)” の例文
それが「吾がやどに生ふる」というからには、吾が家の庭の中かもしくはぐその居周りかに野生せる普通の草でなければならない。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
られる都合つがふならばまたいままでのやうにお世話せわりにまする、るべくは鳥渡ちよつとたちかへりにぐも出京しゆつけうしたきものとかるくいへば
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかしそんなことよりも見も知らぬ人のまえでこんな工合ぐあいに気やすくうたい出してうたうとぐにそのうたっているものの世界へおのれを
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
些細ささいのことではしゃいだり、又逆に不貞腐ふてくされた。こういう性質たちのものは、とうてい我々のような仕事をやって行くことは出来ない。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
物質上の生活などは、いくら金をかけても、ぐ尽きるのだ。金で、自由になる芸妓などを、もてあそんでいて、よく飽きないものですね。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
新しい肉と古い肉とを一緒に置いてはいけません。一方が腐り始めるとぐ一方の新しい方へ伝染します。牛肉ばかりでありません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「あたしゃみじかいから、どこへくにしても、とてもあるいちゃかれない。千きちつぁん、ぐに駕籠かごんでもらおうじゃないか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
侍「これ吉次きちじ、少々明神下に買物があるから、遅くなるかも知れんから先へ帰って、旦那様はあとからぐに帰ると御新造ごしんぞにそう云え」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まだ書かなくちゃ成りませんけれど、お父さんがいつもぐそこの御座敷にばかりいらっしゃるんですもの。気が気じゃありません。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その晩は場末の安宿に泊り翌日父は私をY中学の入学式につれて行き、そして我子を寄宿舎にたくして置くと、ぐ村へ帰つて行つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
それは今自分がそのために薬を買いに行った、病床にある娘であったので、不思議に思ったが、若者は我を忘れてぐ声をかけた。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
名刺を通して、「先刻さっき電話をかけた、関東新報の記者ですが——」と言うと、老人の江藤が出て来て、ぐ応接間へ通してくれました。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
でも使い過ぎたり思い違いで云い過ぎたりしたとわかれば「気の毒しました。」「すまなかった。」はぐわたくしの口から出ます。
ぐづ/\してゐるうち、大川を渡つた悪魔がぐ追ひついて、もう二足三足で、えりがみをつかまうとするまでに近く、迫りました。
豆小僧の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
けれども私にはいつも直径三尺位にしか想えなかった。自分が動くと物の影も動くので、自分の姿が映ったものとぐ判断される。
山の魅力 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それはぐに現代の機械工業や軍需工業の方面に、急には役に立たないところの或る別のものになると考える方が本当に近いであろう。
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ざつみづけて、ぐいとしぼつて、醤油しやうゆ掻𢌞かきまはせばぐにべられる。……わたしたち小學校せうがくかうかよ時分じぶんに、辨當べんたうさいが、よくこれだつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「大変でございます。金杉病院から電話で、奥様が自動車で怪我をなすったから、ぐ病院へおいでを願いたいという事でございます」
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
その意地の悪い、衆を頼むまなざしを、隣人はぐに感じてしまった。帽子をとっただけで、頭も下げずに、一隅に坐して黙した。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
しか今更いまさらなんとかとか長文句ながもんく手紙てがみけないものだから、『承諾しようだくい』といた電報でんぱうやう葉書はがきしたんだ、さうだ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
わたくし元來ぐわんらい膝栗毛的ひざくりげてき旅行りよかうであるから、なに面倒めんだうはない、手提革包てさげかばん一個ひとつ船室キヤビンなか投込なげこんだまゝ春枝夫人等はるえふじんら船室キヤビンおとづれた。
僕は山口でぐ死んで了おうかと思いました。の時、実に彼の時、僕が思いきって自殺して了ったら、むしろ僕はさいわいであったのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
夫人は「岸までは猶更なほさら遠い。少し待ちなさい、ロダンの馬車に馬を附けさせて送らせませう」と云つて馭者ぎよしやを呼んで命ぜられた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
天神様の境内は大層たいそうな人出でした。飴屋あめやが出ています。つぼ焼屋が出ています。切傷のなお膏薬こうやくを売っている店があります。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
私共の家は動物園のぐ隣りのもりの中にございまして、その失踪しました十月三十日の朝八時半に父はいつものように出て行ったのです。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ぐ無電で横浜の本部へ報告しろ、領海附近に漂流船あり、救護のため進路を変更す、と云うんだ、流血船の事には触れるな」
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかしそのとき周圍しうゐ事情じじやうは、病人びやうにんをKうちかしてことゆるさないので、ぐに何處どこへか入院にふゐんさせなければならなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
行きたいが今夜はすでに切符が買ってあるのでぐまえの大劇場へまわる。出しものはプロコウヒフの作曲「三つの蜜柑への恋リュボウビ・ク・トリオム・アペルシイナム
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
梅子うめこさん!梅子うめこさん!ぐに手套てぶくろつて頂戴てうだい!』とこゑがして、やがてパタ/\と梯子段はしごだんのぼちひさな跫音あしおとがしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「主事!」とふたたび邦夷は阿賀妻に呼びかけた、「ぐに、その——判官どのとやらに乞うてみようではないか、早いがよい」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
おつぎは勘次かんじないとき牝鷄めんどり消魂けたゝましくいてればぐにとやのぞいてあたゝかいたまごひとつをつて卯平うへいむしろころがしてやることもあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼が注進の模様は、見るべき待人を伴ひ帰れるならんをと、ぐに起ちて表階子おもてはしごあたりに行く時、既におそ両箇ふたりの人影はてすりの上にあらはれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その侍は胆力がすわっていたので、別に驚きもせずに、おかしなものが出たな、と、平気な顔をしていると、その顔はぐ消えて無くなった。
通魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
宗助は郵便を持ったまま、座敷からぐ玄関に出た。細君は夫の足音を聞いて始めて、座を立ったが、これは茶の間の縁伝えんづたいに玄関に出た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あたしの祖母が、あたしの遊びに抜けだしたのを厳探中げんたんちゅう、その子たちの仲間の一人にお小遣いをくれると、あたしはぐにつかまえられた。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
『家が戀しくなつたんだな。……これからぐ歸へれば、夜半よなかまでには着くよ。……阿母おつかさんの顏も見られるし。おむこさんの顏もね。……』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「私はあなたのいゝ子ぢやありません。私は寢ることなんか出來ません。ぐに學校へやつて下さい。私はこんな所に居るのはいやです。」
この辺の雀は勝手がちがうためか、時には実に無法な巣の作り方をする。雨樋あまどいの受口にわらなどを運んで来て、雨が降るたびにぐに流れる。
ぐにお前をつかまえて、誰とも云わず先生の前に連れて行て、先生に裁判してもらうがよろしいか。心得て居ろとひどこらしめてやった事があった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
真っぐなことばかり云うからである。世の中の事々は——わけて政治まつりごとなどにたずさわれば、重盛がいうようなわけにはゆかない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩場の様子についてまったく知る所のなかった私たちは、その豪壮な岩壁を見るとぐに、道から近くの所へ天幕を張った。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
明治十一年のこと、当時私は廿五にじゅうご歳の青年であったが、東京とうきょうへ上京して四年後で、しば花園橋はなぞのばしぐ近所の鈴木すずき某氏の門弟であった頃だ。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
それから少し蜘蹰ちちゅうしていると、あれは意久地いくじがないといい、たまたま少しやり損なうとぐにこれを責める。なかなかむずかしいものである。
政治趣味の涵養 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「でもこうして町を歩いていると、蒸暑いといってもい位だ。行ってぐ帰ったって好い。一しょに行こうじゃないか。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
所が龕のぐ前には長楕円形の金魚鉢があったので、スパイダーはずこの鉢を除けてからでなければ彫像に手を触れることは出来なかった。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『あの晩工場から暗くなってから帰って来た主人は、御飯を食べると急な夜業やぎょうがあるからと言ってぐに出てきました。』
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
私は満三歳みつつになつてぐ学校へられました。ですから遊びの方に心を引かれることが多くて、字を習ふ方のことを情けなく思つて居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ。自分はぐに死をおもうた。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「しかし、誰か一人や二人、この近所に居ないものかな。俺はぐ前線へ帰らなけりゃならないんだが、その前に是非会いい人があるんだ」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
兄は、用事があるので、今日はゆつくりしてゐないでぐ帰宅するのだと告げた。帰る途中の円通寺といふ寺まで実枝も同道するのだと云つた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)