いさゝ)” の例文
大「暫くお待ちを……此の身の出世ばかりでなく、く申す大藏もいさゝかお屋敷へ対して功がござる、それゆえいて願いますわけで」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのあひだうか牡蠣舟かきぶね苔取のりとり小舟こぶねも今は唯ひて江戸の昔を追回つゐくわいしやうとする人のにのみいさゝかの風趣を覚えさせるばかりである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かかる場合には裁判官はいさゝか態度を慇懃いんぎんにし審理を鄭重にし成るべく被告の陳弁を静に聴いて居る。しかしそれはただ聴くだけである。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
自分に着せられた濡衣ぬれぎぬ——いさゝか小便臭い濡衣を、手もなく乾かしてくれさうな氣がして、眞にイソイソと先に立つて案内して行きます。
これには大腹中の大殿様もいさゝか御機嫌を損じたと見えまして、暫くは唯、黙つて良秀の顔を眺めて御居でになりましたが、やがて
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かくわたしはばけものといふものは非常ひぜう面白おもしろいものだとおもつてるので、これくわんするほんの漠然ばくぜんたる感想かんさうを、いさゝこゝぶるにぎない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
だがのいづれの相乘あひのりにも、ひとしくわたしくわんせざることふまでもない。とにかく、色氣いろけいさゝ自棄やけで、おだやかならぬものであつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
上げ此事に付假令たとへ如何樣の儀仰せ付らるゝ共いさゝ相違さうゐの儀申上ざるにより御取調べの程ひとへに願ひ上奉つる尤も證據人忠兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
B ぼくか。ぼく政治せいぢ關係くわんけいがないのだから、そんなことはどうでもいゝ。しか事苟こといやしくも葉書はがきくわんする以上いじやう其點そのてんいさゝぼく注意ちういいてるのだがな。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
「和尚様、ほんのいさゝかではござりまするが、こゝに金子きんすが五百両ござりまするから、今度の三門の御建立こんりふへ是非お加へおき下されまするやうに。」
「懐疑は悲観のなりサ、彼女かれ芳紀とし既に二十二—三、いま出頭しゆつとうてん無しなのだ、御所望とあらば、僕いさゝか君の為めに月下氷人げつかひようじんたらんか、ハヽヽヽヽヽ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いさゝかも野心なぞおありなさらぬ趣を仰せ開かれましたなら、やがては御疑念の晴れる時節もござりましょうと云う。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と続きて云ひ給ふにいさゝか心落ち居候ゐさふらひぬ。この時起き上らんとする心ながら手の一つも私は動かずさふらひき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
造化はしき力を以て、万物に自からなる声を発せしむ、之を以ていさゝかその心を形状の外にあらはさしむ、之を以てその情を語らしめ、之を以てその意を言はしむ。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
曲線といっても、前に述べたような簡単なものではなく、その原理はいさゝか複雑である。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それも亡くなられるほんの三四ヶ月前に万世はしのミカドホテルの球突塲たまつきばで一せんこゝろみたのだつたが、持てんも前にげた人たちよりもいさゝぐんをぬいた六十てんで、そのふりたるや快活くわいくわつ奔放ほんほう
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
日本につぽん地震國ぢしんこくであり、また地震學ぢしんがくひらはじめたくにである。これはあやまりのない事實じじつであるけれども、もし日本につぽん世界中せかいじゆう地震學ぢしんがくもつとすゝんだくにであるなどといふならば、それはいさゝかうぬぼれのかんがある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
私はさういつてしまつてからいさゝか後悔に似た気持になつた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
されども、われいさゝかも悪びれず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云いさま、此方こちらも元は会津の藩中松山久次郎まつやまきゅうじろういさゝか腕におぼえが有りまするから、庄三郎の片手をおさえたなり、ずうンと前にのめり出し。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つとめがらにたいしても、いさゝとりつくろはずばあるべからずと、むねのひもだけはきちんとしてゐて……あついから時々とき/″\だらける。……
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
少々はタガも釘も足りない男ですが、正直で生一本でいさゝかノウ天氣な八五郎が、怪盜鼬小僧などであるべき筈もありません。
一人二人づつ無理にお宿を申ても此有樣に皆樣が門口よりしてにげゆかれ今日は貴方あなたをお止め申しいさゝか父が藥のしろになさんと存じて御無理にもお宿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「はゝア——イヤ左様さうしたこともありませう」と篠田はいさゝか怪しむ色さへに見えず、雨戸打つ雪の音又たはげ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
伏見へはお越しなされますな、又いさゝかも左様な思召がござりませぬなら、なお此の城に御座なされて、一往も二往もことわりをお盡しなされ、それでも御宥免がなければ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いさゝ匇卒そうそつの説を為し、我が平民界の「侠」及び「粋」の由つてきたるところを穿鑿せんさくしたるに過ぎず。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかし、三四年前に半年あまり一しよはぎじゆんだんの高弟(?)となつておほいに切琢磨たくましたのだが、二人とも一こう力がしん歩しない所までてゐるのだから、いさゝ好敵こうてきぎるきらひもある。
衣食つて深沈大勇たいゆうな思索研究にふけつため、あるひは表面的な士気にいさゝか弛緩の姿を示したかも知らぬが、其れは一の事であつて、光栄あるラテン文明の歴史に根ざした国民の実質は衰へるよしも無く
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
がくれに、ああいさゝかの
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
富「無礼至極の富彌、お手打になっても苦しからん処、格別のお言葉を頂戴いたし、富彌死んでもいさゝくやむ所はございません」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……うち二三年にさんねんあそんでた、書生しよせいさんの質實じみくちから、しか實驗談じつけんだんかされたのである。が、いさゝたくみぎるとおもつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
打ち森田屋の娘子むすめごお專どのにて在しよなお前が此所に御座るとはゆめいさゝかも知らざりし我等も江戸へおもむきて今度古郷へ歸るゆゑ柏原へ立ち寄りお宅を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
このたくましい惡相と言つてもよいほどの、大きな道具から發散する、精力的なものを浴びせられると、平次ほどの者も、いさゝかたじろがないわけには行きません。
然れ共余は今ま幸に彼等人民の情態と意志と希望とをいさゝか写して之を政府に通じ得ることを喜ぶなり。
鉱毒飛沫 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
若し日本の固有の宗教を解剖して情熱と相関するところを発見するを得ば、文学史上に愉快なる研究なるべけれども、之れ余が今日の業にあらず、いさゝか記して識者に問ふのみ。
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
君はいさゝか御不満のお顔つきで、いかに、左衛門尉、そちを見込んで間者の役目を云いつけたのに、あれからもはや二年近くも聚楽の様子を窺いながら、いつも/\判でしたように
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
母「思い掛けないことでお助け下さいまして、お礼の申そうようはございませんから、お餞別代りにいさゝかではございますが」
しかし、當時たうじかぜあらかつたが、眞南まみなみからいたので、いさゝがつてのやうではあるけれども、町内ちやうない風上かざかみだ。さしあたり、おそはるゝおそれはない。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「相濟みません、——ところで話は元へ戻つて、秋岳先生の愛妾お照の方、年は二十四で、いさゝか傳法で、き立ての羽二重餅のやうにポチヤポチヤしたのが——」
今の世往々にしていさゝかの自力をもたのまずして他力を専らにするものあり、神に祈念するを以て惟一の施為となすや、あたかも彼の念仏講の愚輩の為すところを学ばんとするものゝ如し。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
勿体なくも白妙の御手を汚し候、愚老はかくてもいさゝか動ずる気色もなく死せるが如くにて候ひしかば、さりとては辛抱強き坊主よとてお笑ひなされしかども、さすがに興ざめ給ひしにや
いさゝか兼吉を怨む筋は無いといて居りまするが、母親の方は非常な剣幕けんまくで、生涯楽隠居の金蔓かねづるを題無しにしたと云ふ立腹です、——女性をんなと云ふものは、果してかくの如く残忍酷薄なものでせうか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
むねれたやうにうなづいてつたが、汽車きしやられていさゝかの疲勞つかれまじつて、やまうつくしさにせられて萎々なえ/\つた、歎息ためいきのやうにもきこえた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
織江の方でも知って居ながらいさゝかでも申した事はない、手前と己だけの話だが手前はさぞいやだろうと思って可愛相だ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
主人千本金之丞の貧乏臭くヒヨロ長く、いさゝかキヨトンとしたのと比べては、大變な違ひです。
平生へいぜい學海居士ガクカイコジ儒家じゆからしき文氣ぶんき馬琴バキンけたる健筆けんひつ欽羨きんせんするものなるが、つみばつたいする居士コジ評文ひようぶんあまりに居士コジ代表だいひようすることおほきにはいさゝ當惑とうわくするところなきあたはざりし。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
初め女中共は、今夜の彼の思い付きがいさゝ突飛とっぴ過ぎるので、此れは殿様と道阿弥とが豫め示し合わせて、彼女たちを恐がらせようと云う悪戯かも知れないと、半ばそんな風に疑ぐっていた。
さゝゆきまへ通返とほりかへして、微醉ほろゑひ心持こゝろもち八杯はちはいはらつもつたさゝゆきも、さつけて、むねいさゝかのとゞこほりもない。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
誠に孝行な事と感服していさゝか恵みをしたのがかえって害に成って、不図とんだ災難をせて気の毒で有ったが、明日あす私が訴えて娘子は屹度きっと帰れる様にして上げるが
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
金があるにまかせての遊蕩三昧で、書畫骨董の有難味などはいさゝかも身に沁みない樣子です。