結目むすびめ)” の例文
引摺り上げる時風呂敷の間から、その結目むすびめを解くにも及ばず、書物が五、六冊畳の上へくずれ出したので、わたしは無造作むぞうさ
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と弱々とななめにひねった、着流しの帯のお太鼓の結目むすびめより低い処に、ちょうど、背後うしろの壁を仕切って、細いくぐり窓の障子がある。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あによめう云ふ旧式な趣味があつて、それが時々とき/″\おもはぬ方角へてくる。代助ははさみさき観世撚かんじんより結目むすびめつつきながら、面倒な手数てかずだと思つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
時これ十二月かんの土用に際して、萬物ばんぶつ結目むすびめちゞまりすくみ、夜天やてん星斗せいと闌干らんかんたれど
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
翌日なゝつ刻下さがりになりまして峠を下って参ったのは、越中富山の反魂丹を売る薬屋さん、富山の薬屋さんは風呂敷包を脊負しょうのに結目むすびめを堅く縛りませんで、両肩の脇へ一寸ちょっと挟みまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
君牧師カルヂナルころもの色、濃紅色のうこうしよく薔薇ばらの花、羅馬公教會ろおまこうけうくわいの血の色の薔薇ばらの花、濃紅色のうこうしよく薔薇ばらの花、おまへは愛人の大きな眼を思ひださせる、おまへを襪紐たびどめ結目むすびめに差すものは一人ひとりばかりではあるまい
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
よろい結目むすびめを解きかけて、音楽につれておもむろに、やや、ななめに立ちつつ、その竜の爪を美女の背にかく。雪の振袖、紫の鱗の端にほのかに見ゆ)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは返事をせず、静に風呂敷の結目むすびめを直して立上ると、それさえ待どしいと云わぬばかり、巡査は後からわたくしのひじを突き、「其方そっちへ行け。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふと手をのばすと更紗さらさ結襟ネクタイ白襟カラ真中まんなかまで浮き出して結目むすびめは横にねじれている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪なす両のかいなは、よれて一条ひとすじになって、裏欄干うららんかんの梁につるした扱帯の結目むすびめ、ちょうど緋鹿子の端を血に巻いてすがっている。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
門人種員はいよいよ種彦の様子を見に行こうと立上り大分山の痛んでいるらしい帯の結目むすびめ後手うしろでに引締めながらすだれおろした二階の欄干らんかんから先ず外を眺めた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三四郎は肉汁そつぷひながら、丸で兵児へこ帯の結目むすびめの様だと考へた。其うち談話が段々はじまつた。与次郎は麦酒ビールむ。何時いつもの様にくちを利かない。流石さすがの男も今日けふは少々つゝしんでゐると見える。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして結目むすびめが腰へ少し長目でした。ふらふらとついて見送ってく内に、また曲角で、それなり分らなくなったんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その一人ひとりは頬冠りの結目むすびめを締め直しつつ他の一人は懐中に弥蔵やぞうをきめつつ廓をさしておのづと歩みもせわなる、そのむこうより駒下駄こまげた褞袍どてらの裾も長々とくばかり着流して
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と手伝って、上包の結目むすびめを解くと、ずしりとおしにある刀を取ったが、そのまま、するりと抜きかける。——にじのごとく、葉を漏る日の光に輝くや否や
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
難有ありがとう様で、へい、」と前掛まえかけの腰をかがめる、揉手もみでひじに、ピンとねた、博多帯はかたおび結目むすびめは、赤坂やっこひげと見た。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、可いとも、」といって向直って、お品は掻潜かいくぐってたすきはずした。斜めに袈裟けさになって結目むすびめがすらりとさがる。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あゝ、いとも、」といつて向直むきなほつて、おしな掻潛かいくゞつてたすきはづした。なゝめに袈裟けさになつて結目むすびめがすらりとさがる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とずんぐり者の頬被ほおかぶりは肩をゆすった。が、閉ったばかり、いささかも長い幕間でない事が、自分にも可笑おかしいか、鼻先はなっさき手拭てぬぐい結目むすびめを、ひこひこと遣って笑う。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おとがひをすくつて、そらして、ふッさりとあるかみおび結目むすびめさはるまで、いたいけなかほ仰向あふむけた。いろしろい、うつくしいだけれど、左右さいうともわづらつてる。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
帯の結目むすびめたもとはし何処どこへちょっとさわっても、なさけの露は男の骨を溶解とろかさずと言うことなし、と申す風情ふぜい
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内へ帰ると早速、夕餉ゆうげすまし、一寸ちょいと着換きかへ、糸、犬、いかり、などを書いた、読本どくほんを一冊、草紙そうしのやうに引提ひっさげて、母様おっかさんに、帯の結目むすびめトンたたかれると、すぐ戸外おもてへ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もつと間近まぢかかつたのを、よくた。が、しろ風呂敷ふろしきけめは、四角しかくにクハツとあいて、しかもゆがめたるくちである。結目むすびめみゝである。墨繪すみゑ模樣もやう八角はつかくまなこである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
方角をかえて河岸通へ、しかものそのそと着流しのぐなりとした、角帯のずれた結目むすびめをしゃくって行く。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金剛杖こんごうづえちょう脇挟わきばさんだ、片手に、帯の結目むすびめをみしと取つて、黒紋着くろもんつきはかま武士さむらい俯向うつむけに引提ひきさげた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
祖母としよりほどけた結目むすびめを、そのままゆわえて、ちょいとえりを引合わせた。細い半襟はんえり半纏はんてんそでの下にかかえて、店のはずれを板の間から、土間へ下りようとして、暗いところ
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どれも浴衣ゆかたがけの下司げすいが、その中に浅黄あさぎ兵児帯へこおび結目むすびめをぶらりと二尺ぐらい、こぶらのあたりまでぶら下げたのと、緋縮緬ひぢりめん扱帯しごきをぐるぐる巻きに胸高むなだか沙汰さたかぎり
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公園の茶店に、一人しずかに憩いながら、緋塩瀬ひしおぜ煙管筒きせるづつ結目むすびめを解掛けつつ、と思った。……
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公園の茶店ちゃみせに、一人しずかいこひながら、緋塩瀬ひしおぜ煙管筒きせるづつ結目むすびめ解掛ときかけつゝ、と思つた。……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……色が見る見るやわらいで、突いて立った三味線のさおたわみそうになった、と見ると、二人の客へ、向直った、ふっくりとあるあやの帯の結目むすびめで、なおその女中のたもとおさえて。……
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今時珍らしい黒繻子くろじゅす豆絞りの帯がゆるんで、一枚小袖もずるりとした、はだかった胸もとを、きちりと紫の結目むすびめで、西行法師——いや、大宅光国おおやけみつくにという背負方しょいかたをして、かしであろう
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その母親おふくろというのは、私は小児こども心に、ただ歯を染めていたのと、鼻筋の通った、こう面長な、そして帯の結目むすびめを長く、下襲したがさねか、蹴出けだしか、つまをぞろりと着崩して、日の暮方には
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おくんな。」とつて、やぶしたをちよこ/\とた、こゝのツばかりのをとこ脊丈せたけより横幅よこはゞはうひろいほどな、提革鞄さげかばんふるいのを、幾處いくところ結目むすびめこしらへてかたからなゝめに脊負せおうてゐる。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
余りの事にぼうとなって、その時座を避けようとする、道子の帯の結目むすびめを、引断ひっきれよ、と引いたので、横ざまに倒れたもすそあおり、のあたりから波打って、炎に燃えつと見えたのは
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
数万の群集を足許あしもとに低き波のごとく見下みおろしつつ、昨日きのう通った坂にさえ蟻の伝うに似て押覆おしかえ人数にんずを望みつつ、おもむろに雪のあぎとに結んだ紫のひもを解いて、結目むすびめを胸に、烏帽子を背に掛けた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美女の姿は、依然として足許によこたわる。無慚むざんや、片頬かたほは土に着き、黒髪が敷居にかかって、上ざまに結目むすびめ高う根がゆるんで、かんざしの何か小さな花が、やがて美しい虫になって飛びそうな。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ずり落ちた帯の結目むすびめを、みしと踏んで、片膝を胴腹へむずと乗掛のりかかって、忘八くつわの紳士が、外套も脱がず、革帯を陰気に重く光らしたのが、鉄の火箸ひばしで、ため打ちにピシャリ打ちピシリと当てる。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子テイブルの上に両方からつないで下げた電燈の火屋ほや結目むすびめを解いたが、うずたか書籍しょじゃくを片手で掻退かいのけると、水指みずさしを取って、ひらりとその脊の高い体で、靴のまま卓子の上にあがって銅像のごとく突立つッたった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤地に白菊の半襟、緋鹿ひがの子の腰巻、朱鷺色ときいろ扱帯しごきをきりきりと巻いて、萌黄繻子もえぎじゅすと緋の板じめ縮緬ちりめんを打合せの帯、結目むすびめを小さく、しんを入れないで帯上おびあげは赤の菊五郎格子、帯留おびどめも赤と紫との打交ぜ
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男が、島田の刎元結はねもとゆい結目むすびめおさえた。
結目むすびめを胸に、烏帽子えぼしを背に掛けた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
結目むすびめ解下ときおろして
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)