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歌物語うたものがたりに何の癡言たはことと聞き流せし戀てふ魔に、さては吾れとくよりせられしかと、初めて悟りし今の刹那に、瀧口が心は如何いかなりしぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
見ると、大かた攫われたのでしょうね。玉ちゃんは色の白い、女の子のような綺麗な子ですから、悪い奴にこまれたのかも知れません
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
男は、この生活にも相手の女にも心からせられていたから、もちろんです、生かそうとも殺そうともお心次第です、と答えた。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
実は悪魔にいられた半之丞、機械人間を操って切っていたばかりでは物足りなくなって、時々自ら邪剣を振っているのだった。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は意味の分らない所が沢山あつたに拘はらず、文章の美しさと、筋の面白さにせられて、振仮名をたどりながらも一気に読み終つた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
そのくびからうへが、嚴肅げんしゆく緊張きんちやう極度きよくどやすんじて、何時いつまでつてもかはおそれいうせざるごとくにひとした。さうしてあたまには一ぽんもなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
綺麗きれいだわ、綺麗きれいだわ、綺麗きれいむしだわ。」とせられたやうにひつゝ、草履ざうりをつまつやうにして、大空おほぞらたかく、ゑてあふいだのである。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「どうもこの頃、昭沙弥は、生飯をやると言っちゃ日に五六ぺんも、そわそわ川へ行く。あんまり鯉に馴染なじみがつき過ぎて鯉にせられたのではないか」
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
人々は野淵の荘重そうちょうな漢文口調の演説を旧式だと思いつつもその熱烈な声にせられて、狂するがごとく喝采した、手塚はきまりわるそうに頭を垂れた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
極めて単調子な、意味のシンプルな子守唄こもりうたが私の心をし去ってしまう。そして、それをいつまで聞いていても、私は、この子守唄を聞くことにきない。
単純な詩形を思う (新字新仮名) / 小川未明(著)
藤井先生をひと目見て、春吉君はいきづまるほどすきになってしまった。文化的な感じにせられたのである。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
お夏の——少し冷たくはあるが、あの透き通るやうな綺麗さにせられて、八五郎の眼には江戸の海で取れる白魚ほどのにごりもないやうに思へるのでせう。
相手の人為ひととなりに完全にされてしまって、ただ由あるお旗下の成れの果てか、名前を聞けば三尺飛び下らなければならないれっきとした御家中の、仔細あっての浪人と
「生白い若公卿ずれの才覚などに、なじか北条殿の御代ごだいが揺ぎでもしようかい。そんなたくみに、わが聟までが加担とは沙汰の限りよ。馬鹿者めが、天魔にでも入られたか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅花は予の軽蔑する文人趣味を強ひんとするものなり、下劣詩魔げれつしませしめんとするものなり。予は孑然けつぜんたる征旅のきやくの深山大沢だいたくを恐るるが如く、この梅花を恐れざる可からず。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これが要點であつた——これが神經にさはり、惱まされる問題點であつた——これが私の熱情が衰へずに養成されてゐる所以であつた。彼女は彼をすることが出來なかつたのだ。
そう思ったら私は、ふいと恐ろしいことを考えるようになりました。悪魔にこまれたのかも知れませぬ。そのとき以来、あの人を、いっそ私の手で殺してあげようと思いました。
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
可憐かれんな処女の面影が拭い消されて、人をするような笑顔えがおがこれに代りました。お君は鏡にうつる自分の髪の黒いことを喜びました。そのかおの色の白いことが嬉しくてたまりませんでした。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
へのむすんだくちに、煙管きせるくわえたまま、せられたように人形にんぎょう凝視ぎょうしつづけている由斎ゆうさいは、なにおおきくうなずくと、いまがた坊主ぼうずがおこして炭火すみびを、十のうから火鉢ひばちにかけて、ひとりひそかにまゆせた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
孤立せるピラミッドに似て、何かするがごとく
瀟洒な外輪船ぐわいりんせんの出てゆく油繪の夕日にせられる。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
完全にせられてしまったのであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
成経 あゝ悪魔が父を入ったのか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
私はこまれたような思いがした。
縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
一座の者も心配して、アンに意見もしたそうですが、年うえ女に執念ぶかくこまれたアンは、誰がなんと言っても思い切ろうとはしない。
マレー俳優の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その頸から上が、厳粛げんしゅくと緊張の極度に安んじて、いつまで経っても変るおそれを有せざるごとくに人をした。そうして頭には一本の毛もなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むねれたやうにうなづいてつたが、汽車きしやられていさゝかの疲勞つかれまじつて、やまうつくしさにせられて萎々なえ/\つた、歎息ためいきのやうにもきこえた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その派手はで大仕掛おおじかけには、僕はすっかりせられてしまって、ため息があとからあとへと出てくるばかりだった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
当座この黒い鳥が何んとなく私には陰気に見えたのである。頭から、眼付まで、可愛らしいというより、そのうちに厭に人をする力があるような気持がした。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
多分お元はこの初夏の夕暮れの美しさにせられて、呆けた頭に十六年前の記憶を喚び起したのでせう。
けれども、自分をするものはひとり大川の水の響きばかりではない。
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その剣心にし去られて、左膳が刀を差すというよりも刀が左膳をさし、左膳が人を斬り殺すというよりも刀が人を斬り殺す辻斬りに、左膳はこうして毎夜の闇黒をさまよい歩いているのだったが
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だが、雪子のせられたのはさういふ一々のものではない。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
子ゆえの闇から悪い奴にこまれて、奥様も一生日蔭の身になってしまったんです。考えてみると可哀そうじゃありませんか
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しきり面目めんもくながるくせに、あは/\得意とくいらしい高笑たかわらひをつた。家内かない無事ぶじ祝福しゆくふくするこゝろでは、自分じぶんせられたのを、かへつて幸福かうふくだとおもつてよろこんだんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いられるように氷上でみつめていたが、隊長が最後に救われたと知った瞬間、両眼から涙がどっといてきて、眼の前がまったく見えなくなってしまった。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
魔術使まじゅつつかいのおんなはおしではありましたけれど、かおのどこかに、いちばんおおひとするちからをもっていました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
兄さんは煙草にせられた人のように、時々紙巻の先を赤くするだけで、なかなか口を開きません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
徳三郎もはじめは旅先のいたずらにすぎない色事いろごとで、その女を連れ出して逃げるほどの執心もなかったのであるが、かれにこまれたが最後
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
令史れいしすくなからず顛動てんどうして、夜明よあけて道士だうしもといた嗟歎さたんしてふ、まことのなすわざなり。それがしはたこれ奈何いかんせむ。道士だうしいはく、きみひそかにうかゞふことさら一夕ひとばんなれ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
感情の洞穴にしくれる、此種の芸術に接するたびに、之を愛慕し、之を尊重視するの念を禁じ得ない。
忘れられたる感情 (新字新仮名) / 小川未明(著)
フリッツ大尉の案内により、大仕掛おおじかけな地下工場のまん中に立ち、うな廻転機かいてんきや、ひび圧搾槌あっさくづちの音を聞いていると、ドイツ人のもつ科学力にせられて、おそろしくなってくるのだ。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まさかに池の主が美しいおみよをこんだ訳でもあるまい。どう考えても、この疑問がまだ容易に解けそうもなかった。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やしきにはこの頃じゃ、そのするような御新姐ごしんぞ留主るすなり、あなはすかすかと真黒まっくろに、足許にはちの巣になっておりましても、かに住居すまい、落ちるような憂慮きづかいもありません。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは、くろ百合ゆりはなて、せられたようながした。ちょうどこのとき、おんなくろ腹帯はらおびあたまなかおもされた。しかし、気味きみわるかったので、わずにかえりました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ていよく追っ払おうとしても、そうは行きませんよ。あたしのような者にこまれたのが因果で、あたしは飽くまでもお前さんを逃がしゃあしませんよ
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
慕わせるより、なつかしがらせるより、一目見た男をする、ちから広大こうだいすくなからず、地獄、極楽、娑婆しゃばも身に附絡つきまとうていそうな婦人おんなしたごうて、罪もむくいも浅からぬげに見えるでございます。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人ふたり故郷こきょうではぜにというようなものがなかったから、それがなんであるかわかりませんでしたけれど、ただ、そのうつくしいひかりせられて、二人ふたりのうちのとしとったほうが、くろえた
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
蛇にこまれるという伝説は昔からたくさんある。どう考えてもあの婆さんはやはり蛇の化身けしんで、なにかの意味で或る男や或る女を魅こむに相違ない。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よこしまな心があつて、ためにはばかられたのではないが、一足ひとあしづゝ、みし/\ぎち/\と響く……あらしふき添ふえんの音は、かか山家やまがに、おのれと成つて、歯をいて、人をおどすが如く思はれたので
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)