春雨にぬれた旅はるさめにぬれたたび
志摩から伊勢、紀伊と旅して行つた時のことが第一に思ひ出される。其時、私は糸立を着て、草鞋を穿いて歩いて行つた。浜島から長島までの辛い長い山路、其処には桃の花の咲いてゐる畑もあれば、椿の花の緑葉の中に紅く簇つてゐる漁村もあつた。五ヶ所を通つた …