がお)” の例文
旧字:
しかし、気をつけて見ると、あれでもしおらしいもので、路端みちばたなどをわれがおしてるところを、人が参って、じっながめて御覧なさい。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
林のごとき槍、鉄砲の流れ、馬じるし、小姓組の華やかな一群、黄母衣隊きほろたいなどの中に、一つ、にやにや笑っているあかがおがあった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石炭せきたんは、トロッコにられながらかんががおをしていました。なんとなく、すべてをほんとうにしんずることができないからでした。
雪くる前の高原の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「また、いい日が廻ってきますよ、あなた」お妻は、夫の商談がうまく行かなかったらしいのを察して、なぐさがおに云った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のみならず、筒袖つつそで、だんぶくろ、それに帯刀の扮装いでたちで、周囲をいましがおな官吏が駕籠のそばに付き添うているからで。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
オリガ・イワーノヴナはあきがおでアリョーシャを眺め、ベリヤーエフを眺め、それからまたアリョーシャを見た。
小波瀾 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一体琵琶法師などと云うものは、どれもこれもわれがおに、嘘ばかりついているものなのです。が、その嘘のうまい事は、わたしでもめずにはいられません。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小さなやつがいきなり飛び出して、少女の頭髪かみにさしてあった小さなかんざしをちょっとツマんで引き抜き、したりがおに仲間のものに見せびらかすような身振みぶりをする。
ぼくはうすぐらくなった店の中をわがものがおで歩きまわって、下着したぎやくつ下などの売場うりばから、ふかふかしてあたたかそうな下着やくつ下をとりだして身につけた
腕組をして枕元にすわっていると、仰向あおむきに寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭りんかくやわらかな瓜実うりざねがおをその中に横たえている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひげを長く、頬骨ほおぼねが立って、眼をなかば開いた清三のがおは、薄暗いランプの光の中におぼろげに見えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
寝呆ねぼがおの正三が露次の方から、内側の扉を開けると、表には若い女が二人佇んでいる。監視当番の女工員であった。「今晩は」と一人が正三の方へ声をかける。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それがすむと、かれは長いあいだわたしの顔を見た。そのときわたしはかれがかみつこうとするのだと思ったほど、かれの歯はおそろしいわらがおのうちに光った。
つとはしの方へ歩み出されてから、幼い道綱をお呼び出しになって何か耳打ちをなすっていらしったが、そのままいつにないうらがおをなされて出て往かれてしまった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
何某という軍医、恙の虫の論になどえて県庁にたてまつりしが、こはところの医のを剽窃ひょうせつしたるなり云々。かかることしたりがおにいいほこるも例の人のくせなるべし。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
軽い空気かぜに乗った蠅の空軍くうぐんは、さもわれがおに、遠慮会釈なく舞いこんで来て、老婆が視力の鈍い上に、太陽の光りに悩まされているのをいいことにして、この美味い御馳走の上に
あの歿なくなったのは六歳むっつときでございましたが、それがこちらの世界せかい大分だいぶおおきくそだっていたのにはおどろきました。おさがおはそのままながら、どうても十歳位とおくらいにはえるのでございます。
ちちしぼりというのは、五十ばかりのあかがおな、がんじょうな、人にってもただ頭をたてにすこし動かすだけで、めったに口をきかない。それでどうかすると大きな茶目ちゃめを見はって人を見る。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その中にわずかな木戸銭で入り込んだせいぜい十人かそこいらの見物のためにこの超人的演技を見せていたいわゆる山男というのはまだ三十にもならないくらいの小柄なあかがおの男であったが
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
露に湿しめりて心細き夢おぼつかなくも馴れし都の空をめぐるに無残や郭公ほととぎすまちもせぬ耳に眠りを切って罅隙すきまに、我はがおの明星光りきらめくうら悲しさ、あるは柳散りきりおちて無常身にしみる野寺の鐘
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
春宵しゅんしょう一刻あたい千金、ここばかりは時をがお絃歌げんかにさざめいている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの人は品行方正ひんこうほうせいの人だとか、まことに正しいまがった事のない人だとか言われると、すぐさま君子がおになって、他人を見るに小人しょうじんをもってして、世ことごとくにごれり我独りめりていの考えに逆上する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
中に最もよろこがおなるは先に中川と争いし近視眼の若紳士なり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と、なぐさめがおにいうのでした。
あはれがおのおとどひは
茴香 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
どちらかといえばかくあかがおのほうで、それに痘瘡ほうそうあとがいっぱいござりましてな、右の小鬢こびんに、少々ばかり薄禿うすはげが見えまするで
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あかちゃんは、きゅうがおをしました。そして、のまわりをまわしましたけれど、そこにはおかあさんがいませんでした。
はてしなき世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
浜に引上げた船や、びくや、馬秣まぐさのようにちらばったかじめの如き、いずれも海に対して、われがおをするのではないから、もとより馴れた目をさえぎりはせぬ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう叫んだまま、大隅学士は門の中から飛び出してきた可憐なる少年の顔を、あきがおにいつまでも見つめていた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『百ねんてそうもかんでしょうが、二十ねんやそこらはびますよ。』ハバトフはなぐさがお。『なんんでもありませんさ、なあ同僚どうりょう悲観ひかんももう大抵たいていになさるがいいですぞ。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
恥ずかしきくれないと恨めしき鉄色をより合せては、逢うて絶えたる人の心を読むべく、温和おとなしき黄と思い上がれる紫をかわがわるに畳めば、魔に誘われし乙女おとめの、われがおに高ぶれるさまを写す。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『イヤそうわれるとわしはうれしい。』とおじいさんもニコニコがお、『最初さいしょこのひとあずかった当座とうざは、つまらぬ愚痴ぐちならべてかれることのみおおく、さすがのわしもいささか途方とほうれたものじゃが、 ...
ある時はわが大学に在りしことを聞知ききしりてか、学士がくし博士はかせなどいう人々三文さんもんあたいなしということしたりがおべんじぬ。さすがにことわりなきにもあらねど、これにてわれをきづつけんとおもうはそもまよいならずや。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すると、つきは、物思ものおもがおに、じっと自分じぶんていたが、そのまま、くろくものうしろにかくれてしまったことをあざらしはおもしたのであります。
月とあざらし (新字新仮名) / 小川未明(著)
早起きではいつも一番の爺の左近が、遣戸やりどをあけて、そのあかがおを東の空へあげたとたんに、こう独りでつぶやいていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よだれを垂々たらたらと垂らしながら、しめた! とばかり、やにわに対手あいて玉将たいしょう引掴ひッつかむと、大きな口をへの字形じなりに結んで見ていたあかがおで、脊高せいたかの、胸の大きい禅門ぜんもんが、鉄梃かなてこのような親指で
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はあきらがおにいって、「さあ、いよいよ明日から、自分の好きなところへ行って、好きなことができるんだぞ。うれしいなあ。さて、明日病院の門を出たら、第一番になにをしようかなあ」
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほかの小鳥ことりえだまってほこがおに、いいこえいているのに、なぜ自分じぶんたちは、こんなに、こえがかすれているのだろうかとうらんだものだ。
すみれとうぐいすの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あきがおに見るもののお蔦は憎くない眼をした。駕辰かごたつから、若い者を一人呼んでもらって、庄次郎を負ぶってもらう。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まゆひそめて、吐きだすように云ったのは、あかがおの、でっぷり肥った川波船二かわなみふねじ大尉だった。窓の外は真暗で、陰鬱いんうつ冷気れいきがヒシヒシと、薄い窓硝子ガラスをとおして、忍びこんでくるのが感じられた。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かたわらにいたる旅商人たびあきゅうどは、卒然われがおくちばしれたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、一都合つごうでは、どうすることもできません。いよいよ真吉しんきち出発しゅっぱつがやってきました。おかあさんは、がおせてはいけないとおもって
真吉とお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
理をもって、優しく、しかしするどく、徐々に責めていた十兵衛も、常識負けした形で、あきがおしてしまった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もうそう。はッはッはッ」と、帆村はあきがおに笑い出した。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金持かねもちは、もうあたまなかは、たからりあてたときのよろこびでいっぱいになって、かんががおをしてもどってまいりました。
あきがおにつぶやいて、さてさて世の中には智慧者が多いものだと感心した。そして努めて小智小策をつつしんでいる自分をさして、世間は却って才略家だという。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大丈夫だよ、お前」長造は、呑みこみがおに云った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
少女しょうじょは、びっくりして、きますと、主人しゅじんが、にこにこしたわらがおをしてっていました。
生きた人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
寧子ねねと老母の旨をふくみ、折々伺いに来た奥の使いも、このさかんなる男の集まりを覗いては、秀吉の耳へ、それを伝えるすべもなく、ただかこがおに、行きつ戻りつしていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひげの手入れもとどいて、すこしあかがおに、鼈甲べっこうぶちの眼鏡めがねをかけている好色家らしい人物だ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)