しば)” の例文
貧弱な船に刈ったしばを積んで川のあちらこちらを行く者もあった。だれも世を渡る仕事の楽でなさが水の上にさえ見えて哀れである。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まず朱然しゅぜんは、かやしばの類を船手に積み、江上に出て風を待て、おそらくは明日のうまの刻を過ぎる頃から東南の風が波浪を捲くだろう。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この版画の油絵はたしかに一つの天啓、未知の世界から使者として一人の田舎少年いなかしょうねんしばの戸ぼそにおとずれたようなものであったらしい。
青衣童女像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
竹藪の近くに、木の葉やしばを積み上げて、それを燃やし、その火の中に卵を一つずつ投げ入れた。卵は、なかなか燃えなかった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
白石文集、ことに「折焚おりたしば」からの綿密な書きぬきを対照しながら、清逸はほとんど寒さも忘れはてて筆を走らせた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「それから、しばまるけるんだつて、それから、根つ子掘りだつて、みんな、まるで爺さん一人の受持ちみてえにして頼んでゐたもんでねえか。」
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
遠くで、しば小屋の中にうとうとしてる収穫の番人らが、眼覚めざめてることを盗人に知らせんがため、時々小銃を打っていた。
ひやうに曰此護摩刀ごまたうのことは柴刀さいたうとも申よしこれは聖護院三寶院の宮樣みやさま山入やまいりせつ諸國の修驗しゆけん先供さきどもの節しば切拂きりはらひ護摩ごま場所ばしよこしらへる故に是を柴刀さいたうとも云なり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
既に、草刈り、しば刈りの女なら知らぬこと、髪、化粧けわいし、色香いろかかたちづくった町の女が、御堂みどう、拝殿とも言わず、このきざはし端近はしぢかく、小春こはる日南ひなたでもある事か。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その字片を〓の形に積んだしばの下に置いて、それに火を点じ、白夜珠吠陀シュクラ・ヤジュル・ヴェーダの呪文オムギァナウエイソワを唱えると
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
山へしばを刈りにもゆきました。町は乞食こじきのやうに托鉢たくはつにもゆきました。座禅もしました。米も搗きました。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
食物はどうしたかと問うと、にぎめし餅菓子もちがしなどたべた。まだたもとに残っているというので、出させて見るにみなしばの葉であった。今から九十年ほど前の事である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
婆さんはそれを見ると機嫌きげんをなほして、いつものとほりしばを刈つて、たばねてやつてから言ひました。
豆小僧の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
猟師れふしこれを見れば雪を掘て穴をあらはし、木のえだしばのるゐを穴にさし入れば熊これをかきとりて穴に入るゝ、かくする事しば/\なれば穴つまりて熊穴の口にいづる時槍にかくる。
が、この時はもう、先刻宇古木兵馬が、離屋の八方に積んで置いたわらしばや、存分な燃え草に放つた火が、四方の窓、壁を燃え拔いて、二人の身邊にメラメラと迫るのです。
ふびんや少女おとめの、あばら屋といえば天井もかるべく、屋根裏はしばく煙りに塗られてあやしげに黒く光り、火口ほくちの如き煤は高山こうざんにかゝれる猿尾枷さるおがせのようにさがりたる下に
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
がらがらと音をさせて、しばを積んだ車も通った。その音は寂しい林の中に響き渡った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かねて買ってあったしばを、この家のめぐりへはこび出してくれ、わしも手伝うから」
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
藤原から池上まで、おひろいでお出でになりました。小高いしばの一むらある中から、御様子をうかごうて帰ろうとなされました。其時ちらりと、かのお人の、最期に近いお目に止りました。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
しばにでも火をつけたように、パチパチと何か燃え上がるような音がしました。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そこは冬のけしきで、野にはりのこった枯葉かれはの上に、しもがきらきら光っていました。山から谷にかけて、雪がまっ白に降りうずんだなかから、しばをたくけむりがほそぼそとあがっていました。
浦島太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それから一月ほど御側おそばにいたのち、御名残り惜しい思いをしながら、もう一度都へ帰って来ました。「見せばやなわれを思わむ友もがないそのとまやのしばいおりを」——これが御形見おかたみに頂いた歌です。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
だからその石の上へ乗るときはしばの浮橋を渡ってゆくんですと——ほらお池のふちなどによく水草が生えているだろう、ああいう柴草がそこのお池の岸に、いっぱいに水の上までって繁っていて
不思議な国の話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
のがれ来て身をおくやまのしばの戸に月と心をあわせてぞすむ」と云う北山宮の御歌は、まさかあそこでおみになったとは考えられない。要するに三の公は史実よりも伝説の地ではないであろうか。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
不二ヶ嶺はこごし裾廻の群山むらやましば山くらしいまだ夜明けず
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お絹はしばを折りくべて、それを火箸ひばしで掻き立てながら
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しばの戸や蕎麦そばぬすまれて歌をよむ 邦
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
たきぎしばなど積みあげてあるそのかげ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しばをおろしな。」
雪に埋れた話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
つみつくりなれわれゆゑにひと二人ふたりまでおなおもひにくるしむともいざやしらがき若葉わかばつゆかぜにゆふぐれの散歩さんぽがてら梨本なしもとむすめ病氣びやうきにて別莊べつそう出養生でやうじやうとや見舞みまひてやらんとてしばおとづれしにお八重やへはじめて對面たひめんしたりはゞはんの千言百言ちこともゝことうさもつらさもむねみておんともはず義理ぎりとも
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
文覚は、炉へしばを折りくべていた。赤い焔が下からその顔へす。この上人の素性すじょうに就いてはかねて種々いろいろ聞き及んでいる事が多い。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川に流れているしばを拾い、それを削ってくしを作り、川からとった雑魚ざこをその串にさして焼いて、一文とか二文とかで売ってもうけたものなんだ。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いま、河鹿かじかながれに、たてがみを振向ふりむけながら、しばんだうま馬士うまかたとともに、ぼつとかすんでえたとおもふと、のうしろからひと提灯ちやうちん。……鄙唄ひなうたを、いゝこゑで——
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大松明おおたいまつしばに用いるはんの木が乏しくなったので、今はハゲシバリを代用していると京都民俗志にはあるから、名は一つでも式は村毎にややちがっていると見える。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
和尚さんはしばの中から松毬まつかさを拾ひ出して、それを炉にくべた。二人は松毬が燃えるのを見てゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
近所で時々煙の立つのを、これが海人あまの塩を焼く煙なのであろうと源氏は長い間思っていたが、それは山荘の後ろの山でしばべている煙であった。これを聞いた時の作
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「寮の裏口からいきなり植木屋の庭へ入れるんだ。しばかなめで一パイだから、ここまで駆け抜けて来ても、庭や垜のあたりから見えねえ、曲者はこの道を通って来てお駒を口説いたのさ」
けれども豆和尚さんは、ちつとも気がつかないでゐましたが、或日あるひふと納屋を見ると、しばで一ぱいになつてゐますから、大変驚いて豆小僧に、これは一たいどうしたわけだとききました。
豆小僧の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「見せばやな我を思わぬ友もがな磯のとまやのしばいおりを。」同上
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しばはまたおとしてぜぬ、えあがるほのほのわかさ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かしかるべし御覽ごらんぜずやとわりなくすゝめてしばめづらしくともなでぬひとこゝろのうやむやはらずやしげ木立こだちすゞしくそでかぜむねにしゝうえはたす小田をだ早苗さなへ青々あほ/\として處々ところ/″\かわずこゑさま/″\なるれもうたかや可笑をかしとてホヽしうれもうれしく彼方かしこかやぶきこゝ垣根かきねにはうちしきやうなりはな
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
河尻肥前守が、叱咤しったした。山門の下にはしばまき、焼き草が積みあげられた。織田九郎次は、馬をび下りて、ためらう兵を叱った。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくる朝は未明に起きしば刈りなわない草鞋わらじを作り両親の手助けをして、あっぱれ孝子のほまれを得て、時頼公に召出され、めでたく家運隆昌に向ったという、これは後の話。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
またわずかずつのしばまぐさまでささげていたが、親が教えるのは水汲みがしゅであったとみえて、八つ九つの小娘こむすめまでが、年に似合ったちいさな水桶みずおけをこしらえてもらって
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこで良寛さんは手紙を書いて、ちやうどしばを刈つてふもとへおりてゆく百姓に持つていつて貰つた。手紙は阿部造酒右衛門さんの宅に届いた。造酒右衛門さんが開いて見ると
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
邪慳じゃけんに払い退けて、きっとにらんで見せると、そのままがっくりとこうべを垂れた、すべての光景は行燈あんどうの火もかすかまぼろしのように見えたが、炉にくべたしばがひらひらと炎先ほさきを立てたので
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「寮の裏口からいきなり植木屋の庭へはいれるんだ。しばかなめで一パイだから、此處まで駈け拔けて來ても、庭やあづちのあたりから見えねえ、曲者は此道を通つて來てお駒を口説いたのさ」
あるじはしば折りくすべ、自在鍵じざいかぎひくくすべらし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
庭づたいに、築山の裏を這って、じめじめした北の隅までゆくと、庭番の者が、日頃に枯れ枝を払ってたばねては積んでおいたしばの囲いがあった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また川を渡るのに初めはびちゃびちゃ水の中を歩いているが、それでは不便であるから橋を架ける。すなわちその橋の側であるゆえ新しい地名は橋本である、しば橋である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)