて飛出してしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
『一、二、三、すゝめ』の號令がうれいもなく、各自てんでみな勝手かつてはしして勝手かつてまりましたから、容易ようい競爭きやうさうをはりをることが出來できませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
水の講釈にかけては人一倍やかましい茶人達の事とて、あつちこつちの名水をかめに入れて各自てんでに持寄りをする事にきめた。
仮令たとえ性質は冷たくとも、とにもかくにも自分等の手で、各自てんでくわかついで来て、この鉱泉の脈に掘当てたという自慢話などを高瀬にして聞かせた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この方には趣向を主として実物には重きを置きませんからまず百円の見積り……たりない所は各自てんでの所持品を飾っても間に合わせるという考えです。
が、筆のついでに、座中の各自てんでが、すききらい、その季節、花の名、声、人、鳥、虫などを書きしるして、揃った処で、ひとつ……何某なにがし……すきなものは、美人。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
簑村と有野は、各自てんでに頭の中で考へてゐる事を、とんちんかんに口先で話し合つては、又自分の勝手な話題の方へ相手を引つ張つてゆかうとしてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
博士は簡単にその理由わけを教えて、まず自分で外へ出た。後に残った助手は同じく人数だけの自発器を持ち出して、各自てんでにそれを被らせ、続いて外へ出た。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
この時二人は身体からだに巻いてあった布を取って、各自てんでに綱を一本ずつ身体からだに結び付けますと、船の両側から一時に、水煙みずけむりを高く揚げて、真青な波の底に沈みました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そんな事を各自てんでに言って墨をる。短かくなると竹の墨ばさみにはさんでグングンと摺る。それを大きな鉢にめてゆくと、上級の子がまたそれをく摺り直す。
隣家の者は、「それこそ妖怪ばけものだ、逃がすな」と云って、各自てんでに棒や鍬を持って主翁に跟いて来た。
怪しき旅僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三人さんにん各自てんで手分てわけをして、会員くわいゝん募集ぼしうする事につた、学校にる者、ならび其以外それいぐわいの者をも語合かたらつて、惣勢そうぜい二十五にんましたらうか、其内そのうち過半くわはん予備門よびもんの学生でした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
各自てんでに藥瓶の數多く並んだ棚や粉藥を分量してゐる小生意氣な藥局生の手先などを眺めてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
寝苦しいと見えて、一度寝に帰って行った人々までがまた甲板へ上って来たりしていたがいつの間にか皆各自てんでの室へ引きとってしまって、残っているのは私一人きりだった。
妖影 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
うまうま仲善なかよく、はなをならべて路傍みちばたくさみながら、二人ふたり半死半生はんしはんしやう各自てんで荷馬車にばしやひあがり、なほ毒舌どくぐちきあつて、西にしひがしへわかれるまで、こんなはなしをしてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
自分の世界が二つに割れて、割れた世界が各自てんでに働き出すと苦しい矛盾が起る。多くの小説はこの矛盾を得意にえがく。小夜子の世界は新橋の停車場ステーションへぶつかった時、劈痕ひびが入った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夕日の残る枯尾花かれおばな何処どこやらに鳴く夕鴉ゆうがらすの声も、いとどさすらえ人の感を深くし、余も妻も唯だまって歩いた。我儕われらの行衛は何処どこに落ちつくのであろう? 余等は各自てんでに斯く案じた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼等は各自てんでに振分け荷物や、一眼で安物だと判るやうなトランクをぶら提げてゐた。大部分が百姓であることはその着物の着こなしやシャツや、赤黒く陽焼けした顔や手で明かである。
青年 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
旅人四人はこう云いながら、各自てんで菅笠すげがさの紐を絞め、明神の境内を出て行った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鍋被なべかぶりの女だけ陰気な顔で、何処どこを睨むというでなく立っていた。二人の女房は各自てんでに家へ入って、その場にはただ一人鍋被の女だけ取り残された。この黒衣の女はしばらく石の如く動かなかった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
涙は各自てんでわけて泣かうぞと因果を含めてこれも目を拭ふに、阿関はわつと泣いてそれでは離縁をといふたも我ままで御座りました
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
先驅さきがけひかり各自てんでかほ微明ほのあかるくして地平線上ちへいせんじやう輪郭りんくわくの一たんあらはさうとする時間じかんあやまらずに彼等かれらそろつて念佛ねんぶつとなへるはずなので
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その頃はモウかなり戦術が開けて来たのだが、大将株が各自てんでに自由行動を取っていて軍隊なぞは有るのか無いのか解らない。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
けれども各自てんでに一時間半じかんはん其所そこいらはしつゞけたときに、まつたかわいてしまひました、ドードてうきふに、『めッ!』とさけびました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
畜生ながらに、亡くなつた主人を慕ふかと、人々も憐んで、これから雪の降る時節にでも成らうものなら何を食つて山籠りする、と各自てんでに言ひ合つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この方には趣向を主として実物には重きを置きませんからまず百円の見積り……足りない所は各自てんでの所持品を飾っても間に合わせるという考えです。
ある日商人あきんどは、市街まち関羽くわんうべうで行はれるお祭りを見に往つた。居合はす人達は各自てんでに蝋燭を持つて、それを振りかざして何かの式をするらしかつた。
もうそうなると、気のあがった各自てんでが、自分の手足で、茶碗を蹴飛けとばす、徳利とっくりを踏倒す、海嘯つなみだ、とわめきましょう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここまで説明して言葉を切ると、耳を澄ましていた一同は各自てんでに夢の醒めたような顔を上げた。そうして如何にも感服したていで私の顔を見た。飯村部長は低い嘆息の声さえ洩らした。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
面々各自てんでの挨拶がある。鎮守の宮にねり込んで、取りあえず神酒みき一献いっこん、古顔の在郷軍人か、若者頭の音頭おんどで、大日本帝国、天皇陛下、大日本帝国陸海軍、何々丑之助君の万歳がある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
玄関には、腰掛けたのや、上込んだのや、薄汚い扮装なりをした通ひの患者が八九人、詰らな相な顔をして、各自てんでに薬瓶の数多く並んだ棚や粉薬こぐすりを分量してゐる小生意気な薬局生の手先などを眺めてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
各自てんで槓杆てこよりも立派な腕を
なみだ各自てんでわけかうぞと因果いんぐわふくめてこれもぬぐふに、阿關おせきはわつといてれでは離縁りゑんをといふたもわがまゝで御座ござりました
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すると最前からそれを見て居た富豪連かねもちれんは、いつの間にか各自てんでにそつと画絹を抱へ込んでげ出した。そして言ひ合はせたやうに米華の前にたかつて来た。
雖然けれども、いざ、わかれるとれば、各自てんでこゝろさびしく、なつかしく、他人たにんのやうにはおもはなかつたほど列車れつしやなかひとまれで、……まれふより、ほとんたれないのであつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それで一さい草木さうもくつち直角ちよくかくたもつてる、冬季とうきあひだつち平行へいかうすることをこのんでひとてつはり磁石じしやくはれるごとつち直立ちよくりつして各自てんで農具のうぐる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いわばなるだけ面倒な事には関係しないで仕事に励み忠実熱心である方ですから、こういう不条理な規約書が郵便で、各自てんでもとに舞い込んで来て見ると、甚だ迷惑に感じた。
そこみン息喘いきせきながら其周圍そのしうゐあつまつてて、『だが、だれつたの?』と各自てんできました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「女も変った」と原は力を入れて、「田舎から出て来て見ると、女の風俗の変ったのに驚いて了う。実に、華麗はでな、大胆な風俗だ。見給え、通る人は各自てんでに思い思いのなりをしている」
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それっというとにわかに元気百倍して駈け出したが、どうたものか十人が十人共、各自てんでに一人は東、一人は西と違った方に声を聞いて、こっちだこっちだと云いながら、八方に散って行った。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
各自てんでに米が五合に銭十五銭宛持寄って、飲んだり食ったりかんを尽すのだ。まだ/\と云うて居る内に、そろ/\はたの用が出て来る。落葉おちばき寄せて、甘藷さつま南瓜とうなす胡瓜きゅうり温床とこの仕度もせねばならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何故といつて、聖書で見ると、どんな人間ひとだつて乗合馬車位の「罪」は、各自てんでにみんな背負しよつてるのだから。
戦いんで昼過ぎ、騒ぎは一段落附いたようなものの、それからまた一騒ぎ起ったというのは、跡見物あとけんぶつに出掛けた市民で、各自てんで刺子袢纏さしこばんてんなど着込んで押して行き、非常な雑踏。
唯今ただいまは凄いほど、星がきらついて参りましたが、先刻、その時分は、どんよりして、まるで四月なかばの朧月夜おぼろづきよ見たような空合、各自てんでに血が上っておりましたせいか、今日の寒さに
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして髪毛かみのけや、眼色めいろや、顔色が赤や、白や、鳶色とびいろや、黒等とそれぞれに違った人々が、各自てんでに好きな仕立ての着物を着て、華やかに飾り立てた店の間を、押し合いへしあいして行き違う有様は
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
と一同声を揃へて、各自てんでに頭を下げるのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)