)” の例文
和尚おしょうさんのお部屋へやがあんまりしずかなので、小僧こぞうさんたちは、どうしたのかとおもって、そっと障子しょうじから中をのぞいてみました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「それは、ともかく、こんなところでマゴマゴしていると、また客にとっつかまる。このに提灯を消して急いで逃げ出しましょう」
そして、発音に大いに気を使い、一つ一つの言葉のあいだに長いをはさむことによっていっさいの目立つ点を取り除こうと努めた。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
写真入しゃしんいれとなったバスケットは、ちゃのたなのうえかれたのでした。平常ふだんは、だれも、それにをつけるものもなかったのです。
古いてさげかご (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしそのも出来る事なら、生みの親に会わせてやりたいと云うのが、豪傑ごうけつじみていてもじょうもろい日錚和尚の腹だったのでしょう。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「坊主。行って来い。おれが行くといのだが、俺はちと重過ぎる。ちっとのの辛抱だ。行って来い。行って梨の実を盗んで来い。」
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
そのに川向うには三面の里人が、異様な風俗で多数現われた。不意に異人種が襲来して来たように、敵意を含んで見るらしかった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
井戸辺いどばたに出ていたのを、女中が屋後うらに干物にったぽっちりのられたのだとサ。矢張やっぱり木戸が少しばかしいていたのだとサ」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この幸福が、眠っているに、また自分たちを見捨ててどこかへ行ってしまいはしないだろうか。彼等はそれが心配だったのである。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
絶え間なく彼女は、白い小さな、規則正しくを置いて輝いている歯並を、下唇に押しつけては、顎を心持釣り上げているのである。
道化者 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
またも雲の御幕で折角の展望もめちぁめちぁ、ただ僅かの幕のを歩いた模様で、概略の山勢を察し得られたのは、不幸中の幸。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
もなく、おんなのマリちゃんが、いまちょうど、台所だいどころで、まえって、沸立にえたったなべをかきまわしているおかあさんのそばへました。
お小夜が起ってかかれば、何でも見てるに片付いてしまうように思われる。この頃は病母もその病身を一向苦にせぬようになった。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
二人はまた同時に車夫に帰つて、私のうちの父や番頭の大阪行を引いて来たあとを、銀場ぎんばいたで向ひ合つて食事などをして居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
とこには遊女の立姿たちすがたかきし墨絵の一幅いっぷくいつ見ても掛けかへられし事なく、その前に据ゑたる机は一閑張いっかんばりの極めて粗末なるものにて
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
……そこで宵のに死ぬつもりで、対手あいてたもとには、あきないものの、(何とか入らず)と、懐中には小刀ナイフさえ用意していたと言うのである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれこもつくこをかついでかへつてとき日向ひなたしもすこけてねばついてた。おしな勘次かんじ一寸ちよつとなくつたのでひどさびしかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かぎの手に曲るところを、そのままそれればまたもとの茶のあたりへ入るのだが、そこへ行っては、いよいよ袋詰めにされてしまう。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな時間が経過しているにお常さんの姿も席上から消えてくなってしまい、多くの芸子舞子の姿も消えて失くなってしまった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
たまに来てもさも気兼きがねらしくこそこそと来ていつのにか、また梯子段はしごだんを下りて人に気のつかないように帰って行くのだそうである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「併し君の指図で君の好きな色ばかりを着せられたりすると、大分変つた画が歩くわけになるね。」と、青木さんがを置いて仰る。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
公爵夫人こうしやくふじんそのだいせつうたも、えず赤子あかごひどゆすげたりゆすおろしたりしたものですから、可哀相かあいさうちひさなのがさけぶので
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
七三君は賢弟と南おもてえきして遊ばせ給ふ。掃守かもりかたはらに侍りて七四このみくらふ。文四がもて来し大魚まなを見て、人々大いにでさせ給ふ。
っきり作爺さんの家に、あがりこんでどなっている武士は、四人——どこの家中か、浪人か、服装を見ただけではわかりません。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
其のにおかめは盗賊どろぼうだと察し、怖いながらも一生懸命、小児こどもをかゝえ、表の方へ逃げ出す跡より、おかくはおかめを追いかけ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かうしてゐるも宮の事は忘れかねる、けれど、それは富山の妻になつてゐる今の宮ではない、ああ、鴫沢の宮! 五年ぜんの宮が恋い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もう十二年ぜんである、相州そうしゅう逗子ずしの柳屋といううちを借りて住んでいたころ、病後の保養に童男こども一人ひとり連れて来られた婦人があった。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
近來きんらい世界せかい文運ぶんうん急激きふげき進展しんてんしたのと、國際的交渉こくさいてきかうせふいそがしくなつたのとで、わがくににおいても舊來きうらい言語げんごだけでははなくなつた。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
煖炉ペチカのなかで、コオロギが鳴く。となりの部屋では、ドアごしに、主人と従弟いとこのアファナーシイのいびきが、をおいてきこえる。
ねむい (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
池を隔てていけと名のついたこの小座敷の向かい側は、台所に続く物置きの板蔀いたじとみの、その上がちょっとしゃれた中二階になっている。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
まだその頃のことであるから、とこには昔を忘れぬ大小が掛けてある。すわといえばそれを引っさげて跳り出すというわけであった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は何時いつにか、雷門の方を向いて人波の中を泳いでいました。泳いでいるといって好いか、揉み抜かれているといって好いか。
「はい、有難うございます。」と、言っているうちに、お婆さんの手の中の二銭の苞は、見るに二つ三つになってしまいました。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこで細君が夫の看病をしてゐる、僕は彼女かのをんなの散歩の道連になることを申し込んだ。女は一応軽く辞退した上で僕の請を容れた。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
あの能の太鼓などが一打ちでつくりだす時間、「」はこの生きていることを確かめる時間の区切り、切断、その響きなのであります。
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
大久保おほくぼ出発しゆつぱつしてからもなく、彼女かのぢよがまたやつてた。そのかほつてあかるくなつてゐた。はなしまへよりははき/\してゐた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そのあたりには絶えず煙草たばこの煙が朦々もうもうと立ちあがり、雑然とした話し声、何か急を報ずる叫び声、電話をかけるののびた話し声
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
ねえ、君、お願いだ、それよりほんのつかでもよい、一と目でも、いや、物越しにでも、お逢い申してお声を聞かして戴きたいのだ。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうしてもなくわたしは、厳重な旅の仕度をし、黒い頭巾で顔をつつんだ、鶴吉と呼ぶ例の男と、木立ちの中で刀を構えていました。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どうの方からしずかに女のうしろへ立った父親は、いきなりっている女をうしろから突きとばした。女は艪を持ったなりに海の中へ落ちた。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
迷の羈絆きづな目に見えねば、勇士の刃も切らんにすべなく、あはれや、鬼もひしがんず六波羅一のがうもの何時いつにか戀のやつことなりすましぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そしてもなく、わたくし住宅すまいとして、うみから二三ちょう引込ひっこんだ、小高こだかおかに、土塀どべいをめぐらした、ささやかな隠宅いんたくててくださいました。
「急には雇えません。二十四時間以内の積込つみこみですからね。明日あしたになら合うかも知れませんが……みんなモウ……ヘトヘトなんで……」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白水は、自分の六畳の薄暗いというより、ほとんどまっ暗なを、夜間——昼間でもいいのだが、昼間は皆仕事に出るのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
それでも少しは、何かせねばならぬこともあって、二三日を置いてまた行った。私は電車に乗っている間が毎時いつも待遠しかった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
たらの漁獲がひとまず終わって、にしん先駆はしりもまだ群来くけて来ない。海に出て働く人たちはこの間に少しの息をつく暇を見いだすのだ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あいが抜けるだろうという心配は無用の心配で、米友は米友らしい一人芸で、客をうならすことができるものと認められます。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
半蔵が寿平次をくつろぎのへ案内して行って見ると、吉左衛門は裏二階から、金兵衛は上の伏見屋の方からそこに集まって来ていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もなく家財は残らず売払うりはろうて諸道具もなければ金もなし、赤貧せきひん洗うがごとくにして、他人の来て訪問おとずれて呉れる者もなし、寂々寥々せきせきりょうりょう
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かりしほと麥は刈られぬ。刈麥の穗麥は伏せて、畝竝うねなみにさららと置きぬ。麥刈ればそよぐさみどり、うねにすでに伸びつる陸稻をかぼならしも。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)