しか)” の例文
戯文戯墨の毒弊は世俗の衆盲を顛堕せしのみかは、作者自身等をも顛堕し去んぬ。しかれども其罪は之を独り作者に帰すべきにあらず。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
(七)舜禹しゆんうあひだ(八)岳牧がくぼくみなすすむ。すなはこれ(九)くらゐこころみ、しよくつかさどらしむることすうねん(一〇)功用こうようすでおこり、しかのちまつりごとさづく。
しかりといえども、本校の恩人大隈公は余を許してその末に加わらしめ、校長・議員・幹事・講師諸君もまたはなはだ余を擯斥ひんせきせざるものの如し。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
自分も時々こういう傾向を持っている事を自覚して慚愧ざんきに堪えない事がある。思うにこれは数百年来の境遇がしからしめたのであろう。
沖縄人の最大欠点 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
ファルス精神のしからしめる所であろうと善意に解釈下されば、拙者は感激のあまり動悸どうきが止まって卒倒するかも知れないのですが——
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかんな卑近な珍本は買っても買わなくてもいいが、どうかすると、河岸の箱にも、途方もない稀覯きこう書が紛れ込んでいる事がある。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
しかし甲府へ来て勘定して見ると、金峰山に登れば、帰郷するのに如何しても二日は余分にかかることになる、これは財布が許さない。
金峰山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しかるに今よりおよそ三百七十年前、初めて葡萄牙ポルトガル及び西班牙スペインと交通するに至って、欧州文明が多少輸入されることとなったのである。
その史料もまたおおむね追憶によって成ったものであり、しからざるものも事態の本質がさながらにそこに表現せられているとは限らない。
歴史の矛盾性 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
実際多くの場合にこの期待は吾人を欺かず。しかれども予報という事に聯関して重大なる問題はそれが「常にしかるか」という事なり。
自然現象の予報 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかもこの教えは、世間道徳の門においても常に喋々ちょうちょうして人心に浸潤したるものなれば、これを一般の国教というも妨げあることなし。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし男達が全く彼女からすっかり離れてしまっても彼女は淋しくて堪えられまい。彼女は男達を少し離れた彼女の傍に置きたかった。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しか崖丈がけだけ大丈夫だいぢやうぶです。どんなことがあつたつてえつこはねえんだからと、あたか自分じぶんのものを辯護べんごでもするやうりきんでかへつてつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかるにイタズラ小僧の茶目の二葉亭は高谷塾に入塾すると不思議ににわかに打って変った謹直家となって真面目まじめに勉強するようになった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
こうして一休みしてから、旅館の給仕の求めるままに、しかるべく警察へ届けるため、一枚の紙きれに官等や姓名などを書いて渡した。
予はえらく、偶然人の秘密を見るはし。しかれども秘密を行う者をして、人目を憚るふるまいを、見られたりと心着かしめんは妙ならず。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるに曾孫鷲津毅堂の言うところについて見れば、幽林の藩校を去ったのはその督学細井平洲ほそいへいしゅうと学術を論じて合わなかったがためで
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「つまらないことを云つてゐる。しかしそれなら君は何故結婚しないんだ。君の云ふやうだととつくに結婚してゐて好い筈ぢやないか。」
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
しかこれきたはなしとか、交際かうさいとかとふものとはまたべつで、あま適切てきせつれいではりませんが、たとへば書物しよもつはノタで、談話だんわ唱歌しやうかでせう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかる処母が私の眉間の疵を見まして、日頃其方そちの身体は母の身体同様に思えと、二の腕に母という字を入墨いれずみして、あれ程戒めたのに
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しからばその竜宮という新語の採択以前、どういう名をもって海中の世界を呼んでいたろうか。この問題に答えるのはそう困難でない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかるには、特殊の偏光装置へんこうそうちを使って、これを着色して認めることに成功した。その装置については、別項の論文に詳解しておいた。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
るに見兼みかねてわたくし産土うぶすな神様かみさまに、氏子うじこ一人ひとりんな事情ことになってりますから、うぞしかるべく……と、おねがいしてやりました。
しかもこの小山ほどといふのは、誇張でない、ぎつしりと隙間すきまのないまでに積まれてゐるので、自分は来る度毎たびごとに驚きおどろいたものである。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
我は聖光みひかりいと多く受くる天にありて諸〻の物を見たりき、されど彼處かしこれてくだる者そを語るすべを知らずまたしかするをえざるなり 四—六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しかるにそういう噂が立って約一ヶ月経った時に、小酒井さんが長逝されたのである。変だな——と、私は今も何んだか変に思っている。
前兆? (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
果してしからばこの無題の小説は「縷紅新草」以前のものと見るを至当とすべし。原稿はやや古びたる半紙に筆と墨をもって書かれたり。
遺稿:01 「遺稿」附記 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
しかし、伸子にして見ると、このどうにもならない窮境を、どうにかして切抜けたいと、そこに一縷いちるの望みを抱くのにも無理はなかった。
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
しかしまさか母死すなんて事が冗談にえるもんじゃない、ことると何か変事でも起ったのかも知れない、——かく行ってみよう」
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これ勝伯の当時においてもっとも憂慮ゆうりょしたる点にして、吾人はこれを当時の記録きろくちょうしてじつにその憂慮のしかるべき道理どうりを見るなり云々うんぬん
今村の諸君弁護の労を快諾せられぬ、しかれ共我等同志が主義主張の故を以て法廷に立つこと、今後必ずしもまれなりと云ふべからず
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
四十一ねんぐわつ二十一にち午前ごぜんごろ水谷氏みづたにしとは、大森おほもり兒島邸こじまてい訪問ほうもんした。しかるにおうは、熱海あたみはうつてられて、不在ふざん
しかるに今日こんにちぱんにこの轉倒てんたふ逆列ぎやくれつもちゐてあやしまぬのは、畢竟ひつきやう歐米文明おうべいぶんめい渡來とらいさい何事なにごと歐米おうべい風習ふうしう模倣もほうすることを理想りさうとした時代じだい
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
即ち一日に五十六銭の利あり。しかれども瓦斯の使用は軽便と清潔と人の手数とを省く点において費用の減少よりもなおおおいなる利益あり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
右は大家の事をいふ、小家しょうかの貧しきは掘夫をやとふべきもついえあれば男女をいはず一家雪をほる。わが里にかぎらず雪ふかき処は皆しかなり。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
我らの衷心ちゅうしんしか囁くのだ。しかしながらその愉快は必ずや我らが汗もて血もて涙をもてあがなわねばならぬ。収穫は短く、準備は長い。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
共に結構であり、両者はしかく両立すべからざる性質のものでなくて、むしろ双方共に行われた方が現在の社会において婦人の地位を
特務曹長「しかるに私共はいまだ不幸にしてその機会を得ず充分じゅうぶん適格に閣下の勲章を拝見するの光栄を所有しなかったのであります。」
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかのみならず、かの輩は吾邦人のうちなる多人數の作る如き罪をば作らざるやうにおもはる。母上の問はおほよそ此の如くなりき。
しかるに南蛮宗は一切の施物せもつを受けず、かえつてこれほどこして下民げみん……いや人民の甘心を買ひ、わが一党の邪魔をすることもっとも奇怪なり。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
しかしすぐそれはガラスの外へ、アルプスの氷山のようにモリモリとむくれ上ってくる波に隠されてしまう。寒々とした深い谷が出来る。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
しかし今はまだ戦闘の発端です。三年を出でずして、それは十字架上の敗死となって、しかり敗北の勝利となって終わったのであります。
しか今更いまさらなんとかとか長文句ながもんく手紙てがみけないものだから、『承諾しようだくい』といた電報でんぱうやう葉書はがきしたんだ、さうだ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
みぎうち説明せつめいりやくしてもよいものがある。しかしながら、一應いさおうはざつとした註釋ちゆうしやくはへることにする。以下いかこううてすゝんでく。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
去年こぞ英吉利人一族を率ゐて国に帰りし後は、しかるべき家に奉公せばやとおもひしが、身元からねば、ところの貴族などには使はれず。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
世にも人にも知られたるしかるべき人の娘を嫁子よめごにもなし、其方そちが出世をも心安うせんと、日頃より心を用ゆる父を其方は何と見つるぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
しかり。そこには一の明白な相違がある。即ち主観主義の芸術では、観照が観照として独立せず、いつも主観の感情と結びついてる。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
子澄が曰く、しからず、燕はあらかじめ備うること久しければ、にわかに図り難し。よろしく先ずしゅうを取り、燕の手足しゅそくり、しこうして後燕図るべしと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるも我國わがくに財源ざいげんにはかぎりあり、兵船へいせん増加ぞうかにも限度げんどあり、くにおもふの日夜にちや此事このこと憂慮ゆうりよし、えず此點このてんむかつてさくこうじてる。
なう、さうだらう、しかしこれは理窟りくつで、お前も不服かも知れん。不服と思ふから私も頼むのだ。お前にたのみが有ると言うたのはこの事だ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)