かど)” の例文
そして、あたりはしずかであって、ただ、とおまちかどがる荷車にぐるまのわだちのおとが、ゆめのようにながれてこえてくるばかりであります。
花と人の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
右へ曲るかどにバーがあって、入口に立てた衝立ついたての横から浅黄あさぎの洋服の胴体が一つ見えていたが、中はひっそりとして声はしなかった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そうした嘘つきの、不信用の半九郎が、今更何を言っても相手にはならぬというように、源三郎は眼にかどを立ててののしるように答えた。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
老時計商は先刻よろこばしい笑顔をして、その楽曲のことを言った。「実にいい。荒っぽいところがない。どのかども丸くなってる……。」
彼は念のためこのかどに立って、二三台の電車を待ち合わせた。すると最初には青山というのが来た。次には九段新宿というのが来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次の横町のかどには、うすぐらい灯明がひとつ、聖母のお像のまえにさがっていましたが、そのあかりはまるでないのも同様でした。
いや、なにまをうちに、ハヤこれはさゝゆきいてさふらふが、三時さんじすぎにてみせはしまひ、交番かうばんかどについてまがる。このながれひとつどねぎあらへり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
きん黝朱うるみの羽根の色をしたとびの子が、ちょうどこのむかいのかど棒杭ぼうぐいとまっていたのをた七、八年前のことをおもい出したのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
こがらしの吹く町のかどには、青銅からかねのお前にまたがつた、やはり青銅からかねの宮殿下が、寒むさうな往来わうらい老若男女らうにやくなんによを、揚々と見おろして御出おいでになる。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人が附いてゐても、何かのかどに撲つつかりでもしさうな、上から何か落ちかゝつて來でもするやうな、不安な心持が離れなかつた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
一日の朝、おほ雪を冒して、義雄は、陸軍演習參觀から歸つて來た北海メールの社長、のぼり敏郎を大通り一丁目のかどなる本宅に訪問した。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
事務長テイイは、ともかくもへんじだけをして椅子からとびあがったが、よろよろとよろけて足を机のかどでうって、ひっくりかえった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
最初此家に来た頃は、ほんの物置のやうな所ではあるが、かどの一間だけ自分の居間にして置いた。併しそれも後に娘に遣つてしまつた。
源水横町の提燈やのまえに焼鳥の露店も見出せなければ、大風呂横町の、宿屋のかどの空にそそり立った梯子ばしごも見出せなくなった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「何んやこんなもん、こんなとこへ持つて來るんやない。彼方あつちへ置いといで、阿呆あほんだら。」とめづらしくお駒を叱つて、眼にかどてた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そのうちに、プティー・バンキエ街のかどで出会った先刻の婆さんが、叫び声を立て大層な身振りをして、後ろから駆けつけてきた。
そう旦那も自身、中廊下のかどまで、世話を焼き焼きついて来たが、そこから奥は召使いたちの手にまかせ、あとはただ見送っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右側には、階段扇形に後方なるかどを充し、一つの望楼にと通じている。そこから帷幔たれまくの掛った扉を通じて家の裡に入るようになっている。
豊吉は物に襲われたように四辺あたりをきょろきょろと見まわして、急いで煉塀ねりべいかどを曲がった。四辺あたりには人らしき者の影も見えない。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
なれども仔馬はぐんぐんれて行かれまする。向うのかどまがろうとして、仔馬はいそいで後肢あとあしを一方あげて、はらはえたたきました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
上の棚の裏側のさんで手の甲を擦る様になる、それが桟のかどだったりすると、そこに溜った煤のために、こんな跡がつく訳なんです
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けれど路のかどで郁治と別れると、急に、ここにいるのがたまらなくいやになって、足元から鳥の立つように母親を驚かして帰途についた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
さばけた調子なのですが、どこかかどがあるようなんです。骨の堅そうな額と口髭とが、そんな感じを与えるのかも知れません。
大きな、笑うと目元に小皺こじわの寄る、豊頬ふっくりした如何いかにも愛嬌のある円顔で、なりも大柄だったが、何処か円味が有り、心も其通りかどが無かった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして頭の方のかどを〓(こんな形に)した方が、そして今よりすこし幅をせまくした方が(普通に)便利ではないのでしょうか、たけの点で。
昔の煉瓦建れんがだてをそのまま改造したと思われる漆喰しっくい塗りの頑丈がんじょうな、かど地面の一構えに来て、煌々こうこうと明るい入り口の前に車夫が梶棒かじぼうを降ろすと
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
堀木は、堀木の家の品物なら、座蒲団の糸一本でも惜しいらしく、恥じる色も無く、それこそ、眼にかどを立てて、自分をとがめるのでした。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
坂の下へいったり、邸の裏へ廻ったり、ずっとさきのかどまで行ったりして、只今ただいまは低く、只今のはハッキリと聴えたと、幾返りか報告した。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
種彦は依然として両手を懐中ふところにこの騒ぎも繁華なお江戸ならでは見られぬものといわぬばかり街のかどに立止って眺めていたが
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かどのパレエの大時鐘おほどけい、七時を打つた——みやこの上に、金無垢きんむく湖水こすゐと見える西のそら、雲かさなつてどことなく、らいのけしきの東の空。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
彼は近所のあらゆる曲がりかどや芝地や、橋のたもとや、大樹のこずえやに一つずつきわめて格好な妖怪ようかいを創造して配置した。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
二人は幾つかのかどを曲った挙句あげく、十字路から一軒置いて——この一軒も人が住んでるんだか住んでいないんだか分らない家——の隣へ入った。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
がんちゃんとやわらげてみたり、がん公とかどばったり、またがんりきと本格に呼びかけたりするので、かなりめまぐろしいが
煙草屋たばこやかどったまま、つめうわさをしていたまつろうは、あわてて八五ろうくばせをすると、暖簾のれんのかげにいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
バーゲルスガーデかどの時計店ナアゲルで、伯爵夫人イェルヴァが、自分で身分柄にも似ず、縦十インチ幅八インチくらいの真鍮しんちゅうの安物の歌いオルゴール時計を買った。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
弱々しいことや、神経質なことや、たくらみの多いことや、かどのあることや、冷いことや、それらは皆健康な状態にあるものとはいえません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
自分達は澤木せうさんとその友人の西村さんとにれられて度度たび/″\ポツダム・プラアツのかどにあるロステイと云ふ珈琲店カツフエへ行つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼等かれら年齡ねんれいおうじて三にんにんたがひきながら垣根かきねそばつじかどつててはおもしたとき其處そこ此處ここらとうつつてあるくのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
に直行も気味好からぬ声とは思へり。小鍋立こなべだてせる火鉢ひばちかど猪口ちよくき、あかして来よとをんなに命じて、玄関に出でけるが、づ戸の内より
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まるで大きなうつろの口のように暗く開いて居るので、其処から引返して、がらんとしたかどの茶亭の白けた灯を右に見て、高台寺の方へ歩いて行く。
六日月 (新字新仮名) / 岩本素白(著)
若旦那樣も私とはそりが合はず、殊に御新造樣はやかましい方で、私とお孃さんが、親しく口をきいても目にかどを立てます。
冗談にしなければかどが立つのよ、栄さんだから云うけれど、あたしさぶちゃんはどうしても好きになれない、お客としてならよろこんでお相手を
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
口にこそ出さなかったが、正香はそれを目に言わせて、その足で堺町通りのかどから丸太町を連れと一緒に歩いて行った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
溝板みぞいたを鳴らして、この作爺さくじいさんの家へ駈け込んで来たのは、おもてのかどに住んでいるこのかいわいの口きき役、例の石屋の金さん、石金さんだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
證據にと目にかどたつれば惣内ひざ立直たてなほし名主役の惣内を盜人などとは言語同斷ごんごどうだんなり九助品に依りすぢに因ては了簡れうけん成難なりがたしと聞皆々みな/\四方より九助を取まきたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かどの医者を呼べ。松原だ、誰かを走らせろ。津幡の方は、行先がわかつてたら、呼び返して貰へ。あいつでなけれや、話はわからん。(女中、去る)
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
一日たったやつは、せていて、かどばったひざをがくりと突き、すぐ、元気いっぱいにち上がる。生れたての赤ん坊はねばねばだ。めてないのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
会釈をするときに頬に微笑を湛えて脣のかどのところに一寸たてしわを寄せてもの言うのはモナ・リザを連想せしめた。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
まれていでくるわかどむかうふより番頭新造ばんとうしんぞのおつまちてはなしながらるをれば、まがひも大黒屋だいこくや美登利みどりなれどもまこと頓馬とんまひつるごと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かど麺麭パン屋は面白いほどよく賣れるわね。千圓も資本があればあのくらゐな店は出せるんですつて。私もあゝいふ商賣を初めて見たいと思ふんですがね。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)