一寸いつすん)” の例文
風葉ふうえふは「身長今一寸いつすん」を希望とし、春葉しゆんえふは「四十迄生きん事」を希望とし、紅葉は「欧洲大陸にマアブルの句碑を立つ」を希望とす。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
同時に長吉ちやうきち芝居道しばゐだう這入はいらうといふ希望のぞみもまたわるいとは思はれない。一寸いつすんの虫にも五分ごぶたましひで、人にはそれ/″\の気質きしつがある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
のみのようなやいばのついてゐる一寸いつすんぐらゐのちひさい石斧せきふもありますが、これは石斧せきふといふよりも、石鑿いしのみといつたほうてきしてゐるようにおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
すなすべりのたにじつたにばるゝごとく、吾等われら最早もはや一寸いつすんうごことあたはず、くわふるに、猛獸まうじう襲撃しふげき益々ます/\はなはだしく、この鐵檻車てつおりのくるまをもあやうくせんとす。
前刻さつきから、通口かよひぐちかほして、髯旦ひげだんのうめかたが、まツとほり、小兒こども一寸いつすんみづ一升いつしようわりのぞいて、一驚いつきやうきつした三助さんすけ
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またくつなかれる。うしても二足にそくつてゐないとこまる」とつて、そこちひさいあなのあるのを仕方しかたなしに穿いて、洋袴ずぼんすそ一寸いつすんばかりまくりげた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼等かれら勞働らうどうから空腹くうふく意識いしきするとき一寸いつすんうごくことの出來できないほどにはか疲勞ひらうかんずることさへある。什麽どんな麁末そまつものでも彼等かれらくちには問題もんだいではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
が、発動機の壊れてゐる上に、前方の車軸までが曲つてゐるらしい自動車は、一寸いつすんだつて動かなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
〔評〕南洲かつて東湖に從うて學ぶ。當時たうじ書する所、今猶民間にそんす。曰ふ、「一寸いつすん英心えいしん萬夫ばんぷてきす」と。けだ復古ふくこげふを以て擔當たんたうすることを爲す。維新いしん征東のこう實に此にしんす。
彼の進退はここにきはまるとともに貫一もこの場は一寸いつすんも去らじと構へたれば、遊佐はわなに係れる獲物の如く一分時毎に窮する外は無くて、今は唯身に受くべき謂無いはれなき責苦を受けて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一寸いつすん猶豫ゆうよもならぬとそれは/\にもかゝれぬだんじやうおまへにも料簡れうけんあることゝやうやうに言延いひのべてかへりますまでたのんではいたれどマアどうしたらからうか思案しあんしててくだされと小聲こごゑながらもおろ/\なみだあんじなされますなうにかなります今夜こんや大分だいぶけましたから明日あした早々さう/\出向でむきまして談合はなしあひを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
田舍ゐなかづくりの籠花活かごはないけに、一寸いつすん(たつた)もえる。内々ない/\一聲ひとこゑほとゝぎすでもけようとおもふと、うして……いとがると立所たちどころ銀座ぎんざやなぎである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おほきなものになりますと、ながさが三寸さんずんにもたつするものもありますが、普通ふつう一寸いつすんから一寸五分前後いつすんごぶぜんごのものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
やうや下女げぢよ退がりきりに退がると、今度こんどだれだか唐紙からかみ一寸いつすんほど細目ほそめけて、くろひか眼丈めだけ其間そのあひだからした。宗助そうすけ面白おもしろくなつて、だまつて手招てまねぎをしてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すな喰止くひとまること出來でき齒輪車はぐるまは、一尺いつしやくすゝんではズル/″\、二三じやく掻上かきあがつてはズル/″\。其内そのうち車輪しやりん次第しだい々々にすなもれて、最早もはや一寸いつすんうごかなくなつた。
なにはしかれくるまうづまりますまで、るとしませう。其上そのうへは、三にんがかり五にんがかり、三井寺みゐでらかねをかつぐちからづくでは、とても一寸いつすんうごきはしませぬ。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なかにはながさが一寸いつすんぐらゐもない、ちひさいうつくしいいしつくつたをのがありますが、それは實際じつさいやくつものとはおもはれません。多分たぶん大切たいせつ寶物ほうもつるいであつたのでせう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
しかし、をんなおほいので服裝ふくさうものるとか、二週間にしうかん旅行りよかうしてかへつてくると、きふにみんなのせい一寸いつすんづゝもびてゐるので、なんだかうしろからかれるやう心持こゝろもちがするとか、もうすこしすると
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さあ、身代みがはりは出来できたぞ! 一目ひとめをんなされ、即座そくざ法衣ころもいはつて、一寸いつすんうごけまい、とやみ夜道よみちれたみちぢや、すた/\と小家こやかへつてのけた……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのとき横町よこちやうたて見通みとほしの眞空まぞらさら黒煙こくえん舞起まひおこつて、北東ほくとう一天いつてん一寸いつすんあまさず眞暗まつくらかはると、たちまち、どゞどゞどゞどゞどゞとふ、陰々いん/\たるりつびたおもすご
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おほきさは一寸いつすん二三分にさんぶちひさなせみぐらゐあつた、とふ。……しかしその綺麗きれいさは、うもおもふやうにいひあらはせないらしく、じれつたさうに、家内かない逆上のぼせてた。たゞあをつたのでは厄介やつかいだ。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)