見出みいだ)” の例文
其処そこからならばS湖も見えるかも知れないと思って、そこまで出て行った彼はそれらしい方向には一帯の松林をしか見出みいださなかった。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかし、ふと頭をもたげて、燈明とうみょうと香煙のたちのぼる間に、あのすばらしい観音の姿を見出みいだしたときの驚きはどんなであったろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
よって此間じゅうよりギボン、モンセン、スミス等諸家の著述を渉猟しょうりょう致し居候おりそうらえどもいまだに発見の端緒たんしょをも見出みいだし得ざるは残念の至に存候ぞんじそろ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「全く、知らないです。謂って利益になることなら、何かくすものですか。またちっとも秘さねばならない必要も見出みいださないです。」
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
んなことで一かう要領えうりやうず、山頂さんてうはうでは、わづかに埴輪はにわ破片はへん雲珠うず鞆等ともなど)を見出みいだしたのみ、それで大發掘だいはつくつだいくわいをはつた。
或朝、万太夫座の道具方が、楽屋の片隅かたすみはりに、くびれて死んだ中年の女を見出みいだした。それは、紛れもなく宗清むねせいの女房お梶であった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
宗教はその生命を自分自身の中に見出みいだすことを忘れて、社会的生活に全然遵合コンフォームすることによって、その存在を僥倖ぎょうこうしようとしたからだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
言はんぢやない、実際言得んのじや、然し猶能なほよう考へて見て、貴方に誨へらるる方法を見出みいだしたら、更にお目に掛つて申上げやう。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
がふとその時彼は赤茶色のあくたの山のようなものを見出みいだして、その上にのしかかってみた。と思うまに激しいくさめの音が沈黙をやぶった。
細い流で近所の鳴らすなべの音が町裏らしく聞えて来るところだ。激しく男女の労働する火山のすその地方に、高瀬は自分と妻とを見出みいだした。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これから読もうとする極端にばかげた話のなかにさえ慰安を見出みいだすかもしれない(精神錯乱の記録はこの種の変則に満ちているのだから)
でも、この赤人あかひとといふひとは、かういふ傾向けいこう景色けしきうたひてをくして、だん/\自分じぶんすゝむべき領分りようぶん見出みいだしてきました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
長吉ちやうきちは月のに連れられて来た路地口ろぢぐちをば、これはまた一層の苦心、一層の懸念けねん、一層の疲労をつて、やつとの事で見出みいだし得たのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
婚姻の原因を娘の行状に見出みいだして、これというも平生の心掛がいいからだと、口をきわめてめる、よめいる事が何故なぜそんなに手柄てがらであろうか
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その後ほどなくわたしは竹柏園ちくはくえん先生のお宅の、お弟子たちの写真箱の中から、中島写真館で見出みいだしたとおなじ人の、おなじ写真を見出した。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
人相見が、わたしのように、前もって一つ二つ話を聞いていれば、風変りと情ぶかい心とが奇妙にまじりあっているのを見出みいだしたであろう。
その画才と篤信とくしんが、どういふ筋道だつたかは存じませんが司祭さんに見出みいだされて、だいぶ前からN会堂の教僕として住み込んでゐたのです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
輕氣球けいききゆううへでは、たちま吾等われら所在ありか見出みいだしたとへ、搖藍ゆれかごなかから誰人たれかの半身はんしんあらはれて、しろ手巾ハンカチーフが、みぎと、ひだりにフーラ/\とうごいた。
若き女あの顔を見なばそのまま気絶やせんとささやけば相手は、明朝あすあさあの松が枝に翁の足のさがれるを見出みいださんもしれずという
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それから店の下婢かひのなかから珍らしく可憐かれんなうら寂しい、そして何処どこ愛嬌あいきょうぶかいお作といふ小娘を見出みいだしたこともあつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
表現の直接の目的は、社会の実情を観照し、人情をきわめ、風俗を知り、旅行の到るところに観察を見出みいだすことに存している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
そして図らずもその群の中から彼女を見出みいだす。さては彼女は洋行をして帰って来たのかとそう思っても、男は最早や彼女に近づく勇気もない。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
買つてくれとはれないやうにきず見出みいだして、をしことにはうもぢくににゆうがりますとつてにゆうなぞを見出みいださなくツちやアいかねえ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
要次郎の云つた通り、この極月ごくげつの寒い夜に、影を踏んで騒ぎまはつてゐるやうな子供のすがたは一人も見出みいだされなかつた。
これは我々の宗教おしえから見て許し難い罪悪じゃ! 見出みいだしてこの山から追い出さねばならぬ。何んとそうではあるまいかな?
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
秘密な会合をお島に見出みいだされたその女は、その時から頭脳あたまに変調を来して、幾夜かのあいだお島たちの店頭みせさきへ立って、呶鳴どなったり泣いたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
與吉よきち紙包かみづゝみの小豆飯あづきめしつくしてしばらくにはさわぎをたがれううち㷀然ぽつさりとして卯平うへい見出みいだして圍爐裏ゐろりちかせまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そのなかに、伊那丸いなまるのすがたを見出みいだしたので、忍剣は、思いやりの深い主君しゅくんの心がわかって、無言むごんのうちになみだがうかんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要求せられた「殉国の情熱」を、自発的な、人間自らの生き方の中に見出みいだすことが不可能であろうか。それを思う私が間違っているのであろうか。
特攻隊に捧ぐ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
お幸はその中に新しい貼紙はりがみの一つあるのを見出みいだしたのです。それは大津おほつの郵便局で郵便配達見習を募集するものでした。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
匈奴きょうどはまたしても、元の遠巻き戦術にかえった。五日め、漢軍は、平沙へいさの中にときに見出みいだされる沼沢地しょうたくちの一つに踏入った。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この春夏秋冬四季の変化に心を留めて、その中に安住の世界を見出みいだすという事は我が日本人の特に天より授かった幸福ではないでありましょうか。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ひとは自分が破滅したと考えるようになる、ところが一旦いったん何か緊急の用事が出来ると、彼は自分の生命が完全であるのを見出みいだすといった例は多い。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
なみだをかくして見出みいだせば此子このこ、おゝたともはれぬ仕義しぎなんとせん、あねさま這入はいつてもかられはしませぬか、約束やくそくものもらつてかれますか
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このちひさなそばつてても仕方しかたがないと、あいちやんは洋卓テーブルところもどつてきました、なかばかぎ見出みいだしたいとのぞみながら、さもなければかく
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
叔母おばルウスタン夫人に音楽的才能を見出みいだされ、しばらくはイタリー人からピアノの手ほどきを受けたこともあった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
このような海岸線かいがんせん組合くみあはせは地球上ちきゆうじよういたところ見出みいだされるが、紅海こうかい東海岸ひがしかいがん西海岸にしかいがんとのごときもいちじるしい一組ひとくみである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
また「いき」が言語として成立していることも事実である。しからば「いき」という語は各国語のうちに見出みいだされるという普遍性を備えたものであろうか。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
わたしとほかの二、三のものだけが、やっと一そうのふね見出みいだして、そのほばしらにまっていのちたすかりました。わたしは、太郎たろうさんにそのことをらせにまいりました。
つばめの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふしぎなことだと人々があきれ返つてるうちに、子供の姿と大きなシャボン玉とは空高く消えてしまひました。そしてハボンスの姿はどこにも見出みいだせませんでした。
シャボン玉 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
彼女はそう思いながら、それでも春着の膝の上へ、やはり涙を落している彼女自身を見出みいだしたのだった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とにかく気のついたときには、旗男は、まっくらな畦道あぜみちをまるで犬かなんかのように四ンばいになり、ハアハア息を切りながら先を急いでいる自分自身を見出みいだした。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
教室の焼跡には、生徒の骨があり、校長室の跡には校長らしい白骨があった。が、Nの妻らしいものはつい見出みいだせなかった。彼は大急ぎで自宅の方へ引返してみた。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
讓は窓の硝子ガラス窓に顔をぴったりつけてむこうを見た。その讓の眼はそこで奇怪な光景を見出みいだした。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
人類の歴史を動かす第一義の要因を種族闘争に見出みいだすものは、グムプロヴィッツやラッツェンホーファーなどから、ゴビノーやヒットラーに至るまで決して少なくない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
そして、それを見出みいだしたのだ、味わったのだ。ただ万人を哀れみ、万人万物を解する神様ばかりが、我々を哀れんでくださる。神は唯一人ゆいいつにんで、そしてさばきに当たる人だ。
現実に立帰った私は、そこに、夢の貴公子とは似てもつかない、哀れにも醜い、自分自身の姿を見出みいだします。そして、今の先、私にほほえみかけて呉れた、あの美しい人は。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
社長女婿の見出みいだしにあずかったのが一つ、同時に養子は誇るべきものだと大悟一番したのがもう一つだった。元来頭は悪くない。それは連れ添う雪子夫人がつとに認めている。
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また暫く歩きて、突然為事机のそばに寄り、机の上の物を上を下へといじり廻し、終りに壁に掛けたる袋の中よりブラシを見出みいだして手に取り、上着の塵を払う。戸を叩く音す。
男ども苅置かりおきたるまぐさを出すとて三ツ歯のくわにてきまわせしに、大なるへび見出みいだしたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)