おり)” の例文
おりるには桟橋もなし困つて居ると久太夫がいかりを向の岸へ投げ上げ綱を伝つて岸へ上り、荷物など皆な一人で世話して仕舞ひました。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
横にねて、ずりおりる子供の重みで、するりと半纏の襟がすべると、肩から着くずれがして、を一文字につッと引いた、ぬめのような肌が。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まくればなお盗賊どろぼうに追い銭の愚を尽し、勝てば飯盛めしもりに祝い酒のあぶくぜにを費す、此癖このくせ止めて止まらぬ春駒はるごま足掻あがき早く、坂道を飛びおりるよりすみやか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それに診察におりる以外には、少しでも動く事を禁じられてゐるので、終日いちんち蒲團の上にそつとしてゐなければならなかつた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
赤坂喰違あかさかくいちがいより麹町清水谷こうじまちしみずだにくだる急な坂、また上二番町辺樹木谷かみにばんちょうへんじゅもくだにおりる坂の如きは下弦の月鎌の如く樹頭に懸る冬の
しかし私は決して真夜中には下へ降りなかった——たとえ、人のよさそうな婆さんでも何だか空怖しい気がしておりる気になれない。婆さんの頭は白髪しらがである。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひっさげ刀で下へおりると、三人の悪浪人わるろうにんはいよ/\たけり立って、吸物椀を投付けなど乱暴をして居ります所へ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まるいなだらかな小山のような所をおりると、幾万とも数知れぬ蓮華草れんげそうあこう燃えて咲揃さきそろう、これにまた目覚めながらなわてを拾うと、そこはやや広い街道にっていた。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
其度に、馬丁は車からおりて、土の塊を押除けて、それから馬を驅つた。例の灰色の枯木が突立つた山々は何時の間にか後に隱れた。吾儕は緑色の杉林を見て通つた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
のぼる時は直立して天に向ふこゝは危なしおりんと云へど聞かぬ顏にていよ/\飛ばす山は恰もかけるが如く樹は飛が如くに見ゆ快といはば快爽と云ば爽なれどハツ/\と魂を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「お光、お銚子ちょうしが出来たよ」と二階の上口あがりくちを向いて呼んだ。「ハイ」とお光はおりて来て自分を見て
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
お互に、身近く立っていると、準之助氏は、さっき坂をおりるとき、手を取ってやった新子の雨にぬれた生暖かい肌の感触が、ゾッとするほど、心の中に生き返って来た。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
飛石とびいしの上に置徐々そろ/\おりて庭口と門のとびらを開きにぐる道を補理こしらへおきて元の座敷へ歸り喜内が寢息ねいきを考ふるに喜内の運の盡にや有けん正體もなく能寢入り居るにぞ吾助は心によろこび用意の刀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けれども橋をむかふわたつて、小石川のさかのぼる事はやめにしてかへる様になつた。あるときかれ大曲おほまがりの所で、電車をおりる平岡のかげを半町程手前からみとめた。かれたしか左様さうちがひないと思つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
治兵衛梅川などわが老畸人の得意の節おもしろく間拍子とるに歩行かちも苦しからず、じやの滝をも一見せばやと思しが、そこへもおりず巌角にいこひて、清々冷々の玄風げんぷうを迎へ、たいしづかに心のどかにして
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
私は急いで梯子段をおりると、蔵の外へ出て、その辺の暗闇へ、そっと身をひそめ、一つには、そうして女の顔をよく見覚えてやりましょうと、恨みに燃える目をみはったのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
馭丁ぎょていに「カバン」持たせてはしごを登らんとするほどに、エリスの梯をおりるにいぬ。彼が一声叫びてわがうなじいだきしを見て馭丁はあきれたる面もちにて、なにやらんひげのうちにて言いしが聞こえず。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あがるもおりるも出来んようになった。頼むから助けてくれ」
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
○堤ヨリおり摘芳草ほうそうをつめば 荊与棘塞路けいときょくみちをふさぐ
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
自動車をおり
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
其処そこから窓の方へおりる踏板の上には花のしおれた朝顔や石菖せきしょうやその他の植木鉢が、硝子ガラスの金魚鉢と共に置かれてある。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その空溝を隔てた、むぐらをそのまま斜違はすかいにおり藪垣やぶがきを、むこう裏からって、茂って、またたとえば、瑪瑙めのうで刻んだ、ささがにのようなスズメの蝋燭が見つかった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おりる時には今にも奈落の底へ墜入おちいりますかと思う程の有様で、実に山三郎もとてももういかんと心得ましたから、只船舷ふなべりつかまって、船の沈んではならんとあか掻出かいだすのみで
おりくつ穿はきて立出ける其衣服は葵の紋を織出したる白綾しろあやの小袖を着用し其下に柿色かきいろ綾の小袖五ツを重ね紫きの丸帶まるぐけしめ古金襴の法眼袴を穿ち上には顯文紗けんもんしや十徳を着用し手に金の中啓ちうけい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けれども橋を向うへ渡って、小石川の坂を上る事はやめにして帰る様になった。ある時彼は大曲おおまがりの所で、電車をおりる平岡の影を半町程手前から認めた。彼はたしかにそうに違ないと思った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或日あるひ自分は何時いつものように滑川なめりがわほとりまで散歩して、さて砂山に登ると、おもいの外、北風が身にしむのでふもとおり其処そこら日あたりのい所、身体からだのばして楽にほんの読めそうな所と四辺あたり見廻みまわしたが
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
横町は真直まっすぐなようでも不規則に迂曲うねっていて、片側に続いた倉庫の戸口からは何れも裏手の桟橋さんばしからおりる堀割の水のおもてが丁度洞穴ほらあなの中から外を覗いたように
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
づこれならばおほかみ餌食えじきになつてもそれは一おもひなれるからと、みち丁度ちやうどだら/″\おりなり、小僧こぞうさん、調子てうしはづれにたけつゑかたにかついで、すたこらげたわ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鳥居から右へ曲ると高梨のうちで、左右森のように成って居り、二行の敷石がございまして、是からずいと突当ると小高いどてが有ります。其処それあがってだら/\とおりると川岸でございます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぬすみ出し其上そのうへ臺所だいどころへ火を付何處いづくともなく迯失にげうせけり折節をりふしかぜはげしく忽ち燃上もえあがりしかば驚破すは火事くわじよと近邊大に騷ぎければ喜八はまご/\して居たりしが狼狽うろたへ漸々やう/\屋根よりはおりたれ共あしちゞみ歩行あゆまれず殊に金子と庖丁はうちやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
三囲稲荷みめぐりいなりの鳥居が遠くからも望まれる土手の上から斜に水際におりると竹屋たけやの渡しと呼ばれた渡場わたしば桟橋さんばしが浮いていて、浅草の方へ行く人を今戸いまど河岸かわぎしへ渡していた。
水のながれ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まずこれならばおおかみ餌食えじきになってもそれは一思ひとおもいに死なれるからと、路はちょうどだらだらおりなり、小僧さん、調子はずれに竹の杖を肩にかついで、すたこらげたわ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と止められるとなお帰るというが見得の場所の習いで、ドン/\/\と梯子はしごを駈けおりる、若草は本間の方へ泣き倒れる。番頭新造は泣きながら跡から追いかける。正孝も長次も続いて参ります。
小石川柳町やなぎちょうには一方に本郷よりおりる坂あり、一方には小石川より下る坂があって、互に対峙たいじしている。
「やれもう、こんな原ぢやもの、お客様、きつねも犬も通りませいで。きりがかゝりや、あるかうず、雲がおりりや、はしらうず、蜈蚣むかでもぐればいなごも飛ぶわいの、」と孫にものいふやう、かえりみて打微笑うちほほえむ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此のの紅梅という女が籬まで廻って呉れというので、娘が居た事と心得て籬へ廻ると、紅梅がおりて来まして突然だしぬけに清左衞門の胸倉を取って、私の亭主に毒酒をもった侍が通ったらば知らせて呉れ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と見るもなく初秋しょしゅう黄昏たそがれは幕のおりるように早く夜に変った。流れる水がいやにまぶしくきらきら光り出して、渡船わたしぶねに乗っている人の形をくっきりと墨絵すみえのように黒く染め出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
敦賀で悚毛おぞけの立つほどわずらわしいのは宿引やどひき悪弊あくへいで、その日も期したるごとく、汽車をおりると停車場ステイションの出口から町端まちはなへかけて招きの提灯ちょうちん印傘しるしがさつつみを築き、潜抜くぐりぬけるすきもあらなく旅人を取囲んで
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甲「これしからん奴だ、やいおりろ、二階へあがる奴下ろ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と見るもなく初秋しよしう黄昏たそがれは幕のおりるやうに早く夜にかはつた。流れる水がいやにまぶしくきら/\光り出して、渡船わたしぶねに乗つてる人の形をくつきりと墨絵すみゑのやうに黒くめ出した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
傳「それじゃア此の薪は背負しょっておりるのですかえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
で、病人びやうにんとあつて、蹌踉よろ/\にかいおりる。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
堤をおりると左側には曲輪の側面、また非常門の見えたりする横町が幾筋もあつて、車夫や廓者などの住んでゐた長屋のつゞいてゐた光景は、「たけくらべ」に描かれた大音寺前の通りと変りがない。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
勘「それから私は布団からおりるよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
堤をおりると左側には曲輪くるわの側面、また非常門の見えたりする横町が幾筋もあって、車夫や廓者くるわものなどの住んでいた長屋のつづいていた光景は、『たけくらべ』に描かれた大音寺前だいおんじまえの通りと変りがない。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)