殿との)” の例文
スッと、内からかご塗戸ぬりどをあけて、半身乗り出すように姿を見せた人物を仰ぐと、青月代あおさかやきりんとした殿とのぶり、二十はたち前後と思われます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相手に種々と相談さうだんに及びけるに兩人もこれまさしく殿とのの御考への通り伴建部と申し合せお島の手引にうたがひなしとの事ゆゑ夫れよりお島を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「どうやら時節がやって来た」と半兵衛が云った、「時日はまだはっきりしないが、おそくとも殿とのが出府されるまえに定るだろう」
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ある殿との領分巡回りょうぶんめぐりの途中、菊の咲いた百姓家に床几しょうぎを据えると、背戸畑せどばたけの梅の枝に、おおきな瓢箪がつるしてある。梅見うめみと言う時節でない。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ロミオ 御坊ごばうか、消息たよりなんとぢゃ? 殿との宣告いひわたしなんとあったぞ? まだらぬ何樣どのやう不幸ふしあはせが、わし知合しりあひにならうといふのぢゃ?
しょうは、お世辞せじのないかわりに、まことにしんせつでありました。殿とのさまはどんなにそれをこころからおよろこびなされたかしれません。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
殿との、功は拙者せっしゃ一人ひとりのものではありませぬ。こ、この朝月あさづきも働きました。このことを、戦功帳に書いていただくことはあいなりませぬか」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
桜町さくらまち殿との最早もはや寝処しんじより給ひしころか。さらずは燈火ともしびのもとに書物をやひらき給ふ。らずは机の上に紙をべて、静かに筆をや動かし給ふ。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そのかたもね、おかくれになった殿とのさまぎつねみたように、いろいような青いようなみごとなしっぽが、九本あること?」
くやしまぎれに一寸法師いっすんぼうしは、そっとおひめさまが昼寝ひるねをしておいでになるすきをうかがって、自分じぶん殿とのさまからいただいたお菓子かしのこらずべてしまって
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もともとこれは「殿とのさまの難題なんだい」という別の話のなかにあったものを、借りてきてここに使っていたので、つまりは外国から持ってきた話の種では
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は花嫁のそばに立っていたが、どう見ても『朝の太陽のごと祝いの殿とのに入る』詩篇の新郎にいむこのようではなかった。
……けど、他人ひとに言はせると、——あれはもう十七年にもなるかいや——筑紫で伐たれなさつた前太宰少弐ぜんだざいのせうに—藤原広嗣—の殿との生写しやううつしぢやとも言ふがいよ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
殿との様はこんどは、手のひらに何やら字を書きました。そしてその手のひらをかたくにぎって、言いました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
弓形をなした橋を渡ると、そこにまた一廓のご殿てんがあったが、それぞ殿とののご愛妾鳰鳥におどりの方の住居すまいであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むかひかたには大いなる殿とのの窓のほとりにゑがかれしミコル、蔑視さげすみ悲しむ女の如くこれをながめぬ 六七—六九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ここに殿とのくみ一〇より出で向へたまふ時に、伊耶那岐の命語らひて詔りたまひしく、「うつくしき汝妹なにもの命、吾と汝と作れる國、いまだ作りへずあれば、還りまさね」
だれでもよいから、ひとり、檀家だんかたいらすけ殿とののお邸へまいって、つぎのようにはなしなさい。
馬車の中には、何百年も前に、このあたりをおさめていた、わるい殿とのさまが乗っていました。
さればよ殿との聞き給へ。わらわが名は阿駒おこまと呼びて、この天井に棲む鼠にてはべり。またこの猫は烏円うばたまとて、このあたりに棲む無頼猫どらねこなるが。かねてより妾に懸想けそうし、道ならぬたわぶれなせど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
いねけばかが今宵こよひもか殿との稚子わくごりてなげかむ 〔巻十四・三四五九〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
また三宅もそれがし殿とののふぐり玉にかかわりあい、それぞれの見識にしたがって勉強しているわけであったが、皆がてんでにおなじような実検をしていてもかいないことだから、各々の分担をきめ
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さっそくこの義を殿とのの御前にいて御披露ごひろう申し上げよう、と言うと、金内は顔を赤らめ、いやいや、それほどの事でも、と言いかけるのにかぶせて、そうではない、古来ためし無き大手柄
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
維新前に、どこかの殿様が行列を正して西丸にしのまる近所を通って登城とじょうするさい、外国人が乗馬でその行列のはな乗切のっきった。殿様はもとよりその従者も一方ひとかたならず憤慨ふんがいし、殿とのはただちに通訳を
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
殿とのこそは御一門の柱石ちゆうせき、天下萬民の望みの集まる所、吾れ人諸共もろとも御運ごうんの程の久しかれと祈らぬ者はあらざるに、何事にて御在おはするぞ、聊かの御不例に忌まはしき御身の後を仰せ置かるゝとは。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
しづかさは殿とののお倉の昼鼠ひるねずみちよろりとのぼりまたもぬかに
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わが舞へる扇の風に殿とのの火をもゝの牡丹のゆらぎぬと見る
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
大御油おほみあぶらひひなの殿とのにまゐらするわが前髪に桃の花ちる
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と話をしてるのを殿との聴付きゝつけて殿
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
飾りゑがけるこの殿との
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
殿との……とは?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
カピ長 月曜日げつえうび! はゝア! かうッと、水曜日すゐえうびはちときふぢゃ。木曜日もくえうびにせう。……むすめに、木曜日もくえうびにはこの殿との祝言しふげんさすると被言おしゃれ。
殿とのよツくきこし、呵々から/\わらはせたまひ、たれぢやと心得こゝろえる。コリヤ道人だうじんなんぢ天眼鏡てんがんきやうたがはずとも、草木くさきなびかすわれなるぞよ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
世間せけんには、このまち有名ゆうめい陶器店とうきてんが、今度こんど殿とのさまのおちゃわんを、ねんねんれてつくったという評判ひょうばんこったのであります。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おお! 殿とのにもご用意あれや、早くも伊那丸いなまる駕籠かごを目がけて、総勢そうぜいの力をあつめてくるような敵の奇変きへんと見えまするぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ははあ、こりゃ、明兵みんぺい夜討ようちをかけるのを、こいつ、さとったのだな、りこうなやつだ。よし、殿とのに申しあげよう」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
殿とのにくしみにふべきほどの果敢はかなきうんちて此世このようまれたるなれば、ゆるしたま不貞ふてい女子をなごはからはせたまふな、殿との
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
殿とのさまはびっくりして、おひめさまのお部屋へやへ行ってごらんになりますと、おひめさまはくちのはたにいっぱいお菓子かしこなをつけて、ねむっておいでになりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ちょうどそのころ、その国の殿との様のお屋敷やしきにつたわっている家宝かほうの名刀が、だれかのためにぬすまれました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
はらひ讃岐守殿とほられける時に殿との乘輿のりもの來掛る時先刻せんこくのこりし武士手をつき榊原遠江守百姓愁訴しうそ願ひ奉つると高聲に披露ひろうなすにぞおせんは足許も定らぬまでによろこび漸々訴状そじやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そち殿とのに承らうにと、国遠し。まづ姑らく、郎女様のお心による外はないものと思ひまする。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
そして、ここにもりょうにさそうさっきの夢は、もうとんで来ていましたが、あまりはやくうごきすぎて、ゲルダはえらい殿とのさまや貴婦人きふじん方を、こんどはみることができませんでした。
「お子さんをつれて、でていらっしゃいませ。殿とのさまがおいでになりましたよ。」
其の弟子八五成光なりみつなるもの、興義が八六神妙しんめうをつたへて八七時に名あり。八八閑院の殿との八九障子しやうじにはとりゑがきしに、生けるとりこの絵を見てたるよしを、九〇古き物がたりにせたり。
ただし我邦わがくにでは印度いんどのように、敵の国がこちらの智恵をためしにくるなどということはないので、それをごくかんたんに殿とのさまの懸賞けんしょうで、これができた者には一万両の御褒美ごほうびなどというように
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
十二万石殿との若子わくごはさもあらばあれここに六騎ろつきの町の子我は
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
これは翡翠ひすゐ殿とのづくり。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
飾りゑがけるこの殿との
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
のこったものは殿とののご寝所しんじょのほうをまもれ、もう木戸きど多門たもんかためにはじゅうぶん人数がそろったから、よも、やぶれをとるおそれはあるまい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殿とのさまは、だまってうなずかれました。そして、そのから、殿とのさまの食膳しょくぜんには、そのちゃわんがそなえられたのであります。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)