ふだ)” の例文
「おっと、御念ごねんにはおよばねえ。おかみゆるしておくんなさりゃァ、棒鼻ぼうはなへ、笠森かさもりおせん御用駕籠ごようかごとでも、ふだててきてえくらいだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
さよは、いぶかしくおもって、そのまちにやってきました。すると、そのいえかたまって、店頭てんとうふだがはってありました。
青い時計台 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「仕方がなくないよ。悪口をいうやつを、みんな打ちらして、こっちから、文句のあるやつ出て来いと、ふだを立ててやりたいや」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それら、花にもうてなにも、丸柱まるばしらは言うまでもない。狐格子きつねごうし唐戸からどけたうつばりみまわすものの此処ここ彼処かしこ巡拝じゅんぱいふだの貼りつけてないのは殆どない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌日よくじつ別當べつたう好意かういで、玄竹げんちく藥箱くすりばこあふひもんいた兩掛りやうがけにをさめ、『多田院御用ただのゐんごよう』のふだを、兩掛りやうがけけのまへはうふたててもらつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
へいへい。「貴様きさまなん汁粉しるこたべるんだ。「えゝ何所どこのお汁粉屋しるこやでもみなコウふだがピラ/\さがつてますが、エヘヽあれがございませぬやうで。 ...
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
木の葉ではなく板のふだである。それが忽ちに地に積もって、韋の膝を埋めるほどに高くなったので、彼はいよいよ驚き恐れた。
お念仏をとなえるもの、おふだを頂くものさえあったが、母上は出入のもの一同に、振舞酒ふるまいざけの用意をするようにと、こまこま云付けて居られた。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
菅笠をかむり、杖をつき、おふだばさみを頸から前にかけ、リンを鳴らして、南無大師遍照金剛を口ずさみながら霊場から霊場をめぐりあるく。
海賊と遍路 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
僕はひとり散歩してゐるうちに歯医者のふだを出した家を見つけた。が、二三日たつたのち、妻とそこを通つて見ると、そんな家は見えなかつた。
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
前後のお供は、馬の顔をしたのや、牛の顔をした者ばかりで、車の前には、という字の書いた鉄のふだが打ちつけてあった。
「たしかにそうらしゅうございますな」と富塚内蔵允が云った、「二三の人が、一ノ関さまにふだを入れたということは、私も聞いております」
ふだつきのいかさま師で、政治と賭け事がなによりも性に合うと自分で言いふらし、事さえあれば顔役気取りで問題の納め役を買つて出るのだが
この握りめし (新字新仮名) / 岸田国士(著)
そうして大神宮のおふだ売りか、大道易者にでも捕まったように、表面うわべでは尊敬して、内心では大いに軽蔑した表情をする。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大入りの笊の中には一杯で五十人のふだが這入っております。十杯で五百人になる。それがとんとんと明いて行くのです。
時計とけいも、まだ六時前です。電車でんしゃは、黒い割引わりびきふだをぶらさげて、さわやかなベルの音をひびかせながら走っていました。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
一枚のふだをちらと見ては伏せ、また一枚ちらと見ては伏せ、いつか、出し抜けに、さあ出来ましたと札をそろえて眼前にひろげられるような危険
桜桃 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「馬鹿ツ、人間の端くれは判つて居るが、ツイ此間おふだを頂いて、それでも一本立の御用聞になつたばかりぢやないか」
引きかえに番号のついたふだをくれるから、もしその馬が勝てば、札を示して何倍かの金を受取り、負ければ、癇癪を起して札を破いちまえばいい。
この子たちは、『孤児院の子』とばれていた。首の回りに番号のはいったなまりふだをぶら下げていた。ひどいみなりをして、よごれくさっていた。
てられる立禁たちきんふだ馘首かくしゆたいする大衆抗議たいしうこうぎ全市ぜんしゆるがすゼネストのさけび。雪崩なだれをはん×(15)のデモ。
寄贈きぞう、お餅沢山、人の四郎氏、人のかん子氏」と大きなふだが出ました。狐の生徒はよろこんで手をパチパチたたきました。
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのうちにゃあ勝ちもした負けもした、いい時ゃ三百四百もにぎったが半日たあ続かねえでトドのつまりが、残ったものア空財布からさいふの中に富籤とみふだ一枚いちめえだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
青山、上野、ふだつじ、品川と一晩のうちに全然方角をことにして現われおる。そのため、ことのほか警戒がめんどうじゃ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
よっちゃんと呼ばれる風呂屋の由蔵よしぞうが、誰かの背中を流しながらちょっと挨拶した。陽吉は黙って石鹸とながふだおけの上に置いて湯槽の横手へ廻った。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
路のかたわらに小さな門があったと思うと、井泉村役場いずみむらやくばというふだが眼にとまった、清三は車をおりて門にはいった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ありがたい観音様に守られ、経文に守られ、軒々へもおふだを貼りめぐらしてしまったため、その晩、お露の霊は新三郎のところへ入ることができない。
騎士達の住んでゐた街の、いたるところの街角に奇妙な木のふだが建てられたのは、ついこの間のことでありました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「ほほう、銭が降ったと見えるな、近ごろはエエじゃないかで天下におふだが降っている、ここばかり銭が降ったか」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして密輸入者らを火あぶりにし貨幣贋造者がんぞうしゃらを釜揚かまあげにする時代において、カルタふだの上に描かれたそれらの復讐ふくしゅうほど、世に痛むべきものは存しない。
仕方なしに、大きな箱入はこいりのふだ目録を、こゞんで一枚々々調べて行くと、いくらめくつてもあとからあとから新らしい本の名が出てる。仕舞に肩が痛くなつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ、法水の予測が的中したという報知しらせが、私服からもたらされて、はたせるかな地精コボルトふだが、伸子のへやにある格子底机ボールド・ルーベ抽斗ひきだしから発見されたのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
心のなかのどこかにふだを掛けておいたなりではいつまでも気にかかる。それを鍵からはずして見たいのである。
その時は、千住からすぐに高輪たかなわへと取り、ふだつじ大木戸おおきど、番所を経て、東海道へと続くそでうらの岸へ出た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
壮い男の往った方には女の出た待合のがわになった蕎麦屋そばやの塀のかどがあった。月の光はその塀に打った「公園第五区」と書いたふだのまわりを明るく照らしていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たつた一つ、此の人にしてと意外に思はれるのは花合はなあはせで、三百六十五日ふだを手にしない日は無い。その方の仲間が集つて來ると、夜どほし勝負を爭ふ事もある。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
二十年まえに離別りべつした人でこの家の人ではないけれど、現在げんざいお政の母である以上は、まつりは遠慮えんりょしたほうがよかろうと老人ろうじんのさしずで、忌中きちゅうふだを門にはった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
部落の中央ふだの辻に、一軒の酒場が立っていた。その経営者の名を取って、浜路はまじの酒場と呼ばれていた。由来御岳おんたけの山中には、いろいろの人間が入り込んでいた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たびひとや、まちへゆくひとは、しんたのむねのした椿つばきに、賽銭箱さいせんばこのようなものがるされてあるのをました。それにはふだがついていて、こういてありました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
墓地のおくのほうに、木のふだを何枚もおいて、ひとりずつ、そこへいって、札を持ってかえるのです。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのとり框に中框を使つかつて大がいふだかん板ばかりで寫してゐたが、しよ撮影さつえいから寫る寫る、立派りつはに寫る。
「そう云えば、僕もあの娘が連れて来てくれたんだが、俺ンとこと同じようなもンらしい、うり、トマト、茄子なすなえ売りますなんて、木のふだが出てるあそこなんだろう」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
このおふだは四国巡拝を十回以上したものに限って授けられるまことにありがたいお札であるから、これをご病人に飲ましてくれ、といって小さな金色の御符を差し出した。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
六週間以前に、家内と僕とが二人連れで、家具付きのアパートメントをさがしに出て、ある閑静な町をとおると、窓に家具付き貸間というふだが貼ってある家を見つけたのだ。
いものやい着物についてもいつか考え込んでる。だが、ぐ気がかわって眼の前の売地のふだの前に立ちどまって自分のわずかな貯金とくらべて価格を考えても見たりする。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
板目紙をふだの形にたつて、茶色の薬袋紙で裏打ちをした。それを二三枚づゝ、耽念に塩煎餠をあぶるやうに遠火で乾した。それに、若い女が凝つた筆法で筆を揮ふのが常習ならはしだつた。
昔の歌留多 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
お前達の様に、そうザワザワ騒いでいちゃ、何時いつが来たって、果てしがありゃしねえ。俺一人を手離すのが不安心だと云うのなら、お前達の間でふだをしてみちゃ、どうだい。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一の字をりつけられたのは、抗夫長屋ではやっていた、オイチョカブ賭博とばくの、インケツニゾサンタシスンゴケロッポーナキネオイチョカブのうち、このふだを引けば負けと決っているインケツの意味らしかった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
つゝがなくうまいでしといふやうに言問ことゝひの前の人の山をくぐいでて見れば、うれしや、こゝ福岡楼ふくをかろうといふに朝日新聞社員休息所あさひしんぶんしやゐんきうそくじよふだあり、極楽ごくらく御先祖方ごせんぞがた御目おめかゝつたほどよろこびてろうのぼれば
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
村で小作料のことで地主と争つたことのために、彼は「社会主義者」のふだをつけられてゐた。親方は曳き子の仙吉をふ決心をした。その夜、仙吉はやつと遊廓へ行く客を得て走つた。
反逆の呂律 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)