なみ)” の例文
旧字:
そのときのようすなどがにうつると、ごろから、一つの風船球ふうせんだまにも、まずしいひとたちのなみならぬ労力ろうりょくが、かかっているとおもった。
おさくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なみ状袋じょうぶくろにも入れてなかった。また並の状袋に入れられべき分量でもなかった。半紙で包んで、封じ目を鄭寧ていねいのりり付けてあった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しょっちゅううしろから、戸に頭をぶつけてまで、「あのう、なみの食卓で召し上りますか、それとも、別にお一人分の食卓に致しましょうか」
なみの大きさの、しかも、すらりとした脊丈せたけになって、しょんぼりした肩の処へ、こう、おとがいをつけて、じっと客人の方を見向いた、その美しさ!
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アッチもコッチもとお菓子を慾張よくばってべこぼすのを野枝さんが一々拾って世話する処はやはり世間なみのお母さんであった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
とたんに、この大広間の一方から、手に手に大きな菓子折りを捧げたお坊主が多勢、ぞろぞろ出てきて、一つずつ、なみいる一同の前へ置いた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これは凡兆ぼんてうの付け方、いまだしきやうなり。されどこの芭蕉の句は、なかなか世間なみの才人が筋斗きんと百回した所が、付けられさうもないには違ひなし。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その晩、それを思い出すと、腹がたってたまらず、よし、おれでも、大人なみの遊びをするぞと、覚悟かくごをきめていた訳です。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ソンナ事を議論したり理窟を述べたりする学者も、矢張やはり同じことで、世間なみに俗な馬鹿毛ばかげた野心があるから可笑おかしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
早速さつそく停車場ステエシヨンから遠くない「伊太利亜イタリアホテル」へはひつて行つた。ベデカアで読んで置いた中位ちゆうぐらゐのホテルだ。二日ふつか以上なら下宿なみにすると主婦が言ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
子孫は、三河の松井田村で、土器師かわらけしをしていたが、見出されて、江戸に移り、旗本なみ目見得格めみえかくに取立てられて、屋敷を入谷いりやに、地を今戸に受けた。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瓦斯ガスと、水道が停ったことだけは、被害地なみであるけれども、此処の家には水道の外に井戸もあって、飲料その他の使い水には不自由をしないので
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これじゃあ俺もきっと船のボーイなみに扱われるだろうからねえ。だが、さあ、出かける用意をし給え。こうしちゃいられねえ。義務は義務だ、なあ君。
関翁は過日来足痛そくつうすこぶる行歩ぎょうぶなやんで居られると云うことをあとで聞いた。それに少しも其様な容子ようすも見せず、若い者なみに四里の往復は全く恐れ入った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
新吉原江戸町一丁目玉屋山三郎の方へ申こみ目見めみえを致させけるに容貌かほかたちも十人なみすぐれしかば大いに氣にいりだん/\懸合かけあひすゑねん一ぱい金五十兩と相談を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いや、金魚はよろしい。ぜひやらせなさい。なみの金魚はたいしたこともありますまいが、改良してどしどし新種を
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その人はいかなる人かと問うに、自分にはなみの人間と見ゆれど、ただたけきわめて高く眼の色少しすごしと思わる。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
然れども堺町役者共、町人なみ商売見世等を出し、奉公人抔も常に人を抱へ、役者とて一通りの町人等、下輩に取扱ふ事もならず、大概常の挨拶は同輩なり。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「竹内君のを私達のなみに下げよとは言はないから、私達のを竹内君並に引き上げなさい。よしか、判つたね。」
そく仕方しあげたに教育せられ薫陶くんとうせられた中から良妻賢母れうさいけんぼ大袈裟おほげさだがなみ一人前の日本にほん婦人が出て来るわけなら芥箱ごみばこの玉子のからもオヤ/\とりくわさねばならない
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
なみの席より尺余しゃくよゆかを高くして置いた一室と離屋はなれの茶室の一間とに、家族十人の者は二分にぶんして寝に就く事になった。幼ないもの共は茶室へ寝るのを非常に悦んだ。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
清岡は始めて君江を見た時、女給をした事がないというならば、どこかで芸者をしていた女だろうと想像した。容貌はまず十人なみで、これと目に立つ処はない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ほんとうに、んて因果いんがひとなんだろうね。かおりゃ、十にんなみの男前おとこまえだし上手じょうずだってはなしだけど、してることは、まるッきりなみ人間にんげんかわってるんだからね
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
 その見にくい手紙を書きしるいたものも人なみに眼が二つで耳まで口がさけて居らなんだが不思議じゃ。
胚胎 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
阿關おせきことなればなみ大底たいてい此樣こんことしさうにもなく、よく/\らさにたとえるが、して今夜こんやむこどのは不在るすか、なにあらたまつての事件じけんでもあつてか
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ハンコ代の五百円や六百円、何とも思つてやしませんから、町のハンコ屋より二割安くするなんて、そんな弱いことおつしやらないで、よそなみにお代はおとんなさいよ。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
唯ちよいと何時までも奉公人なみでは可哀想だから、後添に直すものなら直して、それからお菊さんの祝言も、母親といふことで世話をし度いと言つただけぢやありませんか。
段々準備が手おくれになって済まないが、なみの飯の方を好む人は、もう折詰の支度もしてあるから、別間の方へ来て貰いたいと云う事であった。一同鮓を食って茶を飲んだ。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
きつねのふしぎな宝物たからものさずかったせいでしょうか、きつね子供こども阿倍あべ童子どうじは、なみ子供こどもちがって、まれつきたいそうかしこくて、八つになると、ずんずんむずかしいほんみはじめ
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しろのまわりには、小石をならべたような町なみが、とおくまでつづいていました。そのすえは広々としたになって、一めんに、ぼうとかすんでいました。王子はただうっとりとながめていました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ゆえに余は余の日本国を愛すというはこれ決して余の徳を賞讃するにあらずして一人なみの人間として余の真情をひょうするなり、余は米国が日本にまさりて富を有し技芸のさかんなるを知る
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
上手じょうず」とか「下手へた」とかいう言葉は、直ちに手の技を語ります。「手がたい」とか「手なみがよい」とか、「手柄を立てる」とか、「手本にする」とか皆手にちなんだ言い方であります。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
相当さうたう身柄みがらいへそだつただけに青木さん夫婦ふうふ相方さうはう共に品のいい十人なみ容姿ようし持主もちぬしで、善良ぜんりやう性格せいかくながらまた良家りやうかの子らしい、矜と、いくらかえをるやうな氕質きしつもそなへてゐた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
十人なみの容貌を具えたるにいとど可憫ふびんの加わりて、如何いかで無事出獄の日には、わが郷里の家に養い取りて、一身いっしんの方向を授けやらばやと、両女を左右に置きて、同じく読書習字を教え
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「なにが変っているもんか。凧屋へ行きゃ、ひとつ二文で売っているなみ凧だ」
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
なみのお百姓では、そんなにチョイチョイ出て歩けるものではありません」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それと同じく人の容貌ようぼうを評するにも、よく十人なみという言葉を使う。これはすなわち美醜びしゅうの一人前という意味であるが、美醜の割り出しなどは、眼鼻めはな顔形かおかたちの寸法をはかって出来得るものでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
市民が爆弾を避けるにはかくも都合のよいところだし、それから又、外国の探偵小説なみに、地下鉄を取扱った面白い創作探偵小説が諸作家によって生れて来ることであろうし、結構なことである。
科学時潮 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
人世の困難に遭遇であって、独りで苦悩して独りで切抜けると云うは俊傑すぐれものる事、なみ通途つうずの者ならばそうはいかぬがち。自心に苦悩が有る時は、必ずその由来する所を自身に求めずして他人に求める。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いわば骨董が好きになって、やっと人間なみになったので、豚だの牛だのは骨董をひねくった例を見せていない。骨董を捻くり出すのは趣味性が長じて来たのである。それからまた骨董は証拠物件である。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あれ程のお方になると、なみの生活は、なさりかねると見えるの」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
なみならぬ悪寒は繰返し襲つて来ました、⦅私は死にます……⦆
一茶の句に「余所なみに面並べけり馬糞茸」というのがある。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
今ここへ来るのはなみの物ではありません。
それほどなみはずれた容貌ようぼうの持主でした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところで、さて働くとなると、なみの働き方よりも第二に近い方がいい、一歩進めて云えば第一に縁故のある方が望ましい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はまはうへ五六けんすゝむと、土橋どばし一架ひとつなみちひさなのだけれども、滑川なめりがはかゝつたのだの、長谷はせ行合橋ゆきあひばしだのと、おなじきこえた亂橋みだればしといふのである。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
身長なみ、痩せ形、髪くろく色白、右の眉尻に黒子ほくろ、他に特徴なし、年二十四、当時無宿、江戸浅草孔雀長屋人別えどあさくさくじゃくながやにんべつ紋日もんびとらろう娘、女賊見返りお綱。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども半之丞に関する話はどれも多少可笑おかしいところを見ると、あるいはあらゆる大男なみ総身そうみ智慧ちえが廻り兼ねと言うおもむきがあったのかも知れません。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
余の家にも他の若い者なみに仕事に来ることがある。五十そこらの、せて力があまりなさそうな無口な人である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)