きつ)” の例文
笑ふと八重齒が少し見えて、滅法可愛らしくなるくせに、眞面目な顏をすると、きつとした凄味が拔身のやうに人に迫るたちの女でした。
わたしは、しもねむりをさました劍士けんしのやうに、ちついてきすまして、「大丈夫だいぢやうぶだ。ちかければ、あのおときつとみだれる。」
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「失礼ですが、今日は貴女あなたの運命を決めたいと思つてあがりました。」雑誌記者はかう言つて、きつと時雨女史の顔を見た。
改めて穿鑿せんさくもせられで、やがては、暖簾のれんを分けてきつとしたる後見うしろみは為てくれんと、鰐淵は常におろそかならず彼が身をおもひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しをれし今までの容姿すがた忽ち變り、きつかたちを改め、言葉さへ雄々をゝしく、『冷泉樣には、何の要事あれば夜半よはには來給ひし』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
※等あねら大層たえそなことつたつて、老人としより面倒めんだうたゝへめえ」勘次かんじはぶつ/\と獨語どくごした。おつたのみゝにもかすかにそれがきこえた。おつたはきつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『モールスさんのつたはう金持かねもちのコロボツクルがたので、此所こゝきつ貧乏人びんばうにんたんだらう』などたはむれてところへ、車夫しやふしたがへて二でうこうられた。
『小川さん!』と女はきつと顏をあげた。其顏は眉毛一本動かなかつた。『私の樣なものゝことをう言つて下さるのはそれや有難う御座いますけれど。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「それがなんだ」判事はきつとなつた。拳を握つて机の上を叩いて見た。一つの鈍い音と一しよに不規則に積んであつた机の上の洋書が一冊、すべりおちた。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
きつと見渡し大いに驚き大膳殿品川宿の方に當り火のひかりみゆるがあれを何とか思るゝやと問へば大膳是を見てあれこそは縁日抔えんにちなどの商人の燈火ともしびならんといふに山内くび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
韋駄天ゐだてんちからでもりませいでは。‥‥どんなお早駕籠はやでも四日よつかはかゝりませうで。‥‥』と、玄竹げんちくはもうおもてをあげることが出來できなかつた。但馬守たじまのかみきつかたちたゞして
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
うぞ御聞おきゝあそばしてときつとなつてたゝみとき、はじめて一トしづく幾層いくそきをもらしそめぬ。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彦三郎 (眼をふいて。)いくら名奉行でも、大岡樣でも、このお捌きはきつと間違つて居ります。わたくしの父にかぎりまして、決してそんなことはない筈でござります。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
松島大佐まつしまたいさにぎれる軍刀ぐんたうつかくだくるをもおぼえぬまで、滿足まんぞく熱心ねつしんとのいろをもつて、きつおもて
私と向ひあつてゐた侍はあわたゞしく身を起して、柄頭つかがしらを片手に抑へながら、きつと良秀の方を睨みました。それに驚いて眺めますと、あの男はこの景色に、半ば正気を失つたのでございませう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
如何いかんせんと思ひけるが、きつと案じ出だしたる事あつて、この度射んとしける矢先に、唾を吐き懸けて、また同じ矢所をぞ射たりける、この矢に毒を塗りたる故にや依りけん、また同じ矢坪を
自分と同じ位の小さい子がその十字架から落ちて倒れ、煙の中を小走りに走つて、隣りの十字架に素裸のまゝで縛りつけられて唇を噛み、眼をきつと天に向けてゐるその母親の処に駈け寄つて
あまりのおそろしさに、かの柱頭にひたと抱きつきて、聖母の御名をとなふれども、物騷がしさは未だ止まず。この怪しき物共のむらがりたる間にも、幸なるかな、大なる十字架のきつとして立てるあり。
而して大節たいせつに臨むに至りては、きつとして奪うからず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
殊勝しゆしようらしくきこえて如何いかゞですけれども、道中だうちうみややしろほこらのあるところへは、きつ持合もちあはせたくすりなかの、何種なにしゆのか、一包ひとつゝみづゝをそなへました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お若はきつと顏を振り仰ぎました。感情の變り目、變り目がこの女の激しい氣性にかき立てられて、それが魅力になると言つた肌合の女です。
売られた人達を苦めるやうなそんな復讐ふくしゆうなどは為たくはありません、唯自分だけで可いから、一旦受けた恨! それだけはきつはらさなければかん精神。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
らせんといふなららん。らうとおもへば、どんなことつてもきつつてせるが、ナニ、んなくそツたれ貝塚かひづかなんかりたくはい』とさけぶのである。
「天国には女が居ませんて——」娘は軍鶏しやもめすのやうにきつとなつて顔をあげた。「違ひますよ、先生、そんな理由わけで天国に結婚が無いんぢやございますまい。」
停車場ステーシヨンにはきつ人車くるまがあつたんだよ。表口から出なかつたもんだから、分らなかつたけどね。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
御屋敷方の内輪うちわのことに、わたくしどもが首を突つ込んぢやあ惡うございますが、いつそこれはわたくしにお任せ下さいませんか。二三日のうちにきつらちをあけてお目にかけます。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
『然うすか?』と、人々はその顔——きつと口を結んだ、額の広い、その顔を見上げた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
瀧口は默然として居たりしが、暫くありてきつおもてを擧げ、襟を正して維盛が前に恭しく兩手を突き、『ほど先君の事御心おんこゝろに懸けさせ給ふ程ならば、何とて斯かる落人にはならせ給ひしぞ』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
おつぎがこゝろづいたとき勘次かんじいたづらにさうして發作的ほつさてきあせらしてうごいてるのをた。おつぎのこゝろきつとしてえつゝあるうつつた。おつぎはにはか自分じぶん萬能まんのうつて勘次かんじつかませた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
大佐たいさ一顧いつこ軍刀ぐんたうさやはらつて、きつ屹立つゝた司令塔上しれいたうじやう、一れいたちまたかく、本艦々上ほんかんかんじやう戰鬪喇叭せんとうらつぱる、士官しくわん肩章けんしやうきらめく、水兵すいへいその配置はいちく、此時このときすではやし、すでおそし、海賊船かいぞくせんから打出うちだ彈丸だんぐわんあめか、あられか。
そして一眼フェレラの眼をきつと視ると眼を閉じた。
背負せおひて一文貰ひの辨慶或は一人角力すまふの關取からす聲色こわいろ何れも乞食渡世の仲間なかまにて是等の類皆々長屋づきあひなれども流石さすが大橋文右衞門は零落れいらくしても以前は越後家にて五百石取の物頭役なれば只今市之丞の長八に對面たいめんなすにきつと状を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
きつかたき不足ふそくはせぬ。花片はなびらゆきにかへて、魔物まもの煩悩ぼんなうのほむらをひやす、価値ねうちのあるのを、わたくしつくらせませう、……おぢいさん
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きつと言ひ放つと、自分の部屋へ入つて、何やら手廻りのものを一と纒め、四方を睥睨へいげいし乍ら、富山七之助は出て行くのです。
まへはそんなことつて、胡麻化ごまくわすんだ。きつ仲買なかがひしてあるくんだらうと、いや、はや、沒分曉漢わからずや親分おやぶん
司令官はかう言つてきつと口を結んだ。米国将校はその口元に胡桃くるみの殻のやうな真面目さを見て取つた。
急に笑ひを止めて、京子は次のの敷居際に坐つてゐたお駒に眼を付けると、かう言つてきつと睨めた。お駒は顏をあからめて尻込みするのを、千代松が取り成す風にして
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
『これ、稻妻いなづま、しつかりやれよ。』ときつそのおもて見詰みつめた。
「会堂が那処あそこに建つ!」と、きつと西山のいただきに瞳を据ゑる。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
くづせし膝立て直しきつころもの襟を掻合かきあはせぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あやまればきつと堪忍してくれるよ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
立留たちとゞまつて四方しはうきつてあ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「あの、後程のちほど内證ないしよう御新姐ごしんぞさんが。きつ御待おまあそばせよ。此處こゝに。ござんすか。」とさゝやいて、すぐに、ちよろりとえる。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
萬七はきつと文治の方を向き直りました。變なことを言ひ出したら、有無を言はせずに、此奴こいつも一緒に縛りさうな氣組です。
にはかきつとした調子になつたお光の聲は、今までと違つた人の口から出たものゝやうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
人種差別問題をいつまでもぐづ/\言ふなら、構ふ事はない、きつとなれ、屹となれ……。
きつと何かの間違ひでござります。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
貫一も今はきつと胸を据ゑて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
が、たれては不可いけない、きつては不可いけない、いづれ、やがて仕事しごと出来できると、おうら一所いつしよに、諸共もろともにおかゝつてあらためて御挨拶ごあいさつをする。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
操は飛び退いて、きつと身構へるのです。蒼ざめては居るが、凄まじくも美しい年増振り、八五郎が凄いと形容したのをフト平次は思ひ出したりしました。