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提革鞄
沢は
薄汚れた、
唯それ
一個の荷物の、小さな
提革鞄を
熟と
視ながら、
蒼い
形で、さし
俯向いたのである。
元来汽車の
中で読む了見もないものを、大きな行李に入れ
損なつたから、
片付ける序に
提革鞄の底へ、
外の二三冊と一所に放り込んで置いたのが、
運悪く当選したのである。
「おくんな。」と
言つて、
藪の
下をちよこ/\と
出た、
九ツばかりの
男の
兒。
脊丈より
横幅の
方が
廣いほどな、
提革鞄の
古いのを、
幾處も
結目を
拵へて
肩から
斜めに
脊負うてゐる。