きん)” の例文
「アップはね、髪の毛の少いひとがするといいのよ。あなたのアップは立派すぎて、きんの小さい冠でも載せてみたいくらい。失敗ね」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鍍金めっききんに通用させようとする切ない工面より、真鍮しんちゅうを真鍮で通して、真鍮相当の侮蔑ぶべつを我慢する方が楽である。と今は考えている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこへあがると、何十町か向うの岡の上に、きんの窓のついたお家が見えました。男の子は、まいにち、そのきれいな窓を見にいきました。
岡の家 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
陳は小銭こぜにを探りながら、女の指へあごを向けた。そこにはすでに二年前から、延べのきん両端りょうはしかせた、約婚の指環がはまっている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたし、とれた金歯きんばってこようかとおもっているのです。新聞しんぶん広告こうこくると、きんならなんでもたかうといてありますから。」
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)
朝たべられる果物はからだきんのような作用をするそうだけれども、全く、中国地でありがたいものは、果物がふんだんにたべられること。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それはね、おとうさま、きのう、あたしが森のなかのいずみのそばにすわって、あそんでいたら、きんのまりが水のなかにおちてしまったの。
きん黝朱うるみの羽根の色をしたとびの子が、ちょうどこのむかいのかど棒杭ぼうぐいとまっていたのをた七、八年前のことをおもい出したのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ひとりや(六二)猜忍さいにん人也ひとなり其少そのわかときいへ、千きんかさねしが、(六三)游仕いうしげず、つひ其家そのいへやぶる。(六四)郷黨きやうたうこれわらふ。
「ああ、きんさんじゃなあ。ちょいと、お待ちいな。うちのも、あんたの来るのを、さきにから、待っとった。じき呼んで来るけに……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
君がいつかきん青年の殺人犯人のことで、『犯人は気が変だ。それが馬鹿力を出して金を殺し、その直後に正気しょうきに立ちかえって逃走した』
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ガラスは鉄の玉には紫でなければいけないし、きんの玉には黒でなければいけない。スペインにその需要が多い。それは飾り玉の国で……
きん小鳥ことりのやうないたいけな姫君ひめぎみは、百日鬘ひやくにちかつら山賊さんぞくがふりかざしたやいばしたをあはせて、えいるこえにこの暇乞いとまごひをするのであつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
きんねこの鬼」は、やがてへやもどつてきました。見ると、コノオレの子供がゐません。見まはしてみると、金の猫がありません。
金の猫の鬼 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
それから赤絵に使うきんは、どうしてやるのか忘れたが、とにかく焼き上った時は鈍い黄色をしている。それを籾殻もみがらで力一杯こするのである。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
吉原の土手下で夜を明した時、どこのものかが名物の土手のきんつばをくれたが、その大きさとうまさを何時までも忘れなかったと言った。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あるとき老人ろうじんくちをすべらし、きん売買ばいばい自由じゆうになつたはなしをしたものだから、ハッキリとそれは金塊きんかいだろうということがわかつたわけです。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「ははは、近頃はほとんど、きんかゆ(粟粥のこと)も、銀の粥(米の粥)も入らんからのう。病院の傷病兵へはどうしておるか」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伸子は珍しく思って、きんを打った観音開きの扉や内部の欄間に親鸞上人の一代記を赤や水色にいろどりした浮彫で刻みつけてあるのを眺めた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
どこもかしこも、きんや、大理石や、水晶すいしょうや、絹や、灯火ともしびや、ダイヤモンドや、花や、おこうや、あらんかぎりの贅沢ぜいたくなもので、いっぱいなの
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
この慶州以外けいしゆういがい古墳こふんから、これほど立派りつぱきんづくめの品物しなものは、いままでたことはありませんが、耳飾みゝかざりだけはいつもきんつくつてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「ふふふふ、きん、なんできゅうおしのようにだまんじゃったんだ。はなしてかせねえな。どうせおめえのはらいたわけでもあるめえしよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
博士は彩色の飾文字かざりもじを散らした聖典を見つめてゐて、たまに眼を放てば、うつすり曇る水盤の中に泳ぐ二ひきの魚のきんあかとを眺めるのみだ。
欝金草売 (旧字旧仮名) / ルイ・ベルトラン(著)
小町こまちの真筆のあなめあなめの歌、孔子様のさんきんで書いてある顔回がんかいひさご耶蘇やその血が染みている十字架の切れ端などというものを買込んで
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうに戯曲、こん詞説しせつ有り。きん院本いんぽん雑劇ざつげき有り、じつは一なり。〕とあるによりて知らる。これ鷲津毅堂わしづきどう先生が『親燈余影しんとうよえい』に出でたり。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
(それは、ゲルダのきんの馬車をひっぱった馬であったからです。)そして、このむすめは、れいのおいはぎのこむすめでした。
「八、なたを借りて來てくれ。誰も氣のつかない、隱せさうも無いところに隱してあるに違ひない。きん太郎の腹掛や、武内樣のよろひぢやないよ」
綾衣はすぐに遣手やりてのおきんを浅草の観音さまへ病気平癒の代参にやった。その帰りに田町たまちの占い者へも寄って来てくれと頼んだ。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
高き金峰きんぷ山は定かならねど、かやが岳、きんが岳一帯の近山は、釜無かまなし川の低地をまえに、仙女いますらん島にも似たる姿、薄紫の色、わが夢の色。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
のまゝだと、もう一音信いちおんしん料金れうきんを、とふのであつた。たしか、市内しない一音信いちおんしんきん五錢ごせんで、局待きよくまちぶんともで、わたし十錢じつせんよりあづかつてなかつた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
したがつ日本國内にほんこくないからきん解禁かいきんごときことは、國民的こくみんてき大問題だいもんだいであるとふことは何人なんびと否認ひにんすることの出來できないことである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
花「海上さん何うも済みません、今朝から何処どこで浮気してました、なんですね、そんなとぼけた顔をしてさ、おきんどん一寸ちょいと御覧よ、ホヽヽヽヽ」
イエスのその言葉のごとくペテロは貪欲で、ペテロの宗派をつぐ代々よよのひじりたちの中にも、ペテロの如くきんを愛する人が多いといはれてゐる。
イエスとペテロ (新字旧仮名) / 片山広子(著)
このマイダスという王様は、世の中の他の何よりもきんが好きでした。彼が自分の王冠を大切に思うのも、おもにそれが金で出来ているからでした。
雇いきんも年々に積もってまいりました。宿方困窮のもとと申せば、あまりに諸家様の御権威が高くなったためかと存じます。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「——向う山で鳴く鳥は、ちゅうちゅう鳥かみい鳥か、源三郎げんざぶろうの土産、なにょうかにょう貰って、きんざしかんざしもらって……」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
政府は貿易尻決済のきんの獲得に百方苦慮していたのであるが、その事が日本少年による黄金境発見の空想となって、ここに反映したものであろう。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
箔についても、濃色こいろがあり、色吉いろよしがある。中色なかいろ、青箔、常色つねいろ等がある。その濃色は金の位でいうとヤキきんに当る。色吉が小判で、十八金位に当る。
卒直な明らさまなその目にはその場合にすら子供じみた羞恥しゅうちの色をたたえていた。例のごとく古藤は胸のきんぼたんをはめたりはずしたりしながら
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
居て見、首筋が薄かつたとなほぞいひける、単衣ひとへ水色みづいろ友仙ゆふぜんの涼しげに、白茶しらちやきんらんの丸帯少し幅の狭いを結ばせて、庭石に下駄直すまで時は移りぬ。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この暑いのに振袖で、帯を猫じゃらしに結び、唐人髷とうじんまげきん前差まえさしをピラピラさせたお美夜ちゃん、かあいい顔を真っ赤にさせて、いっぱいの汗だ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この鐚というおっちょこちょいは、実の名は金助であるが、貴様のような奴にきんは過ぎる、鐚で結構と言われて、その名に納まっている人間である。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
縦令たとへ旦那様だんなさま馴染なじみの女のおびに、百きんなげうたるゝともわたしおびに百五十きんをはずみたまはゞ、差引さしひき何のいとふ所もなき訳也わけなり
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
授業料と云う名をつくって、生徒一人から毎月きん二分にぶずつ取立て、その生徒には塾中の先進生が教えることにしました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かのそう朝が絶対平和主義を持して北方の強たるきん及びげんに苦しめられ、胡澹庵こたんあんをして慷慨こうがいのあまり、秦檜しんかい王倫おうりん斬るべしと絶叫せしめた上奏文を見ても
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
直接社長宛に、礼状に添へて、ちやんと、きんいくらいくらと書きますから、万一、額の相違でもあると、君たちに恥をかゝせることになると思つて……。
椎茸と雄弁 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それ以来幕末まで、日本人とは婚姻を結ばずにずっと此処ここに住んでいたのでありますから、今もちんとかきんとかさいとかいう名を用いる者が少くありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「うちのきんちやんが云つたけれどね、何でも二十五円とかですつて、だから片ツ方なら十二三円だらうつて?」
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
支那の何とかいう薬は人間の脳味噌から造ったものだと云うし、近頃評判のきんの薬というのも支那から来るもので、これは人間の心臓から取ったのだそうだ。
素晴しい記念品 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
幸子が降りて行くと、もう奥畑は玄関の土間に立って、きんの金具の光っている秦皮とねりこのステッキをいていた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)