たなそこ)” の例文
此君このきみにして此臣このしんあり、十萬石じふまんごく政治せいぢたなそこにぎりて富國強兵ふこくきやうへいもとひらきし、恩田杢おんだもくは、幸豐公ゆきとよぎみ活眼くわつがんにて、擢出ぬきんでられしひとにぞありける。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そう言う男の子のたなそこを見ると、キラリと小粒が一つ、お静の繁代は、半十郎に追われると知って、里の子に違った道を教えさしたのでしょう。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
一切のあぢはひは水をらざれば其の味を発する能はず。人若し口の渇くこと甚しくして舌のかわくこと急なれば、熊のたなそこも魚のあぶらみも、それ何かあらん。
(新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ところがれは、町奉行まちぶぎやうといふおも役目やくめうけたまはつて、おほくの人々ひと/″\生殺與奪せいさつよだつけんを、ほそたなそこにぎるやうになるとたちまち一てんして、れの思想しさう
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
中臣の遠祖が、あめノ二上に求めた天ノ八井やゐの水は、峰を流れ降つて、此岩にあたつてたぎち流れる川なのであらう。姫は瀬音のする方に向いてたなそこを合せた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
片手を男の肩に置いて、片手で男の髪をまさぐるのが癖であつた。足を横に投出して、片手でヒタヒタと乳のあたりを叩くのも癖であつた。人を打つたなそこは痛かつた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
くしをしまいて、紙に手をふきふき、鏡台の前に立ちし千鶴子は、小さき箱のふたを開きて、たなそこに載せつつ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
されば女人によにんの御身として、かかる濁世末代ぢよくせいまつだいに、法華經を供養しましませば、梵王ぼんわう天眼てんがんを以て御覽じ、帝釋たいしやくたなそこを合せてをがませたまひ、地神ちしん御足みあしをいただきてよろこ
忽ちにして歌ふこと一句、忽にして又かなづること一節。農夫どもはたなそこ打ち鳴しつ。母上は立ちとまり給ひぬ。この時童の歌ひたる歌こそは、いたく我心を動かしつれ。あはれ此歌よ。
権作爺ごんさくおやぢ幾度いくたびも何か言はんと欲してつひに言ふことあたはざりき、粟野のかたへ雪踏み分けて坂路を辿たどる篠田の黒影見えずなる迄、月にすかして見送りぬ、涙にかすむ老眼、硬きたなそこに押しぬぐひつつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
黒の十徳じっとくに、黄八丈きはちじょうの着付け、紫綸子りんずの厚いしとねの上に坐って、左手ゆんでたなそこに、処女の血のように真赤に透き通る、わたり五分程の、きらめく珠玉たまを乗せて、明るい灯火にかざすように、ためつ、すがめつ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
卵探すとたなそこ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
女は、帯にも突込つっこまず、一枚たなそこに入れたまま、黙って、一帆に擦違すれちがって、角の擬宝珠ぎぼしゅを廻って、本堂正面の階段の方へ見えなくなる。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中臣・藤原の遠祖が、天二上あめのふたかみに求めた天八井あめのやいの水を集めて、峰を流れ降り、岩にあたってみなぎたぎつ川なのであろう。瀬音のする方に向いて、姫は、たなそこを合せた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ウム、如何にも、いやしくも将門、刹帝利さつていり苗裔べうえい三世の末葉である、事をぐるもいはれ無しとはいふ可からず、いで先づたなそこに八箇国を握つて腰に万民を附けん、と大きく出た。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
よるべなきみなしごなりし生立おひたちより、羅馬にてアヌンチヤタと相識り、友なりけるベルナルドオを傷けて、拿破里に逃れ去りし慘劇まで、涙と共に語り出でしに、可憐なるマリアのたなそこを組合せて
国境の山、赤く、黄に、峰岳みねたけを重ねてただれた奥に、白蓮の花、玉のたなそこほどに白くそびえたのは、四時しじに雪を頂いて幾万年の白山はくさんじゃ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姫は身をこゞめて、白玉を拾ふ。拾うても/\、玉は皆たなそこに置くと、粉の如く砕けて、吹きつける風に散る。其でも、玉を拾ひ続ける。玉は水隠みがくれて見えぬ様になつて行く。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
国境の山、赤く、黄に、みねたけを重ねてただれた奥に、白蓮びゃくれんの花、玉のたなそこほどに白くそびえたのは、四時しじに雪を頂いて幾万年いくまんねん白山はくさんぢや。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
姫は身をこごめて、白玉を拾う。拾うても拾うても、玉は皆、たなそこに置くと、粉の如く砕けて、吹きつける風に散る。其でも、玉を拾い続ける。玉は水隠みがくれて、見えぬ様になって行く。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
長刀なぎなた朽縁くちえんに倒れた。その刃のひらに、雪のたなそこを置くばかり、たよたよと崩折くずおれて、顔に片袖をおおうて泣いた。身の果と言う……身の果か。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さそくに後をひしと閉め、立花はたなそこに据えて、ひとみを寄せると、軽くひねった懐紙ふところがみ二隅ふたすみへはたりと解けて、三ツうつくしく包んだのは、菓子である。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左手ゆんでひじ鍵形かぎなりに曲げて、と目よりも高く差上さしあげた、たなそこに、細長い、青い、小さなびんあり、捧げて、俯向うつむいて、ひたい押当おしあ
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
榎の葉蔭に、手の青い脈を流れて、すぐ咽喉のどへ通りそうに見えたが、もうとすると、たなそこが薄く、玉の数珠じゅずのように、しずくが切れて皆こぼれる。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
滝太郎は左右をみまわし、今度ははばからず、袂から出して、たなそこに据えたのは、薔薇ばらかおり蝦茶えびちゃのリボン、勇美子が下髪さげがみを留めていたその飾である。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼻の筋通りたれば、額より口のあたりまで、顔は一面の鼻にして、痩せたるほおは無きが如く、もしたなそこを以て鼻をおおえば、乞食僧の顔は隠れ去るなり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渠がかくのごとくなす時は、二厘三厘思い思いに、そのたなそこに投げ遣るべき金沢市中の通者とおりものとなりおれる僥倖ぎょうこうなるおのこなりき。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遊好あそびずきの若様は時間に関らず、横町で糸を切って、勇美子の頭飾かみかざりをどうして取ったか、人知れずたなそこもてあそんだ上に、またここへ来てその姿をあらわした。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巻莨まきたばこの手を控へたなそこに葉を撫して、なんぞ主人のむくつけき、何ぞ此の花のしをらしきと。主人大いに恐縮して仮名の名を聞けば氏も知らずと言はる。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一散いっさんげもならず、立停たちどまったかれは、馬の尾に油を塗って置いて、鷲掴わしづかみのたなそこすべり抜けなんだを口惜くちおしく思ったろう。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(腰をかがめつつ、おさうるがごとくたなそこを挙げて制す)何とも相済まぬ儀じゃ。海の住居すまい難有ありがたさにれて、蔭日向かげひなた、雲の往来ゆききに、うしおの色の変ると同様。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むむ、なんしろ一番糺明ただして見ようと、たなそこを高く打鳴らせば、ややありて得三の面前に平伏したるは、当家に飼殺しの飯炊にて、お録といえる老婆なり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たちあがりてゆくてを見れば、左右より小枝を組みてあわいもかで躑躅咲きたり。日影ひとしお赤うなりまさりたるに、手を見たればたなそこに照りそいぬ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たちあがりてゆくてを見れば、左右より小枝を組みてあはひもかで躑躅つつじ咲きたり。日影ひとしほあこうなりまさりたるに、手を見たればたなそこに照りそひぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
時に、妙法蓮華経薬草諭品みょうほうれんげきょうやくそうゆほん第五偈だいごげなかばを開いたのを左のたなそこささげていたが、右手めていた力杖ステッキを小脇に掻上かいあ
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが指のさき少しく灰にまみれたれば、小親手首を持添えて、たなそこをかえしてじっと見つ。下着の袖口引出ひきいだして払い去るとて、はらはらと涙をぞ落したる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手毬を取って、美女たおやめは、たなそこの白きが中に、魔界はしかりや、紅梅の大いなるつぼみ掻撫かいなでながら、たもとのさきを白歯しらはで含むと、ふりが、はらりとたすきにかかる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俯向うつむきざまたなそこすくいてのみぬ。清涼きくすべし、この水の味はわれ心得たり。遊山ゆさんの折々かの山寺の井戸の水試みたるに、わが家のそれとことならずよく似たり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美女たおやめはその顔を差覗さしのぞ風情ふぜいして、ひとみを斜めにと流しながら、華奢きゃしゃたなそこかろく頬に当てると、くれないがひらりとからむ、かいなの雪を払う音、さらさらと衣摺きぬずれして
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はた袈裟けさつたかづらをけて、はち月影つきかげかゆけ、たなそこきりむすんで、寂然じやくぜんとしてち、また趺坐ふざなされた。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お妻は懐紙の坊さん(そのことばに従う)を一人、指につまんでいった。あと連は、たなそこの中に、こそこそ縮まる。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かくして少年ははたたなそこってちりを払ったが、吐息をいて、さすがに心ゆるみ、力落ちて、よろよろと僵れようとして、息も絶々たえだえなお雪を見て、眉をひそめて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
歩をずる足のそれよりも重かりしよ。掻いずるたなそこを、吸い取るばかり、袖、たもといたく夜露に濡れたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
情人いいひとらしく扱われたような気がして? そんな負惜みをお言いなさんなよ。」軽く卓子台ちゃぶだいたなそこで当てて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一度でも忘れると、たなそこをめぐらさず、田地田畠、陸は水になる、沼になる、ふちになる。幾万、何千の人の生命いのち——それを思うと死ぬるも死切れぬと、呻吟うめいてもがく。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人がたなそこ左右より、ミリヤアドの胸おさえたり。また一しきり、また一しきり大空をめぐる風の音。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高津の手なる桃色の絹の手巾ハンケチは、はらりとたなそこに広がりて、かろくミリヤアドの目のあたりぬぐいたり。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あきなひに出づる時、継母の心なくかつて炭を挽きしまゝなる鋸を持たせしなれば、さは雪の色づくを、少年は然りとも知らで、削り落し払ふまゝに、雪の量はたなそこに小さくなりぬ。
紫陽花 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
出家は、真直まっすぐに御廚子みずしの前、かさかさと袈裟けさをずらして、たもとからマッチを出すと、伸上のびあがって御蝋おろうを点じ、ひたいたなそこを合わせたが、引返ひきかえしてもう一枚、たたずんだ人の前の戸を開けた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ソッと抜くと、たなそこに軽くのる。私の名に、もし松があらば、げにそのままの刺青いれずみである。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)