はた)” の例文
汽車に連るる、野も、畑も、はたすすきも、薄にまじわくれないの木の葉も、紫めた野末の霧も、霧をいた山々も、皆く人の背景であった。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見渡す限りはたはたけは黄金色に色づいて、家の裏表にうわっている柿や、栗の樹の葉は黄色になって、ひらひらと秋風に揺れています。
嵐の夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ええ、お出迎えにこれまでまいりましたのは、丹那たんな田代たしろ軽井沢かるいざわはた神益かみます浮橋うきばし長崎ながさき、七ヶ村の者十一名にござりまする」
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
されば人々餘りに安んじて事を判じ、さながらはたにある穗をばその熟せざるさきに評價ねぶみする人の如くなるなかれ 一三〇—一三二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ときはたには刷毛はけさきでかすつたやうむぎ小麥こむぎほのか青味あをみたもつてる。それからふゆまた百姓ひやくしやうをしてさびしいそとからもつぱうちちからいたさせる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
野を耕す農夫や、はた道に急ぐ娘や、濡れた帆を干して居る漁師の舟や、さういふものは総て絵のやうに平和で、そして美しいものであつた。
春雨にぬれた旅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
主従三騎、味方がやがて落そうとする谷を左に道をとり、人も通わぬ田井たいはたという古い道を急ぎ、一の谷の浜辺に出た。まだ深夜である。
広いはたと畑との間を、真直に長く通っている街道である。左右にはみぞがあって、そのふちにははんの木のひょろひょろしたのが列をなしている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何でも皆が駈出すのに、俺一人それが出来ず、何か前方むこうが青く見えたのを憶えているだけではあるが、兎も角も小山の上のこのはたで倒れたのだ。
家の背後うしろは傾斜地になっていて、そこから牧場が高いところまで続いている。そのまた上にははたに夏の作物の花が咲いている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
行く先ざきの野面のづらはまっ白な雪でおおわれて、空には日の光も見えなかった。いつも青白いはい色の空であった。はたをうつ百姓ひゃくしょうのかげも見えなかった。
竹の子がさと白手ぬぐいは、次第に黄ばめる麦に沈みて、やがてかげも見えずなりしと思えば、たちまちはたのかなたより
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
山の根がたのかしこここに背の低い松が小杜こもりを作っているばかりで、見たところはたもなく家らしいものも見えない。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あの捧げもののたなつ物と、はたつ物と、かぐの木の実とは、公平に分配してもらえるか、或いは自由競争で取るに任せるか、その未来の希望を胸に描いて
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
船が横浜をつ二三日前、宮嶋氏の玄関へ、つひぞ見知らぬ男が訪ねて来た。名刺にははた良太郎とあつた。
お幸は思はず独言ひとりごとをしました。其処には轡虫くつわむしが沢山いて居ました。前側は黒く続いた中村家の納屋で、あの向うが屋根より高く穂を上げたきびはたになつて居ます。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そして三年ののちに土をせる。土地の所有者は其れを拒む事が出来ない習慣であると云ふ。道理で見渡す限り点点てんてんとして、どのはたにも草におほはれた土饅頭どまんぢうが並んで居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
正太しようた何故なにともきがたく、はたのうちにあるやうにておまへうしてもへんてこだよ、其樣そんことはづいに、可怪をかしいひとだね、とれはいさゝか口惜くちをしきおもひに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
元禄二年芭蕉の来たときは、別の計画では、銀山峠を越え、かみはた、銀山、延沢を経て尾花沢に至るつもりであつたことは、最近発見の曾良の随行日記によつて明かになつた。
支流 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
またうみのつよいかぜ濱邊はまべすなばして、砂丘さきゆうつくつたり、その砂丘さきゆうすなをまた方々ほう/″\はこんで、大事だいじはたや、ときによると人家じんかまでもうづめてしまふことがあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
この兄弟はちいさい時に、両親に別れたため、少しばかりあった田やはたも、いつのにか他人に取られてしまい、今ではだれもかまってくれるものもなく、他人の仕事などを手伝って
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「さうでせう。自慢ではないが、わたくしは横着な事はしてゐません。自分の内の小屋の中に牡牛を一疋、牝牛を一疋、馬を一疋だけは飼つてゐて、自分のはたを作つてゐます。」
窓の前には広いはたが見えてゐる。赤み掛かつた褐色と、緑と、黒との筋が並んで走つてゐて、ずつと遠い所になると、それが入り乱れて、しほらしい、にほやかな摸様のやうになつてゐる。
護謨ごむの木のはたの苗木の重き葉の大きなる葉の照りひびくなり (一五九頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はた元帥が広島に来ているぞ」と、ある日、清二は事務室で正三に云った。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
又本国甲賀郡かふかこほり石原いしはら潮音寺てうおんじ和尚のものがたりに、近里の農人はた掘居ほりゐしにこぶしほどなる石をほりいだせり、此石常の石よりは甚だうつくし、よつて取りかへりぬ、夜に入りて光ること流星りうせいの如し。
たとえば寛政五年の外南部の大はたのネブタ流しは「牧の朝露」という紀行に「六七尺一丈ばかりの竿のさきに、彩画かいたる方なる火ともしに七夕祭と記して、そが上に小笹おざさすすきなどさし重ね云々」
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
エヒミチはまどところつてそとながむれば、はもうとツぷりとてゝ、那方むかふ野廣のびろはたくらかつたが、ひだりはう地平線上ちへいせんじやうより、いましもつめたい金色こんじきつきのぼところ病院びやうゐんへいから百歩計ぽばかりのところ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
各自てんでに米が五合に銭十五銭宛持寄って、飲んだり食ったりかんを尽すのだ。まだ/\と云うて居る内に、そろ/\はたの用が出て来る。落葉おちばき寄せて、甘藷さつま南瓜とうなす胡瓜きゅうり温床とこの仕度もせねばならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
仮りに札幌区外の山鼻やまばなはたの内に一戸を築き、最も粗暴なる生活を取り、且つ此迄これまで慣れざるの鎌と鍬とを取り、菜大根豆芋とう手作てさくして喰料しょくりょうを補い、一銭にても牧塲費に貯えん事を日夜勤むるのみ。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
駒屋の親父とっさまあはた土は、一度も手がつかねえほどなんだし
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そはただ詩人のみ。十一月葡萄のはたも牛飼ふ野辺も黄ばむ時
それから燕麦からすむぎはたに蹈み込んでそこに寝て休んだ。
はたにつづける牧草まきぐさの野を、いざ共に
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
奈良阪やはた打つ山の八重桜 旦藁たんこう
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
残雪のひをるはたのしりへかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
田もはたも売りて酒のみ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
このはた耕しや
おさんだいしよさま (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
うしてほとん毎日まいにちごとつてうちに、萱原かやはらを三げんはゞで十けんばかり、みなみからきたまで掘進ほりすゝんで、はたはうまで突拔つきぬけてしまつた。
「宮のご謀叛はすでに露顕つかまつった。土佐のはたへお流し申さんがため、別当の命を受けて役人参上、直ちに出させ給え」
それでも幾日いくにちつゞいたあめみづたくはへてひくはたしばらかわくことがなかつた。みづためひたつた箇所かしよすくなくなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と思うと、忽然こつねんとして、顕れて、むくと躍って、卓子テエブル真中まんなかへ高く乗った。雪を払えば咽喉のど白くして、茶のまだらなる、はた将軍のさながら犬獅子けんじし……
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と思うと、慄然ぞっとして、頭髪かみのけ弥竪よだったよ。しかし待てよ、はたられたのにしては、この灌木の中に居るのがおかしい。
むら離れて林やはたの間をしばらく行くと日はとっぷり暮れて二人の影がはっきりと地上に印するようになった。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
祭壇に飾られた、たなつ物、はたつ物、かぐの木の実は、机、八脚と共に、天地に向って跳躍をはじめました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人は帽子を手に取って、外套がいとうを引っ掛けて、はたの方へ行く道に掛かった。空はほとんど晴れ切っている。遠い山のに色々な形をした白い霧が掛かっている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
其時、私は糸立いとだてを着て、草鞋わらぢを穿いて歩いて行つた。浜島から長島までの辛い長い山路、其処には桃の花の咲いてゐるはたもあれば、椿の花の緑葉みどりはの中に紅くむらがつてゐる漁村もあつた。
春雨にぬれた旅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
河を挾んでゐる山も、村の貧しげな天幕も、小さい会堂も、雪を被つてゐる広いはたも、暗く茂つてゐる森の縁も、皆果てのない霧に包まれてしまつてゐる。己は屋根の上に立つてゐる。
丁度自分の祖父ぢいさんか、父親おやぢかが、山を売りはたを売り、桐の木を売り、釣つた鯰を売つて儲けた金をそつくり大原氏に預けて置きでもしたやうに、お礼一つ言はないで、平気で貰つて帰る。
又本国甲賀郡かふかこほり石原いしはら潮音寺てうおんじ和尚のものがたりに、近里の農人はた掘居ほりゐしにこぶしほどなる石をほりいだせり、此石常の石よりは甚だうつくし、よつて取りかへりぬ、夜に入りて光ること流星りうせいの如し。