)” の例文
いい塩梅あんばい半月ばかりは何事もないので、少し安心する間もなく、六日前にまた一人、今度は日本人が行くえ不明になったんです。
麻畑の一夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あくるあさ勇吉ゆうきちは、きてぶりになったにわると、とんぼは、ぬれながら、じっとして、やはりおなじところにまっていました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
入江の出口から右の方に長く続いているさきはしが突き出ている、その先きの小島に波が白く砕け始めるようになって来ました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
この時は一時間も話した。駄洒落で執達吏をけむに巻く花痩が同席していたから、眉山も元気にはしゃいで少しもシンミリしなかった。
しかたがありませんから、その中にはいって、あめやみになるのをっているうちに、いつかはとっぷりくれてしまいました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
神田伯山かんだはくざんおうぎを叩けば聴客『清水しみず治郎長じろちょう』をやれと叫び、さん高座にのぼるや『睨み返し』『鍋焼うどん』を願ひますとの声しきりにかかる。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
こ暗い雑木林マッキオの中にかすかに切り開かれた『蛇の道セキエール』をくぐり抜け、黒柳の生えた大きな谷の縁を半日も廻って行くのである。
漆間うるしま四郎綱高つなたかは、こんど十七歳での出陣だった。初陣ではなく、何度かの合戦で、いつも敵の強豪を打ち、足利勢のうちでも
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まあ相手がまだんまいせに話が聞けるわけでもなし、十分わかりませんけど、だいたい二メートルぐらい見えるげなようです。
大根の葉 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
一休いっきゅうさんや ぞうたちは しょうじの かげに かおを あつめて、じっと じくさいさんの ようすを のぞいていました。
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
旦「松源てえば彼処あすこで五六たび呼んだしめだのおいとだのと云うい芸者のうちで、年若の何とか云ったッけ、美代みよちゃんかえ」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その時分はまだ一個のそう、家も二十軒あったのが、娘が来て一日二日、ついほだされて逗留とうりゅうした五日目から大雨が降出ふりだした。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを見送って「ファイン・プレイをよ」と八重子は、おしゃな声をかけます。わたくしは「済みません」と言いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
当時の髪結床かみゆいどこは、今のようにざっぱりしたものではなく、特にこういう源空寺門前といったような場末では、そりゃ、じじむさいものでした。
市街の夜景を見て歩きたいと思つたが、最終の蒸汽が午後四時に出る外、そののちは一切出さないと云ふ窮屈な規定を憤慨しつつ本船に帰つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
スッカリ気に入るまでには一年もかかりまして、僕が生れると間もない翌年の春狂言にやっと間に合った位だそうです。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私もむずかしい事はなるべく言わずにすましたいのです。けれども兄さんを理解するためには、ぜひともそこへ触れて来なければなりません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
七八間先けんさききざみに渋蛇しぶじゃよこを、一文字もんじ駆脱かけぬけたのもつか、やがてくびすかえすと、おにくびでもったように、よろこいさんでもどった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
昼間または中間ちゅうかんのマという言葉をはじめとし、ハシマもバサマもケンズイも、もとはすべて間食ということであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
実際男にとつて、女房かないの里方のおせつかい程うるさいものはないが、それを思ふと、村井氏が米国婦人を妻に迎へて帰つたのは悧巧な仕方だつた。
もし、おとうさまがきておられたら、おまえは、いまごろは、どこかのおてらぞうさんになっているところだよ。
我国の餅花は春なり。正月十四日までをおほ正月といひ、十五日より廿日までを正月といふ、是わが里俗のならはせなり。
彼は先ず一時預けの行李を受取ってから、駅の便所に入って例の変装をとりはずし、元の人見廣介に戻ると、その足で霊岸島の汽船発着所へと急ぎました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
江戸は本所ほんじょの方に住んでおられました人で——本所という処は余り位置の高くない武士どもが多くいた処で、よく本所の旗本ぱたもとなどと江戸のことわざで申した位で
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僕はえんの不しだらには、あきれ返らざるを得ないと云った。しかし若槻の話を聞いている内に、だんだん僕を動かして来たのは、小えんに対する同情なんだ。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しゃくに足らぬ男にも、六しゃくちかい大兵だいひょうにも、一たんの反物をもって不足もしなければあまりもせぬ。もっとも仕立の方法によりてはいかようにもなし得られる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あるいた道程みちのりは一あまりでございましょうか、やがて一つの奥深おくふか入江いりえ𢌞まわり、二つ三つ松原まつばらをくぐりますと、そこは欝葱うっそうたる森蔭もりかげじんまりとせる別天地べってんち
仕事しごとたのむのなにうしたとかうるさく這入込はいりこんではまへだれの半襟はんえりおびかはのと附屆つけとゞけをして御機嫌ごきげんつてはるけれど、つひしかよろこんだ挨拶あいさつをしたこと
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのほか貝殼かひがらばかりをならべた貝類博物館かひるいはくぶつかん電氣でんきかんするものをならべた電氣博物館でんきはくぶつかんといふように、陳列品ちんれつひん種類しゆるいおほわけにもわけにも隨意ずいい區別くべつすることが出來できます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
さんの落語が半ばに至った時、春の日は暮懸っての命が長く、水を隔てゝ御蔵橋を駈下りる車にまだ提灯かんばんいて居なかったが、座敷にははや燭台の花が咲いて
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「おい、すずの兵隊」と、そのおには言いました。「そんなに、いつまでもながめているなよ」
さうして京都迄の一時間に所謂水上瀧太郎廢嫡問題なるものの由來を同氏によつて傳へられた。
律師が立って行ったあとで、少将を呼んで、こうこうしたことを聞いたとまず御息所は言った。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今やおそしと待居たり既に其暮近くれちかき頭一人足輕あしがる八ツ字蔦じつたと云字の目引めひきこん看板かんばんたる者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「電車をおりて、十ちょうぐらいだと聞いたが、どうして一里もあるじゃないか、やれ、やれ」
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一里のぼるだよ。せば北村と近くなるべ。んでなえと付かつたどき、うるせえべよ。」
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
やぶれたシャツはうちに置いてたから、今この職務しょくむ忠実ちゅうじつ教育家きょういくかのこわばった手の動きにつれて、新しいざっぱりしたシャツがさやさやと、かすかなおとを立てているのだ。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
さて一時間も経つたかとおもふころ、しきりに赤彦君を呼ぶこゑがする。それは不二子さんのこゑである。それから初瀬さんのこゑである。それから周介君のこゑである。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
町から一里も行くとかの字港に出る、そこから船でつの字崎の浦まで海上五里、のうちに乗って、天明あけがたにさの字浦に着く、それから鹿狩りを初めるというのが手順であった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ところで汽車が発つと何うにも胸が収まらない。いつもよりは少しぴどられたのでな。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
真正の彼岸ザクラすなわち Prunus subhirtella Miq. は往時むかしから彼岸ザクラと称え、それ以外の名はザクラがその一名であるように思われるけれど
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そう云う場合には、お島はいつも荒れ馬のように暴れて、ッぴどく男の手顔を引かくか、さもなければ人前でそれを素破すっぱぬいてはじをかかせるかして、自らよろこばなければ止まなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
乳母と云ふ鏡子の望む方の事は月に二十円のかゝりが入ると云ふので靜の恩家おんかへの遠慮で実行する事が出来ずに、里へ預ける事になつた時、だ産後十七日ぐらゐ身体からだで神田の小川町へ
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
勘定奉行は重任だ、大蔵卿だからな。公卿くげの大蔵卿は名前倒れの看板だが、傾きかけた幕府の大台所を一手にまかなう役目は重いよ、辛いよ。旗本ぱたもとの家にしてからが、勘定方は辛いぞ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
子供なんかも、へんにましゃくれて、素直な元気なところが、ちっともない。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「円枝は、若えから無理もねえが、うるせえ話しぶりでごぜえますね。」
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これ山川さんせん風土ふうど氣候等きこうとう地理的關係ちりてきくわんけいしからしむるところであつて、すべてのものはじんまりとしてり、したがつて化物ばけものみな小規模せうきもである。希臘ぎりしやかみみな人間にんげんはづかにおばけはあるが、こわくないおばけである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
さればといってうちでの取扱いが変ったのではない。相変らず書生扱にされて、ぴどくコキ使われ、果は下女の担任であった靴磨きをも私の役に振替えられて了った。無論其時は私は憤激した。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
周三しうざうは、畫架ぐわかむかツて、どうやらボンヤリ考込かんがへこむでゐた。モデルに使つかツてゐるかれ所謂いわゆる平民へいみんむすめ』は、時間じかんまへかへツてツたといふに、周三はだ畫架の前をうごかずに考へてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
磯長しながゆるぎの浜、この浜や荒浪高し。この夜ごろいよいよ高し。