暗夜あんや)” の例文
ほたる淺野川あさのがは上流じやうりうを、小立野こだつののぼる、鶴間谷つるまだにところいまらず、すごいほどおほく、暗夜あんやにはほたるなかひと姿すがたるばかりなりき。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
白井は女の背をさすりながら暗夜あんやの空を仰ぎ、しみ/″\一人前の文学者になり、原稿料でこの女と二人新しい生活をしたらばと思ふ
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
雪下ゆきふるさかんなるときは、つもる雪家をうづめて雪と屋上やねひとしたひらになり、あかりのとるべき処なく、ひる暗夜あんやのごとく燈火ともしびてらして家の内は夜昼よるひるをわかたず。
爺は後生が恐ろしいと申すが、彼岸ひがんに往生しょうと思う心は、それを暗夜あんや燈火ともしびとも頼んで、この世の無常を忘れようと思う心には変りはない。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このヘリコプターには、精巧なレーダー装置がついていたから、その着陸場を探し求めて、無事に暗夜あんやの着陸をやりとげることは、わけのないことだった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
むし好奇ものずきではあるが暗夜あんや甲板かんぱんでゝ、暫時しばし新鮮しんせんかぜかれんとわたくしたゞ一人ひとり後部甲板こうぶかんぱんた。
かれ勘次かんじにはつた。かれ荒繩あらなはつたことをこゝろづいたときかきひくえだにそれを引掛ひつかけようとしてげた。かれ不自由ふじいう暗夜あんや目的もくてきげさせなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さりにける不仕合せもつゞけば續くものにて惣領そうりやうの松吉も風邪かぜの心地とて打臥しが是も程なく冥土よみぢの客となりしかば跡に殘りし母とよめの悲歎云うばかりなく涙に暮果くれはて暗夜あんや燈火ともしび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
暗夜あんやの空を一文字もんじにかけり、いまや三かくせんのまっ最中さいちゅうである人穴城ひとあなじょうの真上まで飛んできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなにおおきくもなかったが、くろふねで一そうなみにもまれて、いまにもしずみかかっていたのをました。けれど暗夜あんやのことで、それにあの大暴風雨だいぼうふううではどうすることもできなかった。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
〔譯〕一とうひつさげて、暗夜あんやを行く。暗夜をうれふる勿れ、只だ一とうたのめ。
逃れたのは嬉しいが、さて其先そのさき種々いろいろの困難がよこたわっていた。みち屡々しばしば記す通りの難所なんじょである、加之しか細雨こさめふる暗夜あんやである。不知案内ふちあんないの女が暗夜にの難所を越えて、つつがなく里へ出られるであろうか。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
康頼 重盛に秘して、暗夜あんや刺客しかくしのび込ませましたか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
暗夜あんやを照らす不斷の燈
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
原口はらぐちたき、いはれあり、さんぬる八日やうか大雨たいう暗夜あんや、十ぎて春鴻子しゆんこうしきたる、くるまよりづるに、かほいろいたましくひたりて、みちなる大瀧おほたきおそろしかりきと。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此時はかならず暴風はやて力をそへて粉にくだきたる沙礫こじやりのごとき雪をとばせ、白日も暗夜あんやの如くそのおそろしき事筆帋ひつしつくしがたし。
わたりにふねたるが如く暗夜あんやにともし火をたるが如なりはた經文きやうもんの心をたるが如く也此經文きやうもんの心にて見ればうゑたるものしよくを得たるか旅人りよじんのこめなればひとへにはだかなる者衣類いるゐ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おもふに大佐たいさ暗夜あんやじようじて、ひそかにその部下ぶか引連ひきつ本邦ほんぽうをば立去たちさりしものならん、此事このこと海軍部内かいぐんぶないおいてもきはめて秘密ひみつとするところにして、何人なんぴとその行衞ゆくえものなし、たゞ心當こゝろあたりともきは
先任将校は欄干らんかんにつかまったまま、暗夜あんやの海上をすかしてみました。
太平洋雷撃戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あたかも、暗夜あんやに見うしなった肉親の姿でも見つけたように——
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次第につもりたる雪ところとして雪ならざるはなく、雪光せつくわう暗夜あんやてらして水のながるるありさま、おそろしさいはんかたなし。
たかひくく、声々こゑ/″\大沼おほぬまのひた/\とるのがまざつて、暗夜あんやきざんでひゞいたが、くもからりたか、みづからいたか、ぬま真中まんなかあたりへうすけむり朦朧もうろうなびいてつ……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
暗夜あんやごと山懐やまふところを、さくらはなるばかり、しろあめそゝぐ。あひだをくわつとかゞやく、電光いなびかり縫目ぬいめからそらやぶつて突出つきだした、坊主ばうずつら物凄ものすさましいものである……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
暗夜あんやにその玉の入りたる箱の内ばかり白きやうに見えなば金五十両にもとむべし、又その玉にて闇夜に大なる文字一字にてもよみえられなば金百両にもとむべし、又書状しよぢやうよむほどならば三百金
背後うしろからながめて意気いきあがつて、うでこまぬいて、虚空こくうにらんだ。こしには、暗夜あんやつて、たゞちに木像もくざう美女たをやめとすべき、一口ひとふり宝刀ほうたうびたるごとく、威力ゐりよくあしんで、むねらした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
憤慨と、軽侮と、怨恨えんこんとを満たしたる、視線の赴くところ、こうじ町一番町英国公使館の土塀どべいのあたりを、柳の木立ちに隠見して、角燈あり、南をさして行く。その光は暗夜あんやに怪獣のまなこのごとし。
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アツといつて、むつくとき、外套ぐわいたうあたまから、硝子戸がらすどへひつたりとかほをつけた。——これだと、暗夜あんややまも、朦朧もうろうとして孤家ひとつやともしびいてえる。……ひとつおおぼあそばしても、年内ねんない御重寶ごちようはう
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)