なつか)” の例文
新字:
人間からは、不信と排斥はいせきと侮辱とのみしか期待することの出來ない私は、親を慕ふ小兒のやうななつかしさを籠めて、自然に寄り縋つた。
で、ひよいと先生の姿を見た時は、その昔のままなのが堪らなくなつかしくつてね。思はず駈け寄つて觸つてみたいやうな氣持がした。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
奧山家おくやまが一軒家いつけんやに、たをやかなをんなて、白雪しらゆきいとたに絲車いとぐるまおとかとおもふ。……ゆかしく、なつかしく、うつくしく、心細こゝろぼそく、すごい。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
んでゐるむねには、どんな些細ささいふるえもつたはりひゞく。そして凝視みつめれば凝視みつめほどなんといふすべてがわたししたはしくなつかしまれることであらう。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
もどかしいなア、チッバルトをころしをった彼奴あいつ肉體からだをば掻毟かきむしって、なつかしい/\從兄いとこへのこの眞情まごゝろすることも出來できぬか!
それでもたけのこかはたけみきまつはつてはよこたはつてるやうに、與吉よきちがおつぎをなつかしがることにかはりはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
見ると日頃あんくらせし兄清兵衞よりの手紙てがみつきなつかしくはあれども蕩樂者だうらくものゆゑどう善事ろくわけでは有まじとふう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
名もなつかしき梅津うめづの里を過ぎ、大堰川おほゐがはほとり沿ひ行けば、河風かはかぜさむく身にみて、月影さへもわびしげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
『イヤそう眞面目まじめはれてはこまる。ぼく小兒こどもとき回想くわいさうして當時たうじ學校がくかうなつかしくおもふだけの意味いみつたのです』とハーバードはつみのない微笑びせううかべて言譯いひわけした。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
我はこゝを出でゝカムパニアの野に往かんことの樂しかるべきをおもひぬ。そは我搖籃のありつる處、ドメニカが子もり歌の響きし處の、今更になつかしき心地したればなり。
猿樂町さるがくてうはなれたのはいまで五ねんまへつからお便たよりをゑんがなく、んなにおなつかしう御座ござんしたらうと我身わがみのほどをもわすれてひかくれば、をとこながれるあせ手拭てぬぐひにぬぐふて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さういひますいひますとなつかしい郷土を思ひだして、にこにこしながらいつた。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
人の心のつらさ、なつかしさ、悲しさ。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
それだにさとなつかしき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
寢息ねいきもやがて夜着よぎえりしろ花咲はなさくであらう、これが草津くさつつねよるなのである。けれどもれては何物なにものなつかしい、吹雪ふゞきよ、遠慮ゑんりよなくわたしかほでゝゆけ!
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ふまでもなく、如何いかなる作家にとつても處女作しよぢよさくを書いた當時たうじの思ひ出ほどなつかしく、忘れがたいものはあるまい。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
こひしい、なつかしい、ヂュリエット、なんとして今尚いまなうも艶麗あてやかぢゃ? しやかたちのない死神しにがみそなた色香いろかまようて、あのほねばかりの怪物くわいぶつめが、おの嬖妾おもひものにしようために
まへまあちつやすんでと、深切しんせつにほだされて、なつかしさうに民子たみこがいふのを、いゝえ、さうしてはられませぬ、お荷物にもつ此處こゝへ、もし御遠慮ごゑんりよはござりませぬ、あし投出なげだして
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはダイアナも、メァリーも、小綺麗に飾り換へられた室を見るよりも昔の儘のなつかしい卓子テエブルや椅子や寢臺を眺めた方が、どんなにか嬉しいに違ひないと思つたからである。
あるいてをんなたいしてなつかさうみはるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
久々ひさ/″\おんめもじも致し申さず御なつかしさのまゝいさゝかの人目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
嘸や我を恨み居らんと思へば彌増いやまなつかしさ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
とまれ、十年前ねんまへあきの一乳色ちゝいろ夜靄よもやめた上海シヤンハイのあの茶館ツアコハン窓際まどぎはいた麻雀牌マアジヤンパイこのましいおといまぼく胸底きようていなつかしい支那風しなふうおもさせずにはおかない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ヂュリ おまへ小鳥ことりにしたいなア! したが、あんま可愛かはゆがって、ついころしてはならぬゆゑ、もうこれで、さよなら! さよなら! あゝ、わかれといふものはかななつかしいものぢゃ。
つめた石塔せきたふせたり、濕臭しめりくさ塔婆たふばつかんだり、花筒はなづつ腐水くされみづほしうつるのをのぞいたり、漫歩そゞろあるきをしてたが、やぶちかく、ひどいから、座敷ざしき蚊帳かやなつかしくなつて、うちはひらうとおもつたので
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
言ふ其人はゆかなつかし何人ぞやと出合頭であひがしらかほ打詠うちながめ見れば此方こなたの彼男はお前こそは道十郎殿の御内儀ないぎお光殿にて有しよなめづらしき所にてたえて久しき面會めんくわいなり拙者せつしや事は瀬戸物屋せとものや忠兵衞と言れてお光はかほうちまもり扨は忠兵衞殿にて在せしかと往昔馴染むかしなじみの何とやらなつかしきまゝことば
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
三ヶげつほどの南北支那なんぼくしなたびをはつて、明日あしたはいよいよなつかしい故國ここくへの船路ふなぢかうといふまへばん
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
くすぐつたいやうな、かゆいやうな、あついやうな、さむいやうな、うれしいやうな、かなしいやうな、心細こゝろぼそいやうな、さびしいやうな、ものなつかしくて、果敢はかなくて、たよりのない、たれかにひたいやうな、じれつたい
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこにもそれぞれになつかしく、忘れがた處女作しよぢよさくの思ひ出はかくれてゐることであらう。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)