すぐ)” の例文
繁華の橋上きょうじょう乗込のりこみの役者を迎ふる雑沓の光景(第二図)より、やがて「吹屋町ふきやまちすぐれば薫風くんぷうたもとを引くに似た」る佐野川市松さのがわいちまつ油店あぶらみせ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今度は上の方の睾を抜くのは容易だから二つ抜出してしまったら外皮を縫って放しておくと三十分もすぐればを拾って食べている。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
十九にして恋人を棄てにし宮は、昨日きのふを夢み、今日をかこちつつ、すぐせば過さるる月日をかさねて、ここに二十はたちあまりいつつの春を迎へぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まことはすぐる年の日光の御修覆ごしうふく下受請したうけおひの手違ひから、工事のやり直しをしたために、十萬兩からの出費で、上總屋は一文なしになつてしまつた
「多聞院日記」の記事によれば、この時の激戦は、三日にわたるとあるが、「柳生家家譜かふ」には、七日をすぐとある——
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はの機会に乗じて、所謂いわゆる山𤢖なるものを十分に研究したいと思った。冬の夜の明けぬうちに富山をって、午後四時すぐる頃にここへ着いたのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すぐころ福羽君に一寸ちょっと御目にかゝり、御咄おはなしきゝ候間、ちと/\三八在宿に候まゝ、御とまりがけにても御出待上候。万々拝顔のうへ申入候。めでたくかしく。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
すぐるが如くやうやく東のかたしらみ人も通る故やれうれしやと立出たちいで往來ゆききの人に茲は何と申所なるやとたづねければ淺草御門なりと答るゆゑそれより東のかたひろ往來わうらいへ出て又町の名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
老僕聞て大におどろき、すぐる三月三日、桜田さくらだ一条いちじょうかたりければ、一船ここに至りて皆はじめて愕然がくぜんたり。
すぐる年月の間、山本さんが思を寄せた婦人も多かった。不思議にも、そういう可懐なつかしい、いとしいと思った人達の面影は、時が経つにつれて煙のように消えて行った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私の顔の、いつまでも美しいのは、旅人の中の詩人に恋いせられ、慕われるからである。空をすぐる星も私の顔の美しいのに見惚れた。何という私の性質は残忍であろう。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
安達様親戚の君ボンベイより来てあり給ふはずなるが、昼すぐるまで船へ見え給はず、夫人の心づかひし給ひしはこの船の一日早く入港せし故とお気の毒に思ひ申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あれを言ってはほか役人の身の上にもかゝわるだろうと深く思いすぐして、隠し立てを致すと却って為にならんぞ、定めし上役うわやくの者が其の方に折入おりいって頼んだ事も有るであろうが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
生をけ、人間じんかんに出でゝ、心を労して荊棘けいきよくすぐる、或は故なきに敵となり、或は故なきに味方となり、恩怨ふたつながら暴雨の前の蛛網ちゆまうに似て、いたづらにだ毛髪の細き縁を結ぶ
哀詞序 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
すぐる者は送るがごとく、きたるものはむかうるに似たり。赤き岸、白きなぎさあれば、黒き岩、黄なるがけあり。子美太白しびたいはくの才、東坡柳州とうばりゅうしゅうの筆にあらずはいかむかこの光景を捕捉ほそくしえん。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ひと月ふた月とすぐすほどに、おおやけの打ち合せもすみて、取調べも次第にはかどり行けば、急ぐことをば報告書に作りて送り、さらぬをば写し留めて、ついには幾巻いくまきをかなしけん。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人の女房にだけはならずにゐて下されと異見を言はれしが、悲しきは女子をなごの身の寸燐まつちの箱はりして一人口ひとりぐちすぐしがたく、さりとて人の台処を這ふも柔弱の身体からだなれば勤めがたくて
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
之れより上越の国界こくかいなる山脈の頂上を経過けいくわす、みやくくる所太平原たいへいげんあり、はらきて一山脈あり、之れをすぐれば又大平野あり、之れ即ちしん尾瀬おせが原にして、笠科山かさしなやまと燧山の間につらな
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
須須許理すすこりが世にみそめしことなぐしほどすぐさずば事やなからん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
れてのみすぐすや。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
右は故鷲津毅堂の所蔵なりし趣、すぐる御通信中斎藤君の大金をてゝ加納屋より得られたる画帖がじょうも本は毅堂の所有品なりしとの事。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貫一はほとほと疑ひ得らるる限疑ひて、みづからも其のぼうすぐるの太甚はなはだしきを驚けるまでに至りて、始てめんと為たり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
角川安行の父子おやこが吉岡家を辞して、帰途に就いたのは午後四時をすぐる頃であった。ここらの冬の日は驚くばかりに早く暮れて、村境むらざかいを出る頃には足下あしもとようやく暗くなった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
少なくて三万両、五万両、どうかしたら十万両もあるだろうと思わせたのは、上総屋の主人の腕だ。まことはすぐる年の日光の御修復で下請負したうけおいの手違いから、工事のやり直しを
ひと女房にようぼうにだけはならずにくだされと異見ゐけんはれしが、かなしきは女子をなご寸燐まつちはこはりして一人口ひとりぐちすぐしがたく、さりとてひと臺處だいどころふも柔弱にうじやく身體からだなればつとめがたくて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ひきたるが初めにて一兩日すぐうち發熱はつねつはなはだしく次第にやまおもりて更に醫藥いやくしるしも無く重症ぢうしやうおもむきしかば吉兵衞は易き心もなくことに病ひのためちゝは少しも出ず成りければ妻の看病みとり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さきに愛慕したるものまことの愛慕にあらず、動物的慾愛にすぐるところあらざりし。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
帰るべき家なしと言張りて、一日ひとひ二日ふたひすぐうちに、漁師夫婦の質朴なるに馴染なじみて、不幸なる我身の上を打明けしに、あはれがりて娘として養ひぬ。ハンスルといふは、この漁師の名なり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
すぐ同棲どうせいの年月の間、一日として心に彼女を責めない日は無かった——
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
生けるほどは花に眠りてすぐしけり今日さめゆくは夢にかあるらん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
然し歳月のすぐるに従ひ、繁激なる近世的都市の騒音と灯光とは全くこの哀調を滅してしまつたのである。生活の音調が変化したのである。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
されば月毎に彼が富山のかどを入るは、まさに人の母たる成功の凱旋門がいせんもんすぐる心地もすなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
湿うるめる眼をしばたたきて見かえれば、そよ吹く風に誘われて、花筒にはさみたる黄と紫の花相乱れて落ちぬ。からす一羽、悲しげに唖々ああなきすぐれば、あなたの兵営に喇叭らっぱの声遠く聞ゆ。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お前さんそれではならぬぞへといさめ立てる女房のことばも耳うるさく、エエ何も言ふな黙つてゐろとて横になるを、黙つてゐてはこの日がすぐされませぬ、身体からだが悪るくば薬も呑むがよし
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
よびきたるべしとひそかに示合しめしあはせてわかれけり菊は只金と小袖のほしさに其夜そのようしこくすぐる頃又七が寢間ねまへ忍び入り剃刀かみそり逆手さかでもち又七が夜着よぎの上より刺貫さしとほしけるに又七は居ず夜具やぐばかりなれば南無三と傍邊かたへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人わざのしげきを捨てて身を安く世をすぐさんと求めぬはなし
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
進上しんじょう飾物かざりもの山をなし(上巻第四図)やがて顔見世中村座木戸前きどまえの全景(上巻第五図)より市村座劇場内(第六図)を見てすぐれば
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ぼんりては仕事しごといづはりもなく、おまへさんれではならぬぞへといさてる女房にようぼうことばみゝうるさく、エヽなにふなだまつてろとてよこになるを、だまつてては此日このひすぐされませぬ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし歳月のすぐるに従い、繁激なる近世的都市の騒音と燈光とは全くこの哀調を滅してしまったのである。生活の音調が変化したのである。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
捨てはてし身にもなほ衣食のわづらひあれば、昼は开処そことなくさまよひて何となく使はれ、夜は一処不住の宿りに、かくても夢は結びつゝ、日一日とたゞよひにたゞよひて、すぐしゆくほどに
琴の音 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
歳月は匆々そうそうとしてすぐること二十五年、明治戊辰ぼしんの年となって、徳川氏は大政を奉還したので、丸亀藩では幕府の罪人をあずかってこれを監視する義務がなくなった所から
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
前のも哥沢節の稽古に出でて初夜しょやすぐる頃四ツ谷まる横町よこちょうかどにて別れたり。さればわが病臥やみふすとは夢にも知らず、八重はふすま引明ひきあけて始めて打驚うちおどろきたるさまなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
市川家荒事あらごとを始め浄瑠璃じょうるり時代物の人物についてこれを見れば思半おもいなかばすぐるものあるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こはすぐる日八重わが書斎にきたりける折書棚の草双紙くさぞうし絵本えほんたぐい取卸とりおろして見せけるなか豊国とよくにが絵本『時勢粧いまようすがた』に「それしゃ」とことわり書したる女の前髪切りて黄楊つげ横櫛よこぐしさしたる姿のあだなる
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
昔日せきじつ普請ふしんと今日の受負うけおい工事とを比較せばおもいなかばすぐるものあらん。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)