しょう)” の例文
ねえさん、わたしが、あなたやおとうさんをてて、どこへかゆくといわれるのですか。わたしは、一しょうとうさんや、あなたのそばでらします。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それは写真というもので、筆や絵具でかいたのではない、機械でとって薬で焼きつけたしょうのままのすがたじゃ、日本ではまだ珍らしい」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
同じところに永く入れて置くと、たとい洋服だの襯衣シャツだのをとおしてでも、ラジウムの近くにある皮膚にラジウムけをしょうずるからだ。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お前は前のしょうに恐ろしい罪を重ねている。その罪を浄めてやるから舌を出せ。もそっと出せ。出さぬと金縛りだぞ……そうだそうだ……
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうおもえばますます居堪いたまらず、ってすみからすみへとあるいてる。『そうしてからどうする、ああ到底とうてい居堪いたたまらぬ、こんなふうで一しょう!』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
測る道具と測る品物が往々にしてことなるので、この二者を混同するとつまらぬことにあらそいが起こり、たがいに不愉快ふゆかいの念をしょうずるにいたる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
甚兵衛じんべえは、もうだれたのんでも人形を使いませんでした。そして山からときどきあそびにくるさる相手あいてに、たのしく一しょうおくりましたそうです。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
死もしょうも、そのまぶた一皮、そう泣くほど恐いものではない筈じゃ。——善童子、善童子。嘆くまい。死によいようにわしがしてやる
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「僕はまだなんともいっていないぜ。あっさりいうけど、むこうだってしょうのあるものだから、そうやすやすと掴ませはしまい」
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし、彼女かのじょのものの考え方には、どことなく面白おもしろいところがあったので、うちなかのつまらない仕事しごともそのために活気かっきづき、うるおいがしょうじた。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
桂枝けいしのもとには草しょうぜず、麻黄まこうの茎には雪積らず、これにじゅんじて、注意しながら山を廻っておると、自然に薬が知れてくる」
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なんじ我言に背いて禁菓きんかいたれば、土は爾の為にのろわる。土は爾の為に荊棘いばらあざみしょうずべし。爾は額に汗して苦しみて爾のパンをくらわん」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あなたの生涯しょうがい随分ずいぶんつらい一しょうではありましたが、それでもわたくしのにくらぶれば、まだはるかにはなもあって、どれだけ幸福しあわせだったかれませぬ。
その中でも夫婦は、唯、一夜の契にてさえも、五百しょうの宿縁と申すほどでござります。しかし、生者必滅しょうじゃひつめつ会者定離えしゃじょうりは浮世の定めでございます。
もし事実として、浪に引入るるものがあれば、それはしょうあるもの、形あるもの、云うまでもありません、心あり魂あり、声あるものに違いない。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜叉王 いや、いや、どう見直してもしょうある人ではござりませぬ。しかもまなこに恨みを宿し、何者をかのろうがごとき、怨霊おんりょう怪異あやかしなんどのたぐい……。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その拍子ひょうしに、まわりの土が崩れて、サラサラと棺の底へ落ちるのさえ、何かしょうあるものの仕業しわざの様に感じられ、彼は命も縮む思いをしたことです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「十万億土の夢を見て、豁然かつぜんとして大悟一番したんだ。一出家しゅっけ功徳くどくによって九族きゅうぞくてんしょうずというんだから素晴らしい。僕は甘んじて犠牲になる」
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
第六十九条 クヘカラサル予算ノ不足ヲおぎなためニ又ハ予算ノほかしょうシタル必要ノ費用ニツルためニ予備費ヲもうクヘシ
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
だから大分県の山間さんかんの村などでは、これがまたよっぽどちがって、ひき蚯蚓みみずとのまえしょうの話ともなっているのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大阪人等は、想像できるか? 所謂、資本主義の第二期的現象としての、しょう一体、御前は、何を考える事ができる?
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その力が果たしてしょうなき物にまで働き得るかどうかは知りませんが、もしそんなことがあったとしても、あえて不自然とは言われまいかと思われます。
そこで罪人を呼んでその志をきいた。その答え、「官を辞して、命を捨て、ぎょうじて、衆生に縁を結び、しょう仏家ぶっけに受けて、一向に仏道を行ぜんと思う」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
いわんや人をや。わずかにその霊あるものは、その霊を失うことなし。しょうをば人といい、畜生という。死をば鬼神といい、幽霊という。儒仏たがうことなし。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
まだ二十二才のわかい科学者かがくしゃだったぼくには、これに一しょうをささげて、いつかは世間せけんのやつどもを、あっといわせるような研究けんきゅうをやりとげようと決心けっしんしたんだ
それでシナの天子てんしさまが日本にっぽんかえすことをしがって、むりやりめたため、日本にっぽんかえることができないで、そのままこうで、一しょうらしてしまいました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ですから、このまちをとびだして、すこしでも自由じゆうなところにいかなければ、一しょう、このままでおわってしまう、と諭吉ゆきちはしみじみとかんがえるようになりました。
こうして春は、立ち迷う雲烟の衣に、暖かく大地を包み、凍結したしょう類を、脈々とよみがえらせる。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
清兵衛は一しょう懸命けんめいになって、朝月を養ったので、その翌年よくねんには見ちがえるような駿馬しゅんめになった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
その女は、お前を迷わせようとした罪の報いで、此の世では禽獣のしょうを享けたが、貴い霊場を棲み家として、朝夕経文を耳にした為めに、来世には西方浄土に生れるのだ。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
舌上ぜつじょう竜泉りゅうせんなく、腋下えきか清風せいふうしょうぜざるも、歯根しこん狂臭きょうしゅうあり、筋頭きんとう瘋味ふうみあるをいかんせん。いよいよ大変だ。ことによるともうすでに立派な患者になっているのではないかしらん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「秋ゃいくら云うても聞きゃせんのやして。あんな者の云うことしょうしやいすな。」
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
万年草まんねんそう 御廟のほとりに生ずこけたぐひにして根蔓をなし長く地上にく処々に茎立て高さ一寸ばかり細葉多くむらがりしょうず採り来り貯へおき年を経といへども一度水に浸せばたちまち蒼然そうぜんとしてす此草漢名を
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
しょうあるものは必ず滅する。老木の朽ち枯れるそばで、若木は茂り栄えて行く。嫡子ちゃくし光尚の周囲にいる少壮者わかものどもから見れば、自分の任用している老成人としよりらは、もういなくてよいのである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
イヤ出たぞ出たぞ、束髪も出た島田も出た、銀杏返いちょうがえしも出た丸髷まるまげも出た、蝶々ちょうちょう髷も出たおケシも出た。○○なになに会幹事、実は古猫の怪という、鍋島なべしま騒動をしょうで見るような「マダム」なにがしも出た。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
特に封建制馭せいぎょの道いままったからず、各大名の野心あるもの、あるいは宗教を利用し、もしくは利用せられ、あるいは外邦と結托けったくし、あるいは結托せられ、不測ふそくへんしょうずるもいまだ知るべからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
四百万億まんおく阿僧祇あそうぎ世界せかいなる六しゅしょう衆生しゅうじょう有形うぎょうのもの、無形むぎょうのもの——有形無形うぎょうむぎょうのうち、慾界色界よくかいしきかい有情うじょう有形うぎょうにして、無慾無色界むよくむしきかい有情うじょう無形むぎょうなり……なンかと大分むずかしい文句だが
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何が幻だ、何が虚無だ。このとおりこの女は生きているではないか……危うく……危うく自分は倉地を安堵あんどさせる所だった。そしてこの女を……このまだしょうのあるこの女を喜ばせるところだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いつかはまたもっと手ひどく仇を受けるじゃ、この身終って次のしょうまで、その妄執もうしゅうは絶えぬのじゃ。ついには共に修羅しゅらに入り闘諍とうそうしばらくもひまはないじゃ。必らずともにさようのたくみはならぬぞや。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「きょうは呉越同舟ごえつどうしゅうの船かね、それとも一蓮いちれんママしょうの船かね」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しょうという、あとの一語は彼ののどにつかえて出なかった。
四望生眩総瑩瑩 四望しぼうげんしょうじてすべ瑩瑩えいえいたり
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かみさまは自分じぶんわるかったとかんじられました。そして、つみもない、おけらの一しょうとしては、あまりに、みじめであったとおもわれました。
おけらになった話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
茂太郎の予報から約一刻ひとときも経て、果して田山白雲のしょうのものが、月ノ浦の港の浜辺に現われて、船をめがけて大きな声をあげました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ゆえに日ごろよき考えと、しからざる考えとをおさめ入るるによって、潜在識の性質に異同をしょうずることはいうまでもない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それはかく、あのときわたくしはは断末魔だんまつま苦悶くもんさまるに見兼みかねて、一しょう懸命けんめいははからだでてやったのをおぼえています。
いっそ故郷こきょうかえって、そこで百姓ひゃくしょうをしてる息子むすこのところで、のこったしょうがいをおくろう、とそう二人は相談そうだんしました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
とたんに、あーら不思議、博士の身体はぶーんとうなりをしょうじて空間を飛び、大きな音をたてて壁にぶつかった。
図書 百年以来、二重三重までは格別、当お天守五重までは、しょうあるものの参ったためしはありませぬ。今宵、大殿の仰せに依って、わたくし、見届けに参りました。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一度ひとたびは、死なんといたしましたが、死に赴くもかたく、しょうを願うては煩悩の濁海にもてあそばれているのみ。あわれ、救世菩薩ぐぜぼさつ、わが行く道はいずくに在るか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)