此方こち)” の例文
ロレ (傍を向きて)それはおそうせねばならぬ仔細わけが、此方こちわかってをらなんだらなア!……あれ、御覽ごらうぜ、ひめ此庵こゝにわせられた。
番頭久八は大いに驚き主人五兵衞へ段々だん/\詫言わびごとに及び千太郎には厚く異見いけんを加へ彼方あち此方こち執成とりなしければ五兵衞も漸々やう/\いかりを治め此後を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
風情ふぜい一段いちだんで、みぎはには、所々ところ/″\たけひく燕子花かきつばたの、むらさきはなまじつて、あち此方こちまたりんづゝ、言交いひかはしたやうに、しろはなまじつてく……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もとより此方こちで取るはずなればりもせぬ助太刀頼んで、一人の首を二人で切るような卑劣けちなことをするにも当らないではありませぬか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「それが皆んな、あの娘の潔白のせゐとも言へるぢやありませんか。おびえきつた小娘は、何をやらかすか、此方こちとらには見當もつきませんよ」
母樣はゝおやは子に甘きならひ、聞く毎々こと/″\に身にしみて口惜しく、父樣とゝさんは何と思し召すか知らぬが元來もと/\此方こちから貰ふて下されと願ふて遣つた子ではなし
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此方こち向けば子鴉あはれ、其方そち向けば犬の子あはれ。二方ふたかたの鳥よけものよ。ひとしけくかはゆきものを、同じけくかなしきものを、いづれきいづれ隔てむ。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
茂「そうサ、自分が調べられるのじゃアないからのこった、此方こちとらはまかり間違えば捕縛ふんじばられるのだからおっかねえ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ええ、長いこと、庭の彼方あち此方こちを、おひとりで歩いていらっしゃいましたが、そのうちに、お山の大日堂の縁に、お休みになっているふうでした」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくら釣っても、ざすふなはかゝらず、ゴタルと云うはぜの様な小魚こざかなばかり釣れる。舟を水草みずくさの岸にけさして、イタヤの薄紅葉うすもみじの中を彼方あち此方こちと歩いて見る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
い所でお目に懸りましたこと。急にお話を致したい事が出来ましたので、まあ、ちよつ此方こちへ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
降らぬやうに祈るぞと云しが山下やまおろしの風の音雨と聞なされてさむること度々たび/\なり果して夜半に雨來る彼方あちに寐がへり此方こちに寐がへり明日あすこゝに滯留とならば我先づ河原へ出て漁者を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
なぜ夫である眠元朗があちゆき此方こちゆきしているかを見なければならなかったか。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「お光坊何を案じて居るの。何を考えて居るの。真正ほんのお父さんお母さんに逢いたいの。何が悲しいの。お泣きでないよ、わたしたちが見て居るよ」といい顔にじっと此方こちを眺めて居る。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
『疊たゝいて此方こちひと——これ、此方の人、此方の人ッたら、ホホヽヽヽヽ。』
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
現に僕が関係してゐる会社では三四の同業者があるから合同して大きな工場を建てたら如何どうだといふ意見を持出した処が、此方こちの会社が十分優勢を占めてるのに以ての外だと排斥されて了つた。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
日下部の 此方こちの山
ロミオ なう、しかってくださるな。此度こんどをんなは、此方こちおもへば、彼方あちでもおもひ、此方こちしたへば、彼方あちでもしたふ。以前さきのはさうでかった。
何様しても彼様しても温順すなほ此方こちの身を退くより他に思案も何もない歟、嗚呼無い歟、といふて今更残念な、なまじ此様な事おもひたゝずに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
母親はゝおやあまきならひ、毎々こと/″\にしみて口惜くちをしく、父樣とゝさんなんおぼすからぬが元來もと/\此方こちからもらふてくだされとねがふてつたではなし
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此方こち向けば子鴉あはれ、其方そち向けば犬の子あはれ。二方ふたかたの鳥よけものよ。ひとしけくかはゆきものを、同じけくかなしきものを、いづれきいづれ隔てむ。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ここへ来るなり睡たさに、小犬のように垣の根に眠ってしまった乙若を揺り起して、三人の母はまた、まだ遠方おち此方こちに残る雪明りを頼りに、何処ともなく立去った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其安穏寺のぼうさんであろう、紫紺しこんの法衣で母屋おもやの棺の前に座って居るのが、此方こちから見える。棺は緑色のすだれをかけた立派な輿こしに納めて、母屋の座敷の正面にえてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
悪い商人は、こんな駆引かけひきで、表店の大だなを乗っ取る手もあるんですね、そこへ行くと此方こちとらは
旦那を殺すの恥を掻かせるのとはなんのことでござんす、此方こちとらア自分の命を棄てゝも旦那を助ける覚悟だ、又一旦思い込んだこた一寸いっすんあと退かねえ此の亥太郎でござんすぜ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『畳たゝいて此方こちひとオ——これ、此方こちの人、此方こちの人ツたら、ホホヽヽヽヽ。』
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
此方こち昔馴染むかしなじみのヸーナス殿どのめさっしゃい、乃至ないし盲目めんない息子殿むすこどのれいのコーフェーチュアのわうさんが乞食娘こじきむすめれた時分じぶん
名さへ響かぬのつそりに大切だいじの仕事を任せらるゝ事は檀家方の手前寄進者方の手前も難しからうなれば、大丈夫此方こちいひつけらるゝに極つたこと
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
みんなわたし恩人おんじんといふてい、いまこのやうに女中ぢよちゆうばかりあつまつて、此方こち奧樣おくさまぐらゐひとづかひのかたいとうそにもよろこんだくちをきかれるは
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼方あち此方こちも養蚕前の大掃除おおそうじ蚕具さんぐを乾したり、ばた/\むしろをはたいたり。月末には早いとこではき立てる。蚕室をつ家は少いが、何様どんな家でも少くも一二枚わぬ家はない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やつこらさと飛んでりれば吾妹子わがもこがいぢらしやじつと此方こち向いて居り
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
吉「なアに此方こちとらア信心したって神様が……」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此方こちの心が醇粋いっぽんぎなれば先方さきの気にさわる言葉とも斟酌しんしゃくせず推し返し言えば、為右衛門腹には我を頼まぬが憎くていかりを含み、わけのわからぬ男じゃの
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此方こなたは言葉もなく袖をとらへて駆け出せば、息がはづむ、胸が痛い、そんなに急ぐならば此方こちは知らぬ、お前一人でおいでと怒られて、別れ別れの到着
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
野分だつ薄の風に此方こち向きて子鴉が啼くよ口赤くけて
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
梅「さア此方こちへお這入んなさい」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此方こなた言葉ことばもなくそでとらへてせば、いきがはづむ、むねいたい、そんなにいそぐならば此方こちらぬ、おまへ一人ひとりでおいでおこられて、わかわかれの到着とうちやく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
名さえ響かぬのっそりに大切だいじの仕事を任せらるることは檀家方の手前寄進者方の手前もむつかしかろうなれば、大丈夫此方こちいいつけらるるにきまったこと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
結構人けつこうじん旦那だんなどの、うぞしたかとおひのかゝるに、いえ、格別かくべつことでも御座ござりますまいけれど、仲町なかまちあねなにやら心配しんぱいことるほどに、此方こちからけばいのなれど
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
火は別にとらぬから此方こちへ寄るがよい、と云ひながら重げに鉄瓶を取り下して、属輩めしたにも如才なく愛嬌を汲んでる桜湯一杯、心に花のある待遇あしらひは口に言葉の仇繁きより懐かしきに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
夫れでも此方こちどものつむりの上らぬは彼の物の御威光、さりとは欲しや、廓内なかの大きいうちにも大分の貸付があるらしう聞きましたと、大路に立ちて二三人の女房よその財産たからを數へぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わしが無理借りに此方こちへ借りて来て、七ツさがりの雨と五十からの芸事、とても上りかぬるとそしらるるをかまわず、しきりに吹習うているうちに、人の居らぬ他所よそへ持って出ての帰るさに取落してしもうた
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでも此方こちどものつむりの上らぬはあの物の御威光、さりとは欲しや、廓内なかの大きいうちにも大分の貸付があるらしう聞きましたと、大路に立ちて二三人の女房よその財産たからを数へぬ。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
堪忍をし、何と思つても先方さきは大勢、此方こちは皆よわい者ばかり、大人でさへ手が出しかねたにかなはぬは知れてゐる、それでも怪我のないは仕合しあはせ、この上は途中の待ぶせが危ない
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
書けと仰しやれば起證でも誓紙でもお好み次第さし上ませう、女夫めをとやくそくなどと言つても此方こちで破るよりは先方樣の性根なし、主人もちなら主人がこはく親もちなら親の言ひなり
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
書けとおつしやれば起証でも誓紙でもお好み次第さし上ませう、女夫めをとやくそくなどと言つても此方こちで破るよりは先方様さきさまの性根なし、主人もちなら主人がこわく親もちなら親の言ひなり
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けとおつしやれば起證きせうでも誓紙せいしでもおこの次第しだいさしあげませう、女夫めをとやくそくなどとつても此方こちやぶるよりは先方樣さきさま性根せうねなし、主人しゆじんもちなら主人しゆじんこわおやもちならおやひなり
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
白粉おしろいをつけぬがめつけものなれど丸髷まるまげおほきさ、ねこなでごゑしてひとぬをもかまはず、大方おほかた臨終おしまいかね情死しんじうなさるやら、れでも此方こちどものつむりあがらぬはもの御威光ごいくわう、さりとはしや
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
されどもれは横町よこてううまれて横町よこてうそだちたる地處ぢしよ龍華寺りうげじのもの、家主いゑぬし長吉ちようきちおやなれば、おもてむき彼方かなたそむことかなはず、内々ない/\此方こちようをたして、にらまるゝとき役廻やくまわりつらし。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
聞く毎々ことごとに身にしみて口惜くちをしく、父様ととさんは何とおぼし召すか知らぬが元来もともと此方こちから貰ふて下されと願ふて遣つた子ではなし、身分が悪いの学校がどうしたのと宜くも宜くも勝手な事が言はれた物
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)