がた)” の例文
わかい女が持出した、金蒔絵きんまきえの大形の見事な食籠じきろう……がたの菓子器ですがね。中には加賀の名物と言う、紅白の墨形すみがた落雁らくがんが入れてありました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松葉がたで、右手になる方は一つで、丁度ちやうどわたし等の渡つてく橋からはふた筋に分れて居る水が地面とすれすれに静かに流れて居るのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ちょっと、眼鏡これへ目を当ててごらんなさい。梅ヶ辻から野中の観音のほうへうねっている一筋道を、桃色の日傘でゆくがたの女がありまさ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時計屋へ直しにつてあつた八角がたの柱時計がた部屋の柱の上に掛つて、元のやうに音がし出した。その柱だけにも六年も掛つて居る時計だ。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
聴き終ると、鎮子は微かな驚異の色をうかべたが、別に顔色も変えず、懐中から二枚に折った巻紙がたの上質紙を取り出した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
中には一通の手紙と半紙に包んだ四角なものがはいっていた。手紙には金釘かなくぎのような字で、おぼつかなく別れの紋切もんきがたの言葉が書いてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
二人ふたりはおにわ井戸いどのそばのももの木に、なたでがたをつけて、あしがかりにして木の上までのぼりました。そしてそっといきころしてかくれていました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
前にとこを取り、桐の胴丸がたの火鉢へ切炭きりずみけ、其の上に利休形の鉄瓶がかゝって、チン/\と湯がたぎって居りまする。
巨勢はわれ知らず話しいりて、かくいひおわりし時は、モンゴリアがたの狭き目も光るばかりなりき。「いしくも語りけるかな、」と呼ぶもの二人三人ふたりみたり
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いつになく若々しく装った服装までが、皮肉な反語のように小股こまたの切れあがったやせがたなその肉を痛ましくしいたげた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
堅木かたぎきゅうがたに切り組んで作ったその玄関のゆかは、つるつる光って、時によるとれない健三の足を滑らせた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まっ先にきた小桜縅こざくらおどしのよろい着て葦毛あしげの馬に乗り、重籐しげどうゆみを持ってたかの切斑きりふを負い、くわがたのかぶとを馬の平首につけたのはあれは楠正行くすのきまさつらじゃ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
友達の眼の長く切れたがた細君さいくんと、まだ處女で肉付に丸味のある妹とは、その色白の肌に海水着の黒いのを着て、ボートの板子いたごに一緒に取り附いておよいだ。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
毛筋は細く柔かで、茶色になっていましたが、白髪は終るまで一本もないのが不思議でした。小作りながたな人で、色は浅黒く、人並より鼻が高いのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
若い洋画家によくある型のとほり、がたで神経質な主人は、元来このX—新聞をあまり好かなかつた。それは妙に刺戟しげき的な標題で人目をきつける小新聞だつた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
サーチライトのようないなずまがたの光が、さっと、ガラスまどを通して、貨車かしゃ内部ないぶへさしこんだ。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
笹村が硝子ガラス製の菓子器やコップのようなものを買って、たもとへ入れて帰って来ると、茶のの長火鉢のところに、素人しろうととも茶屋女ともつかぬ若い女と、細面のがた
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
道子みちこ廊下らうか突当つきあたりにふすまのあけたまゝになつたおくへ、きやくともはいると、まくらふたならべた夜具やぐいてあつて、まど沿壁際かべぎは小形こがた化粧鏡けしやうかゞみとランプがたのスタンドや灰皿はひざら
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
そしてきょうこそどもらがみんないっしょにたびにたつのです。おかあさんはそれをあんまりかなしんでおうぎがた黄金きんかみをきのうまでにみんなとしてしまいました。
いちょうの実 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すすけた黄褐色おうかっしょく千切ちきがたあるいは分銅形をしたものの、両端にぼんやり青みがかった雲のようなものが見える。ニコルを回転すると、それにつれて、この斑点もぐるぐる回る。
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もし鎔融状ようゆうじようのまゝのものが地上ちじようちるさい、ある程度ていど冷却れいきやくしてゐたならば、空中旅行中くうちゆうりよこうちゆう回轉運動かいてんうんどうのためにつたかたち維持いじし、そのまゝ、つむがた鰹節形かつぶしがた皿形樣さらがたよう火山彈かざんだんとなり
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
僕はなほ念の為にこの二人を通り越しながら、ちらりと顔を物色ぶつしよくした。確かにこの二人は姉妹しまいである。のみならずどちらも同じやうにスペイドがたの髪につた二十はたち前後の美人である。
鷺と鴛鴦 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これを助けて働く者はおきぬつねとて一人ひとり主人あるじめい、一人は女房の姪、お絹はやせがたの年上、お常は丸くふとりて色白く、都ならば看板娘の役なれどこの二人ふたり衣装なりにも振りにも頓着とんちゃくなく
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
痩せがたの顔や腰に比較して、頸から肩から胸へかけ、わりに厚ぼったい肉付があるのに、一寸眼を惹かされた。それに自ら気が付くと、急いで眼を外らしながら、続けざまに杯を重ねた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
子爵ししやくきみ最愛さいあいのおもひものなど、桐壼きりつぼ更衣かういめかしきがたなるが、此奧方このおくがたねたみつよさに、可惜あたらはなざかり肺病はいびやうにでもなりて、形見かたみとゞめし令孃ひめならんには、父君ちヽぎみあいいかばかりふかかるべきを
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たとえば、おびや、羽織はおりや、着物きものにしろ、刺繍ししゅうをしてできがった、はなや、ちょうや、とりは、ただひながたせたのであり、絵本えほんからうつしたものであるから、んでいて、きている姿すがたでなかった。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
でも稲妻がたに歩く癖は直されますまい。
その上にモザイクがたの影をおと
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
歴史六十巻、小説百巻、と申しまするデュオデシモがたと申す有名な版本の事を……お聞及びなさいまして、御姉君おあねぎみ、乙姫様が御工夫を遊ばしました。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただその言語動作が普通の半可通はんかつうのごとく、文切もんきがたの厭味を帯びてないのはいささかのでもあろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ちぇっ……」舌打ちして戻りかけた侍、ひょいと淀屋橋の上を仰ぐと、のしおがたに顔を包んだい女が、橋の手欄てすりに頬杖ついて、こっちへニッコリ笑ったものだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ばかな山姥やまうばだなあ、びんつけをつけて木にのぼれるものか。なたでがたをつけてのぼるんだ。」
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と、女はきまって、男の膝をぴしゃりと平手で打って、これほど思って苦労しているのにという紋切もんきがたの表情をしてみせた。それからいま一人塚崎つかざきの金持ちの百姓の息子むすこが通って来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
やせがたな、すらりとして色の白いところは相手の秋山とはまるで違っている。秋山は二十五か六という年輩で、丸く肥えて赤ら顔で、目元に愛嬌あいきょうがあって、いつもにこにこしているらしい。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すたすた歩いて行く痩せがたの姿は、或る近づき難い冷たさを持っていた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
群集は門衛に切符を渡し、一列に成つて電灯のいて居る狭い螺旋がた石階いしだん徐徐じよ/\と地下へ降り始めた。戯れに御経おきやうを唱へ出す男のむれがあつて皆を笑はせた。日本ならば念仏と云ふ所であらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
また内部ないぶから蒸氣じようきすためぱんがたのものとなるのである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
達吉たつきち母親ははおやは、やせがたな、おんならしい、やさしい性質せいしつひとでした。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
さかづきのかた、とんぼがた
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
山姥やまうば井戸いどのそこをのぞいてみましたが、とても手がとどかないので、くやしがって、物置ものおきからかまをさがしてて、ももの木のびんつけをけずとして、あたらしくがたをつけはじめました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
お孝が凜々りりしい娘がた、——さながらのその娘風のえんなまめかしいものであった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかこれ等は従来から有つた型で今年の新流行と云ふ物はだ出ない様だ。しか明日あすにも屹度きつと帽子屋が新がたこしらへて知名な女優に贈りそれかぶつた姿を写真にとらせて貰つて一般に流行はやらせる事であらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
先生せんせいは、やせがたたか生徒せいとほうをごらんになりました。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
桟敷がた伊香保いかほの街。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ののしるか、笑うか、一つ大声が響いたと思うと、あの長靴なのが、つかつかと進んで、半月がたの講壇に上って、ツと身を一方に開くと、一人、まっすぐに進んで、正面の黒板へ白墨チョオクを手にして
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白がさねして、薄紅梅うすこうばいに銀のさやがたきぬ白地しろじ金襴きんらんの帯。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)