はだへ)” の例文
おもふに、ゑがける美人びじんは、ける醜女しうぢよよりもなりつたく、かん武帝ぶてい宮人きうじん麗娟りけんとしはじめて十四。たまはだへつややかにしてしろく、うるほふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
五月といへど、かういふどんよりとした日には、老いたはだへがほろゝ寒いと見えて、汽車でいた膝掛に脊中を包んでつくねんとしてゐる。
胡瓜の種 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
第一種は普通ふつうの股引にして、はだへに密接するもの、第二種はち付け袴の類にして、全体甚ゆるやかに、僅に足首の所に於てかたくくられたるもの。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
御年やうやく二十二、青絲せいしみぐし紅玉こうぎよくはだへ平門へいもん第一の美男びなんとて、かざす櫻も色失いろうせて、何れを花、何れを人と分たざりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
八月とはいふものの、北欧のことであるから、アフリカの沙漠さばくに育つた彼はすでにはだへに秋を感じてゐた。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
上ること廿四丁、蟠廻はんくわい屈曲して山腹岩角を行く。石塊𡵧𡵧ぐわん/\大さ牛のごとくなるもの幾百となく路に横りがいそばたつ。時すでに卯後、残月光曜し山気冷然としてはだへとほれり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
瑠璃るり色なる不二の翅脈しみやくなだらかに、じよの如き積雪をはだへの衣にけて、悠々いう/\と天空にぶるを仰ぐに、絶高にして一朶いちだ芙蓉ふよう、人間の光学的分析を許さゞる天色を
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
いつか藤村が、あの岬を指差して自転車の遠乗りを主張したのであつたが、その時も私は同じ震へを覚えてはだへに粟を生じ、頑として車輪を反対の方角に向けた位である。
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そして二つの体は次第に河床の泥に埋まつて行く。死を争ふ怨敵のやうに、二人は打ち合ひ咬み合ひ、引つ掻き合つて、はだへを破り血を流す。とう/\ドルフが上になつた。
われたる尾は他の失へる形をとりてはだへ軟らかく、他のはだへはこはばれり 一〇九—一一一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ひさし人気ひとけの絶えたりし一間のさむさは、今にはかに人の温き肉を得たるを喜びて、ただちにまんとするが如くはだへせまれり。宮は慌忙あわただしく火鉢に取付きつつ、目を挙げて書棚しよだなに飾れる時計を見たり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
路幅みちはゞはあり、屈折は婉曲であり、樹蔭は深いし、左手の帚川の溪は眼に快いし、右手の山は高し、時々小瀑布を景物にしめすし、山嵐溪風いづれにしても人のはだへに清新其物の氣味を感ぜしめる。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
はだへの皺は繁くして、縮めたる網の如し。黒き瞳はまぶちめん程なり。
はだへに觸れずけし飛びぬ、神プォイボス・アポローン
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
黒皺皮くろじわがはの滿身のはだへをこがす炎暑をや。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ましろきはだへかがやくみ姿をば
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
しかくれなゐは、俯向うつむいたえりすべり、もたれかゝつた衣紋えもんくづれて、はだへく、とちらめくばかり、氣勢けはひしづんだが燃立もえたつやう。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二重の玻璃窻ガラスまどきびしく鎖して、大いなる陶爐に火を焚きたる「ホテル」の食堂を出でしなれば、薄き外套を透る午後四時の寒さは殊さらに堪へ難く、はだへ粟立つと共に
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
目差まなざしはだへと、白い着物の痩せた形とが、壁畫のマグダーレン自身が拔け出たよりも、もつとそれに似て居るのに愕いて、その儘どこへどう去つたとも別らぬその女に戀ひ移る。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
やりは降りても必ずべし、と震摺おぢおそれながら待たれし九日目の例刻になりぬれど、如何いかにしたりけん狂女は見えず。鋭く冱返さえかへりたるこの日の寒気ははりもてはだへに霜をうらんやうに覚えしめぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
瀧口つらつら御容姿おんありさまを見上ぐれば、沒落以來、いくその艱苦を忍び給ひけん、御顏痩せ衰へ、青總の髮あらゝかに、紅玉のはだへ色消え、平門第一の美男と唱はれし昔の樣子、いづこにと疑はるゝばかり
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
刃のいつはり多き胸を貫きし時、はだへは雪の如くかゞやきぬとぞ語りし。
黒皺皮くろじわがはの満身のはだへをこがす炎暑をや。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
はだへに物のぞしづく、——
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
づ、いろしろをんなはう、が、ゆきなすしろさ、つめたさではない。薄櫻うすざくらかげがさす、おぼろにほよそほひである。……こんなのこそ、はだへふより、不躾ぶしつけながらにくはう。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二重ふたへ玻璃ガラス窻を緊しく鎖して、大いなる陶炉に火を焚きたる「ホテル」の食堂を出でしなれば、薄き外套を透る午後四時の寒さは殊さらに堪へ難く、はだへ粟立あはだつと共に
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
貫一は彼の死の余りにむごく、余りに潔きを見て、不貞の血は既にことごとそそがれ、旧悪のはだへは全く洗れて、残れる者は、悔の為に、誠の為に、おのれの為に捨てたる亡骸なきがらの、あはれみても憐むべく
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ひえびえとはだへあはだつ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
またゝに、かり炭燒すみやきほふられたが、民子たみこ微傷かすりきずけないで、まつたたまやすらかにゆきはだへなはからけた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかし良三は自ら双臂胸腹さうひきようふくを摩して、粟粒大ぞくりふだいの物がはだへに満ちてゐるのを知つた。夜が明けた。良三は紅疹のむらがり発したのを見て喜に耐へず、大声に「先生」と叫んだ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
弱肩よわがたはだへ眞白く
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
みどりいよ/\こまやかにして、夏木立なつこだちふかところやまいうさとしづかに、しかいまさかりをんな白百合しらゆりはなはだへみつあらへば、清水しみづかみたけながく、眞珠しんじゆながれしづくして、小鮎こあゆかんざし宵月よひづきかげはしる。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はだへきぬすばかり、浴衣ゆかたあをいのにも、胸襟むねえりのほのめくいろはうつろはぬ、しか湯上ゆあがりかとおもあたゝかさを全身ぜんしんみなぎらして、かみつやさへしたゝるばかり濡々ぬれ/\として、それがそよいで
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これたもとはらふにあたりて、やはらかなるはだへたまれて、あととゞめむことをおそれてなり。るべし、いまいたづら指環ゆびわおほきをほつすると、いさゝ抱負はうふことにするものあることを。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なるほどところ衣服きものとき姿すがたとはちがふてしゝつきのゆたかな、ふつくりとしたはだへ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
玉のかひなは真の玉よりもよく、雪のはだへは雨の結晶せるものよりもよく、太液たいえき芙蓉ふようかんばせは、不忍しのばずはすよりもさらし、これをしからずと人に語るは、俳優やくしやに似たがる若旦那と、宗教界の偽善者のみなり。
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
千筋ちすぢみだるゝみづとゝもにはだへくだけて、花片はなびら散込ちりこむやうな。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もとより幾処いくところにもはしがある。みな大木たいぼくかゝり、巨巌きよがんはだへ穿うがつ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
腋明わきあけをこぼれたはだへとほる。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)