成程なるほど)” の例文
余は要吉の言動を読んで要吉と共に陰鬱にはなる、けれども成程なるほど要吉とはこんな種類の人間であると、著者から教へられた事がない。
『煤煙』の序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ナニ板の古いのがありましたからチヨイと足を打附うちつけて置いたので。「成程なるほど早桶はやをけ大分だいぶいのがあつたね。金「ナニこれ沢庵樽たくあんだるで。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
成程なるほど過ぎ去った歴史上には種々優れた人もあるが、同時代にいた、しっかりした友達の方に、かえって教えられた事は多いのである。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
言はれて内室ないしつはひつて見ると成程なるほど石は何時いつにか紫檀したんだいかへつて居たので益々ます/\畏敬ゐけいねんたかめ、うや/\しく老叟をあふぎ見ると、老叟
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
第二の幽霊 成程なるほど此処ここに書いてある。「当時かずの多かつた批評家中、永久に記憶さるべきものは、××××と云ふ論客である。……」
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
成程なるほど、賊は嘘は云わなかった。この部屋には確かに照子さんがいた。もう一人「よくご存知の男」もいた。併し、二人とも絶命してだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それで少しは心が慰さもうかと思ったのだ。世間では伊勢殿が悪いという。成程なるほどあの男は奸物かんぶつだ、淫乱だ、私心もある、猿智慧さるぢえもある。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
巻向まきむくは高い山だろう。山のふもとがけに生えている小松にまで雪が降って来る、というので、巻向は成程なるほど高い山だと感ずる気持がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
成程なるほどりつぱな本屋さんだと思つて「ぼくは医科大学の先生です。本を買ひます。今、お金を持つてゐませんから、うちまでついて来て下さい」
兎さんの本屋とリスの先生 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
成程なるほどむしふくろでは大分だいぶ見當けんたうちがひました。……つゞいてあまあついので、餘程よほどばうとしてるやうです。失禮しつれい可厭いやなものツて、なにきます。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
近子は成程なるほどうかとも思ツて、「ですけども、私等わたしたちは何んだツて此樣こんなに氣が合はないのでせう。」と心細いやうに染々しみ/″\といふ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
菊之丞は、拡げられた香盤こうばんをのぞき込む。成程なるほど、何枚かの図面には、すべて付け込みのしるしが一面に書き込まれているのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
幸子坊(漸く意味がのみ込めて)『は、は、は、成程なるほど月明りでござった。これは飛んだ失礼、では捨てまするでござりまする』
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、袁傪は感嘆しながらも漠然ばくぜんと次のように感じていた。成程なるほど、作者の素質が第一流に属するものであることは疑いない。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
夜がけてからそっと見まはるのかも知れないと思つて、内へ這入つてその話をすると、かみさんも成程なるほどさうかも知れないと云つてゐました。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
成程なるほどいてれば、わたくしおもあたふしいでもない。また、海賊船かいぞくせん海蛇丸かいだまる一條いちじやうについては、席上せきじやういろ/\なはなしがあつた。
朝飯後、天幕の諸君に別れて帰路にく。成程なるほどニオトマムは山静に水清く、関翁が斗満とまむを去って此処に住みたく思うて居らるゝも尤である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ヴァイオリンの胴の中を覗くと、成程なるほど香椎六郎の言う通り、名前を書いたインキには、ヴァイオリンの古びとは似もつかぬ新しさがあります。
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
きゝ成程なるほど何時いつ迄當院の厄介やくかいなつても居られず何分にも宜しくと頼みければ感應院も承知なして早速さつそくかの片町の醫師方へゆきみぎはなし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
成程なるほど。」と蘿月らげつ頷付うなづいて、「さういふ事なら打捨うつちやつても置けまい。もう何年になるかな、親爺おやぢが死んでから………。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
成程なるほどときれば監獄かんごくや、瘋癲病院ふうてんびやうゐんはいされて、正義せいぎ貴方あなた有仰おつしやとほかちめるでせう、しか生活せいくわつ實際じつさいれでかはるものではありません。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
成程なるほど枕はないはずだ、れまで枕をして寝たことがなかったからと始めて気が付きました。是れでも大抵たいていおもむきが分りましょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いきほひ自然しぜんと言つては堅過かたすぎるが、成程なるほど江戸時代えどじだいからかんがへて見ても、湯屋ゆや与太郎よたらうとは横町よこちやうほう語呂ごろがいゝ。(十八日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
成程なるほど聴いてみれば無理もない。世の中には髪の毛一本生えてない禿頭を、自分の持物だといふだけで、毎朝磨きをかけてゐる人間もある事だから。
……成程なるほど。君が曲馬団に居るとすれば、お母さんが何等かの方法で会いに来ない筈はない。すくなくとも無事で居る事を君に知らせない筈はない。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
斯樣かやうすればわるい、何故なにゆゑわるいかといふてん自分じぶんこゝろはせてて、自分じぶん其理由そのりいう發明はつめいし、成程なるほどこれはい、わるいといふところ自分じぶん合點がつてんせしむる。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
成程なるほど、英国人だったら、よくよく吟味して何度か通った上で買入れる。これにもよい所があるが、「日本の眼」の早さは世界の人が認める所である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そこで村は御覧の通り太平無事である云々。役人は成程なるほどと感心して帰り、討伐は全然無効に帰したという話がある。
成程なるほど、御法規から見れば、おまえの云い分がたしかにかなっておる。だが、人道というものから見ると、おまえは、旧主の首を金の力でくくったことになるぞ。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顔を紙のすぐ近くまで下げて行くと、成程なるほど書いた文字は見える。又、その上下左右の一団の文字だけは、そこだけ望遠鏡の中のように確かに見えるのである。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
成程なるほど百日紅といふ名前のある通り真赤な花が永い間咲いてゐるものであるわいとつく/″\其梢を眺めた。
百日紅 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
成程なるほど地球の引力で物が下にじっとしているのだが、もし地球の運転が逆になったらかえって宙を飛ぶのが並のもので下にじっとしているのが怪物ばけものになるかも知れない。
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
それは成程なるほどやはらかひ衣類きものきて手車てぐるまりあるくとき立派りつぱらしくもえませうけれど、とゝさんやかゝさんにうしてあげやうとおもこと出來できず、いはゞ自分じぶん皮一重かはひとゑ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
内儀かみさんは成程なるほどさういふ心持こゝろもちるのかと、それから種々いろ/\身分みぶん相應さうおう苦勞くらうまぬことをはなしかせると
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そういった方を見ると成程なるほど首だけがまるで置物のように道床どうしょうの砂利の上にちょこんと立っているのです。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
成程なるほど戸浪三四郎の向いには、桃色のワンピースに、はちきれるようにふくらんだ真白な二の腕もあらわな十七八歳の美少女が居て、窓枠に白いベレ帽の頭をもたせかけ
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
よく友人たち一口ひとくちに「君、それは鼠だろう」とけなしてしまう、成程なるほど鼠のるべきところなら鼠の所業しわざかと合点がてんもするが、鼠のるべからざるところでも、往々おうおうにして聞くのだ
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
貴嬢あなた、余り残酷ではありませぬか、成程なるほど今夜の始末、定めて御立腹でもありませうが、少しは御推察をも願ひたい——私の切情は、梅子さん、く御諒承下ださるでせう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
運動場うんどうばへ出て来ても我々われ/\の仲間にはいつた事などは無い、超然てうぜんとしてひとしづかに散歩してるとつたやうなふうで、今考へて見ると、成程なるほど年少詩人ねんせうしじんつた態度たいどがありましたよ
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
A 成程なるほど葉書はがきの二まいつゞき三まいつゞきはチヨツトかはつてる。さすがきみ葉書はがき專門家せんもんかだね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
彼女が、五十万ミルの大勝負を引きうけたというのも、事情を聴いてみれば成程なるほどとうなずける。きょうは、瀟洒しょうしゃな外出着であるせいか、白いロイスがいっそう純なものにみえる。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
成程なるほど自分の役柄は拙者せつしやも心得てをります。しかかしら遠藤殿の申付まをしつけであつて見れば、たと生駒山いこまやまを越してでも出張せんではなりますまい。御覧のとほり拙者は打支度うちしたくをいたしてをります。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
甲樂人 成程なるほど御道理ごもっともでござります、したが、いま如何どうにかなる「こと」でござりませう。
『肥後の八代やつしろとも言はれる町が、まさかこんなでもあるまい。此処こゝは裏町か何かで、にぎやかな大通おほどほりは別にあるだらう』とわたしは思つた。成程なるほど、少し行くと、とほりがいくらか綺麗きれいになつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
成程なるほど英語が国際語になつたら英人には都合が好からうがそれでは他の国民が迷惑する。
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
成程なるほど奥様は御器量よしで、さすが下町育ちだけあって万事に日本趣味で、髪なぞもしょっちゅう日本髪でお過しになりましたが、それがまたなんともいえない粋な中に気品があって
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
阿剌比亜夜話アラビヤンナイトの魔法にかかった王子や王女たちの羊の、一千匹も捕えて来て、それらの胃袋を断ち割って、中のどろどろを掻きさらって、一ところに集めたら、成程なるほどこうでもあろうか。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
成程なるほどこりゃ大変だ……ところで、離れの方にも大変がもち上がってるんだ」
祭の夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
げられたものは、一人々々ひとり/\検疫医けんえきいならんだ段階子だんばしごしたとほつてうへく。『ミストル・アサヤーマ』。「ヤ」で調子てうしげてすこつて「マ」でげる。成程なるほどやまのやうにきこえる。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
見ると、奥の棚にビイルの瓶が、成程なるほどずらりと並んである。私は、誘惑を感じた。ビイルでも一ぱい飲めば、今の、この何だかいらいらした不快な気持を鎮静させることが出来るかも知れぬと思った。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)