せき)” の例文
旧字:
(今度も軽井沢かるゐざは寐冷ねびえを持ち越せるなり。)但し最も苦しかりしは丁度ちやうど支那へ渡らんとせる前、しもせきの宿屋に倒れし時ならん。
病牀雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こういう有様であるから、とても普通なみの小供のように一通りの職業を習得するは思いも寄らず、糊口くちすぎをすることがせきやまでありました。
わしは長良川ながらがわの上流を、十里余ものぼって、たった独りの老母おふくろがいるせき宿しゅくの在、下有知しもずちという草ぶかい田舎いなかへ一本槍に帰って来た。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊予の西の端に指のように突き出た佐田岬さだみさき半島と豊後の佐賀さがせき半島とは、大昔には四国から九州につながった一つの山脈であったのが
瀬戸内海の潮と潮流 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それは松脂まつやにの蝋でり固めたもので、これに類似した田行燈というものを百姓家では用いた。これは今でもいちせき辺へ行くとのこっている。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
魚津うおづより三日市みっかいち浦山うらやま船見ふなみとまりなど、沿岸の諸駅しょえきを過ぎて、越中越後の境なるせきという村を望むまで、陰晴いんせいすこぶる常ならず。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もはや、西のしもせきの方では、攘夷を意味するアメリカ商船の砲撃が長州藩によって開始されたとのうわさも伝わって来るようになった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日本にっぽん国中くにじゅう方々ほうぼうめぐりあるいて、あるとき奥州おうしゅうからみやこかえろうとする途中とちゅう白河しらかわせきえて、下野しもつけ那須野なすのはらにかかりました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
これは祖先以来の出入先で、本郷五丁目の加賀中将家、桜田堀通の上杉侍従家、桜田かすみせきの松平少将家の三家がそのおもなるものであった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
磐城の連山の雲霧の彼方かなたに、安達ヶ原がある、陸奥みちのくのしのぶもじずりがある、白河の関がある、北海の波に近く念珠ねずせきもなければならぬ。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五十ぐらいの平田という老朽ろうきゅうと若い背広のせきというじゅん教員とが廊下の柱の所に立って、久しく何事をか語っていた。二人は時々こっちを見た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
をりふし人目のせきもなかりしかば、心うれしくおはたやをいでゝ家のうしろにいたり、まどのもとに立たる男を木小屋きこやに入ぬ。
慶長けいちょう五年九月十五日、東西二十万の大軍、美濃国みののくに不破郡ふわぐんせきはらに対陣した。ここまでは、どの歴史の本にも、書いてある。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
せきさんだ。「この石は安山岩であります。上流から流れてきたのです。」まねをしている。堀田ほっただな。堀田は赤い毛糸のジャケツをているんだ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
○二月、歌舞伎座にて「せき」を上演。団十郎の関兵衛、菊五郎の墨染は、双絶と称せらる。菊之助の小町姫も好評。
明治演劇年表 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けれども秘密の早船を仕立て、大坂、備後びんごとも周防すおうかみせきの三ヶ所に備へを設け、京坂の風雲は三日の後に如水の耳にとゞく仕組み。用意はできた。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ことに「にごり江」のおりき、「やみ夜」のおらん、「闇桜やみざくら」の千代子、「たまだすき」の糸子、「別れ霜」のおたか、「うつせみ」の雪子、「十三夜」のおせき
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それと共に私はまたかすみせきの坂に面した一方に今だに一棟ひとむねか二棟ほど荒れたまま立っている平家ひらやの煉瓦造を望むと
「俺には年がないにしても、娘のお菊は女の身だ。迂濶うかつにほうってはおかれない。『せき寺小町』とおちぶれさせては、親として申し訳がないからなあ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし、それではこまるというので、みんなよって相談そうだんをして、だんうらの近くの赤間あかませき(今の下関しものせき)に安徳天皇あんとくてんのうのみささぎと平家一門へいけいちもんはかをつくりました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
更に双者交随の所見を呈し度くば、芝居の「せき、下」に人を誘おう。大伴黒主と桜の精の立合いは、闘争であって舞踊であり、舞踊であって闘争である。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
拝聴つかまつろうじゃないか。今大変なところだよ。いよいよ露見するか、しないか危機一髪と云う安宅あたかせきへかかってるんだ。——ねえ寒月君それからどうしたい
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『遠き山せきも越え来ぬ今更に逢ふべきよしの無きが佐夫之佐サブシサ』といふ歌があつて、結句にサブシサの語があるが、この結句は、『一云。佐必之佐サビシサ』とあるから
『さびし』の伝統 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
比較的いたしもせきゆきの急行の窓によりかかって、独り旅の気軽さをたのしみながら、今頃は伯父が手紙を見てどんなに喜んでいるかなどと、ぼんやり考えて見た。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
こうして都を立ってからほぼ一カ月がすぎて、十月十六日に駿河国清見きよみせきに着いたが、遠征の途中の国々で兵を集めたので、清見ヶ関では七万余騎を数えた。
雪嶺先生の勉強時間を、なるべくさまたげないためで、この安宅あたかせきを首尾よく越えると、応接間である。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
途中関釜くわんふ連絡船に乗ると、前檣ぜんしやうには日の丸の旗をひらひら掲げて呉れる。しもせきの山陽ホテルで、記者団の包囲を受けると、対話五分間で副官が撃退してくれる。
そのまよなか、列車はいませきはらのへんを走っていました。上段の野村さんは、ダイヤをいれた、まるい革のかばんをだくようにして、うとうとと眠っていました。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一番船の舳には関矢一郎が、腰に銘刀せき孫六まごろくをぶちこみ、角笛を持って、仁王のように立っている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
たけきつはものどもおほく一四六鼇魚かうぎよのはらにはぶられ、一四七赤間あかませき一四八だんの浦にせまりて、一四九幼主えうしゆ海に入らせたまへば、軍将いくさぎみたちものこりなく亡びしまで
君も見給ひし所ながら蘆の青やかに美くしくひたる河岸かはぎしに、さまで高からぬ灯火の柱の立てるなど、余りに人気ひとげ近きがばかりの世界のせきとも思はれがたさふらふよ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「としこさんのばかやい。」といって、悪口わるぐちをいうか、なぐりつけるのがせきやまで、としさんも
春の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
里から私にき添って来たばあやのおせきさんと相談して、私の腕輪や、頸飾くびかざりや、ドレスを売った。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大「待てよ、人の目に立たん証拠にならん手前の持ちそうな短刀がある、さ、これをやろう、見掛は悪くっても中々切れる、せき兼吉かねよしだ、やりそくなってはいかんぞ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見上ぐれば、蝦夷松椴松みねみねへといやが上に立ち重なって、日の目もれぬ。此辺はもうせき牧場ぼくじょうの西端になっていて、りんは直ちに針葉樹の大官林につゞいて居るそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
名刺を出されても、まだ、せきなにがしと読んで、日本人側が一人ふえたものと早合点をし、そのつもりで話をしかけたくらゐである。柯氏も亦、よく日本人と間違へられるといふ。
北支物情 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
幕府にてしもせき償金しょうきんの一部分を払うに際し、かねてたくわうるところの文銭ぶんせん(一文銅銭)二十何万円を売りきんえんとするに、文銭は銅質どうしつ善良ぜんりょうなるを以てその実価じっかの高きにかかわらず
切支丹の運命にとって致命的であったせきはらの決戦が済み、切支丹の最も有力な擁護者であった石田三成いしだみつなり小西行長こにしゆきなが黒田行孝くろだゆきたからが滅びうせて後は、元和げんな八年の五十五人虐殺を筆頭に
かんがえてもねえ。これがきんぼうけずったこなとでもいうンなら、ひろいがいもあろうけれど、たかおんなつめだぜ。一貫目かんめひろったところで、瘭疽ひょうそくすりになるくれえが、せきやまだろうじゃねえか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しもせきからは特別急行で廿六七時間でつくとしてもあそこまでにざつと六七時間かゝりますからどんなに急いでも卅時間以上かゝるのですものね、こんどかへりましたら本当に働きますわ
らいてう氏に (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
さいわいかねて御国産陶器類、製練所御用のさらさ形木綿等、取揃方御用承り度く……その段すでに旧冬来工藤左門くどうさもんを以て内願仕り候しもせき竹崎浦たけざきうら(清末家町人大年寄づとめ)白石正一郎と申す者へ
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
一抹いちまつのかすみの中にあるいは懸崖千仭けんがいせんじんの上にあるいは緑圃黄隴りょくほこうろうのほとりにあるいは勿来なこそせきにあるいは吉野の旧跡に、古来幾億万人、春の桜の花をでて大自然の摂理せつりに感謝したのである
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
戸をあけて玄関にはいると——彼だけが知っている暗号錠の動かし方によって、彼はこの戸じまり厳重な屋内へはいることが出来るのであった——忠実なばあやせきさんが起きて来て出迎えた。
せきのお茶漬、出がけにあがれ」とは、口先ばかりのお愛想、人情の軽薄を諷刺した諺であるが、馬関の風俗は、通勤者の家庭はいざ知らず、われわれの家では朝は茶漬、昼に飯を炊くので
九年母 (新字新仮名) / 青木正児(著)
学校がつこう卒業そつげふ証書しようしよが二まいや三まいつたとてはなたしにもならねばたかかべ腰張こしばり屏風びやうぶ下張したばりせきやまにて、偶々たま/\荷厄介にやつかいにして箪笥たんすしまへば縦令たとへばむしはるゝともたねにはすこしもならず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
古来、西洋にて唯物論と唯心論とは、互いに東西の両せきのごとく相争いきたれるも、これを一統することに意を注ぐもの、いたって少ない。それゆえに、両者各一方に偏するの弊を免れませぬ。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
同行三 逢坂おうさかせきを越えてここは京と聞いたとき私は涙がこぼれました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
父様とつさん私で御座んすといかにも可愛かわゆき声、や、れだ、誰れであつたと障子を引明ひきあけて、ほうおせきか、何だなそんなところに立つてゐて、どうして又このおそくに出かけて来た、車もなし、女中も連れずか
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
河内にとつては河内の国の大関おほぜき。二上の当麻路たぎまぢせき
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
梅雨晴つゆばれの波こまやかに門司もじせき
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)