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怒
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いかり
ふりがな文庫
“
怒
(
いかり
)” の例文
爽
(
さわや
)
かな
五月
(
さつき
)
の流が、
蒼
(
あお
)
い野を走るように、瑠璃子は雄弁だった。黙って聴いていた勝平の顔は、
怒
(
いかり
)
と
嫉妬
(
しっと
)
のために、黒ずんで見えた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
けれども僕は里子のことを思うと、
恨
(
うらみ
)
も
怒
(
いかり
)
も消えて、たゞ限りなき
悲哀
(
かなしみ
)
に沈み、この悲哀の底には愛と絶望が戦うて居るのです。
運命論者
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
彼を
喝
(
かつ
)
せし
怒
(
いかり
)
に任せて、
半
(
なかば
)
起したりし
体
(
たい
)
を投倒せば、
腰部
(
ようぶ
)
の
創所
(
きずしよ
)
を強く
抵
(
あ
)
てて、
得堪
(
えた
)
へず
呻
(
うめ
)
き苦むを、不意なりければ満枝は
殊
(
こと
)
に
惑
(
まど
)
ひて
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
ポルジイは非常な決心と抑えた
怒
(
いかり
)
とを以て、書きものに従事している。夕食にはいつも外へ出るのだが、今日は従卒に内へ持って来させた。
世界漫遊
(新字新仮名)
/
ヤーコプ・ユリウス・ダビット
(著)
かくても
未
(
いま
)
だ
怒
(
いかり
)
は解けず、お村の
後手
(
うしろで
)
に
縛
(
くゝ
)
りたる縄の
端
(
はし
)
を
承塵
(
なげし
)
に
潜
(
くぐ
)
らせ、天井より
釣下
(
つりさ
)
げて、一太刀
斬附
(
きりつ
)
くれば、お村ははツと我に返りて
妖怪年代記
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
丈太郎の
怒
(
いかり
)
は爆発しました。一喝と共に、落ち散る小判を拾って、パッ、と投げましたが、ヒョイと顔を引っ込めてその手には乗りません。
大江戸黄金狂
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
彼は附近の人に恥かしい顔を見られ乍らも、足を
退
(
ひ
)
いて謝罪の言葉を繰返さなければならなかった。それでも婦人の
怒
(
いかり
)
は解けそうでなかった。
乗合自動車
(新字新仮名)
/
川田功
(著)
しかし女は
古帷子
(
ふるかたびら
)
の襟を心もち
顋
(
あご
)
に
抑
(
おさ
)
えたなり、驚いたように神父を見ている。神父の
怒
(
いかり
)
に満ちた言葉もわかったのかどうかはっきりしない。
おしの
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
あれに
嫉妒
(
しっと
)
を加えたら、どうだろう。嫉妒では不安の感が多過ぎる。
憎悪
(
ぞうお
)
はどうだろう。憎悪は
烈
(
は
)
げし過ぎる。
怒
(
いかり
)
? 怒では全然調和を破る。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
只興奮しているために、
瑣細
(
ささい
)
な事にも腹を立てる。又何事もないと、わざわざ人を
挑
(
いど
)
んで
詞尻
(
ことばじり
)
を取って、
怒
(
いかり
)
の動機を作る。
護持院原の敵討
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
是れは少年の時ばかりでない。少年の時分から老年の今日に至るまで、私の手は
怒
(
いかり
)
に乗じて人の
身体
(
からだ
)
に触れたことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
と、
急
(
きふ
)
に
來
(
き
)
た
人
(
ひと
)
の
院長
(
ゐんちやう
)
だと
解
(
わか
)
つたので、
彼
(
かれ
)
は
全身
(
ぜんしん
)
を
怒
(
いかり
)
に
顫
(
ふる
)
はして、
寐床
(
ねどこ
)
から
飛上
(
とびあが
)
り、
眞赤
(
まつか
)
になつて、
激怒
(
げきど
)
して、
病室
(
びやうしつ
)
の
眞中
(
まんなか
)
に
走
(
はし
)
り
出
(
で
)
て
突立
(
つゝた
)
つた。
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
しかるに今はシエーナにても(その頃たかぶり今けがるゝフィレンツェの劇しき
怒
(
いかり
)
亡ぼされし時彼はかしこの君なりき)
神曲:02 浄火
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
理不盡
(
りふじん
)
なる
怒
(
いかり
)
の
切先
(
きっさき
)
、
只
(
たゞ
)
一突
(
ひとつき
)
にとマーキューシオー
殿
(
どの
)
の
胸元
(
むなもと
)
をめがけて
突
(
つ
)
いてかゝりまする、
此方
(
こなた
)
も
同
(
おな
)
じく
血氣
(
けっき
)
の
勇士
(
ゆうし
)
、なにを
小才覺
(
ちょこざい
)
なと
立向
(
たちむか
)
ひ
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
これも兎角セルギウスに
怒
(
いかり
)
を起させる
傾
(
かたむき
)
があるので、セルギウスは不断恐しい誘惑の一つとして感じてゐたのである。
パアテル・セルギウス
(新字旧仮名)
/
レオ・トルストイ
(著)
広巳の眼は光って
怒
(
いかり
)
に燃えている眼であった。年老った婢はいつもの広巳とかってがちがっているのでおやと思った。
春心
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
恥
(
はずか
)
しい目にあった時などは、黙って皆を見返して考えていると、一番いいのよ。
怒
(
いかり
)
くらい強いものはないけど、怒をじっと我慢しているのはなお偉いわ。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
失望して——多少
怒
(
いかり
)
の色を帯びて帰って来た頃には、彼女も一二枚の直しものを受けて来て、彼を待受けていた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
余りいつまでも打たれている
中
(
うち
)
に
障
(
ささ
)
えることの出来ない
怒
(
いかり
)
が
勃然
(
ぼつぜん
)
として
骨々
(
ほねぼね
)
節々
(
ふしぶし
)
の中から起って来たので、もうこれまでと源三は
抵抗
(
ていこう
)
しようとしかけた時
雁坂越
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
聞お光
破談
(
はだん
)
の事の原因はやう/\
解
(
わか
)
りし物ながら
怒
(
いかり
)
に堪ぬは家主が其
奸計
(
かんけい
)
は
口惜
(
くちをし
)
き如何はせんと計りにて涙に
暮
(
くる
)
る女氣の袖を
濕
(
しめ
)
らせゐたりしが
稍
(
やゝ
)
有
(
あ
)
つて顏を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
と云う文治の
権幕
(
けんまく
)
を見ると、
平常
(
へいぜい
)
極
(
ごく
)
柔和の顔が、
怒
(
いかり
)
満面にあらわれて身の毛のよだつ程怖い顔になりました。
業平文治漂流奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
黒髪バラリと振り掛かれる、
蒼
(
あを
)
き
面
(
おもて
)
に血走る双眼、日の如く輝き、
怒
(
いかり
)
に
震
(
ふる
)
ふ
朱唇
(
くちびる
)
白くなるまで
噛
(
か
)
み
〆
(
し
)
めたる梅子の、心
決
(
きは
)
めて見上たる美しさ、
只
(
たゞ
)
凄
(
すご
)
きばかり
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
不機嫌に曇らされたことも
怒
(
いかり
)
に禍ひされたこともない、靜かで信實な友情を表はしてゐるではないか。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
何やら戸の外で言ひ合つてゐるのだけが聞える。間もなくドイツ人は室内に帰つて来た。そして髯男を相手に喧嘩をして起した
怒
(
いかり
)
を、気の毒にもエレナに浴せ掛けた。
鱷
(新字旧仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
亜米利加
(
アメリカ
)
ではあるまいし、
怒
(
いかり
)
心頭
(
しんとう
)
に発したものだ。そうお
仰
(
っしゃ
)
ればそうですが、何でも困ります、あれは酒の讃美ですというんだ。わからないのも程があると思ったね。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
それだけにては愚意
分
(
わか
)
りかね候に
付
(
つき
)
愚作をも連ねて御評願いたく
存居
(
ぞんじおり
)
候えども、あるいは先輩諸氏の
怒
(
いかり
)
に触れて
差止
(
さしと
)
めらるるようなことはなきかとそれのみ心配
罷在
(
まかりあり
)
候。
歌よみに与ふる書
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
これを見て
怒
(
いかり
)
心頭に発し、屍体を投げ棄てて大喝一番『吾が天業を妨ぐるかッ』と叫ぶなり、百倍の狂暴力をあらわし、組み付いて来た男を二三人、
墓原
(
はかばら
)
にタタキ付け
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
あなたの唇はわななき、
眼
(
め
)
は
怒
(
いかり
)
と涙で輝いて居た。けれども、母様はあなたをかばいながら
少年・春
(新字新仮名)
/
竹久夢二
(著)
博士がひとりで二万両の金の
在
(
あり
)
かを探して自分の物にしようとしたので、弟の理学士が
怒
(
いかり
)
のあまり、飼い馴らしていた南洋
鸚哥
(
いんこ
)
の
吻
(
はし
)
に毒を塗って、兄を
啄
(
つ
)
つかせて殺したのである。
幽霊屋敷の殺人
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
ところがこの小わッぱめが遂に阿Qの飯碗を取ってしまったんだから、阿Qの
怒
(
いかり
)
尋常一様のものではない。彼はぷんぷんしながら歩き出した。そうしてたちまち手をあげて
呻
(
うな
)
った。
阿Q正伝
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
朗々
(
のどか
)
なりしも
掌
(
てのひら
)
をかへすがごとく
天
(
てん
)
怒
(
いかり
)
地
(
ち
)
狂
(
くるひ
)
、寒風は
肌
(
はだへ
)
を
貫
(
つらぬく
)
の
鎗
(
やり
)
、
凍雪
(
とうせつ
)
は
身
(
み
)
を
射
(
いる
)
の
箭
(
や
)
也。
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
荒海
(
あらうみ
)
の
怒
(
いかり
)
に
逢
(
あ
)
うては、世の常の
迷
(
まよい
)
も
苦
(
くるしみ
)
も無くなってしまうであろう。
己
(
おれ
)
はいつもこんな風に遠方を見て感じているが、一転して近い処を見るというと、まあ、何たる殺風景な事だろう。
痴人と死と
(新字新仮名)
/
フーゴー・フォン・ホーフマンスタール
(著)
応永のころ一条
戻橋
(
もどりばし
)
に立って
迅烈
(
じんれつ
)
な
折伏
(
しゃくぶく
)
を事とせられたあの日親という御僧——、
義教
(
よしのり
)
公の
怒
(
いかり
)
にふれて、舌を切られ
火鍋
(
ひなべ
)
を
冠
(
かぶ
)
らされながら
遂
(
つい
)
に
称名
(
しょうみょう
)
念仏を口にせなんだあの無双の
悪比丘
(
あくびく
)
は
雪の宿り
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
伊吹虎尾
(
いぶきとらのを
)
、振りかざす手の
怒
(
いかり
)
、
空
(
から
)
になつた心臟にしがみつく
蝮
(
まむし
)
、
自害
(
じがい
)
した人。
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
慶三は前後を忘れ
怒
(
いかり
)
の発するがままに、「おい、君。」と
後
(
うしろ
)
から声をかけた。葉山は既に慶三の顔を見知っていたものと見え、軒燈の光に振返って
少時
(
しばし
)
睨み合ったが、
忽
(
たちま
)
ち嘲るような調子で
夏すがた
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
射墜
(
うちおと
)
された敵機の周囲には、激しい
怒
(
いかり
)
に燃えあがった市民が
蝟集
(
いしゅう
)
して、プロペラを折り、
機翼
(
きよく
)
を裂き、それにも
慊
(
あきた
)
らず、機の
下敷
(
したじき
)
になっている
搭乗将校
(
とうじょうしょうこう
)
の死体を引張りだすと、ワッと
喚
(
わめ
)
いて
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
彼はこの馬鹿げた形の狂いを感じると、お柳に対する
怒
(
いかり
)
がますます輪をかけて
嵩
(
こう
)
じて来た。彼は寝台の上へ倒れたまま、心をなだめるように、毛布の柔かな毛なみをそろりそろりと
撫
(
な
)
でてみた。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
大マルズック星(木星)が天界の牧羊者(オリオン)の境を犯せば神々の
怒
(
いかり
)
が
降
(
くだ
)
るのも、月輪の上部に
蝕
(
しょく
)
が現れればフモオル人が禍を
蒙
(
こうむ
)
るのも、
皆
(
みな
)
、古書に文字として誌されてあればこそじゃ。
文字禍
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
「もし
頭
(
こうべ
)
をあげなば
獅子
(
しし
)
の如くに汝われを追打ち……汝はしばしば
証
(
あかし
)
する者を入れかえて我を攻め、我に向いて汝の
怒
(
いかり
)
を増し新手に新手を加えて我を攻め給う」とヨブは神の
迫撃
(
はくげき
)
盛なるを
怨
(
えん
)
じ
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
すると御神輿を高い処から見下したというので若者達の
怒
(
いかり
)
にふれ、私はヴェランダから地面に引きずり落され散々な目にあいました。その事が
抑
(
そもそ
)
もこの土地で不評判になった最初だったんですの。
機密の魅惑
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
それを何ぞや小児が
餅菓子
(
もちがし
)
を鑑定するように、
徒
(
いたず
)
らに皮相の色彩に誘惑せられて、選択は当を失するのみならず、
終
(
つい
)
に先生の
怒
(
いかり
)
を買うに至っては、
翡翠
(
かわせみ
)
の
無智浅慮
(
むちせんりょ
)
は
誠
(
まこと
)
に
憫
(
あわれ
)
むに
堪
(
た
)
えざるものがある。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
顛落
(
てんらく
)
した——
怒
(
いかり
)
に燃えた半四郎が、男を責め折檻した。
京鹿子娘道成寺
(新字新仮名)
/
酒井嘉七
(著)
小田島は呆れた後から
怒
(
いかり
)
が胸へ込み上げて来た。
ドーヴィル物語
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
久しく抑えた、静かな
怒
(
いかり
)
を持っている人々。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
若者は
怒
(
いかり
)
に
顫
(
ふる
)
えながら鋭い声で弁解した。
死の復讐
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
怒
(
いかり
)
をわれの吹くときは
藤村詩抄:島崎藤村自選
(旧字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
怒
(
いかり
)
であつた。
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
「私を、……私を、……私を、……」と
怒
(
いかり
)
を帯びた声強く、月に瞳を見据えたが、
颯
(
さっ
)
と
耳朶
(
みみたぶ
)
に紅を染めた。胴を
反
(
そら
)
して、雪なす足を折曲げて
三枚続
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
お浜の
怒
(
いかり
)
は際限もなく爆発します。芳年をいとしと思う心が、
斯
(
こ
)
うまで極端に働いて、全く違った方角へ忿怒の形で発展して行ったのでしょう。
芳年写生帖
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
と、
急
(
きゅう
)
に
来
(
き
)
た
人
(
ひと
)
の
院長
(
いんちょう
)
だと
解
(
わか
)
ったので、
彼
(
かれ
)
は
全身
(
ぜんしん
)
を
怒
(
いかり
)
に
顫
(
ふる
)
わして、
寐床
(
ねどこ
)
から
飛上
(
とびあが
)
り、
真赤
(
まっか
)
になって、
激怒
(
げきど
)
して、
病室
(
びょうしつ
)
の
真中
(
まんなか
)
に
走
(
はし
)
り
出
(
で
)
て
突立
(
つった
)
った。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
怒
常用漢字
中学
部首:⼼
9画
“怒”を含む語句
憤怒
怒鳴
怒濤
怒号
忿怒
御怒
嚇怒
怒気
狂瀾怒濤
鬼怒川
激怒
怒涛
震怒
大聖威怒王
神怒
怒田
赫怒
怒罵
怒髪
怒声
...