はだか)” の例文
大丈夫だいじょうぶ。大丈夫だ。〕おりるおりる。がりがりやって来るんだな。ただそのおしまいの一足だけがあぶないぞ。はだかの青い岩だしきゅうだ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
薄暗い部屋へ入って、さっそくがくはだかにして、壁へ立てけて、じっとその前へすわり込んでいると、洋灯ランプを持って細君さいくんがやって来た。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いっぽう、平野そのものは、冬のなごりのはだかはたけがつづいているばかりなので、灰色の手織の布よりも美しいとは言えませんでした。
垣根かきねなかンのめったばっかりに、ゆっくり見物けんぶつ出来できるはずのおせんのはだかがちらッとしきゃのぞけなかったんだ。——面白おもしろくもねえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おつぎは浴衣ゆかたをとつて襦袢じゆばんひとつにつて、ざるみづつていた糯米もちごめかまどはじめた。勘次かんじはだかうすきねあらうて檐端のきばゑた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
はだかは裸、あらわなものはあらわに、そのままに出すのは、今の世の習わしなんですが、私には、どうもそれが、浅まに見えてなりません。
別に、肩には更紗さらさ投掛なげかけ、腰に長剣をいた、目の鋭い、はだか筋骨きんこつ引緊ひきしまつた、威風の凜々りんりんとした男は、島の王様のやうなものなの……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あの櫟林くぬぎばやしの冬景色は、たしかにこの塾の一つの象徴しょうちょうですね。ことにこんな朝は。——まるはだかで、澄んで、あたたかくて——」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
今年ことしは、もうって、えだはだかになっていたけれど、ちたあとには、来年らいねんはなのつぼみが、かたえていました。
手風琴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
唯、おぼろげながら、知れるのは、その中にはだかの屍骸と、着物きものを着た屍骸とがあると云ふ事である。勿論もちろん、中には女も男もまじつてゐるらしい。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
言つてゐるが、三年前江戸へ來た時ははだか一貫で、それから何をするでもなく金が出來て、妹といふのを呼寄せてあの豪勢な暮しが始まつたさうで
○さておしきたりし男女まづ普光寺ふくわうじに入りて衣服いふく脱了ぬぎすて、身に持たる物もみだりに置棄おきすて婦人ふじん浴衣ゆかた細帯ほそおびまれにははだかもあり、男は皆はだかなり。
それでさきほどのお礼にやって来たわけだが——実はお内儀さん、少し手荒いかも知れねえが、お前さんをはだかにして……
さては武兵衛の赤はだかがそちにはどうやら気に入らぬ様子、一応もっともには聞こえるが、しかし武兵衛の赤裸こそ我らにとっては値打ちなのじゃ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
霜を含んだ夜気やきは池の水の様にって、上半部をいた様な片破かたわれ月が、はだかになった雑木のこずえに蒼白く光って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
氷と雲とにおおわれたはだかの岩山が谷をとりまいていました。ヤナギとコケモモがきそろい、よいかおりのするセンオウはあまにおいをひろげていました。
秋も末のことですから、むくの木の葉はわずかしか残っていませんでした。その淋しそうなはだかの枝を、明るい月の光りがくっきりと照らし出していました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そして、因幡の気多けたという海岸まで来ますと、そこに毛のないあかはだかのうさぎが、地べたにころがって、苦しそうにからだじゅうで息をしておりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
知らずや人は、はだかのまゝ飛びゆきて審判さばきをうくる靈體の蝶を造らんとて生れいでし蟲なることを 一二四—一二六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
はだかはらをすかせているのは、まったくつらいよ。まだ夜になると裸ではこおりつきそうに寒いし、はらがすいてたおれそうになるし、まったくつらかったよ
千穂子は納戸なんどから、与平のシャツと着物を取って来た。濡れたものをすっかり土間へぬぎすてて、はだかで釜の前に来た与平はまるで若い男のような躯つきである。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
向こうは打っては飛びのき、飛びのいてはまた打ちかかってくる。そのうえ、はだかでつかまえどころがないのだから、この試合は非常にむつかしい、やりにくいのだ。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
暑い季節にはことにそれがはなはだしく、今夜も風呂から上ってからは浴衣ゆかた一枚の帯ひろはだかで、ときどき胸をあらわにして、団扇うちわで涼をれながらしゃべっていたのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「この南は、もっと浅くなっておりますが、はだかのままでは、敵が矢先を揃えて待つ所は通れませぬ」
よくもこう一個の身で、ぼんと非凡、大度たいどと細心、大見得おおみえとまるはだかとの、仕分けができるかとおもわれるほど、いわゆる達者な生命力を、日々、飽くことなく生きていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いっそもうはだかけだしたらいい、この子は! なんてはじっさらしだろう! この子にかかったら、ほんとに手こずってしまう。すっかりわがままになってしまってさ!」
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
産を失い子女ことごとく死せし時も彼は「われはだかにて母のたいでたりまた裸にてかしこに帰らん、エホバ与えエホバ取り給う、エホバの御名みなむべきかな」(一の二一)といい
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
おびしろはだかの叔母がそこにやって来て、またくだらぬ口論くちいさかいをするのだと思うと、どろの中でいがみ合う豚かなんぞを思い出して、葉子はかかとちりを払わんばかりにそこそこ家を出た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
珠玉しゅぎょくまとう好みは、何だか近頃は毛皮の民族から学ぶようにも感じられるが、最初はどう考えてもはだかの国、暖かい海のほとりの社会に始まるべきものだった。『万葉集』の巻九に
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一番にはだか武太之助、この者鮭登典膳与力にてその丈七尺なり、今東国に具足屋なし、上方には通路絶えぬ、武具調うる事なかれば、戦場に出づるに素肌に腰指こしざししてかちにて出陣すれども
はだかばうのわたしの心に、ああ天よ、花の紋うつくしい緑の晴れ着を與へたまへ
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
この地衣こけのために、いははいろ/\うつくしい模樣もようもんあらはしてゐます。日本につぽんでは木曾きそ御嶽おんたけこまたけはこのたい位置いちがよくわかります。このたい上部じようぶはそれこそ地衣こけもないはだかのまゝの岩石がんせきです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
はだかの薄青い岩から、緑の波のたぎり飛ぶ白い飛沫しぶきから、黒い広野の微動だにしない夢想から、雷にたれたかしわの樹の悲哀から、凡てそれ等のものから我々の理解し得る人間的のものを作り来り
僧たちはすぐ昭青年をつかまえて、はだかのまま方丈ほうじょうへ引立てて行きました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
都府楼観音寺唐絵とふろうかんのんじからえと云はんに四ツ目の鐘のはだかなる、報恩寺ほうおんじいらか白地しらじなるぞ屏風びょうぶ立てしやうなり。木立こだち薄く梅紅葉うめもみじせず、三月の末藤にすがりて回廊にむしろを設くるばかり野には心もとまらず……云々うんぬん
そして一體にふくよかにやはらかに來てゐる、しかも形にしまツたところがあツたから、たれが見ても艶麗えんれいうつくしいからだであツた。着物きものてゐる姿すがたかツたが、はだかになると一だんひかりした。それからかほだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
正覚坊寂しくぞあらむはだかにてわれもころがるうららかなれば
真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
世界をばひかりの網に入れて引く今朝のはだかの海の太陽
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
野のうへの望小山ぼうせうざんはだかをものどかにしたる柳と朝日
われら皆はだかにて生れ、母のたいきて生る。
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
寄かゝるはだか火燵ごたつやはるの雨 意裡
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
いぬかわをかぶって、おせんのはだかおも存分ぞんぶんうえうつってるなんざ、素人しろうとにゃ、鯱鉾立しゃちほこだちをしても、かんがえられるげいじゃねえッてのよ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
べつに、かたには更紗さらさ投掛なげかけ、こし長劍ちやうけんいた、するどい、はだか筋骨きんこつ引緊ひきしまつた、威風ゐふう凛々りん/\としたをとこは、しま王樣わうさまのやうなものなの……
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
○さておしきたりし男女まづ普光寺ふくわうじに入りて衣服いふく脱了ぬぎすて、身に持たる物もみだりに置棄おきすて婦人ふじん浴衣ゆかた細帯ほそおびまれにははだかもあり、男は皆はだかなり。
では外国武官たちに、はだかの相撲を見せてもいか?——そう云う体面を重ずるには、何年か欧洲おうしゅうに留学した彼は、余りに外国人を知り過ぎていた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると、すぐにその上に水を打ちつけて、あらゆるみどりをひきむしり、じぶんと同じように、はだかに灰色にしてしまいます。
喜三郎どんは、まだブクブク泡の立つて居る水を眺めて、はだかになつて飛込んで、それを拾つて來ると言ひ出したんです
芸妓遊女のたぐいを悉く足留めをして、いちいちはだかにするまでにして調べたけれども、品物は一つも出ては来ず、また
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さあ、たからりあてて、大金持おおがねもちになるか、貧乏びんぼうをして、はだかになるか、うんだめしだ。ちからのつづくかぎりやってみよう。のるもそるも人間にんげんの一しょうだからな。」
大きな会堂の中はからっぽです。むかし高価な絵がかかっていたところも、いまでははだかの壁がむきだしになっています。浮浪者ふろうしゃがアーチの下でねむっています。