ふく)” の例文
山陽は母梅颸ばいしに「辰のかはり」が出来たと報じた。山陽の子は三男ふくと此醇とが人と成つた。九月には竹原にある叔父春風が歿した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
不意に陽がかげって頭の上へおおいをせられたような気がするので、なんふくっているろばから落ちないように注意しながら空を見た。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
けれども見物の邪魔になるとわるいと思つたのであらう。柵を離れて芝生のなかへ引き取つた。二人ふたりの女も元の席へふくした。砲丸は時々とき/″\げられてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その挙止きょし活溌かっぱつにして少しも病後びょうご疲労ひろうてい見えざれば、、心の内に先生の健康けんこう全くきゅうふくしたりとひそかに喜びたり。
桂木は其のまざるぜんの性質にふくしたれば、貴夫人がなさけある贈物にむくいるため——函嶺はこねを越ゆる時汽車の中でつた同窓の学友に、何処どちらへ、と問はれて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
巫女くちよせばあさんの姿勢しせいはこはなれて以前いぜんふくしたとき抑壓よくあつされたやうにつてすべてがにはかにがや/\とさわした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
翌日はたたかいだった。波〻伯部は戸倉を打って四十二歳で殺されたしゅの仇をふくしたが、管領の細川家はそれからは両派が打ちつ打たれつして、滅茶苦茶になった。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
死んだ様に止まっていた呼吸が元にふくすると、前にもましたはげしい息遣いで、彼の全身が波打った。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此時このときさき端艇たんてい指揮しきして、吾等われら兩人りやうにんすくげてれた、いさましき虎髯大尉こぜんたいゐは、武村兵曹たけむらへいそうわたくしやうや平常へいじやうふくした顏色かほいろて、ツトすゝめた、微笑びせううかべながら
そして、義貞や君側の讒臣ざんしんを打つのが初志しょしでありますから、もし龍駕りゅうがを都へおかえしあるなら、よろこんで奉迎し、過去を問わず、大方の者は、本官本領にふくし、かつまた
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
審問しんもんすゝめることが出來できない』と王樣わうさまきはめて嚴格げんかくこゑで、『陪審官ばいしんくわんのこらずその位置ゐちふくするまでは——のこらず』とすこぶことばつよめて繰返くりかへし、屹然きつとあいちやんのはう御覽ごらんになりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
幕府の末年に強藩の士人等が事をげて中央政府に敵し、そのこれに敵するの際に帝室ていしつ名義めいぎを奉じ、幕政の組織を改めて王政のいにしえふくしたるそのきょなづけて王政維新おうせいいしんと称することなれば
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
解禁かいきん確定かくていした今日こんにちおいては日本にほん貨幣價値くわへいかちもとふくして百ゑん貨幣くわへいは百ゑん通用つうようするやうになつてまへれいげた一ヤール五ゑん五十五せん輸入ゆにふ羅紗ラシヤは五ゑんへるやうになつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
道子ハソノ間苦シミニ苦シンデ居タヨウデシタガ、ソノうち、清三ガ意識ヲふくシテ動クヨウデシタカラ、思イ切ッテ、道子ノ心臓ト思ウトコロヲ一刺ニ刺シテ此ノ女ヲヤッツケテシマッタノデス。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
大食の習慣しふかん今日にいたりても未だ全くきうふくせざるなり、食事おはればれいにより鹽原巡査の落語らくごあり、衆拍手して之をく、為めにらうなぐさめて横臥わうぐわすれば一天すみの如く、雨滴うてき点々てん/\木葉を乱打らんだし来る
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
〔評〕政府郡縣ぐんけんふくせんと欲す、木戸公と南洲と尤も之を主張す。或ひと南洲を見て之を説く、南洲曰くだくすと。其人又之を説く、南洲曰く、吉之助の一諾、死以て之を守ると、他語たごまじへず。
もなく小隊せうたい隊形たいけいふくしてうごした。が、兵士達へいしたち姿すがたにはもうつかれのいろねむたさもなかつた。彼等かれら偶然ぐうぜん出來事できごとへんてこに興奮こうふんして、わらつたり呶鳴どなつたり、あがつたりしてはしやいでゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「鉱山の悪霊あくりょうふくしゅうをしたのだ」と一人がさけんだ。
「是からはなすから、まあもとの通りの姿勢にふくしてください。さう。もう少しひぢを前へして。それで小川さん、僕のいたが、実物の表情通り出来てゐるかね」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ふくあざな士剛しかう、号は支峰である。里恵りゑの生んだ所の男子で、始て人と成ることを得たのは此人である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
政雄はその日からばかのようになって雑貨店の二階に寝ていたが、十日位してやっと精神が平常もとふくして来た。精神が平常もとに復して来ると安閑あんかんとしてはいられなかった。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あるばん勘次かんじはがらつとけてた。はげしくけたやゝけたしきゐみぞはづれようとしてぎつしりと固着こちやくした。かれ苛立いらだつてたゝいてみぞふくすとまゝした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
やがて先生ふくされ、予、近日の飲食いんしょく御起居ごききょ如何いかんと問えば、先生、左右さゆうの手をりょうそでのうちに入れ、御覧ごらんの通りきものはこの通り何んでもかまいませぬ、食物はさかなならび肉類にくるいは一切用いず
翌朝よくてうになつてると、海潮かいてうほとん平常へいじやうふくしたが、見渡みわたかぎり、海岸かいがんは、濁浪だくらう怒濤どたうためあらされて、昨日きのふうるはしく飾立かざりたてゝあつた砂上しやじやう清正きよまさ人形にんぎようも、二見ふたみうら模形もけいも、椰子林やしばやし陣屋ぢんや
山陽の歿後京都の頼氏には、三十六歳の里恵、十歳のふく、八歳のじゆん、三歳のやうが遺つてゐた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
宗助そうすけ加減かげんころ見計みはからつて、丁寧ていねいれいべてもとせきふくした。主人しゆじん蒲團ふとんうへなほつた。さうして、今度こんど野路のぢそら云々うん/\といふ題句だいくやら書體しよたいやらにいてかたした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)