一息ひといき)” の例文
爐端ろばたもちいたゞくあとへ、そろへ、あたまをならべて、幾百いくひやくれつをなしたのが、一息ひといきに、やまひとはこんだのであるとふ。洒落しやれれたもので。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのあいだ、ガンたちは荘園しょうえんの上をいったりきたりして、犬の言うことを聞いていましたが、犬が一息ひといきつきますと、こうさけびました。
形ばかりの銕線はりがねてすりはあるが、つかまってゆる/\渡る気にもなれぬ。下の流れを見ぬ様にして一息ひといきに渡った。橋の長さ二十四間。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
のどがかわいているとみえて、蛾次郎はそこで一息ひといきつくと、岩層がんそうのあいだから滴々てきてきと落ちている清水しみずへ顔をさかさまにして、口をあいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし書かれたものの分量があまりに多過ぎるので、一息ひといきにそこで読み通す訳には行かなかった。私は特別の時間をぬすんでそれにてた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兎は一息ひといきに、百ヤードばかり走りぬきました。そして、自分のまわりを見廻みまわしてみると、そこには、亀の姿すがたも形も見えないではありませんか。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
夫れ浮世うきよ名聞きこえは今此方こなたに吹き今彼方かなたに吹き、その處を變ふるによりて名を變ふる風の一息ひといきに外ならず 一〇〇—一〇二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しかも、もし君がちゃんと私の頼みをきいてくれさえするならば、私の苦しみは一息ひといきのように過ぎ去るだろうということを、よく知っているのです。
「も一ツ」と今度は徳二郎がついでやったのを、女はまたもや一息ひといきに飲み干して、月に向かって酒気をほっと吐いた。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ぼうさんはそのうち人里ひとざとに出て、ほっと一息ひといきつきました。そしてはなやかにさしのぼった朝日あさひかって手をわせました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一息ひといきついた自分は、とっさに戸の上部じょうぶのガラスまどをやぶろうと考えた。いきなり、うしろをふりむくと、手にしたはたのぼうでガラスをつきくだいた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
こほ手先てさき提燈ちやうちんあたゝめてホツと一息ひといきちからなく四邊あたり見廻みまはまた一息ひといき此處こゝくるまおろしてより三度目さんどめときかね
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すると、正覚坊はその中に首をつき込んで、きゅーっと一息ひといきに飲み干しました。平助はうれしくなりました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わたくしおもはず一息ひといきついた、『矢張やはり無益むえき心配しんぱいであつたか』とすこしくむねでおろす、其時そのときわたくしはふと心付こゝろついたよ
彼はうしろを振り返って如来の来ないのを確かめた上、始めてほっと一息ひといきした。如来は摩迦陀国まかだこくの王子であり、如来の弟子たちもたいていは身分の高い人々である。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夜に入りて旅館に帰り、ようよう一息ひといき入れんとせしに、来訪者引きも切らず、よんどころなく一々面会して来訪の厚意を謝するなど、その忙しさ目も廻らんばかりなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
嬉しと心を言へらんやうの気色けしきにて、彼の猪口ちよくあませし酒を一息ひといき飲乾のみほして、その盃をつと貫一に差せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼等の楽しみは、なにより、「角打かくうち」だ。ますかどから、キュウッと、冷酒ひやざけ一息ひといきに飲むことである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
なにしろ、今迄は、資本を寝かす一方でして、もう一息ひといきといふところで、動きがとれなくなるのが、どうも残念なんです。あと千円もあれば、この暮れがどうにか……。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
私は起きて、頭や顏を水で洗つて、一息ひといきに水を一ぱい呑みました。衰へてはゐるけれど、病氣ではないと思つて、たゞあなたにだけこの幻をお話しようと決心したのです。
吉坊よしぼうは、きよちゃんのかたにつかまりました。きよちゃんは、ハンドルをにぎっていました。二人ふたりは、いままでゆかなかったような、遠方えんぽうまで、一息ひといきはしってゆくことができました。
父親と自転車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
四年目の冬は、前年の実験ですっかり元気を取戻して、同じような実験を進めて行ったのであるが、どうも今一息ひといきというところで自然の雪の結晶のような美しいものにはならない。
雪を作る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「いや結構だ。うまいよ。」と重吉は落し玉子の吸物を一息ひといきに半分ほど飲み干した。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
遂に又お園に恋慕れんぼを云いかけまするという怪談のお話、一寸一息ひといききまして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
急ぐ程にやが宿場しゆくば共思はるゝ所へ出し頃は夜は白々ほの/″\明放あけはなれ往來の旅人も多く有ければ兩人は漸々やう/\心落付初めて勞れを覺えづ此邊にて一息ひといきつかんと茶見世に立寄て腰を掛ければ茶店の親父おやぢは茶を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「もうほんの一息ひといきでございます」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ただ一息ひといきにこそ歌ふなれ。
そぞろごと (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さちよは、一息ひといきついて
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
ズボリと踏込ふみこんだ一息ひといきあひだは、つめた骨髓こつずゐてつするのですが、いきほひよく歩行あるいてるうちにはあたゝかります、ほか/\するくらゐです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
平生へいぜいより多少機嫌のよかった奥さんも、とうとう私の恐れをいだいている点までは話を進めずにしまいました。私はほっと一息ひといきして室へ帰りました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さあ、やっこさんがあわくのはこれからだぞ。そこで燕作さまは、このへんでじゅうぶん一息ひといきいれてゆくとしようか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しまいには、辛抱しんぼうしきれなくなって、なかばかんしゃくまぎれに、なかばうっとりして、非常な勢いで、金の日の丸めがけて、一息ひといきに落っこってやりました。
雷神の珠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わたくし武村兵曹たけむらへいそうとは見合みあはせて、はじめてホツと一息ひといきついた。あの大陸たいりくは、うたがひ印度インド大陸たいりくであらう。
さてなにがしぼくしたが我家わがやをさしてかへみちすがらさき雲飛うんぴが石をひろつた川とおなじながれかゝつて居るはしまで來ると、ぼくすこかたやすめるつもりで石を欄干らんかんにもたせてほつ一息ひといき
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
車上しやじやうひと目早めばやみとめて、オヽ此處こゝなり此處こゝ一寸ちよつとにはか指圖さしづ一聲いつせいいさましく引入ひきいれるくるま門口かどぐちろす梶棒かぢぼうともにホツト一息ひといきうちには女共をんなども口々くち/″\らつしやいまし。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かぜは、すこしのあいだ一息ひといきいれると、そのは、かえって、すさまじい勢力せいりょくをあらわしました。
戦争はぼくをおとなにした (新字新仮名) / 小川未明(著)
汽車が百足むかでの様に隧道をい出して来て、此停車場に一息ひといきつくかと思うと、またぞろぞろ這い出して、今度は反対の方に黒く見えて居る隧道のあなわるゝ様に入って行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それからつるつる、つるつる、何度なんど何度なんどもすべりながら、それでも強情ごうじょうに一けんばかりのぼりましたが、とうとう一息ひといきにつるりとすべって、ずしんとびたにころげちました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
是からどういう事に相成りますか、一寸ちょっと一息ひといき致しまして申上げましょう。
或夏も暮れかかつた午後、Kさんはこの畠へ出、もう花もまれになつたポンポン・ダリアにはさみを入れてゐた。すると汽車は堤の上をどつと一息ひといきに通りすぎながら、何度も鋭い非常警笛を鳴らした。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
盈々なみなみと酒をれたる二つの猪口は、彼等の目より高く挙げらるるとひとしかつ相撃あひうてば、くれなゐしづくの漏るが如く流るるを、互に引くより早く一息ひといきに飲乾したり。これを見たる佐分利は甘糟の膝をうごかして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さちよは、一息ひといきついて
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
佐久間玄蕃さくまげんば中入なかいり懈怠けたいのためか、柴田勝家しばたかついへしづたけ合戰かつせんやぶれて、城中じやうちう一息ひといき湯漬ゆづけ所望しよまうして、悄然せうぜんきたさうへとちてく。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分は東海道を一息ひといきに京都まで来て、そこで四五日用足ようたしかたがた逗留とうりゅうしてから、同じ大阪の地を踏む考えであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほつと一息ひといき引上ひきあげてると、おもつたより巨大おほきうをで、ほとんど端艇たんてい二分にぶんいちふさいでしまつた。
「それは、それは、おたいぎのことです。ここから、もう一息ひといきのおほねおりですが、みちはよろしゅうございます。それではすこしでもおはやく、あかるいうちに、いらっしゃいまし。」
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
よほどいそいだものと見えて、さすがの燕作も、そこでホッと一息ひといきやすめた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒呑童子しゅてんどうじ一息ひといきみほして、これもさもうまそうに舌鼓したつづみをうちながら
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
清水の旦那のあだかえさずに置くものか、と切歯はぎしりをしながら其のは帰宅致しまして、十二月五日の明店あきだなに忍んで井生森又作の様子をさぐり、旧悪きゅうあく見顕みあらわすという所はちょっと一息ひといきつきまして
鍬柄くわづかついて畑の中に突立つったった時は、天も見ろ、地も見ろ、人も見てくれ、吾れながら天晴見事の百姓振りだ。額の汗を拭きもあえずほうと一息ひといき入れる。曇った空から冷やりと来て風が額を撫でる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)