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おりおり日の光りが今ま雨に濡れたばかりの細枝の繁味しげみれて滑りながらに脱けてくるのをあびては、キラキラときらめいていた。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
年のれに軍功のあったさむらいに加増があって、甚五郎もその数にれなんだが、藤十郎と甚五郎との二人には賞美のことばがなかった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
健は歯を食いしばって息をつめているらしく、くっ、くっ、という声がれた。何かの拍子で泣きだしそうなものを我慢しているのだ。
大根の葉 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
女は思わずそこへ倒れて、もう一度短い悲鳴をらした。が、それぎり身を起す気色けしきもなく、また前のように泣き入ってしまった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
清逸の心の裏をかくとでもいうような言葉がしばらくしてからまた園の唇をれた。清逸はかすかに苦しい顔をせずにはいられなかった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
早々そうそう蚊帳かやむと、夜半よなかに雨が降り出して、あたまの上にって来るので、あわてゝとこうつすなど、わびしい旅の第一夜であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
山寺の一室に行李こうりいた宣揚は、遠く本堂の方かられて来る勤行ごんぎょうの声に心を澄まし、松吹く風に耳をあろうて読書三昧ざんまいに入ろうとしたが
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おりおり日の光りが今ま雨にれたばかりの細枝の繁みをれて滑りながらにけてくるのをあびては、キラキラときらめいた
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
弥吉は、唇をみしだきながらも、手向いをしなかった。そして正面から児太郎の顔をゆっくり凝視みつめ、冷えわたるような笑みをらした。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
目の前に立ちふさがった緑の壁から、姿はなくて、不気味な囁き声ばかりが、シュウシュウとれて来る。しかも世にも恐ろしい囁き声が。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
醫者の口かられるともなく、この事が家中に知れ渡ると、彌三郎はもう居ても立つても居られない心持になつて居りました。
それとなく胸中の鬱悶うつもんらした、未来があるものとさだまり、霊魂の行末ゆくすえきまったら、直ぐにあとを追おうと言った、ことばはしにもあらわれていた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
... 取って中ばかりのぞいていました」お登和「オホホ蓋を取ってはいけません。蓋を取ると蒸汽がれて御飯がフックリ出来ません。手桶へ水を ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
さういふ時、博士はよく「阿耶アヤ阿耶アヤ」といふ絶叫をらした。僕はそれを、博士が感きはまつて口にする彼女の愛称かと思つたものである。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ボデイの方は、ブリキを切断して、円く胴をつくり、ふたをくっツけて締めつけ、それが空気がれないか、どうかを調べる。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「あーッ。」と長い溜息が、持て余しているような先生のからだかられて来た。じろりと皆の顔を見る目のうちにも、包みきれぬ不安があった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
物心ものごころついた小娘時代こむすめじだいから三十四さい歿みまかるまでの、わたくし生涯しょうがいおこった事柄ことがら細大さいだいれなく、ここで復習おさらいをさせられたのでした。
そこも雨はり、たたみくさり、天井てんじょうにはあながあき、そこら中がかびくさかった。勘太郎は土間のがりかまちのところにある囲炉裏いろりの所へ行ってみた。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
聲なき此れ等の書物によつて世界の新思想は、丁度牢獄の中に何處いづこからとも知れず、きたる日光のやうに、若い吾々の頭に沁込んで來るのだ。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
女はやゝしばらく三四郎を眺めたのち聞兼ききかねる程の嘆息ためいきをかすかにらした。やがて細い手を濃い眉のうへに加へて、云つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「月のるより闇がよい」というのは恋に迷った暗がりの心である。「月がよいとの言草ことぐさ」がすなわち恋人にとっては腹の立つ「粋な心」である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
不思議なことは、彼も終戦後の若者の例にれず、服装のだらしなさにも関わらず、頭だけは蜻蛉とんぼの眼玉の様に油でぜ付けて黒々と光らせて居た。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
前のを悟りて舊都に歸り、さては奈良炎上えんじやう無道むだう餘忿よふんらせども、源氏の勢は日に加はるばかり、覺束なき行末を夢に見て其年も打ち過ぎつ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
容器を熔融水晶ようゆうすいしょうで作ることはあまりめずらしくないとして、そのえだの管から導線を引き出す場合、絶対に空気がれず
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
旅宿やど三浦屋みうらやと云うに定めけるに、ふすまかたくしてはだに妙ならず、戸は風りてゆめさめやすし。こし方行末おもい続けてうつらうつらと一夜をあかしぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ひらけたる所は月光げつくわうみづの如く流れ、樹下じゆか月光げつくわうあをき雨の如くに漏りぬ。へして、木蔭をぐるに、灯火ともしびのかげれて、人の夜涼やれうかたるあり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
わたしも青年の頃、ご多分にれず、あゆを心ゆくまで食いたいと夢にまでみた時代があった。この夢を実現したのは二十四、五歳のころであったろうか。
鮎の試食時代 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
秀吉は、そのくびすを、反対のほうへめぐらして、途中から次第に歩速を大股に運んでいた。営中、幾棟にもわかれている仮屋の一つに、燈火ともしびの影がれていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうすると杉の枝が天をおおうて居るので、月の光は点のように外にれぬから、暗い道ではあるが、忽ち杉の木の隙間すきまがあって畳一枚ほど明るく照って居る。
句合の月 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
天台宗てんだいしゆう寺院じいんは、高地こうちおほまうけてあるが、火山かざんもまた彼等かれらせんれなかつた。したがつてめづらしい火山現象かざんげんしようの、これ僧侶そうりよによつて觀察かんさつせられたれいすくなくない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「おしお、もう何にも言ってくれるな」と、小平太は相手の顔を見ぬように、目眩まぶしそうに眼をそらしながら言った。「わしは、わしは討入うちいりの数にれたのだ!」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
しかし天皇はそれでも寸分すんぶんもおいといにならないで、雨がひどく降るたんびには、おへやの中へおけをひき入れて、ざあざあとり入るあまもれをお受けになり
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
かれ擧動きよどうほとん發作的ほつさてきであつた。おつぎのこゑころしてこゑ隙間すきまだらけなそとえ/″\にれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しこうして先生は二人のほか何人なんびとにも示さざれば決して他にるるはずなきに、往々これを伝写でんしゃして本論は栗本氏等の間に伝えられたるものなりなどの説あるを見れば
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
いつも、あきになるといふと、こゝろをめちゃくちゃにする、そのあきはまたやつてたとおもふ。木立こだちのあひだから、れてさしてつきかげが、いろかはつてかんじられる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
無名島に上陸した無名丸の乗組のうちに、書きらされた存在として、柳田平治と、金椎キンツイとがあります。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
われ汝等おぬしら確執なかたがひ等閑なほざり視過みすごしたるつみによって、近親うから二人ふたりまでもうしなうた。御罰ごばつれたるものはない。
「ところが、それも出来かねるわけがあるのよ——何しろ、この事が、世間にれたら、恐ろしいことになるので、どこまでも、穏便おんびん、穏便——と、いうわけじゃ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
プウル夫人は安全な人だよ——祕密をらさんし、落ついてゐるよ。あの人は信用されても大丈夫だ。
女はお光を見て、微笑びせうらしつゝ、立つて行つたが、やがて荒い格子縞かうしゞま浴衣ゆかたを二組持つて來て
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
健康そうな肢体したいと、豊かなパーマネントの姿は、明日の新しいタイプかとちょっと正三の好奇心をそそった。彼は彼女たちの後を追い、その会話をれ聴こうと試みた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
花を研究してみると、なかなか興味のあるもので、ナデシコなどもその例にれなく、もしも今昆虫が地球上におらなくなったら、植物で絶滅するものが続々とできる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
しかるに学校にりて多年蒐集しゅうしゅうしたる智識をば一旦業をえ校門をずると同時に、そのすべてを失却するもの甚だ多い。仏国ふっこくの如きこの例にれざるものと言うべきである。
教育の最大目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
時々汚ない服装なりの、ひとのおかみさんとも見える若い女が訪ねて来ることがあつたが、それが近所の安淫売やすいんばいだつたと云ふことが、後になつて無口の女中かららされてゐた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
あるい畳針たたみばりかって来て畳のおもてえ、又或は竹を割っておけたがを入れるような事から、そのほかの破れ屋根のりを繕うまで当前あたりまえの仕事で、皆私が一人ひとりでして居ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ほんたうに小米さんの様な温順やさしい人はありませんでしたよ」と、花吉は、吐息といきらしぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかしその子犬は、石段の上の見えないところかられてくる口笛を目当てに急いでいた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
しかしまあ当分害がなかろうからここに居るがよいというような事を暗々裡あんあんりらされた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そうして、それが本当のくちびるかられ出るようにわたしの胸の奥にひびくのでした。
所詮ながい間の空想を實現させたので、無論父にも義母はゝにも無斷だ。彼は此の突飛とつぴきはまる行動に、勝見の一をまごつかせて、年來ねんらい耐へに耐へた小欝憤せうゝぷんの幾分をらしたのである。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)