歎息たんそく)” の例文
公用こうよう私用しようを一つにするばかもないものだ。自分じぶんからこのんで、奴隷どれいになろうとしている。」と、歎息たんそくしていたこともありました。
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
明日あすの晩はもうお前の声も聞かれない、世の中つて厭やな物だねと歎息たんそくするに、それはお前の心がらだとて不満らしう吉三の言ひぬ。
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大臣は空間に向いて歎息たんそくをした。夕方の雲がにび色にかすんで、桜の散ったあとのこずえにもこの時はじめて大臣は気づいたくらいである。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
どうしたって来たから仕方なしという待遇としか思われない。来ねばよかったな、こりゃとんだ目に遭ったもんだ。予は思わず歎息たんそくが出た。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
把手クランプをまわして見ると、宇宙艇の尾部びぶに明かにそれと読みとれる日の丸の旗印と、相良の会社の銀色マーク。私は歎息たんそくした。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此美人を此僻地へきちいだすは天公てんこう事をさゞるに似たりとひとり歎息たんそくしつゝものいはんとししに、娘は去来いざとてふたゝび柴籠をせおひうちつれて立さりけり。
私は田園の長い夜道を辿たどり乍ら、改めて歎息たんそくに似た自卑と共に、世に母親ほど端倪たんげいすべからざるものはないと教えられた。
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それでこう邪魔にされると知りつつ、園田の家を去る気にもなれず、いまに六畳の小座舗こざしきに気を詰らして始終壁にむかッて歎息たんそくのみしているので。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
またはてんでんの小児こどもの噂などで、さのみ面白い話でもないが、しかしその中には肉身しんみの情と骨肉ちすじの愛とが現われていて、歎息たんそくすることもあれば
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
いよ/\今夜は寝転ねこかしに極った、あゝ斯様こんなことなら器用に宵の口に帰った方がよかったものと、眼ばかりぱちくり/\いたして歎息たんそくいたしています。
されば傳吉おせんが物語りを聞て歎息たんそくし扨々世の中に不幸ふかうの者我一人にあらずまだ肩揚かたあげの娘が孝行四年こしなる父の大病を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
内に居る、身狭乳母むさのちおも桃花鳥野乳母つきぬのまま波田坂上刀自はたのさかのえのとじ、皆故知らぬ喜びの不安から、歎息たんそくし続けていた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「はゝあ、」と歎息たんそくするやうにつたときの、旅客りよきやく面色おもゝち四邊あたり光景くわうけい陰々いん/\たるものであつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
支那しなの詩人は悩ましげにも、「春宵しゅんしょう一刻価千金」と歎息たんそくしている。そは快楽への非力な冒険、追えども追えどもとらえがたい生の意義への、あらゆる人間の心に通ずる歎息である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
年とった支那人は歎息たんそくした。何だか急に口髭くちひげさえ一層だらりとさがったようである。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
健全な肉体に健全な精神が宿るということわざがあるけれど、あれには、ギリシャ原文では、健全な肉体に健全な精神が宿ったならば! という願望と歎息たんそくの意味が含まれているのだそうだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とお雪は姪に言って、歎息たんそくした。彼女は乳呑児を抱きながら縁側のところへ出て眺めた。日光は輝いたり、薄れたりするような日であった。お延は庭へ下りた。すみれの唱歌を歌い出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
両脇りょうわきに子供をひきつけ、依怙地いこじなほど身体をこわばらせている石のようなお安の後姿を、主水は歎息たんそくするような気持で見まもった。扶持ふちを離れたといっても、明日の生計たつきに困るわけではない。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
人心の悪化、労資の軋轢、世界現状の行詰等を歎息たんそくするものは世間に多いが、それ等の中の幾人かが、かかる世相のって来る所を、奥深く洞察して世界平和の大計を講ずる資格があるであろうか。
先刻お話しになった国々と比較してみると、甚だどうも歎息たんそくする訳であるが、しかし女子の小学に入る数は、よほど増したから、これはよろしい。しかし小学以上の教育は誠に指を屈するほどしかない。
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「俺は何故なぜ此樣こんなに體が弱いのだらう。」と倩々つく/″\歎息たんそくする。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「まアお可哀そうに」と、吉里もうつむいて歎息たんそくする。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
阪井が室をでてから校長は歎息たんそくしていった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
とお祖父さんが歎息たんそくした。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
中将がこう言って歎息たんそくした時に、そんなありきたりの結婚失敗者ではない源氏も、何か心にうなずかれることがあるか微笑をしていた。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「もう、三十にちあめらない。まだこのうえ、ひでりがつづいたら、や、はたけ乾割ひわれてしまうだろう。」といって、一人ひとりは、歎息たんそくをしますと
娘と大きな鐘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
此美人を此僻地へきちいだすは天公てんこう事をさゞるに似たりとひとり歎息たんそくしつゝものいはんとししに、娘は去来いざとてふたゝび柴籠をせおひうちつれて立さりけり。
検事たちは、目をガラス容器に近づけて歎息たんそくをついた。人間の脳髄によく似ている。しかし色が違う。これはいやに紫がかっている。人間の脳髄は灰色だ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いまはと決心けつしんほぞかたまりけんツト立上たちあがりしがまた懷中ふところをさしれて一思案ひとしあんアヽこまつたと我知われしらず歎息たんそくことばくちびるをもれて其儘そのまゝはもとのとほ舌打したうちおとつゞけてきこえぬ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
娘は歎息たんそくしたがどうも仕方がない、再びきびすめぐらして、林の中へはいり、およそ二町余も往ッたろうか、向うに小さな道があッて、その突当りに小さな白屋くさのやがあッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
あつられたが、しかしさとつた。……かつ相州さうしう某温泉ぼうをんせんで、朝夕あさゆふちつともすゞめがないのを、夜分やぶん按摩あんまいて、歎息たんそくしたことがある。みんなつてしまつたさうだ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
斯て天眼通てんがんつうを得たる大岡殿が義理ぎり明白めいはくの吟味にさしも強惡きやうあくの平左衞門一言の答へもならず心中歎息たんそくして居たりしかば越前守殿もあるべしと思はれ乃至よしや其方此上富婁那ふるなべん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何々学院の何々女史とでもいったような者が「子供の純真性は尊い」などと甚だあいまい模糊もこたる事を憂い顔で言って歎息たんそくして、それを女史のお弟子の婦人がそのまま信奉して自分の亭主に訴える。
純真 (新字新仮名) / 太宰治(著)
先生は歎息たんそくを洩らしたぎり、不相変あいかわらず画を眺めていました。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「つまらないな」とかれは歎息たんそくした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
どこまでも冷淡にはできない感情に負けて、歎息たんそくらしながら座敷の端のほうへ膝行いざってくる御息所の様子にはえんな品のよさがあった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
わかいがんたちが、せまいけなかで、さかなをあさってはあらそっているのをて、としとったがんが歎息たんそくをしました。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
ああこんな事と知りましたら早くに方法も有つたのでせうが今に成つては駟馬しめも及ばずです、植村も可愛想かあいさうな事でした、とて下を向いて歎息たんそくの声をらすに、どうも何とも
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と思い案ずる目をなかば閉じて、屈託くったくらしく、盲目めくら歎息たんそくをするように、ものあわれなよそおいして
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殘らず白状はくじやうすべしとするどく問糺とひたゞされしかば段右衞門は此時このときはじめてハツトいつ歎息たんそくなしまこと天命てんめいは恐ろしきものなり然ば白状つかまつらんと居なほり扨も權現堂ごんげんだうつゝみに於て穀屋平兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人は顔を見合わせて、歎息たんそくしあった。しかしこのときしも二人が背後をふりかえって、そこに突如として起った大異変に気がついたとしたら、どんなにきもをつぶしたことであろう。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どんなふうに書いて送ったものであろうと歎息たんそくをして一所を見つめていた目に敷き畳の奥のほうの少し上がっている所を発見した。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ぼくも、一かあさんを、湯治とうじにやってあげたいと、おもっているうちになくなられて、もう永久えいきゅう機会きかいがなくなってしまった。」と、正吉しょうきちは、歎息たんそくをもらしました。
世の中へ出る子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
なかつていやなものだねと歎息たんそくするに、それはおまへこゝろがらだとて不滿ふまんらしう吉三きちざうひぬ。
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ドクトルは、神に祈りを捧げるときのような恰好をして、天をあおいで歎息たんそくをした。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しみじみ歎息たんそくした、第一ぼんを持って女中が坐睡いねむりをする、番頭が空世辞そらせじをいう、廊下ろうか歩行あるくとじろじろ目をつける、何より最もがたいのは晩飯の支度したくが済むと、たちまちあかり行燈あんどんえて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二条の院はこれである。源氏はこんな気に入った家に自分の理想どおりの妻と暮らすことができたらと思って始終歎息たんそくをしていた。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ひめさまは、つくづくとおんな乞食こじきをごらんになっていましたが、ちいさな歎息たんそくをなされました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とてしたいて歎息たんそくこゑらすに、どうもなんとも、わし悉皆しつかい世上せじやうことうとしな、はゝもあのとほりのなんであるので、三方さんばう四方しはうらちことつてな、第一だいいち此娘これせまいからではあるが
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(おとまりは何方どちらぢやな、)といつてかれたから、わたし一人旅ひとりたび旅宿りよしゆくつまらなさを、染々しみ/″\歎息たんそくした、第一だいいちぼんつて女中ぢよちう坐睡ゐねむりをする、番頭ばんとう空世辞そらせじをいふ、廊下らうか歩行あるくとじろ/\をつける
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)