もら)” の例文
しかし、広告会社へ行って、衣裳を借りたり、賃銀をもらったりしなければならない。ほんとうに消えるなんて、出来っこないことだ。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
毎日毎日、母はそうしてつないだ三つか四つの麻糸のたま風呂敷ふろしきに包んで、わずかな工賃をもらいに弟を背負っては出かけるのだった。
僕は井筒屋の風呂ふろもらっていたが、雨が降ったり、あまり涼しかったりする日はたないので、自然近処の銭湯に行くことになった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
蒔絵まきえの所々禿げた朱塗りの衣桁いこうに寄りかかって、今しがた婆やに爪をってもらった指の先きを紅の落ちない様にそっと唇に当て乍ら
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
鬼外にありてかくおびやかす時、お多福内より、福が一しよにもろてやろ、といふ。かくして彼らは餅、米、銭などもら歩行あるくなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そしてちちのつもりでは、私達わたくしたち夫婦ふうふあいだ男児だんしうまれたら、その一人ひとり大江家おおえけ相続者そうぞくしゃもらける下心したごころだったらしいのでございます。
旗男も、姉から防毒面をもらわなかったら、この路傍にころがっている連中と同じように、今ごろは冷たく固くなっていたことだろう。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
親からもらい受けて出て行ったことになっているのは、すなわち蛇神退治の古くからの様式で、猿の方にはむしろ不用なことであった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
兄貴のフェリックスは、バタやジャムをつけたパンをもらうことになっている。それから、にんじんは、なんにもつけないパンである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いとな七日々々なぬか/\追善供養つゐぜんくやうも心の及ぶだけはつとめしが何分男の手一ツでをさなき者の養育やういく當惑たうわくひるは漸く近所きんじよとなりもらちゝなどしよる摺粉すりこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その室のすみに、ポリモスからもらつたまゝになつてる蝙蝠が、かごにはいつてゐました。ふとつた男はその籠のなかをのぞきこみました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
この世にかえしたいためではなかった。わしの学説の実験に使うためだ。だから、必要になれば、いつでも、おまえの肉体をもらうまでさ
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
できれば開墾場の人たちが当然自分の土地として牧場のほうからもらっていい土地ばかりは開墾場の人たちの手に返してやりたいんだ。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
たいへんほがらかな、可愛かわいい娘さん達なので、喜んで、一緒に写真をとったり名刺めいしもらったり、手振てぶり身振りで会話をしたりしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わざわざ辞職してもらった金は何時の間にかもうなくなっていた。迂闊うかつな彼は不思議そうな眼を開いて、索然たる彼の新居を見廻した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「なにひと」とお政は莞爾にっこりした、何と云ッてもまだおぼだなと云いたそうで。「お前に構ッてもらいたいンで来なさるンじゃ有るまいシ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
麹町こうじまちの番町に住んでいる、或る船の機関長の家庭うちもらわれて来てから一年ばかり経つと、何となく、あたりまえの児と違って来た。
人の顔 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
子供は物をもらったよりも、親や先生から褒められることに対して、より以上の悦びを持ったものだし、また持つべきものであると思う。
日本的童話の提唱 (新字新仮名) / 小川未明(著)
天保てんぽう頃の江戸の分限者ぶげんしゃの番附では、西の大関に据えられている、千万長者の家へもらわれて行ったのですが、それは今で云う政略結婚で
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
運転手ににらまれ、もじもじ恥にふるえながら目的地のアルジに車代をはらってもらう、人生至るところただもう卑屈ならざるを得ない。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そら、ばけ物はチブスになって死ぬだらう。そこで僕は出て来て杏のお姫様を連れてお城に帰るんだ。そしてお姫様をもらふんだよ。
いてふの実 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
まあ、立派な学者になって、「文章博士もんじょうはかせ」の肩書でももらってくれれば、お父さんはそれだけでも大手を振って自慢が出来るからな。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
その仕事で金がもらえるのは、六ヵ月位あとのことだから、それまでの食いつなぎのために、彼は広島の兄に借金を申込むつもりにした。
永遠のみどり (新字新仮名) / 原民喜(著)
もし夜中に何か彼女にしてもらいたいことがあったら、彼の部屋と彼女の部屋との間の仕切りをノックするようにと言い残して行く。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
をとつひの夜平山が来て、用人ようにん野々村次平に取り次いでもらつて、所謂いはゆる一大事のうつたへをした時、跡部は急に思案して、突飛とつぴな手段を取つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この氷滑こほりすべりがゆきたのしみの一つで、とうさんもぢいやにつくつてもらつた鳶口とびぐち持出もちだしては近所きんじよ子供こどもと一しよゆきなかあそびました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「人に驚かしてもらえばしゃっくりが止るそうだが、何も平気で居て牛肉がえるのに好んで喫驚びっくりしたいというのも物数奇ものずきだねハハハハ」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
僕は時々陶器蒐集家しゅうしゅうかとして著名な或る友人を訪れ、様々の陶器をみせてもらうのだが、僕はそれらを比較し鑑賞する。必ず比較するのだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
何の目的も無く生まれたからツて………何さ、むでもらツたからと謂ツて、其れがかならずしも俺の尊嚴そんげんどろを塗るといふわけではあるまい。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
やがて銀子は親爺の両手に抱かれ、二階の四畳に寝かされたが、翌朝目がさめても、座敷をもらった後のことは、何一つ覚えがなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
破談になった数日後にその刺繍ぬいが出来たので、贈らないのも却って変であると考え、井谷を通じて先方へ届けるようにしてもらった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのあげくが和作はやはりの寄宿学校で独逸ドイツ語の授業のほかに、少年寮の図書係といふ呑気のんきな役目を世話してもらふ事になつたのである。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
明日あすの競技につかう銃はここへもらってきてあるから、これから諸君しょくんとともに、この銃の研究にゆきたいと思う。いっしょにきてくれないか
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それがお清という娘で、もらのお安と姉妹きょうだいのように育てていたが、そうなると人情で生みの子が可愛い、貰い娘が邪魔になる。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
俄盲目にはかめくらかんるいけれども、もらつた手拭てぬぐひきず二重ふたへばかりいて、ギユツとかためますと、くすり効能かうのう疼痛いたみがバツタリ止まりました。
父は痰持であつたから、水飴みづあめだの生薑しやうが砂糖漬さたうづけなどを買つてしまつて置いた。水飴は隣の宝泉寺からよくもらつて来たやうである。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
今じゃもう月末になってももらう分が一文も残っていない、それに下宿の払いも二月ばかりたまっているし、そんなことも言った。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
聞いて私は同氏のお娘御に火を起してもらって大きな火鉢の中へその網を入れて燃し掛けますとその傍に居る人々は皆驚いてしまったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
みぎ車麩くるまぶのあるのをつけて、おかみさんと馴染なじみだから、家内かないたのんで、ひとかゞり無理むりゆづつてもらつたので——少々せう/\おかゝをおごつてた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
カダルマゴにもよめにも皆死なれデ、村役場ガラコメコだのジエンコだのもらて、ムマヤよりもマダきたね小舍コヤコ這入ハエテセ、乞食ホエドして暮らすマナグデ來るデバ。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
翌日よくじつ別當べつたう好意かういで、玄竹げんちく藥箱くすりばこあふひもんいた兩掛りやうがけにをさめ、『多田院御用ただのゐんごよう』のふだを、兩掛りやうがけけのまへはうふたててもらつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それから乾菓子ひぐわしべました。おほきなとり其味そのあぢわからないとつてこぼす、ちひさなとりせて背中せなかたゝいてもらう、それは/\大騷おほさわぎでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
うちるほどなら此樣こん貧乏世帶びんぼうしよたい苦勞くろうをばしのんではませぬとくに貧乏世帶びんぼうしよたいきがきたなら勝手かつて何處どこなりつてもらはう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
男ははげしく女の詞を遮った。「どうぞもう黙っていてもらいたい。さっき云った時が来るまでは、何を言うのも無駄だからなあ。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
自己おの小鬢こびんの後れ毛上げても、ええれったいと罪のなき髪をきむしり、一文もらいに乞食が来ても甲張り声にむご謝絶ことわりなどしけるが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あれサ、あたしゃ御新さんをしかけていたんだよ。ねえ御新さん、久しぶりですもの。しっかり可愛がっておもらいなさいよ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「別に御馳走ごちそうと云つては無いけれど、松茸まつだけ極新ごくあたらしいのと、製造元からもらつた黒麦酒くろビイルが有るからね、とりでも買つて、ゆつくり話さうぢやないか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
モー一つは結婚問題、即ちこれは僕の方からねて子爵へ申出して承諾を得ている事だが、あの玉江嬢を君にもらってくれ給えというのだ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「お目見得以下でも以上でも殿に尽くす道は皆一つだ。これからも充分心を配って裏切り者の動静をこっそり探ってもらいたいものだ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
戴きましょうだが、毎月その扶持米をしらげてもらいたい。モ一つついでにその米をめしか粥にたいて貰いたい。イヤ毎月と云わずに毎日もらいたい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)