年紀とし)” の例文
「ええ、驚かしゃあがるな。」と年紀としにはない口を利いて、大福餅が食べたそうに懐中ふところに手を入れて、貧乏ゆるぎというのをる。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
話はすこし昔にかえるが、この女は二十五の年紀としに、たった一月ひとつきのうちに、その父親と夫と、生れたばかりの赤ン坊を亡くしてしまったのだった。
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
年紀としかい、二十五だと聞いたが、さう、やうやう二三とよりは見えんね。あれで可愛かはゆい細い声をして物柔ものやはらかに、口数くちかずすくなくつて巧いことをいふこと、恐るべきものだよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それにしても年紀としなり風度ようすなりえばあどけないような所ろから見て、そんなはずはあるまい/\に打消されて、内実どこまでも無垢不染むくふぜんの者にして自分の手に入れたかったのだ、否
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
年紀としは十六七でネ、随分別品べっぴんは……別品だッたけれども、束髪の癖にヘゲル程白粉おしろいけて……薄化粧なら宜けれども、あんなに施けちゃア厭味ッたらしくッてネー……オヤ好気なもんだ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
も紅も似合うものを、浅葱だの、白の手絡てがらだの、いつも淡泊あっさりした円髷まるまげで、年紀としは三十を一つ出た。が、二十四五の上には見えない。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも、そうした年紀としではなし、今頃はもう左衛門で、女房の実の名も忘れているほどであるから、民弥は何の気も無さそうに
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの、いつか通った時、私くらいな年紀としの、綺麗な姉さんが歩行あるいていなすった、あすこなんでしょう、そうでございますか。」
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこへ……いまお道さんが下りました、草にきれぎれの石段を、じ攀じ、ずッとあがって来た、一個ひとり年紀としわか紳士だんながあります。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そこでございます、御新姐ごしんぞはな、年紀としは、さて、たれが目にも大略たいりゃくは分ります、先ず二十三、四、それとも五、六かと言うところで、」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本堂ほんだうぬかづてて、ちてきざはしかたあゆでたるは、年紀としはやう/\二十はたちばかりとおぼしき美人びじんまゆはらひ、鐵漿かねをつけたり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
念のために容子ようすを聞くと、年紀としは六十近い、被布ひふを着ておらるるが、出家しゅっけのようで、すらりと痩せた、人品じんぴん法体ほったいだという。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てまえのそのたわけさ加減、——ああ、御無事を祈るに、お年紀としも分らぬ、貴辺の苗字だけでもうかがっておこうものを、——心着かぬことをした。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
途端に引込ひっこめた、年紀としの若い半纏着はんてんぎの手ッ首を、即座の冷汗と取って置きの膏汗あぶらあせで、ぬらめいた手で、夢中にしっかと引掴ひッつかんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さっと開いたふすまとともに、唐縮緬めりんす友染の不断帯、格子の銘仙めいせんの羽織を着て、いつか、縁日で見たような、三ツ四ツ年紀としけた姿。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年紀としは十五より十八まで、当世顔は少し丸く、色は薄花桜うすはなざくらにして面道具おもてだうぐの四つ不足なく揃ひて、目は細きを好まず、眉濃く
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わしは今のおことばで、決して心配はしますまい。現に朝夕飲んでおらるる、——この年紀としまで——(と打ちまもり)お幾歳いくつじゃな。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勇美子は年紀としも二ツばかり上である。去年父母に従うてこの地に来たが、富山より、むしろ東京に、東京よりむしろ外国に、多く年月を経た。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
国麿くにまろという、もとの我が藩の有司のの、われより三ツばかり年紀としたけたるが、鳥居のつきあたりなる黒の冠木門かぶきもんのいといかめしきなかにぞすまいける。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう三十を幾つも越した年紀としごろから思うと、小児こどもの土産にする玩弄品おもちゃらしい、粗末な手提てさげを——大事そうに持っている。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お蔦はに落ちない容子をして、売卜者うらないしゃは、年紀としを聞きゃしないかい。ええ、聞きましたから私の年を謂ってやりました。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人はさすが年紀としの功、こは癈疾かったいと棒ちぎり、身分に障ると分別して、素直に剰銭つりださるれば、丁寧にかずを検し、繻子しゅすの帯にきゅっとはさみぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年紀としは五十の前後ならむ、その顔に眼鏡を懸け、黒の高帽子をかぶりたるは、これぞ(ちょいとこさ)という動物にて、うわさせし人の影なりける。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、さもうれしそうに莞爾にっこりしてその時だけは初々ういういしゅう年紀としも七ツ八ツ若やぐばかり、処女きむすめはじふくんで下を向いた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ちよツ、馬鹿親仁ばかおやぢ。」と年紀としわかい、娑婆氣しやばツけらしい夥間なかま車夫わかいしゆが、後歩行うしろあるきをしながら、わたしはうへずつとつて
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
叔母には下枝しずえ、藤とて美しき二人の娘あり。我とは従兄妹いとこ同士にていずれも年紀としは我よりわかし。多くの腰元に斉眉かしずかれて、荒き風にも当らぬ花なり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、ものの本のうちに、同じような場面を読み、絵のおもてに、そうした色彩に対しても、おのずからおもての赤うなる年紀としである。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細君は名をおていう、年紀としは二十一なれど、二つばかり若やぎたるが、この長火鉢のむこうにすわれり。細面にして鼻筋通り、遠山の眉余り濃からず。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
肩幅広く、胸張りて、頬に肥肉ししつき、顔まろく、色の黒き少年なりき。腕力ちからもあり、年紀としけたり、門閥もたっとければ、近隣の少年等みな国麿に従いぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うちへ帰ってもあの年紀としで毎晩々々機織はたおりの透見をしたり、糸取場をのぞいたり、のそりのそりうようにして歩行あるいちゃ、五宿の宿場女郎の張店はりみせを両側ね
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小児こどもの内は間抜けのようだったけれど、すっかり人がかわって、癇癪持かんしゃくもちの乱暴な奴になったと見えるんだよ。……姉さん、年紀としがゆくと変るものかしら。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年紀としをしてしからず、色気いろけがある、……あるはいが、うぬ持余もてあました色恋いろこひを、ぬつぺりと鯰抜なまづぬけして、ひとにかづけやうとするではないか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
乞食僧はその年紀とし三十四五なるべし。寸々ずたずたに裂けたる鼠の法衣ころもを結び合せ、つなぎ懸けて、辛うじてこれをまとえり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岸を頼んだ若木の家造やづくり、近ごろ別家をしたばかりで、いたかやさえ浅みどり、新藁しんわらかけた島田が似合おう、女房は子持ちながら、年紀としはまだ二十二三。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女中も、服装みなり木綿もめんだが、前垂まえだれがけのさっぱりした、年紀としわかい色白なのが、窓、欄干を覗く、松の中を、じ上るように三階へ案内した。——十畳敷。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年紀としわかし……許嫁いひなづけか、なにか、へておもひとでも、入院にふゐんしてて、療治れうぢとゞかなかつたところから、無理むりとはつても、世間せけんには愚癡ぐちからおこる、人怨ひとうらみ。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
他人様の大切な娘を……妙齢としごろ十七八だって。(お月様いくつ)のほかに、年紀としばかりで唄になるのはその頃の娘なんだ。謡をうたうひまに拝んでるがい。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとうれしさうに莞爾にツこりして其時そのときだけは初々うゐ/\しう年紀としも七ツ八ツわかやぐばかり、処女きむすめはぢふくんでしたいた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
年紀としはようよう梓より二ツ上の姉が、両親の後を追って、清く且つ美しい一輪の椿、床の花瓶はないけをほつりと落ちた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ待て、先方さき七歳ななつの時から仏蘭西で育ったんなら、手前どものは六歳むッつ年紀としから仲之町なかのちょうで育ったんです、もっとも唯今ただいま数寄屋町すきやちょうりますがね。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年紀としの頃は十九か二十歳はたち、色は透通る程白く、鼻筋の通りました、やつれても下脹しもぶくれな、見るからに風の障るさえ痛々しい、くずの葉のうらみがちなるその風情。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これくら七戸前ななとまえめた口で、何だい、その言いぐさは、こう源坊、若いうちだぜ、年紀としは取るもんじゃあねえの。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あしわすれたか投出なげだした、こしがなくば暖簾のれんてたやうにたゝまれさうな、年紀としそれて二十二三、くちをあんぐりやつた上唇うはくちびる巻込まきこめやう、はなひくさ、出額でびたひ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「飛んでもない、私から見ると(二十一)だ。何でしたっけ、何だっけ……(年紀としは二十一愛嬌盛り。)……」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右手めてひっさげたる百錬鉄ひゃくれんてつつるぎは霜を浴び、月に映じて、年紀としれども錆色せいしょく見えず、仰ぐに日の光も寒く輝き候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
むずと羽掻はがいをしめて、年紀としは娘にしていい、甘温、脆膏ぜいこう胸白むなじろのこのかもを貪食した果報ものである、と聞く。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といいかけてまず微笑ほほえみぬ。年紀とし三十みそじに近かるべし、色白くかおよき女の、目の働き活々いきいきして風采とりなりきゃんなるが、扱帯しごききりりともすそを深く、凜々りりしげなる扮装いでたちしつ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其處そこ二十人にじふにんあまり、年紀としこそ十五六から三十ぐらゐまで、いろ/\にちがひましたが、みなそろつてうつくしい、ですが、悄乎しを/\としたをんなたちがましてね、いづれ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
足は忘れたか投出した、腰がなくば暖簾のれんを立てたようにたたまれそうな、年紀としがそれでいて二十二三、口をあんぐりやった上唇うわくちびるで巻込めよう、鼻の低さ、出額でびたい
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と平べったい、が切口上で、障子を半分開けたのを、孤家ひとつや婆々ばばあかと思うと、たぼの張った、脊の低い、年紀としには似ないで、くびを塗った、浴衣の模様も大年増。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)